ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第23話 夢の中の決闘
『この時間だから人はいないな。これならどこに泊めても平気そう』

セーレは金田のマンションの前に着陸した。
俺たちはエレベーターで4階に上がり、インターホンを鳴らした。


23 夢の中の決闘


でもやはり金田は出てくれない。

「金田!頼む!出てくれ!!」
『無理でしょう。サミジーナに取り憑かれているのです。自分の意思で目を覚ますことは不可能です』
「これ、壊しちゃう?」

ヴォラクは扉をぺシぺシ叩いた。それだけはならん。

「駄目に決まってんだろ!もっと温厚な手段を考えろ!」
「だけどさ〜どうすんのさ」
『俺に任しといて』

セーレはどこから取り出したのか、ヘアピンを手に持った。
なんだこのMIミッションインポッシブルのようなノリは……
セーレは器用に鍵穴にピンを突っ込み、上手く鍵を開けた。

「セーレ、お前なんか芸達者だな」
『あは。そう?』

セーレはそのまま懐にピンをしまい、俺たちはドアを開けた。
部屋のドアを開けると、金田を覆う黒い影、そして影の中には妙な空間が広がっていた。

「金田!!」
『駄目です拓也。サミジーナを倒さない限り、金田が眠りから覚めることはありません』

金田を揺すったが、金田は全く目を覚まさない。
金田は顔を歪め、苦しそうに呼吸を荒げている。
でもサミジーナの姿はどこにも見えない。

「サミジーナはどこにいるんだ?」
『おそらく、金田の夢の中では……?』

夢の中!?そんなの手の出しようがないぞ!!

「じゃあどうするっていうんだ!」
「拓也、あれ見てみて」

ヴォラクが指さした先には、妙な紋様と空間。

『これはサミジーナの召喚印。サミジーナはこの中?』
「ここから金田の夢の中に行けるかもね」

ヴォラクは力を溜め、悪魔の姿に変身した。

『さ、討ち入りといこっか』
「本当にこんな中にはいんのかぁ?」

だってこんな危ないとこ、入りたくないじゃんか……

『始まった。拓也のヤダヤダ病が』

病気じゃねぇし!!失礼なこと言うなよ!!
俺はヴォラクを睨みつけたが、しかし足が動かない。
中谷は好奇心の方が勝るのか、穴をジロジロと覗き込んでいる。

「なぁこれって入ったら帰ってこれるのかな?」
『わかりませんね。サミジーナを捕まえてみないことには』

そう、それ問題。帰ってこれないなら絶対入りたくない。
ストラスは困ったように首をかしげた。

『とりあえず入ってみないと始まらないってこと。行こう中谷』
「わ!池上達も早く来いよ〜」

ヴォラクは全く恐怖心がないのか、中谷の手を取って中に入ってしまった。
中谷、お前は怖いもの知らずだな。俺チキンだから無理。

『拓也、行きたくないならここで待っててもいいよ?』

セーレは俺に気を使ってくれて嬉しいことを言ってくれたが、それはそれで罪悪感。

「いい。行くよ」
『そう?無理しないでね。澪も無理ならここで待っててもいいよ』
「1人で待ってる方が怖いもん。あたしも行く」
『なら絶対に離れないでね』

澪はセーレにしがみついて中に入って行った。

『拓也、私達も行きましょう』
「わかった。お前俺から絶対に離れるなよ」
『拓也に言われるとなにか頼りないですね』

ですよねー。ここは言い返さないよ。
俺はストラスを抱え、空間の中に飛び込んだ。

空間の中は重力がないのか、ふわふわしてる。宇宙にいるような感じ。(行ったことないが)
目の前にはセーレの腕にしがみついてる澪とヴォラクと手をつないでる中谷がいた。

「ここどこなんだ?」
『彼の夢の中みたいだけど、よくわからないんだ。静かで、何もない……』

ヴォラクは何かを感じたのか、急に剣を抜いた。

「ヴォラク?」
『なんかくる……』

ヴォラクがそう言った瞬間、化け物が飛びかかってきた。
俺たちは驚いて、そのまま動けなくなってしまった。

『邪魔!!』

ヴォラクは剣を振り回し、その化け物を一刀両断でたたっ斬った。
化け物はその場に倒れ、息を止めた。

「なんだこいつ……こんなの初めて見た」
『こいつはサミジーナの使い魔。やっぱり彼はここにいるみたいだな』
『夢の中なのに随分と安らぎのないことです』
『レベルの低い悪魔なら召喚門の漏れから召喚できるのかもね』

