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序章
第22話 死者からの誘惑
「また来ましたよ福岡に」
「で、海星ってとこに行くんでしょ?早く行こうよ」

2日後、俺たちは福岡に来ていた。相変わらず人が多いなぁ。
ヴォラクは炎天下の中これ以上いるのが嫌みたいでさっさと行動しようと促した。


22 死者からの誘惑


「でさぁ、なんで俺もここにいるわけ〜?俺、今日はバイトの日なんだけど」

シトリーはめんどくさいとでも言わんばかりに頭をぼりぼりかいた。

「頼むよ。お前の口が頼りなんだからさ〜」
「やだよ。ターゲットは男だろ?やってらんねーし」

こいつはこんな時にまで……

「バイトっつっても夜からだろ?今はまだ昼なんだし、いいじゃんか」
「チェ……しょうがねぇなぁ」
「いいじゃん。明日とあさってはバイト休みなんでしょ?今日ぐらい手伝っても」
「シトリーっていつがバイトなんだ?」
「シフトによるけど大体、火、木、土にしてる」

あぁ、今日は土曜だから明日とあさってはバイトない日なんだ。

「それより拓也、海星の行き方わかるの?」
「へ?わかるわけねーじゃん。まぁなんかのバスに乗りゃ何とかなんだろ」

ヴォラクが呆れたような視線を向けてくる。

「信じらんない。計画性ないし」
「うっせーな。ほら行くぞ」

俺はヴォラクの頭を軽くたたいて歩きだした。しかし……

「乗り場がいっぱいあるなぁ…」

流石天神。バス乗り場が沢山ありすぎて、どれに乗ればいいかさっぱりだ。

「海星行きってどこにもなくないか?」
「なんだよ拓也ー。無駄骨じゃーん」

セーレもバスの時刻表を見ながら呟いた。
ヴォラクも横でぶーぶー言ってくるし、ラチがあかなくなった俺はシトリーに頼んだ。

「なぁシトリー、誰かに聞いてみてくれよ〜」
「なんで俺が」
「そのくらいしてくれたっていいだろー?」
「ったく……」

シトリーはそう言って道を歩く人をキョロキョロと見だした。
そして2人組の女性を見つけて声をかけていた。

「行動が早いな彼」
「うん」

俺とセーレはあきれ半分、感心半分でそれを眺めていた。
しばらくしたらシトリーがその女の人たちとこっちに歩いてきた。

「おーい。送ってくれるってよ」

なにぃ!?何を言ったらそうなるんだ!?
俺たちはあいた口が塞がらない感じでぽかんとなっていた。
2人組の女性は顔を赤らめさせ、シトリーを見上げていた。
まぁ確かにシトリーは美形だ。それは認める。でも上手くいきすぎなんじゃないか?
俺は少しむかついたが、まぁ上手く行けるのならいいや。もう
俺たちはタクシーに乗って、海星まで向かった。
この大人数だ。大型に乗らなくちゃいけなくなってしまい、俺は金の心配をした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タクシーを走らせて20分、海星の前に到着した。
金は割り勘だったのでそこまでの値段にはならなかったのでなんとか支払うことができた。
ていうか海星ってデカイなぁ。俺の学校の2倍はあるんじゃないか?
今の時刻は昼の3時。ちょうど6限目が終わったのか、生徒達が下校していた。

「でもこんなに人がいたら誰が金田だなんてわかんないよ」

俺はため息をついて校門から出てくる生徒を眺めた。
そんな俺を見て、ヴォラクはシトリーの服を引っ張って再び頼む。

「シトリー。また誰かに聞いてきてよ」
「伸びるから引っ張んじゃねーよ。っていうかまた俺かよ。少しはお前も何とかしろよ」
「だって、こういうのってシトリーが一番向いてんじゃんか」
「……まぁいいけどさ」

シトリーはまたも面倒くさがりながらも、テキトーに1人の生徒に声をかけた。

「ねぇ。金田真吾ってまだ学校にいる?」
「え?えっと金田くんならまだいると思いますよ?もうすぐ来るんじゃないかな?」
「へぇ。ねぇ、来たら教えてよ。俺、顔知らないからさ」
「はぁ……」
「いいだろ?」
「……はい。わかりました」
「シトリー力使っちゃって……」

