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第4部(最終章)
第189話 親友同士の戦い
恐ろしい程の緊迫感が俺たちに襲い掛かる。
でもパイモン達を地獄に送るためにはヴアルの力が必要で……つまり今回ヴアルが手を出す訳には行かない。
けどヴアルが戦えないのは遠距離攻撃を出来る奴がいないって事で……それだけでかなりの不利を強いられそうだ。
戦えるのはパイモンとシトリーとヴォラク、向こうもマルコシアスにキメジェスにバティン。
共に3対3、相手の力が分からないだけ、一気に自信が無くなってきた。


189 親友同士の戦い


『別に大人数でどんちゃんすんのもいいけどよぉ……俺としてはタイマンしてぇんだよな。タイマン』

鋭利な剣を肩に担ぎながら、面倒そうにマルコシアスが肩を慣らしている。
多分その言葉は遠まわしにパイモンとタイマンをさせろって言ってるようなもんだ。そんな事させるわけには行かない。
でもマルコシアスもそうだけど、ライオンのような凶暴そうな動物にまたがって状況を静観してるキメジェスも不気味な雰囲気が漂って恐ろしい。
後ろに控えてるバティンだってパイモンと同格の悪魔なら強いはずだ。

『いいんじゃないか?こっちとしても余り派手に騒ぐのは好きじゃない。君とパイモンのタイマンで決着をつけてもいいな』

バティンの一言にパイモンが目を見開く。そんなパイモンとは逆にニヤリと笑みを浮かべたマルコシアス。
何勝手に決めてるんだ!そんなの認められるわけないだろ!?
そんな俺の気持ちを他所に、バティンはどんどん勝手にルールを決めていく。

『そうだね、賭けにした方が燃えるよね。じゃあマルコシアスが勝った場合は松本澪さんをいただこう。君達が勝った場合はどうするんだ?』
「ちょっ……何勝手に決めてんだよ!」
『駄目なのかい?でもこのまま乱闘になったら俺は間違いなく君たち3人を狙うけどね。君は希望の親友だろ?それに後ろの子は希望の弟……確かラウムと契約してた子だよね。希望を釣る餌には申し分ない』

俺はともかく、また直哉君を危険な目に遭わせる訳にはいかない!
竹刀を向けた俺にバティンは口元に手をやり、クスクスと笑っている。

『おいおい……まさか本気で俺とやりあう気かい?人間が悪魔を倒せると思うなんて夢を見るのもおこがましいよ』
「うるさい!現に今までだって倒してきた!」
『それはそこにいる裏切り者達の力を借りてだろう?後は向こうが手加減したかだ。エクソシストですら倒せるのは下級の悪魔だ。上位である俺達ソロモンが君に負けるなんてあり得ないね』
「うるさい!!」
『威勢がいい割に……足がすくんでるよ』

図星をつかれて腰が引けた。確かに奴が俺達を狙ってきた時を考えると恐ろしくて足が震える。
そんな俺を庇うかのように直哉君が俺の服の袖を握りしめてバティンを睨みつけた。

「お、俺達を囮にしたって意味なんかないぞ!兄ちゃんは絶対に戻ってくるから!」
『……おや、何を言い出すかと思えば……』
「兄ちゃんは絶対に戻ってくる!戻ってお前達なんかやっつけてくれるんだ!!」
『それまで君が生きてればね。さぁ彼らも反対する事だし、俺達も全力で行くとするかい』

マルコシアスはタイマンが良かったせいか、口を尖らしたけど、キメジェスは乗り気だ。
あのおっかない化け物も雄たけびを上げて俺達を捉えようとしてる。
流石にこの状態はまずいと感じたシトリーが俺を庇うかのように前に立ち、バティンに手を出した。

「ちょっと待て。お前の条件を飲もう。パイモンとタイマンすればいいさ、勝った時の条件はお前達が知ってる情報を全て吐いてもらう。これでいいだろ?」
「シトリー!」
『構わないよ。マルコシアス、行くかい?相手はパイモンみたいだよ。まぁ彼らの中で一番強いのがパイモンだから妥当な選択だね』
『けっ……結局そうなんのなら最初からそうしろっつーんだよ』