ヴォラクの言葉にセーレは頷いた。

『あぁ。確かにこの悪魔たちはサミジーナの使い魔の中でも下の下の悪魔だからな。』
『それって俺達もじゃあ部下呼べるってこと?』
『おそらく。でも俺達は悪魔の中では異端のことをしている。呼ばない方が正解だろう』
『同感』

意味はよくわからないけど、とりあえずヤバいことを話しているってことはわかる。
シトリーの言っていた召喚門、それが緩くなったら一体どうなるっているんだ?
セーレやストラス達は何か感づいてたみたいだけど、俺にはさっぱりわかんない。
ついていけない話に無理に入ることはない。俺はボーっとしながらその光景を眺めた。
セーレ達の手まねきに頷いて足を進める。
俺たちはそのまま異次元のような世界を歩いていった。

「歩いても何も見えないし、たどりつかない。本当に夢の中なのか〜?」
『もしこれが夢なら、彼の心の闇がうかがえますね……』
「……」
「あっおい!アレ何だ?」

中谷が指さした場所には1つの家があった。
周りの空間とはまったくかけ離れた綺麗な光景。庭に囲まれた小さな家だった。
俺たちはその家に近づいた。
そこには1人のおばあさんとその膝で眠る子供の姿があった。
おばあさんは子守歌を歌いながら、少年の頭を優しく撫でている。
子供は安心しているのかグッスリと眠っている。
まさか金田と……金田のばあちゃん?

『これは夢の中の彼の記憶でしょうか……?』

ストラスもこの光景をマジマジと眺めている。
金田のばあちゃんは俺達が見えないのか、近づいてもなんにも反応しない。
俺たちはその光景を眺め、サミジーナを探した。
すると、空間が歪んでいく。

「なんだこりゃ!」

俺たちはバランスを崩しながらその場に足を踏みとどまった。
そして、家はグニャリと崩され、また別の場所の光景が浮かんできた。

「学校?」

そこはどこにでもある小学校の中だった。
学校が終わったのか、子供達はみんな公園に行こうだの、家に行こうだの話しあっている。
そんな中、1人の子供が金田に話しかける。