セーレはため息をついてその光景を眺めていた。

「力?あの澪に使ってたやつか?大変じゃん!」
「大丈夫だよ。上手く聞きだすために使ってるだけだから」

シトリーはそのまま女子高生と校門の前に立って待っていた。
すると女子高生が指をさしてシトリーに話しかけた。
シトリーはそれを確認すると、女子高生の額に指を当て、パチンと指を鳴らした。

「あれ、あたし……」
「ありがとう。金田、来たよ」
「え?あ、はい」

女子高生は顔を赤らめさせて、その場を去って行った。
シトリーは俺たちに手招きをした。

「あいつだって」

シトリーが顎をクイッとあげた先には1人の男子が歩いていた。
制服を緩く着こなして、鞄は小さくて教科書なんてあんま入んないだろう。
小さな肩かけの鞄で森岡の言ってた通り、ガリ勉と言うにはほど遠いタイプだった。
相手は高3。即ち俺より年上。話しかけるのにためらったが、俺は腹をくくって金田に声をかけた。

「すみません」
「あ?」

金田は立ち止って俺を見た。う、怖い。

「お前誰っちゃ?前に会ったことばあるか?」
「いや、そういう訳ではないんですけど……ちょっとお話が」

俺は軽く怖くなって目をそらしながら話した。
金田は不機嫌そうに俺を見て、軽く舌打ちを1つした。(ひいぃ!!)

「俺は話すことばないんやけど?」

やばい。このままじゃ来てくれない。どうしようかと思った俺はいきなり核心をついた。
その瞬間、金田の目つきが変わった。

「悪魔と契約してるんじゃないですか?」
「なんだと?」

やっぱりこの反応間違いない、契約してる。
金田の目が俺を鋭く睨んできた。

「どこまで知っとる?」
「全部知ってる。だからこそ来たんだ。あんたを止めに!」
「止める?何を?」
「悪魔の力は危険だ。人が操れる力じゃない…だから悪魔と契約を切ってくれ。俺は悪魔を地獄に戻すために来たんだ!」
「嫌やね」
「え?」

金田は薄く笑って俺を見てきた。

「こげなつまらん日常にやっとおもしろか事ば起こったんよ。簡単に手放してたまるか。それに。俺が誰と契約してようがあんたには関係ないやろ?」
「でも悪魔の力は」
「じゃあお前は何の悪魔と契約しとるたい?」
「俺はこの後ろの奴ら」
「全部か?」
「うん」

金田はそれを聞いて軽蔑するように俺を見てきた。

「お前はなんなん?自分は特別だとでもおもっとるんか?」
「え?」
「お前さ、人のやることは文句つけるんに自分がやるんはいいんか?むしろ悪魔と4匹も契約してるお前の方ば危険やろ」
「そんな……俺はただ」
「拓也を馬鹿にすんなよ!」

金田の言い分に腹が立ったのか、ヴォラクが前に出てきた。

「拓也はお前と違って悪魔の怖さをわかった上で契約してるんだ!何にも知らないお前とは違うぞ!!」
「ふん……悪魔が偉そうに。所詮お前たちは俺たち人間に使役されるだけの存在やろ。馴れ馴れしく話しかけんじゃねぇ」
「なんだと!?」

ヴォラクはカンカンになって怒ったが、金田は鼻を鳴らしその場から立ち去った。

「まずいな」
「セーレ?」
「ああいうタイプって一番危ないよ。悪魔より自分の方が立場が上だと思ってる」

セーレの言葉にシトリーも頷きながら話しに参加した。

「確かになぁ。悪魔ってプライド高いやつ多いから、ああ言う奴ってムカつくんだよ」
「それがどうしたのか?」
「悪魔を自分で操ってるように思ってる。そんな奴は恰好の獲物だよ。実は悪魔の術中にドップリとハマってる可能性が高い。危険だな」
「でもあいつ一体何の悪魔と契約してるんだ?」
『ホーホー』
「ストラス?」
「拓也、いったん人の少ない所に行こう」

