俺たちは電車に乗って六本木まで向かった。
電車の中はまだ9時なので通勤帰りの人でにぎわっていた。
俺たちは六本木の駅で降りて、そのまま会社まで走って向かった。
27 悪魔パイモン
「あ!拓也!おーそーいー」
「わりぃ。ってかまだ9時45分じゃん」
すでにヴォラク達はついてた様でブーブー文句を言っている。
ヴォラクは繁々と中谷と光太郎を見つめた。
「また来るの?パイモンは強いよ〜」
光太郎と中谷は竹刀とバットを振り回した。
「今回は大丈夫だって!ちゃんと打撃道具持ってきたし」
「使い方は違うけどね」
セーレは的確な突っ込みを入れて前に向きなおった。
会社からは残業帰りなのだろう。ちらほら人が出て行ってる。
「まだ来てないんだ」
「みたいだな〜。あいつ、ボケッと立ってるだけみたいだし」
「シトリー女にならなくていいのか?」
「あ?別に平気。一回俺の力を使ったら俺が男になろうと女になろうと変わんないから」
へぇ、便利だな。てゆか女の子のほうになってほしかったなぁ。
俺とシトリーが話していると、かばんの中から顔だけを出していたストラスが声を上げた。
『シトリー。ガードマンが何者かと話していますよ』
「あぁ?」
ガードマンは1人の男性と話していた。
遠くてあんまよくわかんないけど、20代くらいの男だった。
「あれじゃねぇのか?」
「行ってみるか」
シトリーは軽く肩をならし、ガードマンのところに向かった。
「大丈夫か?あいつ1人で」
「心配しなくても平気だよ。何かあっても彼なら口八丁、手八丁でうまく逃げ切るから」
セーレがそう言うから俺はしばらく様子を見ることにした。
「ガードマン。そいつか?」
「そうです。貴方が探していた鈴木貴彦です」
鈴木は怪訝そうにシトリーをにらみつける。
「なんだお前は?俺はお前に恨みを買われるようなことはしてないぞ」
「別に恨みなんかないし?ただ聞きたいことがあるんだよ」
シトリーはこっちに来な。といい鈴木の腕を引っ張る。
「てめ!放せ!集団で俺をリンチする気か!?」
「誰がするか!馬鹿!いいから来いってんだ!」
しかし大声を出す鈴木に周りの人間が目をやる。
シトリーは軽く舌打ちをし、小声で鈴木に声をかけた。
「おい。お前悪魔と契約してんだろ?違ってたらこのまま腕放してやるよ」
その言葉を聞いた途端、鈴木の動きが止まる。
ビンゴ。シトリーはそう言ってニヤリと笑い、鈴木をこっちに引っ張ってきた。
「おい、こいつだって。間違いねぇ」
セーレは俺達を庇うように俺たちの前に出た。
ヴォラクはしげしげと鈴木を眺める。
「ふぅん……こいつが契約してるんだぁ」
「てめぇらなんで悪魔のこと知ってる?」
鈴木は俺たちを睨みつけながらも訳がわからないという顔をした。
セーレはゆっくりと鈴木に話しかけた。
「俺の後ろにいる子たちも君と同じだからね」
鈴木は俺たちを見てきた。
「俺と同じ?じゃあお前も……」
「うん、俺も悪魔と契約してる。こいつ等がそうだ」
鈴木はシトリー達をマジマジと見つめた。
「なら何の用だよ?」
「お前が契約している悪魔は誰だ?」
「なんでそんなことを言わなきゃいけないんだ?大体お前ら何の用なんだよ」
「俺たちは悪魔を元の世界に戻すために行動してるんだ。こいつ等はそれに協力してくれてるんだ」
その瞬間、鈴木の顔が変わる。
「ふざけるな。なんでそんなことをしないといけない?」
「悪魔の力は危険だ!俺、悪魔と対峙してる内に悪魔に殺される人間を見てきた。上尾の無差別殺害事件とドイツの女性の殺害事件知ってるか?」
「あの犯人が捕まってないやつか?それがなんだってんだ」
「それ悪魔がおこした事件だ。ちなみにドイツの事件は今、お前の手を握ってる奴だ」
それを聞いた瞬間鈴木は慌ててシトリーの腕を放した。
「お前か!?」
「おい拓也。人聞き悪いこというなよ。それは俺じゃなくてケビンが起こしたことだって」
「お前も共犯だろ」
「ちぇ……」
シトリーは気まずそうに顔を俯かせた。
鈴木は恐怖に染まった目でシトリーをにらみ続ける。
「お前、こんなのと契約して満足か?」
「え?」
「頭おかしいぜ」
俺は呆然とその場に立ち尽くした。
確かに事件を起こしたのはシトリーだ。そしてそれと契約してる俺はやっぱおかしいんだ。