「真吾ー。今からサッカーしよう!」
「ごめん。俺、今日塾だから……」
「またかよ。いっつもじゃん!」

金田は困ったように俯いてしまった。

「真吾誘っても無駄だって。あいついっつも断るもん。俺たちだけでやろ」

子供の1人が金田を誘った子供を引っ張って、金田を中傷する。
金田は何も言い返さず、顔を俯かせたままカバンをかるい、教室から出ていく。

『この世界……彼の光と闇を映しているのかな?』

セーレはこの光景に少し顔を歪ませながらも辺りを見回した。
金田はそのまま塾をサボったのか、公園のベンチに座っていた。

「いいな。俺も皆と一緒にあそびたいな……」 

金田がそうこぼした瞬間、またも空間が歪んだ。
今度は何だよ!?
空間が歪み、ハッキリと周りが見えないまま、叫び声だけが聞こえた。

「塾もサボって何やってたの!?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」

叩かれる音と泣きながら謝る声、怒る母親の怒声。

「これ虐待じゃん……」

中谷も顔を真っ青にさせ、その声を聞いている。
そしてまた空間が歪み、新しい光景がでてきた。
金田のばあちゃんだ。

「真吾。本当に勉強がしたくないんなら無理にいい中学に行かなくてもいいんだよ。あんたの好きなことをやればいい。ばあちゃんはいつだって真吾の味方だよ」

その光景はさっきまでの光景とは違い、明るくて暖かい物だった。
金田はそのまま涙を流しながら、軽く頷いてばあちゃんに抱きついていた。

「天才の悩みってのがわかったかも……」

期待され過ぎることがどれだけ重荷か。
やりたいことをできないことがどれだけ苦痛か……この光景でハッキリとわかった。

そして空間は変わっていく。
今度は病院の映像が映し出された。

「すみません。私たちの力が及ばなかったばかりに……」

医師たちは金田たちに頭を下げている。
しかし金田は医師に掴みかかって声を荒げた。

「簡単な手術って言っとったやないか!?なんで死なせたん!!」
「真吾やめろ!」

父親が金田を医師から引き離す。
医師は申し訳なさそうに顔を伏せたまま。

「俺はどうすればいい?俺は……」

金田はその場に膝をつき、顔を伏せた。肩が小刻みに揺れている。泣いてるんだ。
そして空間が歪み、またも声だけが聞こえてくる。

「でも母さんがいなくなってくれて少しだけ楽になったよ。母さんは真吾に大学に行かなくてもいいとか言ってたからな。本当に余計なこと言ってくれるよ」
「ほんとね。真吾もそのこと真に受けちゃって……いい迷惑だったわ」

なんだって?この会話は父親と母親の会話だ。
そんなこと思ってたのか?
大切な人が死んだってのに……そんなこと思ってたのか!!?

『哀レナ少年ダロウ?誰モ信用デキナイ世界ニ1人取リ残サレタ…』
『この声は……サミジーナ!』

ヴォラクは声が聞こえたほうをキョロキョロ見渡す。

『ダカラナノカ……私ヲ見テモヒトツモ驚カナカッタ。面白イ少年ダ。ソレ故ニ興味深イ。コノ世界ニ取リ残シテモ可哀想ダ。私ガ連レテ行ッテヤルノダ』
「天国ならまだしも地獄なんて行っても嬉しくねーぞ!!」

中谷が大声で言い返す。

『コノ純粋スギル少年ニコノ世界ハ酷ダ。ソウハ思ワンカ?』

サミジーナは姿を現さない。どこかから声を出している。せこい奴だ。
しかしサミジーナの言い分に黙っていた澪が反対した。

「でも、貴方が彼を地獄に連れて行っていい理由になんかならない!」
『別ニ構ワナイダロウ?アノ少年モソコマデ生ニ執着シテナドイナイ』

確かに金田は死んでもいいって言ってた。
これはその金田の思いが巻き起こしたものなのか?

『いい加減にしなさいサミジーナ。貴方に人の生を左右する権利は持ちません。金田に全て任せておけばいいのです』
『ダガモウ遅イ。コノ少年ハ地獄ニ送ラレル。オ前達ガコノヨウナ幻影ヲ見テイル間ニネ』
『まさかこれって時間を稼ぐために!?』

いそがねぇと金田が!!
セーレはジェダイトを召還し、飛び乗った。

『拓也!ジェダイトで探すぞ!!乗ってくれ!』
『セーレ。急いでください。我々はまずこの近辺を探してみます』
『わかった。行くぞ!』

俺は何とかよじ登り、ジェダイトに乗った。
俺とセーレは2人で金田を探しに向かった。ていうかヴォラクいてくれないと心細いんだけど。
風のようなスピードでジェダイトは夢の中を駆け抜ける。

『くそっ……どこにいるんだ?急がないと……』
「セーレ!あそこ!何か見える!」
『あれは逆さ十字!?』

そこには巨大な逆さに飾られた十字架が立っていた。
俺たちは急いで近くに行き、逆さ十字を調べた。

「金田!」
『なに!?』

すると逆さ十字の下で金田がグッタリと横たわっていた。
金田をいくら揺すっても起きない。なんで?まだ地獄には行ってないんじゃないのか?

「金田!しっかりしろ!金田!!」
『ソノ少年ハモウ地獄ニ連レテ行カレタヨ』

頭上から響いた声。上を向くと、そこには馬が立っていた。

「サミジーナ……」
『久シブリ、トデモ紡グベキナノカナ?継承者ヨ。遅カッタヨウダナ』

サミジーナは金田の頬に顔を寄せた。

『コノ少年ハ地獄ヘノ穴ニ引キズリ込マレタ。モウ目覚メルコトハナイ。ナニ、モトヨリコノ少年ハ生キル意志ヲ持ッテイナカッタノダ。悲シムコトモナイ』
「ふざけんな!金田を返せ!」

俺はセミジーナに怒鳴りかける。
しかしサミジーナは俺を小馬鹿にしたように笑い、空間を広げた。

『見ロ。コノ空間ヲ。地獄ヘトツナガル世界……入ッタラ2度ト出ラレナイ』

空間の中からはうめき声が聞こえてくる。
こんな暗く歪んだ世界の中に金田は吸い込まれたのか?