俺たちはセーレの言われたとおりに人通りの少ないところを目指して歩きだした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
住宅街の小さな公園。誰もいない公園で俺たちは話し合った。

「ストラス。一体どうしたんだ?」
『あの少年の契約した悪魔、おそらくサミジーナでは』
「さみじーな?」
『カイヤナイトの首輪を鞄につけていました』
「間違いない。サミジーナだ」
「なぁ。そのサミジーナってどんな悪魔なんだ?」

『サミジーナは馬の容姿をした悪魔で様々な学問を司ります。その中で彼がもっとも得意とするものは降霊術です。彼は海で死に、カルタグラ(魂の苦悩の意)と呼ばれる煉獄で苦しむ霊魂を召還者の前に出現させることができます。霊は命じられたことを終えるまでは召喚者の傍に居続けます。また、彼のタリスマンを枕元に入れて寝ると、夢の中で死者に会うこともできます。おそらくあの少年はそれを』

「サミジーナか。危険なのと契約したな彼は」
「そんなに危険なのか?悪い悪魔ってわけじゃなさそうじゃん。会いたい人とあえるなんて」
「会いたい人なんて言ってないだろ?」
「へ?」
「サミジーナの気まぐれだよ。最悪なら……殺人鬼にも会うかもしれない」

俺は一瞬焦ったが、でも考えてみると夢の中の話だ。

「でも夢の中じゃん!そんなの起きちゃえば平気だし!」
「人間の想像力には限界がある。もし脳の許容範囲以上の衝撃を寝ている間に受けたら……思考は確実に停止する。彼はそのまま死者に地獄へ引きずり降ろされるだろうな」
「そんな……」
「それなのに、彼は悪魔を舐めてかかっている。サミジーナにとってこれ程屈辱的なものはない」
「じゃあ早く、悪魔を探し出さないと!」
「でも彼があの調子じゃ……」
「そんなの関係ねぇだろ!!急いで見つけて無理やりにでも返さないと!」
「拓也の意見に賛成だね。急いで探さなきゃ」
「彼の住所がわかればな。すぐにでも駆けつけれるのにな」

俺たちは一斉にシトリーを見た。

「なんだよ」
「シトリー。聞きこみは任せたぞ」
「任されても困るぞ」
「グダグダ言わないでよね!さっさと行けよ!」

ヴォラクに突き飛ばされて、シトリーはくそっといいながらまた海星に向かった。

『とりあえず、シトリーが来るのを待ちましょう』
「そだな」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お〜〜い」
「あ。戻ってきた……って、ん?」

シトリーは予想外のことに男を連れて帰ってきた。
しかも男はシトリーを見て、頬を染めている。まさか……
セーレが若干、顔を引きつらせながら質問した。

「シトリー……君の力は男にも使えるのか?」
「おう。俺の力は老若男女区別なしだ。赤ん坊にだって可能だぜ?」

それはそれで怖いが、この状況も同じくらい怖い。はたから見てりゃ、こりゃホモだ。
セーレとヴォラクも顔を青ざめさせ、自分には力を使うなと言っておこうと呟いた。

「こいつが案内してくれるって」

しかもまた案内させんのかよ。まぁ楽でいいけどさ。俺たちはその男の後ろを(少し離れて)ついて行った。
公園から15分。4階建てのアパートに辿り着いた。

「あいつはここで1人暮らしをしてるんです」

高校生の分際で羨ましい!
アパートは最近建ったのか、まだかなり綺麗な方だった。
俺たちはエレベーターを使い4階に上がった。
そして403の部屋のインターホンを押した。

「はい」
「真吾?俺、(りゅうの)(すけ)。開けて」

そこまでさせちゃうのかシトリー。

「なんだよ……って、なんでお前達が!何のつもりだ龍介!!」
「残念。こいつはもう俺の配下。お前逃げらんないよ」
「ふざけやがって!」
「サミジーナを出してくれ。彼は危険だ。君が扱える悪魔じゃない」
「冗談じゃない」