俺が呆然としていると、突然鈴木が呻き声をあげた。
そこにはセーレが鈴木の腕を捻り上げていた。
「訂正してもらおうか。契約者の侮辱は許さない」
セーレのドスのきいた声に俺達は背筋が凍りついた。
俺は慌ててセーレを止める。
「セーレ!俺なら全然大丈夫だし!気にしてないから」
セーレは俺の言葉を聞くと鈴木の手を放した。
「今回は拓也に免じて許してあげるけど次はわかるね……?」
鈴木はクソッ!といいセーレを睨みつける。
セーレも鈴木を睨みつける。
中谷はこの空気に耐えられないのか鈴木にさっきの話を持ちかけた。
「でさ!結局あんた何と契約してんの?」
光太郎の言葉にシトリーもそうだそうだと詰め寄る。
「そうだよ。俺はそれが聞きたかったんだ!プロケルちゃん?それともヴェパールさん!?」
鈴木は誰だそれは?とでも言う様な顔をした。
外れか。シトリーはブチブチ言っていたが、鈴木にもう一度問いかけた。
「じゃあパイモンだったりして……」
鈴木の肩が一瞬震えた。
俺たちはわからなかったけど、シトリー達はそれを見逃さなかった。
「やった!やっぱパイモンだ!!」
『やはりパイモンですか』
シトリーは来た〜〜!!と両手を上げ、ストラスはやれやれと鞄から顔を出す。
しかし鈴木は急にギッと俺を睨みつけ声を上げる。
「パイモンは俺の悪魔だ。誰にも渡すつもりはない」
「独り占めかよ!ずりーんだよ!!俺にもよこせ!」
「シトリーそれ目的違うから」
ヴォラクは呆れながらシトリーの服の袖を引っ張る。
しかしシトリーは舞い上がったまま代わりにヴォラクを抱きしめる。
ヴォラクのきめーよ!やら暑い!やらの文句を完全に無視して。
セーレはやれやれとため息をついて鈴木に向きなおる。
「パイモンのところに案内してもらおうか」
「だれがお前らなんかに頼まれたくらいで」
「頼まれたんじゃないんだよなぁ」
シトリーの低い声に俺たちは一瞬ビックリしてしまった。
シトリーはニヤリと笑みを浮かべて鈴木に向きなおる。
「これ命令だから。言うこと聞かないんなら殺すよ」
「いいのかよ。俺を殺して……パイモンに会えなくなるぞ」
「そんなん俺の力を使えばイチコロだから」
鈴木は睨みつけたが、シトリーの言葉が本気だとわかると、渋々頷く。
「案内すればいいんだろ。でも俺は契約を解く気はない」
「それはお前が決めることじゃないの」
シトリーはそう言い、案内しろと鈴木を急かした。
鈴木は観念したのかしぶしぶと歩きだした。どうやら案内してるようだ。
「よぉ〜〜し!!待っててねパイモンちゃん♪」
シトリーはルンルンになって鈴木について行った。
「なぁ、パイモンって奴そんなに綺麗なのか?」
「まぁ美人っちゃ美人だけど……」
ヴォラクは苦笑いしながら言葉を濁した。
「怒ると怖い」
家に帰りたい。
俺はテンションがガタ落ちになりながらヴォラクについて行った。
『シトリー』
「あ?なんだよストラス」
『あなたは本当にパイモンの姿を見たいが為に今回は協力的だったのですか?』
「はぁ?」
『あなたは私たちに何か隠しているように思える』
「……お見通しか。あいつに聞きたいことがある。それだけだ」
『何をです?』
「おい、拓也先に行ったぞ」
『シトリー!』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
しばらくついて行くとマンションが見えてきた。
どうやらここが鈴木の住んでいるマンションみたいだ。
見たところ7階建てってとこだな。
鈴木はオートロックを解除しエレベーターのボタンを押す。
「あぁ〜。この先にパイモンが」
「いて――よ!!ばぁか!!!」
シトリーはウットリしながら俺をバシバシ叩く。
俺はシトリーにかみついたがシトリーは全く聞いちゃいない。
そしてエレベーターが1階に着くと鈴木は中に乗り込み、5階にボタンを押す。
エレベーターは他の階に止まることなくスムーズに進み、5階に到着した。
鈴木は降りると504部屋の鍵を開けた。ドアが開いた瞬間に俺は息をのんだ。
鈴木が中に入ると声が聞こえた。
「今日は遅かったですね」
中から聞こえた凛としたきれいな声。これがパイモンの声?