『指輪ノ継承者ヨ。オ前モ、ルシファー様ノ元ヘ行クカ?』
「なんだって?」
『我ラガ主、ルシファー様……彼ハソノ世界ニ送リ込マレタノダ。ハハハ』

こんなの納得できるか!こんなの認めねぇ!!!
俺は穴に向かって走り出した。

『拓也!何を!!』

セーレの制止も無視して俺は穴へ顔をのぞかせた。

「金田!聞こえるか!?金田!!頼む!返事してくれ!!」
『無駄ダ。地獄カラ生還シタ者ハ今マデ1人モイナイ。堕チルンダヨ』
「そんな事させてたまるか!!」
『ナラ貴様モ堕チルガイイ!ソシテ地獄ノ淵カラ連レテ来イ!』

サミジーナが叫んだ瞬間、空間から吸い込むような風が吹き出てきた。

「え?ちょっまっ……!!」

思いっきり穴を覗き込んでいた俺は、当たり前の如く、穴の中に吸い込まれた。
俺を吸い込むと、その門は姿を消してしまった。

『拓也!』
『自ラ突ッ込ムトハ……馬鹿ノスルコトダ』

サミジーナはクククと笑い、セーレに振り返った。

『セーレ、貴様ハドウスルノダ?オ前ナラチャント、ルシファー様ノ元ヘ送リ届ケテヤル』
『ちゃんと?なら拓也と金田は!?』
『奴ラハ一生暗イ地獄ノ底デ死霊ト、モガキ苦シンデイルノガ分相応ヨ』
『くっ……!卑怯な!!』
『悪魔ニ何ヲ求メルトイウノダ?卑怯ナド……ソノ考エガ理解デキヌ』

セーレはジェダイトに飛び乗ると、身を翻し、ストラスたちを呼びに行った。
しかしサミジーナは薄ら笑いを浮かべたまま。

『逃ゲテモ無駄ダ』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「何だよココ!?うわああぁああぁああぁあぁあぁぁぁ!!」

俺は訳の分からない空間でフヨフヨ浮かんでいた。

<苦しい。助けて……誰か>

なんの声だ?俺は声のする方へ平泳ぎのように体を動かして前に進んだ。
声はどんどん大きくなる。誰の声なんだ?
そして俺は前に進んでいると、横になって倒れている金田を発見した。

「金田!!」

俺は金田の腕を掴み、必死で呼びかけた。

「ん、んぅ……お前は……」
「よかった!目覚ましたか!お前、こんなとこに吸い込まれちまってたんだぞ?」
「ここはどこたい?地獄か?」

金田は体を起こして、辺りを見回した。

「なんかそうらしいけど……でもお前の夢の中から来たんだ。本当の地獄かどうかは」
<助けて誰か……>
「またこの声!?」

俺は金田を周りを探してみた。しかし声の主は一向に見つからない。

「こんなとこで時間潰してらんないのに」

ていうか早くセーレと合流してストラスたちに会わなきゃいけないのに。
1人で(金田がいるけど)ここは嫌だよ。
俺がそう思った瞬間、俺と金田はいきなり足をつかまれた。

「うわ!」
「ぎゃ!!」

足を見てみると、全身肌のただれたもう男だか女だか分んない奴らが足を引っ張っていた。
ぎゃ―――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!
バイオレンス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
俺と金田は足を振り回し、必死になってその手から逃れた。
しかし前を見ると、そこにはゾンビのような人間がワラワラ立っている。
ちょお!!これ怖いんですけど!!早く逃げなきゃ!!!

「金田!こっち!!」
「お、おう!」

俺は急いで、来た道を反対方向に走った。
でも重力がないのか、走っても走っても体がそんなに前に進まない。
こんなに走ってんのに!!!
俺たちは必至で足を動かして、とにかく前に進んだ。
しかしどんなに走っても、俺を吸い込んだあの空間の入口が見えない。

「なんで?もうかなり走ったのに……」

後ろにはあの化けもの達。出口が見つからない。
俺は頭が真っ白になって、この光景を眺めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ストラス!いた!!』