金田はカイヤナイトの首輪を手に取った。

「これさえあれば俺のもんばい。あいつは仕掛けてこれん」
「契約石だけでそう思うのは早すぎる。早く……サミジーナ」

セーレが向けた視線の先には家の中だと言うのに馬の姿があった。
どうやらあいつがサミジーナらしい。
その眼は恐ろしいほどの光を放っていた。そしてその目は金田を見つめていた。

『人間の飼い犬め。失せろ……』

サミジーナはそう呟いた瞬間、体から黒いオーラを放った。
そしてそれは本で見たような悪魔たちのような姿になった。

「なっ!」
「サミジーナの手下の悪魔たちだ!」

そんな!こんな場所で……ただでさえ逃げれない場所なのに!それにここは住宅街……下手したら他の人間に見られるかもしれない!

「やめろ!サミジーナ!俺の合図なしで勝手なマネするな」

金田の声で、悪魔たちは一瞬で姿を消した。
金田は鋭くサミジーナを睨みつけた。(俺ならできない)サミジーナは不満そうな顔をしながらも大人しくそれに従った。
しかし目は激しい怒りに燃えていた。
金田はそのままドアをバタンと閉めてしまった。

「あっ!おい!!」

鍵まで掛けてしまったドアを、俺はただ見つめるしかなかった。

「どうすんだこれ……」
「お〜い。俺そろそろバイトの時間なんだけど……」

シトリーの言葉で現実に戻される。そっか、もうそんな時間か。

「拓也、帰ろう」
「俺、もう少し粘ってみる」
「……わかった。シトリーを送ったら戻ってくるよ。この子も公園に連れて行っとくよ」

セーレは案内させた少年を引っ張り、シトリーを送るために一度アパートから離れた。
俺とストラスは玄関を叩いて声を出した。

「頼む!話を聞いてくれ!あんたを助けたいんだ!!」

俺は声を張り上げて叫び続けた。
すると金田は怒った顔で玄関を開けた。

「うるせぇ!近所迷惑やろうが!大声だすなや!!」

俺はあいたドアに手を突っ込み、必死でしがみついた。

「放せ!」
「嫌だ!絶対に嫌だ!!」

俺は力の限りドアを開けるように引っ張った。

「くそっ!」

金田は観念したのか、ドアを持つ出を手放した。
俺は勢い余ってそのまま壁に背中をぶつけた。

「って〜……」
「なんだ?まだなんか俺に言うことあるんか?」

金田はうんざりしたように俺に話しかけた。

「話はさっきと同じだよ。なんで悪魔なんかと契約するんだ?楽しいからか?」
「その言葉、そっくりそのままお前に返しちゃるわ」
「俺は悪魔を元の世界に戻すためだ。こいつ等だって、それに協力してくれるから契約してるだけだ。でもあんたは違うだろ?」

金田の様子を黙って見ていたストラスは重い口を開いた。

『貴方は誰か死んだ人間で会いたい者がいるのですか?』

金田はストラスの言葉に目を丸くさせてその場にかたまった。

「なんでそれを……」
『サミジーナの能力の1つです。死んだ人間に会えるというのは。海に関係した死に方をした人物になら降霊術で現在に甦らせることも可能』

後ろで俺たちの様子を見ていたサミジーナはストラスを睨みつけた。

『ストラス貴様……』
『サミジーナ。貴方が何を思っているかは知りませんが、この少年から離れなさい』
「そんなことさせてたまるか!」

金田は急に目を吊り上げて怒鳴ってきた。

「サミジーナがいなきゃ、俺は!」

金田はその言葉にハッとして、そのまま言葉を詰まらせた。
俺は話を聞かれないように、金田を玄関から出して玄関の戸を閉めた。
サミジーナの目つきが半端じゃなく怖かったから。
金田はそのまま顔を伏せて、唇を噛んでいた。

『金田、一体何を求めているのです?死んだ人間に何を伝えたいのです?』
「伝えることなんてなか」
『ではなぜ彼と契約しているのですか?彼は降霊術以外では秀でた能力はありませんが?』
「お前らには関係ない」

あくまで話そうとしない金田に俺は必死になって言葉を紡いだ。

「お願いだ。話をしてくれ。あんたを助けたいだけなんだ。あの悪魔すげぇ怖い目をしてたし、その内、何か仕掛けてくるかもしれないだろ」
「今死ねるなら本望だろ」
「金田!?」