奥から出てきたのは本当にきれいな女の人。
モデルじゃないのか?と思うくらいだった。
パイモンは俺をチラリと一目し、怪訝そうな顔をした。
「この方たちは?」
鈴木が答えようとした瞬間シトリーが飛び出した。
「ぱいも〜〜〜ん!!!」
「貴様!なぜここにいる!!?」
パイモンは今にも斬りかからんばかりにシトリーを睨みつける。
「なぜって?嫌だなぁ〜俺必死で探したんだぜ?」
「誰も頼んでなどいない!!貴様の契約者はどいつだ!!?」
パイモンはシトリーに掴みかかりながら叫んだ。それって俺のことだよね!!?
俺は隠れようとセーレの後ろに隠れた。
「拓也〜出てきて〜」
馬鹿!シトリー何言いやがる!!?
俺はセーレに背中を押されて渋々前に出た。
パイモンはまじまじと俺の顔を見てくる。うっわ……近くで見たらマジで美人。
「貴様が男と契約してるとは。まさかそっちの気があるとか言うなよな」
「なに言ってんだよ。俺は不細工な男には興味ねー」
不細工な男って……こら!!!!!
「それってきれいな男には興味があるってことじゃんね」
「まぁパイモンも男だからね」
「え!?」
セーレ達がそんな会話をしていたことを俺は知らない。
突き刺さる視線を逃れるように下を向いていた俺にパイモンは不意に問いかけた。
「お前はなぜこんな奴と契約したんだ?」
「へ!?こいつがしたいって言うから、あれよあれよと……」
「ふん、目的もなしにか。シトリー、貴様も貴様だ。一体何の目的で契約してる?」
「なんのって、俺様には崇高な目的があんだよ〜。お前を探すためとか」
「それ以上ふざけた会話で時間を割くようなら斬る」
こ、こえぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
ヴォラクが言ってた意味がわかったよ!なんか半端なく不機嫌なオーラ出てるしぃ!
でもサミジーナやマルファスみたいに危険な感じではなかった。
会話も普通に成立するし。
パイモンはふぅとため息をついた。
「貴様の目的はなんだか知らないが、用がないなら引き上げてくれないか?こっちはこっちで用があるんだ」
「お前さ、なんかルシファー様に命令受けたりしてる?」
パイモンの目つきが変わる。
シトリーは相変わらず薄い笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「何が言いたい?」
「だってこれってなんかきな臭くない?俺らだけじゃない。他の悪魔も召喚されてる。そんな大それたことできる人間なんてこの世にいるわけがないじゃん?お前、ルシファー様の腹心だし何か知ってんじゃない?」
「何も知らないな。あの御方は今それを調べている。こっちは別のことをな。貴様は知ってるんじゃないか?指輪の継承者が誰か」
それって俺のこと!?
俺は顔面蒼白になって後ずさった。
セーレ達もその言葉に警戒したのかわずかに視線をこっちにやる。
シトリーは頭をかきながら返事をした。
「見つけたらどうすんの?」
「どうもしない。ただ試させてもらいたいことがある」
「なにを?」
なんか完全に駆け引きっぽくなってる?
俺はポッケの中に入れた左手をぐっと握った。
「指輪の継承者……俺の目的を果たすにふさわしいか、をな」
目的?
俺の気持ちを代弁するようにシトリーがそれを質問した。
でもパイモンは答えない。
「俺は命を受けただけで詳しいことは知らない。おそらくそれはサタネル達しか知らないだろう」
「そっかぁ……でも悪いな。俺は指輪の継承者なんて知らないなぁ」
シトリーは空気で危ないと感じ取ったのか、首を横に振った。
するとパイモンは少し間を置き、クスクスと笑った。
「ふふ……嘘はいけないなシトリー」
「あ?」
パイモンは俺に近づいてくる。
「お前だろう?継承者。一瞬でも左手を見せたのが悪かったな」
パイモンの言葉にセーレとストラスが前に出てくる。
「パイモン、君は何がしたいんだ?拓也をどうするつもりだ?」
「その質問の答えはシトリーに言ったはずだ。同じことを2度言うのは嫌いなんだ」
『試すと仰っていましたね。拓也はまだあなたと張り合うほどの力は持っていません』
「そう、でも悠長に待ってるほど俺はお人好しじゃない」
なんなんだよ……俺は少し後ずさって光太郎たちの側に寄った。
光太郎と中谷は竹刀とバットを握りしめてパイモンを睨みつけている。
パイモンは中谷と光太郎を見て笑みを一層深くした。
「愛されてるんだね継承者。悪魔にも屈しないなんて可愛い子たち」
中谷と光太郎は俺の前に立ち、パイモンを睨みつける。
「何がどうなってるんだ?」
鈴木は話がわからないらしく、パイモンの側に寄った。
パイモンは艶やかな笑みを浮かべ優しい声で鈴木に語りかける。
「探し物が見つかったのです。貴方とはこれでお別れですね」
「お別れって……」
「契約石、後で返してくださいね。俺はこの子を試さないと、ね」
パイモンがこっちを向いて笑いかけた途端、周りから黒い霧が出てきた。
「パイモン!てめぇ!!」
『間に合うかな?』
ヴォラクはしまったという様に、慌てて手を動かした。
結界が周りの空間を包むよりの先に霧はどんどん広がっていく。
「くそ!パイモン!使い間を呼んだな!?」
『ふふ……この子が言うことを聞いてくれないから、力ずくで行くしかないだろう?』
それって俺を試すってことか?