私たちはあのまま金田を探していると、血相を切らした顔のセーレが走ってきました。

『セーレどうしたのです?そのように急いで……拓也は?』
『サミジーナにしてやられたよ。異空間に連れて行かれた』
「なんだってぇ!!?」

中谷は唖然とし、澪は顔を真っ青にしました。
これはいけない。早急に手を打たねば……しかし異空間に連れていかれては……

『まだ時間が立ってないならこっちに引きずりだすこともできるよね?サミジーナを急いでとらえなきゃ』

ヴォラクの言うとおり。それしか手がありませんね。
私たちはジェダイトに乗り、サミジーナのいた場所までジェダイトを走らせました。
ジェダイトを走らせて2分弱、目の前に逆さ十字が見えてきました。

『あそこにサミジーナはいた』
『逆さ十字かぁ。薄気味悪いもんつけてんなぁ……馬鹿じゃん』

ヴォラクはうへぇ……と嫌そうな顔をした。
十字架を持ち出す等、何を考えているのか。それは天使の道具であって我ら悪魔の道具ではないはずなのに。
しかし逆さ十字は悪魔には好都合のアイテム。
サミジーナはこれを使って力を蓄えているのでしょうか?
私とヴォラクはジェダイトから降りて辺りを散策しました。

「俺も探す!」
『駄目だよ。いつサミジーナ出てくるか分んないもん。ジェダイトに乗っててよ』

中谷も探すことを申し出ましたが、ヴォラクは首を横に振りました。
それが正解です。これ以上異世界に連れていかれては堪りませんからね。
しかし異世界に通じる扉など、どこにも見当たりませんね。
ヴォラクも不思議に思ったのか首をかしげています。

『懲リモセズニヨクモマァ』

その時、私たちの頭上から声が聞こえました。
上にはサミジーナの姿。どうやらここで間違いはないようですね。

『サミジーナ。拓也返せよ。そうしたら半殺しで許してやる』

ヴォラク、やる気満々ですねぇ。しかも返しても半殺しですか。

『ククク……否ト言エバ?』
『ぶっ殺してでも返してもらうよ!!』

ヴォラクはフォモスとディモスを召喚し、剣を構えた。

『私ヲ殺セバ継承者モ契約者モ二度トコノ世界ニハ戻レナイ』
『なんだって?』

サミジーナはクククと笑いながら私たちの目の前に降りてきた。

『異世界ハ異世界ダガ、私ノ異世界ハ私ノ空間ダ。私ヲ殺セバ門ハ二度ト開カナイ』
『まさか貴方は』
『私ガ連レテ行ッタノハ死ノ世界。死者ノ国ダ』
『あぁ、そういえばあんた水死した人間を降霊する力があったね。悪趣味』

ヴォラクは反吐がでるよといい、サミジーナを睨みつけます。
これでは迂闊に攻撃ができません。
拓也と金田を人質に取られたようなものです。まったく拓也は何をしているのでしょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「くんなくんな馬鹿やろー!!散れ!散れ!!」

俺は手をシッシと払ったが、あいつ等はこっちに向かってくる。

「言葉が通じるわけないやろ!もっと逃げんね!!」

金田は俺の服を引っ張って先に進む。でもやっぱりなかなか先に進まない。
こっちはどんどん体力消耗していくのはあっちは全然平気でどんどん追いかけてくる。
これって急いで出口探さなきゃ絶対捕まっちまうよな……
そんなの想像したくない!!
俺と金田は足を一生懸命動かし、前に進んだ。
くっそぉ!いい加減腹たつなもう!!俺は先に進まない足を恨めしそうに見つめる。

「なんとかしてくれよ!こいつ等やっつけてくれよ!!」
「お前そんなもんに話しかけて大丈夫か?」

俺は指輪に祈りかけた。しかし指輪は答えてくれない。なんて気まぐれなやつなんだ。
金田、憐れんだ目で見てくんなよ。ていうかなんでもいいから助けてくれよ!!

「頼むって!なぁ!!ウリエル!お前また出てくれよ!」
『うっせーなぁ……少しは自分で何とかしろよバーカ』

ウリエル!って、てめぇ!!いきなりそれかい!??