俺は予想外の言葉に目を丸くした。
金田は握りこぶしをつくり、ポツポツと言葉を紡いだ。

「やりたい事もない。生きる目標もない。親の世間体の為だけに生かされる生活にはもううんざりだ。勉強できて何になる?それだけで俺の価値が決められるんか?」
「金田?」
「他の選択肢なんか与えられない。東大しか道はない。じゃあ俺自身は?何の為に生きとう?親の自己満足の為か?誰も分かってくれん。周りの人間は表面だけ見て俺んこつ羨ましがる。お前らもそうや。俺の何がわかると?」

知らなかった。こんなに苦痛を持ってたなんて……話を聞く限りじゃなんでも持っている天才人間で……周りが羨ましがるのは当たり前だ。
でも金田はそんな自分が嫌で仕方ない。
金田は俯いたまま、動かない。

『それとサミジーナ。何が関係あるのですか?』
「……」
「金田。頼む教えてくれ」

「……俺のばあちゃん」

「ばあちゃん?」
「俺んこつ、理解してくれた唯一の人たい。俺の味方はばあちゃんしかおらんかった。そのばあちゃんも病気で死んだ。病気もそんなに重くばなかった。手術すれば治るっち聞いとった。でも向こうのミスでばあちゃんは死んだ。唯一わかってくれる人やったんよ。もう俺の味方はどこにもおらん」
『つまり貴方は死んだ祖母に会う為にサミジーナと契約をしていると?』

金田は黙って頷いた。

『貴方の気持ちはわかりました。しかし非現実なことを受け止めてはいけません。人間は人の死を受け止めて成長するのです。前に進まなくなってはいけません』
「それは……」

「俺さ、ばあちゃん達とは離れて暮らしてて、あんまり会わないんだけどさ……やっぱ死んだら落ち込むし泣くと思うんだ。でも1か月くらいしたらその生活にもきっと慣れる。最低だって思うかもしれないけど、忘れたわけじゃないんだ。仕方ないって受け止めちゃうんだ。人間ってずっと生きれる生き物じゃないから。お前ももっともっとばあちゃんと一緒にいたかったと思うし、ばあちゃんもお前ともっともっと一緒にいたかったと思うんだ。だから辛いだろうけど受け止めなきゃいけないんだ。他の皆も、辛いけどそうやって今まで生きてきたんだ」

「……」
「だからサミジーナと契約を破棄してくれ。お前、今までばあちゃんがいてくれたとしても頑張ってきたじゃん。俺、凡人だから羨ましいよ。勉強ができるってだけでも。お前にとっちゃ当たり前なことかもしんないけどさ、俺なんかテストで悪い点とって怒られるだけだしさ」
「嫌にならんか?」
「へ?」
「自分の人生なんに、なんで親にとやかく言われなならん?放っといてほしいって思わんか?俺にはそれがわからん」

「そりゃたまには思うけどさ。でもやっぱ親も自分たちのように幸せになってほしいって思ってるからじゃね?」

「勉強できるのがどうしてそんなに幸せなんかな……幸せの定義ってなんなんかな?」
「満足できることだと思うよ」

金田は顔をあげて俺を見てきた。

「今の自分が満足してるか、何も困ってることはないか。それでわかるんだと思う。少なくとも俺は今の自分に満足してるぜ?頭はあれだけど…父さんも母さんも弟もじいちゃんもばあちゃんも、ストラス達も皆大好きだ」
『拓也……』
「お前もさ、なんだかんだ言って父さんと母さんが好きだから、今まで我慢してやってこれたんだろ?大学って楽しいとこって聞いたよ。そこでやりたいこと見つければいい。やりたい事が自分の学部になかったら編入でもすればいいじゃん!もうばあちゃんを当てにしたら駄目だよ。ばあちゃん疲れちゃうよ」

「お前は強いな……」

「え?」
「お前の話ば聞いとったら情けなか……ウジ虫やな」
「金田……」
「サミジーナとは契約ば破棄するよ。その代わり、今日まではいいやろ?」
「うん。わかった。明日また来るよ」
「……さんきゅ」

