「おい、何時間歩くんだよぉ~」
『まだまだ。寝る時間までは歩き続ける』
アスモデウスはピンピンしてるけど、俺とシャネルはくたくただ。
シャネルの手を引いて、俺達は薄暗い森の中を移動していた。
179 サタネル達の襲来
「アスモデウス、お前どこに行こうとしてるんだ?」
『……俺の隠れ家的なスポットさ。あまり知られてない場所だけに魔力も相当溜まってる』
ふぅん、まぁ聞いた所でわかんねぇんだけど。そんな事よりシャネルは大丈夫なのか。
手は握ってるけど、表情はかなり疲れてる。
でも文句1つ言わないし、目があったら笑い返してくれる。本当にどこまで出来てる子なんだ。
できる事なら少しでもいい、シャネルを休ませてあげたい。
俺はもう1度アスモデウスに交渉してみる事にした。
「おいアスモデウス!やっぱ1回休憩しようぜ」
『……そんな暇はない。あいつらは確実に俺達に近づいて来てるんだ。休憩ばっか取ってたらすぐに追いつかれる』
「そうだけど……でもさ!」
『正直言って、あんた達のスピードは遅すぎる。悪魔たちが本気で俺達を追いかけたとしたらすぐに追いつかれるスピードだ。あんた達のスピードで悪魔から逃げ切るのは不可能だ。今の内に距離を稼いどく必要がある』
アスモデウスの言葉に何も言い返せなかった。それを言われたらお終いだ。アスモデウスは間違った事は言ってない。
結局休む時間はもらえなくて、俺は心の中でシャネルに謝罪した。
そのまま何も喋らないまま数時間が経過し、深い森の奥にまで足を運ばせていた。
アスモデウスは方向をちゃんと理解できてるんだろうか。黙々と前を進むアスモデウスの後を俺とシャネルが若干早足で追いかける。
その時、アスモデウスが急にこっちに振り向いた。
「うわ!なんだよ急に振り返るなよ!」
『何で俺が怒られるんだよ。それより少し休憩しよう、疲れたんじゃないのか?』
「え、休憩していいのか!?」
『ここまで深く来れば大丈夫だろう。少し待っててくれ、何か食べれる物を調達してくるよ』
アスモデウスは俺とシャネルをその場に座らせて歩いていってしまう。
どうしよう、シャネルと話したいけどギリシャ語を話せないし……ってか俺から話しかけて図々しいって思われないかな。
ぐるぐる回る頭で必死で考えていれば、横からくすっと笑い声が聞こえた。
「変な顔」
「うえ!」
シャネルの酷い一言に変な声が漏れた。
シャネルはクスクス笑いながら俺を見ていた。その姿に何だか胸が締め付けられる。
「ごめん、こんな事に巻き込んじまって……全部俺のせいで」
「私が好きでやった。頑張りましょう」
必死で日本語を話してくれるシャネル。
俺も少しギリシャ語を勉強した方がいいのかな。俺だってシャネルともうちょいスムーズに話をしたいって思う。
シャネルだって日本語は少ししか話せないって言ってたから、あんま難しい話をするのもナシだ。
ただ俺はシャネルに適当に笑って足元を見た。
あの後、サモス島はどうなったんだろう。
シャネルの記憶はイポスが持って行ったから全ての人間がシャネルの存在を抹消されてる。
きっと未解決事件って事で話しは終わってるはずだ。
でもシャネルの事を誰1人として覚えていないのが悲しい。シャネルの父親と母親はどう思ってるんだろう。
そりゃシャネルを幼い頃に捨てるくらいだ。最低な奴らだったんだろうけど、そんな奴らは今何をしてるんだろう。
新しい子どもを産んで幸せに暮らしてるのかな。だとしたらその子はシャネルの弟か妹になるんだよな。
その子はシャネルの存在を知ってるんだろうか。
もんもんと考えだしたらきりがない事を考えて溜め息をつく。それよりも一刻も早くシャネルを連れてここから逃げるんだ。それが先だ。
「シャネル、頑張ろう」
「うん。頑張る」
「もし元の世界に戻れたら俺の住んでるとこ案内するよ。買い物とか美味しい物とか全部案内する」
「……ごめんなさい。難しくて今の分からない」
ガクっとした。まぁそっか。俺が一方的にペラペラ喋りすぎだよな。
もっと簡単に簡潔にゆっくり話さないと。
ごめんと謝ればシャネルは首を横に振った。もっと話したいな、通訳する奴なんかいないでもっと。
「なぁシャネル、ギリシャ語教えて」
「拓也に?」
「うん。ギリシャ語話したい」