面倒そうに出ていくマルコシアス、でもなんでシトリーはそんな事を勝手に決めたんだ!?
もし負けた時は松本さんを取られるんだ!そんなの許されるはずがない!!
シトリーは申し訳なさそうな顔1つもせず、パイモンに行く事を促している。
パイモンもそれに対して言い返す事等全くない。

「わりぃなパイモン。でもよ、これもおめぇが招いた事だ。自分で責任取りな。死んでも勝てよ、澪を連れて行かせる訳にはなんねぇんだからよ」
『分かっている。自分の責任は自分で何とかする。元よりそのつもりだった』
「ならいいけどよ」

止めようとした俺を制してパイモンは剣を抜いて前に出ていく。
その光景を黙って見てるのは辛く、俺は声を張り上げた。

「行くな!行っちゃ駄目だ!1対1なんて危険だ!お願いだよパイモン!!」
「何言っても無駄だ光太郎、黙って見てろ」

よくもそんな事を……!
シトリーを睨みつけて文句を言おうとしたけど、シトリーの辛そうな顔にそれを言う気力も無くなる。
ただ黙って見てるしかない。それは他の奴らも同じだった。

『パイモン……大丈夫かな』
『さぁね、あんな裏切り者どうだっていいよ』
『ヴォラク!でも……シトリーはどうしてあんなこと言ったのかしら。いくらなんでも……』
『澪と光太郎、直哉を巻き込むまいとしての行為。私も彼の意見に賛成です』
「すっげぇ事になったな……なぁフォラス、俺マジで怖くなってきたんやけど。どっか隠れる場所ねぇかな」
『馬鹿な事言ってんなよ。しっかり見とけ、お前が戦おうとしてる存在をな』

パイモンが前に出て剣を構え、それを見て満足そうな顔をしたマルコシアスも剣を構えた。
そして何かが合図になったのか、2人が一斉に走り出し、パイモンの細い剣とマルコシアスの巨大な剣が派手な音を立ててぶつかりあった。
パイモンが斬られてしまったらどうしよう。そう思ってしまったら、剣がこすれる音が聞こえる度に怖くて肩が震えてしまう
その様子をシトリー達が固唾を飲んで見守り、松本さんと直哉君はセーレにしがみついている。
ヴォラクは怒りが収まらないのか、少し苛立った表情で見つめ、ヴアルはそんなヴォラクをなだめていた。
セーレは松本さんと直哉君を後ろに庇い、心配そうな表情をしている。ストラスは何かを考えている感じだった。
そして嫌だ嫌だと愚図る光にフォラスが喝を入れている。しっかりしろ、と。

バティンとキメジェスは無表情で、でも何かを探るような表情をしている。
バティンの方は時折松本さんの方に視線を寄こし、キメジェスに何かを話している。
その間にもパイモンとマルコシアスの戦いは激化して行く。
お互いずっと一緒に居たらしいから、お互いの行動パターンが読めるのだろうか。でもパイモンの方が少し押されてるのか?パイモンの方がどんどん後ろに下がっていっている。

「シトリー……」
「……やっぱパイモンの方が少し不利か」
「やっぱりそうなのか!?」
「良く知らねぇんだが元々戦うのはマルコシアス、パイモンはそのサポートをしてたって話だ。実力的な関係ならマルコシアスなんだろうな」
「じゃあなんで行かせたんだよ!負けるってわかってたんじゃないのか!?」
「だがマルコシアスは戦い方が力任せって話だ。戦法とかは全てパイモンが指揮してたって聞いた。それを考えれば五分五分だ。パイモンが如何に上手くマルコシアスの裏を取れるかだな」

つまり力はマルコシアス、戦法はパイモンが上って事か。
パイモンは自らが積極的に攻撃してる節は無い。マルコシアスの攻撃をいなして隙を見て攻撃してるって感じだ。
でも力で押し切られてるのか、それが不利の原因なのかもしれない。
パイモンも多分本気を出せてないんだろう。相手が親友のマルコシアスなのだ。そんな相手に本気で剣を交えるなんて酷な話だろう。