「お前、この状況わかんねぇのか!?危険なんだよ!」
『知るかよ。そんな奴ら頭切り殺せ。それでおわんだろ?』
「できるかボケ―――!!!」

俺は指輪ごとウリエルを怒鳴りつける。

『注文の多い奴だな。しょうがない、いっちょ力貸してやるか。おいお前、使いたい武器か何かあるか?』
「そんなんあるか!どれも嫌だよ!!」
『ゴタゴタ言ってんじゃねーよ。じゃあ俺と同じので行くぞ。念じろ』
「念じるって何を!?」
『剣の形だ。念じた剣がお前に出てくるはずだ』

そんな……ていうか結局俺が戦うのかよ!?
とりあえず俺は念じてみた。形なんて思いつかないから、とりあえずゲームの剣の形を頭に思い浮かべた。
すると俺の目の前に光がおき、宝石のちりばめられた剣が出てきた。

「なんだこれ……すげぇ」
『早く持てよ。それがこれからのお前の武器なんだからな』

俺は恐る恐る剣を手に取った。剣は思った以上に重くない。
金田もその光景を呆然と見詰めていた。

『それをとにかく振り回せ。あいつ等見たところ素手だし?余裕だろ』
「おい!おい!お―――い!!」

ウリエルはそう言うと、面倒くさくなったのかそのまま返事が切れた。
返事がない。完全に切りやがった。こんちくしょうめ!
俺は剣を握ってゾンビたちに向きなおった。

<浄化の剣……浄化の剣だ>

ゾンビたちはざわめき後ろに後ずさった。なんかあいつ等引いてくぞ?
いや、これならこれでいい。戦いたくなんかないし。
しかし世の中そんなに甘くない。ゾンビたちはこちらを向き直ったと思ったらこっちに全速力で襲いかかって来た。

「わわわわわ!!」

俺と金田はまた2人で奥に走りだした。
しかし、ゾンビの速度が今までとダンチだ。なんでこんなに速いの!?
ゾンビたちはどんどん俺たちと距離を詰めてくる。
こっちはヘロへロでもう走れない。

「っ!!」
「金田!」

ゾンビは金田に掴みかかり、そのまま金田は地面なのか?に倒れた。
金田は振り払おうと必死に体を動かしたが、相手の数は半端じゃない。
ゾンビはそのまま金田にどんどん迫っていく。今にも食いかからんばかりに。

「くそ!金田を……放せぇ!」

俺は思い切り、剣を振り上げゾンビの手を叩き斬った。
ゾンビが顔を歪めた隙に金田はゾンビを蹴りあげ立ちあがり、その場から逃げた。
俺は冷汗をかきながら剣を握り締めた。
ゾンビたちは俺を睨みつけ、そして怒りの咆哮をあげた。

「怒らせちゃった……」
「逃げるたい!」

金田と俺は疲れた足を引きずってまた前へ走りだす。
ゾンビ達も、俺たちを逃がすまいと必死で追いかけてくる。
俺は剣を握り締めながら必死に走った。死にたくない!こんなところで死にたくない!!

『お前、まだそんなとこでウロウロしてんのか?』

え?またウリエルの声。

『その剣は浄化の剣。俺たちの力の結晶でもある。お前は俺たちの力の一部も使うことができるんだぜ?その力を使え』
「その力って……」
『あぁそうか。お前は俺たちの力を知らないんだな……とりあえず風のイメージを剣に向けろ。剣が光を帯びてきたらそれをあいつ等にぶつけてやれ』

そんな事、急に言われても……でもこのままじゃ俺たちジリ貧だ。
ここは嘘でも何でもやるしかない。生きてここから出るために。
俺は剣を見つめて風をイメージした。
こいつ等を倒せるほどの風……俺の中ではそれは竜巻のような物しか思い浮かばない。
俺は剣を見つめて竜巻を頭の中に思い浮かべた。

「おい池上?」

金田は逃げないのか?とでもいうような目で俺を見つめてくる。
ゾンビたちはどんどん距離を縮めていく。それでも俺は風のイメージを浮かべ続けた。

「!?」

光った!剣が光り輝きだした!!
俺はウリエルに言われた通り、剣をゾンビたちに向けた。
剣の光はどんどん大きくなっていく。
俺はゾンビに狙いをつけて剣に大声で命じた。

「頼む!行ってくれ!!」

その瞬間、剣から竜巻のような風が吹き荒れ、ゾンビたちに直撃した。
ゾンビたちは風の強さに耐えきれなかったのか、吹き飛ばされたか、そのまま風に体をボロボロに壊されていった。
目の前のゾンビ達が全ていなくなる。