足がガクガク震える。パイモンは俺を見ておかしそうに笑う。
『かわいそうに、怖がって。そんな状態でよくマルファスと戦えたね。あぁ助けてもらったのかストラスたちに?所詮は何もできない人間なのか?』
「お前!調子にのんじゃねぇぞ!!」
中谷はバットをパイモンに向けて大声を出す。
結界が張られたこの空間では中谷の大声でも隣室の人間や周りの人間は気づかない。
『俺の言うことを聞いてくれたら、使い間は消してやる』
『お前の言うことなんか聞けるかよ!』
ヴォラクは結界を広げながらパイモンに怒鳴りかける。
『そう。じゃあ被害が一般の人間に出てもいいんだな?このマンションなら吹き飛ばすくらい容易だぞ』
「パイモン……?」
鈴木も恐怖に染まった目でパイモンを見つける。
パイモンは申し訳なさそうに微笑んでまた俺に向きなおる。
『ごめんなさい。でも俺には見極める義務があるから。継承者、被害出したくないだろう?俺の言うことを聞いてくれたら使い間たちは消してやる』
「……」
『お前に選択権はあるのか?』
俺は戸惑った目をストラスに向けた。
ストラスは何かを考え、パイモンに問いただした。
『具体的には何を望んでいるのですか?』
パイモンはその問いかけにニヤリと笑い、言葉を紡いだ。
『俺の空間に来てくれたらそれでいい』
『なんと……』
ストラスは目を丸くしてパイモンを睨みつけた。
ヴォラクも慌ててパイモンに剣を向ける。
『ふざけんなよ!おめーの空間なんかに行ったらそれこそお前の思う壷じゃん!!』
『嫌なら使い間をこのまま解放する。お前の結界じゃ間に合わないだろう?』
『くそ!きたねぇぞ!!』
『悪魔に正攻法を求めるなよ。お前が人のこと言えた義理か?』
『ちっ!』
『さぁ、どうする?継承者。俺の言うことを聞く気になった?』
「わかったよ。行けばいいんだろ?その代り全員だ」
パイモンは二コリと笑い、その条件を受け入れた。
『あぁ、構わない。何人いようとね』
パイモンはパチンと指をならし、薄気味悪いブラックホールのような空間を広げた。
『さぁ、どうぞ継承者。入ってくれたら使い間は消してあげよう』
「まずお前が先に手下を消してからだ」
『それだとお前が逃げるかもしれないだろう?セーレの力を借りて。別にお前の力を試すのは俺の空間じゃなくてここでもいいんだ。俺はあえて有利な条件を出してやってるにすぎない。どっちが上か考えて物事を判断した方がいい』
この野郎!!
俺は渋々空間の前に立った。
空間はサミジーナの空間に似通っており、黒くよどんでいる。
本当にこんな中に入んのかよ。
俺は息をのむと、ストラスが肩にとまった。
『大丈夫ですよ拓也。私も行きますから』
「ストラス……」
大丈夫。俺は1人じゃない。
俺は自分にそう言い聞かせ、目をつぶり空間の中に飛び込んだ。
『いい子だ』
パイモンの声が後ろから聞こえる。そして追いかけて中に入ったのかヴォラクの声も。
そしてこれから俺を試す試練が始まる。
登場人物
パイモン…ソロモン72柱9番目の悪魔。
200もの軍団を率いる王である。
エノク書においては、西方の王とされるほどの力を持つが、魔王ルシファーには忠実だという。
ヒトコブラクダに乗り、光の王冠を戴せた女性のような姿で現れる。
相手に反対意見を言わせないほどの威圧感と威勢を契約者に与える。
契約石はエメラルドのブレスレット。
鈴木貴彦…エリート会社員。
やる気がありすぎるのが欠点で上司との仲はあまりよくない。
+注意+
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