そして目を放した一瞬で剣が弾かれる音が聞こえて、慌ててそっちに顔を向けると膝をついているパイモンに、それを見下しているマルコシアスの姿があった。

「パイモン!」

膝をついたパイモンの首元に剣が当てられる。
マルコシアスの目は怒りや悲しみ、色んな物が入り混じっていて複雑そうな表情をしている。
けどバッサリとパイモンを切り捨てる気だ。

『じゃあな、お前とバカやってた時期は忘れねぇよ』
『……』

そのまま剣を振り下ろしたマルコシアスに俺は思わず走り出していた。
でもシトリーに止められて、その光景を見ているしかできない。
止めろ!そう大声を上げようとしたが、マルコシアスの剣がパイモンに届く事は無かった。
パイモンの目の前にヴォラクが割って入り、マルコシアスの剣を受け止めていた。

『ヴォラク……』
『勘違いすんなよ。ここで死なれたら殴れないからな』
『そうか、覚悟しておく』
『そうしとけ』

ヴォラクはマルコシアスの剣を弾き、そのまま剣を向ける。
邪魔されたマルコシアスは苛立ちを隠さず舌打ちをして、再び剣を構えた。ヴォラクとも戦う気らしい。
しかし今度はそれをバティンが止めた。

『マルコシアス止めろ。時間だ』
『バティン?てめぇ何言ってやがる!』
『……奴が戻って来た。すぐにここに足を運ばせるだろう。今からヴォラクと戦っていては奴と刺し違えるぞ』
『いい機会じゃねぇか!』
『ルシファー様が失敗したと言う事だ。これ以上ここにいるのは危険だ。こちらは別の任務を遂行するぞ』

バティンの今までにない強い口調にマルコシアスは舌打ちをして後ろに下がった。
そこをすかさずヴォラクが攻撃したが、バティンの結界に阻まれてヴォラクの剣は届かなかった。

『くそっ!』
『じゃあね、近い内にまた会うさ』
『首の皮繋がったな。次はねぇぜパイモン』
『はぁ……俺来た意味なくない?まぁセーレの姿を確認できたのは良かったけどね』

それぞれが言葉を残してその場を消えて行った。
その瞬間、マルコシアスの空間がマンションの部屋に変わり、本当にあいつらが居なくなったって確認できた。
でも割られた窓ガラスに引き裂かれてしまった魔法陣、壊されてしまった聖水の瓶……どう考えても今から地獄に行く儀式を行うのは不可能になってしまった。
静まり返った室内で直哉君の力が抜けた声に全員の意識が現実に浮上した。
ヴォラクは剣をしまい、パイモンを殴ると豪語してたけど、結局殴る事もなく横を素通りしただけだった。
パイモンはそのまま俺達に頭を下げ、何も言う事がなかった。

『直哉、貴方が決めなさい』
「お、俺?」

話を振られた直哉君が慌てふためいてセーレの後ろに隠れる。
でもストラスは逃がしてくれなかった。

『貴方が契約をしているのです。殺すも生かすも貴方が決めるのです』
「そんな事急に言われても……殺すとか嫌だよ、怖いよ」
『だ、そうですよ。パイモン』
『俺は何も言う事は無い。つき従うだけだ』
「まぁいいじゃねぇか。まだ心残りはあるけど、これで解決だ!それよりあいつらはなんで引いて行ったんだ」

そうだ、なんで急にバティンが引くことを提案したのかわからない。
松本さんの件もあるし、考える事が多すぎる。どうしたらいいって言うんだよ!
松本さんはパイモンの件もあるし、自らの件もある。青ざめた顔で泣きそうになっている。そしてすぐに玄関に向かって足を向けていた。

「松本さん?」
「あの指輪を捨てるの。あんな物があるから父さんがっ!」

そうだ、松本さんの家にアスモデウスの契約石があるんだ。確かにあんな物はさっさと捨てるべきだ。
松本さんはストラスの制止も聞かずに玄関に向かって行く。しかしその時、マンションのインターホンが鳴った。

そしてその先には意外な姿があった。


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