「すげぇ……」

これ、俺がやったのか?俺が魔法を……?
金田もこの光景を驚いて見ている。ていうか口が開いてる。
ゾンビの居なくなった空間を俺はキョロキョロ眺めた。

「でも、どうやって出るんだろ……?」

俺は剣を握り直し、空間の天井を見上げた。
どこを見ても、出入り口なんて見つけられない。ストラス達も来てくれない。

「自分でなんとかするしかないのか……?」

ヤダよ。誰か助けてよ。俺マジでどうすればいい?
金田の声に俺は現実に引き戻された。

「お前のその剣……」
「あ、なんかよくわかんないけど……」
「悪魔の力は怖いな」

なんかまた自分が人間じゃなくなった気分。
こんな魔法をやってのけてしまった自分はもう人間じゃない気がした。

「なぁ。その剣で、この空間ごと壊せんか?」
「どういうことだ?」
「俺たち、この空間のどこかからここに来たやろ?やけんサミジーナは出口隠しとると思うんよ。お前のその魔法なのか?それでこの空間自体を攻撃したら出口が出てくるかも」

そうか。まぁ他に方法もないし……でも、

「俺、魔法なんて他に使えない」
「竜巻が出せたやん。同じ風ならカマイタチも出せるやろ」

カマイタチ……そんなすごいもん出せるんかな?
とりあえず俺は再び剣に祈ってみることにした。
剣は再び輝きだした。これ指輪で魔法使うより簡単だな。俺は剣を天井高く掲げた。

「行っけぇ!!」

剣からは大量のカマイタチ。カマイタチはそのまま全方向へ向かっていく。
カマイタチが空間の中にぶつかる音が聞こえる。
ん?今変な音しなかったか?なんか割れるような音が……
俺たちは変な音のした方へ走って向かった。すると、そこには空間に割れ目ができていた。

「これ……」
「池上!きっとこれとや!剣で思いっきりぶん殴れ!」

そう言うことなら遠慮せず!!
俺は剣を頭上に高くかざし、そのまま勢いよく剣を振り下ろした。
ガラスの割れるような音と同時に俺と金田はその中に吸い込まれた。

「わあああああああああぁあぁぁああぁああ!!!」

なにコレ!こわ!!大丈夫なんだよな!そうなんだよな!!?
目の前に一瞬光が見えた。

「ぐぉ!」
「のわ!」

俺と金田は思いっきり顔面から着陸した。

『拓也!金田!!』

あ、ストラスの声……ってことは俺たちちゃんと元の世界に戻れたんだ。よかった。
俺は起き上がり、驚いている顔のストラスたちを見た。

『馬鹿ナ!ドウヤッテアノ空間カラ……ソノ剣ハ!』
『浄化の剣!』

セーレは目を丸くして俺の握っている剣を眺めた。
これってそんなにすごい剣なのか?なんかあんま良くわかんないけど。

『まさか拓也がその剣を持ってるなんて……これで空間を壊したってわけか』

ヴォラクは感心したように俺と剣を見つめた。そしてサミジーナに向き直る。

『さ、どうすんの?サミジーナ、もう逃げらんないよ』
『クッ……』

サミジーナは後ずさった。しかしヴォラクはそれを逃がさないように滲みよる。
こいつ許すもんか。俺たちをこんな目に遭わせやがって!!本当にさっきの竜巻でもぶつけてやりたい気分だ。
俺はイライラしながらサミジーナを見てたら剣が輝きだした。

「うそ!!」

まさか剣が反応しちゃった?でももうなんかしょうがない!使っちゃうしか。
俺キャンセルする方法なんか知らないし?この際いっつも俺を馬鹿にしてるヴォラク達を見返してやるか!
俺はサミジーナに剣を向けた。

『拓也?なにしてんの?』

ヴォラクは向けるだけじゃ役に立たねーぞ。と言っている。見てろよヴォラク。
俺は剣に大声を出した。

「いっけぇえぇ!!!」

剣からすさまじい竜巻が出てサミジーナに襲いかかる。
サミジーナはその光景に驚き、そのままモロに食らった。

『ガハ……!』

サミジーナは口から血を吐き、横たわった。

『拓也すっごー……』
『これが剣の力ですか……』

ヴォラク達はあんぐりとこの光景を見つめる。(ざまぁみろ)
サミジーナは苦しそうに息を荒げている。
するとサミジーナを見たのか、剣が白い光を出した。
その光は空間に光の跡を残した。

『拓也、恐らく魔法陣をかけるのでしょう。早く夢から出なければ……』
「出なければって……どうやって?」
『さっきの入口を使えば出れるはず。金田、貴方は自分で目を覚まさなければいけません』
「自分で……」
『ここはあんたの夢の中だからね』
「池上、俺の頬を思いっきりビンタしろ」

なに!?