俺の言葉にシャネルは嬉しそうに笑って、土にギリシャ語を書いて行く。
一生懸命説明してくれるシャネルが何だか可愛くて笑ったら睨まれた。
「笑わないで」
「あぁごめん」
そのまま暫く2人で話していたら何かを大量に抱えたアスモデウスが帰ってきた。
アスモデウスはなんか変な動物とか変な色の木の実とかを大量に地面に落として、その場に腰かけた。
『何してるの?』
「勉強。ギリシャ語の」
『へぇ、じゃあついでに英語もやってみない?世界共通語は英語でしょ』
「いやいいし。どうせ学校でしごかれるし」
軽い会話をしながらアスモデウスが木の実の皮をはいで、動物の肉やらを捌いていく。
動物のゴキゴキ言う音が恐ろしくて、俺はずっと反対方向を向いてたけどシャネルは案外平気そうだった。
手伝うか?と言って断られてたし。
『はいどうぞ。この肉は生でも食えるから大丈夫』
「いや、そういうんじゃなくて火とか使わないの……」
『煙立てたら居場所ばれるから駄目だろ。それに俺魔法系あんま上手くないから暴発するかも』
「だからって……」
『じゃあこの木の実は?肉じゃないならいいだろ?』
「いやだって色ヤバいし。実が青と赤のミックスとかマジないんですけど」
『つべこべ言わず食え!我侭だな!!』
アスモデウスが飛びかかって無理やり俺の口の中に木の実と肉を入れていく。
抵抗してみたけどマウントポジションを取られたら抵抗は無に等しい。口いっぱいに大量に入れられて涙が出てきた。
そんな俺をアスモデウスは少し苛立った顔で見ている。
『そんくらいで泣くな。男の子だろ』
「……」
『飲み込むまで口開けさせないからな。早く噛め』
死んでも嫌だ。
『鼻摘まむよ』
待って!それだけはやめて!口を手で塞がれて鼻まで塞がれたら俺息できない!
鼻に手が伸びたアスモデウスを何とかする為に、俺は意を決めて口の中の物を噛んだ。
ニチュッと言う気持ち悪い音が聞こえたけど、味は思った以上に普通だった。肉とか普通に馬刺しみたいな感じ。
そのままもぐもぐ口を動かしだした俺を確認して、アスモデウスは俺から身を引いた。
『意外と美味しいだろ』
「…………ん」
『なら良かった。Επίσης ενδιαφέρον Chanel.(シャネルもどうぞ)』
「Ας φάμε.(い、いただきます)」
そのまま3人で食事を取って少し休憩して、さぁ行こうと立ち上がった瞬間、爆音とともに地面が揺れた。
「な、何だ?アスモデウス、何が起こってんだよ!?」
『あいつらが襲撃してきたみたいだな』
アスモデウスが立ちあがり、剣を手にとって臨戦体制に変わる
あいつらって誰だ?7つの大罪か?マステマの仲間たちか?誰が来たって言うんだよ!
『ふん、木を隠すなら森。見つけらんねぇなら全て壊しゃ話は早ぇっつーの。行けぇラハグ!どんどん魔法ブチ込んでやりな!』
『簡単に言っちゃうけどねぇ、これ結構きついんだよ。もうやだー家に帰りたいよ~』
『情ケナイ事ヲ申スナ。希望ヲ逃ガシテハ元モ子モナイ』
『そうだぜウスノロ。分かったならもっとブチ込んでやれ!』
大砲の様な魔法が無差別に俺達を襲ってくる。
こんなのもし自分のとこにジャストフィットで飛んできたら避けれる自信は全くない。
まるで地震が起きたかのように地面が揺れ、土煙が視界を覆う。
アスモデウスが走るように促してるけど、俺とシャネルは反応が出来ない。
『見つけたぜ雑魚が』
声と共に見えた物は血走った瞳、首に添えられたのは鋭利な剣。
見つかってしまった……とてつもない恐怖が体を駆け巡る。見つかってしまったんだサタネル達に。
土煙が消えてクリアになった視界に飛び込んできた奴らは長い髪を結っている悪魔アザゼルと後ろにいるのはラハグ、そして屈強な肉体のアバドンだった。
『あんま俺らの手を煩わせんな愚図が。てめぇはまだ使い道があるんだ。死に急ぐ必要はねぇだろ』
恐怖で話せない俺にアザゼルは舌打ちをして更に俺の首に剣を押し当てる。
その動作で固まってしまった俺を庇うかのようにシャネルが前に出てきた。
『あ?なんだてめぇ殺んのか?俺は女だろうが容赦しねぇぜ』
「……」
『はっいい度胸じゃねぇか。この雑魚より優秀だ。まずてめぇを見せしめに処刑してやろうか』
俺の首に当てられてた剣がシャネルの方に移動する。それだけは駄目だ!シャネルだけは巻き込むな!