金田は軽く笑ってドアをパタンと閉めた。

「拓也、格好よかったよ」

俺は後ろを振り返ると、セーレとヴォラクが立っていた。

「なんで……」
「入れなさそうだから、話が終わるのを待ってたけど、中々の弁論だったよ」

俺は聞かれてたことを知ると、途端に恥ずかしくなって頭を掻いた。
ヴォラクは茶化しながら俺に近づいてくる。
俺は恥ずかしさの余り、ヴォラクにヘッドロックをかました。

「でも知らなかったな〜。拓也がそんなに俺たちのこと好きだったなんて〜」
「黙れヴォラク!」
「いった―――――い!!痛い痛い!放せ〜〜〜!!」

ヴォラクはギブギブと言いながら腕をベシベシ叩いた。
しかしストラスはなぜか浮かない顔をしていた。

「どんしたんだ?ストラス」
『サミジーナがこのまま黙っているのでしょうか?もしかしたら今日にでも仕掛けてくる事も……』
「気にしすぎだろ?明日には地獄に返せるんだからさ。平気平気」

俺は深く気に留めず、帰ろうとセーレに言った。
セーレは頷いて、俺たちはそのまま人のいない通りに行き、そこからマンションに帰った。

マンションから俺は皆と分かれ、ストラスと帰路についていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「池上!」

声がするほうを振り返ると、中谷が手を振っていた。
中谷は家に帰る途中だったのか、スポーツバッグを背負っていた。手にはコンビニの袋。

「おぉ!中谷!久し振り〜っていうか2日ぶり〜何買ったんだ?」

袋の中にはカップ麺が入っていた。

「今日親父とお袋がいないからさ、1人寂しく夕飯なんだよ」
「あら侘しい」
「うっせ。いいんだよ」

中谷は軽く俺をこずいていつもと変わらぬ笑みを浮かべた。

「俺ん家来る?夕飯一緒食おうぜ。俺ん家いっつも多めに作ってるから余裕だろ」
「え?そんな悪いし。急じゃん」
「平気平気」

俺はそのまま中谷の腕を引っ張り、中谷を家に連れて行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あれ?中谷君」
「久しぶり松本さん」

中谷は軽く澪に挨拶を交わした。

「今日、中谷も夕飯食ってくから」
「おばさんにちゃんと言ったの?」
「今から言う」

澪は少し笑って拓也らしいと呟いた。

「あら、友達連れてきたの?それならそうと言ってよ。もっと腕によりをかけるのに」

母さんは突然連れてきたことよりも、もてなしをできないことの方が不満なようだ。
直哉は中谷に初めて会うので緊張してるのか、父さんの後ろに隠れてしまった。

「直哉、俺の友達に失礼な態度とんな」
「いいよ池上。でも本当にそっくりだな〜」

中谷は直哉をしげしげと見つめていた。
直哉は気恥ずかしいのかますます父さんの後ろに隠れてしまった。

「さ、準備ができたから食べましょう。中谷君も遠慮しないでね」

母さんは中谷用の椅子を持ってきて、中谷を座らせた。

「すいません。お邪魔します」
「い〜え。食べましょう」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うまい!おばさん料理うまいっすね!」

中谷はどんどん料理を食べていく。母さんは嬉しそうに中谷を見つめた。

「そんなに食べてくれるなら作りがいがあるわ。どんどん食べてね」
「はい!」

中谷はその後も結構な量を平らげた。
夕飯も終わり、俺は中谷と澪で俺の部屋に行った。
中谷ももう少しなら家に入れると言うので3人で何かしようと思ったから。
部屋に戻ると、ストラスがベッドの上で悠々自適に過ごしていた。