「早くしろ。時間ないんやろ?」
「う、うぅ……」
『拓也、早くしなよ。サミジーナ逃げちゃうよ』

ヴォラク達もせかしてくる。
俺は仕方なく金田に思いっきり手を振り上げた。

「金田が消えた」
『おそらく目が覚めたのでしょう。私達も出ますよ』

金田を殴った瞬間、金田はその場から姿を消した。
俺は頷いてジェダイトに乗った。
中谷と澪は安心したようにお帰りと言ってくれた。それがなんか嬉しくて、こそばゆかった。
俺たちはそのままジェダイトを走らせて空間から脱出した。

そこは金田の部屋。金田はやっぱり目が覚めていて、横たわっているサミジーナを見つめていた。
俺たちが出た後、空間はみるみる内に歪み、消滅した。
こわ……出れてよかった。
そして消滅した空間の代わりに横たわったサミジーナが出てきた。

『拓也、その光で魔法陣を』
「え?俺が?わかんないからお前やれよ」
『……』

ストラスはジト目で俺を見てセーレに頼んだ。
セーレは苦笑いして剣を受け取り、光でサミジーナを魔法陣で囲った。

『さぁ、金田。首輪を出し、それを魔法陣の中に入れなさい』

金田はベッドの近くに置いてあった首輪を手に取り、言われたとおりに首輪を魔法陣の中に入れた。
サミジーナは未だに喋ることもできないのか、憎しみのこもった眼で俺たちを睨みつける。
ストラスは金田にあのクソ長い呪文を教えた。

『そしてこの聖水を体に軽くかけて今の呪文を唱えてください』
「わかった」

え!?金田1回聞いただけで覚えちゃったのか!?さすが天才……
金田は呪文を唱えた。
するとサミジーナを光が覆った。

『グゥ……天使ノ使者ガ……呪ッテヤル、呪ッテヤル!!』

サミジーナは苦しみながら最後にそう呟き、光の中に消えていった。
光で書いた魔法陣は、サミジーナが消えたと同時に消滅した。

『これでサミジーナは地獄に戻らせることができたね』

ヴォラクはやれやれと首を振り、元の子供の姿に戻った。
金田はその場に足をついた。

「これで終わったったい?」
『はい』
「そうか」

金田はそのまま足元を見つめた。

「これで元の生活に戻った、か……現実見ないとな」

金田は自嘲気味につぶやいた。
中谷と澪はよくわからないという顔でお互いを見ていた。
でも俺とストラスはその意味を知っている。もうばあちゃんにも会えないってこと。
しかし金田はまっすぐ正面を見据えた。

「これから頑張るか……」
「へ?」

俺は予想外の言葉に思わず間抜けな声が出た。

「なんかスッキリした。相変わらず親父とお袋は信じられんけど…俺は俺なりに生きるたい。まずは大学に通ってだけどな」
『ずいぶんポジティブですね』

ストラスも切り替えの早さに驚いている。

「自分でもそう思う。でもなんかもうどうでもいいや。あの時、確かにばあちゃんに会えたから。あれは本当だったからな」
「そっか」

俺はなんだか展開について行けなかったが、金田がそれでいいのならそれでいいや。
なんか振りまわされた予感がするけど。
でも俺達も知らなかった。
あの空間で金田がばあちゃんと話した言葉を……
それは金田が1人で地獄に落ちかけていた時…ばあちゃんが話しかけてくれた言葉。

『真吾、あんたはあんたの好きなように生きなさい。あんたの人生なんだからね』

その言葉ははっきりと金田に届いていた。
金田はその言葉にきっと救われたんだ。

でもその言葉を俺たちが知ることはきっとないんだろうけど。