咄嗟に立ち上がった俺を見て、アザゼルは俺に再び視線を寄こした。
『そんなに焦るくらいなら初めからこの女を巻き込むな。本当に情けねぇ野郎だな』
「う、うるさい……」
『ビビってやがる。小便ちびるんじゃねぇぞ』
アザゼルは軽く笑ったかと思った瞬間、俺に剣を振り下ろしてきた。
避けれない俺は手で顔を覆うしか方法がない。でもいつまでも剣が俺に落ちてくる気配はなかった。
恐る恐る目を開けると、アスモデウスがアザゼルの剣を受け止めていた。剣同士がギリギリと音を立てている。
『この子に傷はつけさせない』
『反逆者が……てめぇもろとも息の根止めてくれるわ!』
アスモデウスがアザゼルの剣を跳ねのけて2人は睨みあい、再び剣を合わせだした。
アザゼルはアスモデウスが何とかしてくれるはず……問題は残りの2人の方。
アバドンとラハグをどうするべきか……
『サテト……問題ハ希望ダ。連レテ帰ルゾ、ラハグ』
『え、無理無理無理無理。俺に戦えとか死亡フラグすぎ。希望1人くらいアバドンが何とかしてよ』
『……ナゼ貴殿ガサタネルノ称号ヲ持ツノカ甚ダ疑問ダ』
こいつらを倒すには俺だけの力じゃ無理だ。やっぱサタナエルの力を使わないと……その力を使う事で、俺の体がどんどん悪魔になっていってるって言っても。
今この状況を抜け出すには、皆に合う為にはそうするしかないんだ。
やらなきゃいけない事がたくさんある。まず中谷の家族に土下座して謝る事、俺のせいで巻き込んじまった大切な友達。
そんで直哉達にただいまって言う事、光太郎と澪にもちゃんと言って、ストラス達にも会いに行く事。
それをするまでは絶対にくたばれない。
アザゼルはアスモデウスが引き受けてくれるはずだ。俺はこいつらを……
『随分集中できてねぇじゃねぇかアスモデウス、継承者が心配でしょうがねぇか?』
『まぁね。まさか彼1人でお前達がまとまってくるなんて思ってなかったからね』
『はは!それほど継承者、いや指輪が必要って事なんだよ。サタナエルを復活させるためには奴の力が必要なのさ。まぁ裏切ったお前には理解できねぇだろうな。俺達がどれほどこの悲願を待ち望んでいるかなんてよ!』
『わかるさ。天使に復讐したいって事だろ?俺だって馬鹿じゃない』
『あぁ良く分かってんじゃねぇの。俺を数千年も荒野の穴倉に閉じ込めやがったラファエルを八つ裂きにしなきゃ気が済まねぇんだよ!エノクなんかにメタトロンの称号与えやがった神にもなっ!シュミハザやアラキバ達は未だに眠りにつかされている、サタナエル様の力がなきゃシュミハザ達は目覚めさせらんねぇからよぉ!』
アザゼルの目が血走り、攻撃の仕方も激しく荒くなっていく。
でも大丈夫、アスモデウスは7つの大罪とまで言われている悪魔だ。そう簡単にやられる訳がない。
「出て来るんだ……俺に力を貸すんだ」
そう呟けば、真っ白な光の様な炎が手に宿る。さっきよりも軽々と出せた所に驚きを隠せなかった。
その光景をアバドンは満足そうに、ラハグは目を丸くして眺めていた。
『ありゃ?ベルゼバブの話と違うくない?ベルゼバブはまだ全然炎を使えないって……』
『危機的状況ニ陥ッタ場合ダカラデアロウ。最モ一番ノ要因ハ自ラヲ悪魔ト認メタ事デアロウガナァ』
なんとでも言えばいい。俺はこの力を使って生き残ってやる。
シャネルを後ろに下がらせて、俺はゆっくりと近づいて来るアバドンを見据えた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ふふ……どんどん亀裂が入って行く』
『ルシファー様、しかしまだこの程度の微小な亀裂では水晶を割る事はできません……』
『分かっているさ。だが小さな亀裂から力が漏れる事がある。サタナエルは確実に感じている、自らと同じ力が外部から流れている事を……』
後少しだ。サタナエルは小さな身じろぎを数回行っている。数万年間ピクリとも動かなかったのにだ。
このままエネルギーを感じ取れば間違いなく目を覚ます。
そうすれば希望の力など必要ない。サタナエルが内部から水晶を溶かしていくだろう。
さぁもっと抵抗しろ。お前の行動全てがサタナエルにつながると知るがいい。ミカエルに選ばれた愚かな希望よ。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。