「ようストラス」

中谷が手をあげてストラスに挨拶すると、ストラスも軽く頭を下げて挨拶した。

『相変わらず元気ですね』
「俺はいつだって元気だぜ?」

俺たちはそのまま10時近くまで俺の部屋でだべっていた。
中谷は時間が遅くなってしまったので、母さんが反対したので結局今日は俺の家に泊まることになった。

「ごめんな中谷」
「いいよ。明日は練習午後からだから」

それならもう少し遊んでいたい。
俺たちは3人でそのまま12時ぐらいまで話していた。
でも流石にそこまで遊んでいると眠くなるもので…3人それぞれうつらうつらして結局、その場で寝てしまった。(澪には悪いことした。家に返せばよかった)
そしてそのまま眠っていたが……

『助けてくれ!誰か!誰か!』
『無駄ダヨ。オ前ハ地獄ニ行クンダ』

俺は変な夢を見て、そのまま飛び起きた。
ストラスは相変わらずその衝撃でベッドから振り落とされた。
中谷の上に転落し、中谷も目を覚ます。

「池上?」

中谷は目をこすりながら俺を見上げてきた。

「嫌な夢を見たんだ。すごい嫌な予感がする……」
『拓也!指輪が!』

ストラスの声で指輪を見ると、指輪が薄く輝いている。

「な、なんなんだ?」

中谷も眠気が覚めたのか、指輪を凝視している。
指輪の光はどんどん大きくなっていく。

「どうしたの拓也?」

澪も眩しさからか目を覚ました。
指輪は真っ暗な部屋でひときわ眩しく光を放った。
そしてその光は壁にある映像を映し出した。それは……

「金田……?」

指輪の光に映ったものは眠っている金田だった。
しかし何かが違う。金田の顔は真っ青だった。そして金田を包み込むような黒い影。これは一体……
澪も顔を真っ青にしてこの光景を眺めている。

「何これ……」
『サミジーナが手を下したのです……』
「なんだって!?」
『サミジーナが彼を地獄へ連れて行こうとしているのです。夢の中で脳に衝撃を与え続け、そのうち、彼は死に至ります。急がなければ!』

俺はいてもたってもいられなくなってベッドから立ち上がった。
着替えてる暇もない!急いで向こうに向かわないと!

「池上!どうなってんだ!?」
「悪魔が出てきたんだ!早く助けなくちゃ!あいつ死んじまう!!」
「俺も行く!」
「あたしも!」

どこまでも中谷達は協力してくれるらしい。
俺たちは母さん達にばれないように静かに家を出た。
そしてそのまま走ってマンションまで向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
寝ていたのか、インターホンを鳴らした俺にセーレはビックリしながらも急いで鍵を開けてくれた。
俺たちは慌てて部屋まで上がりセーレにジェダイトを出してくれと頼んだ。

「どうしたんだ?血相をかえて」
「サミジーナが金田を襲ったんだ!指輪が教えてくれた。急がないと!」
「指輪が?それは本当なのか?」
「わかんない……でもあんな光景見たらほっとけるわけにはいかないんだよ!」

セーレは少し考えたが、状況を理解したのか首を縦に振った。

「すぐに用意する。中谷はヴォラクを起こしてくれ」
「わかった」

中谷は急いでヴォラクの寝ている部屋に足を運ばせた。
ヴォラクはまだ眠いのか、中谷に抱えられて部屋にきた。

「ヴォラク!しっかりしろって!」
「眠い〜中谷おんぶして」
「今してんだろが」

軽い漫才をしながら、中谷はヴォラクをおぶったままジェダイトに乗った。

「なんか俺ってこんな役回りが多くないか?」
「中谷が一番力もちだから」

俺はあえてフォローしたが、あまり中谷は納得してないようだ。
俺は澪を前に乗せ、セーレはストラスを抱え、ジェダイトを走らせた。

間に合ってくれ!!
俺は祈るような気持で福岡に向かった。
登場人物

サミジーナ…ソロモン72柱4番目の悪魔。
       30の軍団を率いる侯爵とされる。
       馬の姿をとるが、人の姿にもなれ、しわがれた声で諸学問を論ずる。
       ネクロマンサーとしての能力があり、夢の中で死んだものと会える力を持つ。
       また水死した人間ならば、現世によみがえらせることも可能。
       契約石はカイヤナイトの首輪。


金田真吾…福岡に住む高校3年。天才といわれている。
      自分を唯一理解してくれた祖母と会うためにサミジーナと契約していた。


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