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第4部(最終章)
第159話 陰謀の内側
『……あー全然駄目だ!!』

放り投げた始末書が部下の頭に激突する。
部下が小さな悲鳴を上げて俺を睨みつけてきたけど、そんなの気にしない。

『いてっ!ウリエル様、お気を鎮めて…』
『鎮めれるかクソったれ!この状況で動かないのは確実にまずい。ミカエルの奴、何考えてんだ!!』

どうやら状況は俺が思ってたよりも遙かに深刻のようだ。


159 陰謀の内側


天界、死した人間が向かう異界の門。罪深き者は罰せられ、許された者は永遠の幸せを掴み取り、許された時間を過ぎれば、再び輪廻する。
その世界の中心部分である“ヴァルハラ”。天使として招待された者だけが入れる世界。
その世界の豪華な一室で、ウリエルは書類と向き合っていた。

『拓也を連れていかれたのに、なぜ手を打たない。下手したら不味い事になるぞ!』
『しかし、ミカエル様はまだ動くべきではないと……』

ウリエルからの八つ当たりを受けた部下は恐る恐る反論した。

『あのプリンス……何かを隠してやがる。審判が行われるのは勝手だが、奴が出てくるとなると状況は一気に不利になる。お前も忘れたのか?あいつだけでどれほどの同胞がやられたか!』
『あの力は恐ろしゅうございました……それに奴が目覚めれば……』
『あぁ、黙示録の獣も出てくるだろうよ。あれは奴のペットだからな』

部下は身震いしながら話す。それもそうだ、こんな展開は予想外だ。少し、いやかなり拓也について気になる事はあったが、それでも何とかなってると思ってた。
メタトロンとサンダルフォンに黙ってゲートを抜けて中谷を引っこ抜いて、ラファエルに送って、その後に拓也は地獄に連れて行かれたと言うじゃないか。
メタトロンとサンダルフォンの監視さえなければ、フォカロルごとき俺だけで……って大口叩くのは止めとくか。
あいつとは相性悪いしな。
とにかくここに居ても解決しねぇ!

『ミカエルのとこに行ってくる。このままじゃまずいのはわかってるはずだ』
『はっ』

部下をその場に残して俺はミカエルがいるであろう部屋、「神に最も近い部屋」に向かった。
その名の通り、その部屋の奥が神のいる世界の入り口だ。
最強の天使しか入る事の出来ない神の部屋。その部屋の主として認められるのはミカエルしかいない。
俺はミカエルと話をつけるべく、奴の部屋に急いだ。

『おいプリンス!』

勢いよく扉を開けた俺にミカエルと部屋に来ていたのか、バラキエルは驚いた眼で俺を見た。
それも気にせずズカズカ入っていけば、ミカエルが呆れて溜め息をついた。

『ウリエル、騒々しいぞ。入る前はノックだ』
『んな事どうでもいいんだよ。それより、てめぇ何考えてんだ』
『何がだ』

しらばっくれる気か?
賢いてめぇなら俺の言いたい事くらいすぐわかるだろう!
あくまでシラを切るミカエルにバラキエルは溜め息をついた。

『ウリエル落ち着いて。焦っても何事も解決しない。冷静に見極めないと状況は判断できない』

持っていたトランプのジョーカーを俺に見せながら、バラキエルはその場の空気を和ませようとした。
天使バラキエル、俺達天使9階級の中でも最上位、最強の天使軍団である“熾天使(セラフィム)”の天使長を務める強大な天使だ。
栄光の7天使には数えられていないものの、その実力は俺達に十分匹敵する。
幼い見た目のくせに意外と的確に的を得た事を言うこいつは、どんな状況でも冷静に物事を見る事が出来る。
ってそんな事もどうでもいいんだよ!何で俺がバラキエルを語ってんだ!!

『なんでてめぇがいるんだバラキエル』
『書類を見せるついでに少し話をね。それより荒れてるね。博打やるかい?ドパミンとβエンドルフィン出して快楽を味わったら気分もすっきりするかもよ』

こいつはギャンブルの神と人間に崇拝されてるだけあって、大の博打好きだ。
馬鹿野郎が。んなもんやったら興奮で血管切れちまうよ。
俺はバラキエルの意見を無視してミカエルに詰め寄った。

『正直に答えやがれ。てめぇマジでどうするつもりだ!拓也を連れていかれたんだぞ!』
『あぁ、不注意だったな。まさか継承者が地獄に送られるとは』
『何でそんなにのん気なんだよ!拓也が連れてかれるって事はだなぁ……!』
『地獄に連れて行かれた以上、私にはどうする事もできん』

冷静にもっともな事を言われて、うぐっと言葉に詰まった。
でもここで負けたら終わりだ。

『だったらなんで連れて行かれる前に手をうたねぇんだ!?』
『君に監視は任せていただろう。それは私が君に問いただしたい事だ』

……そうだった。
拓也の保護とかの全権は俺が持ってたんだった。なお且つ他の奴らに邪魔するなと自分で釘までさしてた。
言い返せなくなった俺にミカエルは溜め息を1つ。

『やれやれ……感情的になるのはいいが、噛みつくのは止めてくれ』
『う、うるせぇ!仕方ねぇんだよ!拓也と連絡が取れなくなったんだからよぉ!』
『継承者と?どう言う事だ?』
『それは……』

『『みぃつけた。ウリエル』』

2つの同じ声が、まったく同じ言葉を紡ぎ出す。
振り返れば、天界と人間界を繋ぐゲートの監視者、“メタトロン”と“サンダルフォン”がドアの前に立っていた。
やべぇ……俺が勝手に行ったのばれたか?
まったく同じ容姿の双子の兄、メタトロンが俺に近づいて来る。

『僕達に黙って勝手にゲートくぐりぬけて行ったでしょ?何でそんなことしたのかなぁ?』
『許可もなかったでしょ。困るなぁ仕事増やされちゃ』

ステレオで同じ声が聞こえて頭が痛くなる。
待てよ、これって明らかに俺の不利な状況になってきてねぇ。
後ろでは俺を睨みつけてるミカエルと、笑いを堪えてるバラキエル。全員の視線が痛い。

『仕方ないな、ウリエルには仕置きとしてアナフィエルに尻百叩きを……』
『まっ待てよ!すみませんミカエル様!』

アナフィエルの尻百叩きほど恐ろしい罰はない。
あのドS女は炎の鞭で容赦なく殴ってきやがる。
1回その罰にあったメタトロンがさっきまでの威勢はどこに行ったのか、ガタガタ震えている。
敬語にしてでも止めてほしく、俺は必死になって懇願した。

『ならばまず自分の行動を順序良く説明しろ。内容によっては尻叩きは止めてやる』
『わ、わかったよ。拓也と連絡が取れなくなったんだ。こんな事今までなかった』

俺がそう言えば室内が静まり返った。
バラキエルもトランプをいじりながら、神妙そうな顔つきをしているし、メタトロンとサンダルフォンも眠そうな目を見開いている。

『どう言う事だ?』
『わかんねぇよ。そんで一回ゲートを抜けたんだ』

少し話は脚色したけど、章吾の事は言わない方がよさそうだよな。
ミカエルは少し考えた後、俺に顔を向けた。

『事態が事態だ。君の不問は許そう。それはそうとラジエルとサリエル、そしてザドキエルを呼んで来てくれ』
『何で俺が……』
『尻百叩きがいいのか?』
『喜んでやらしていただきます』

かったりー。何だよマジで。しかもザドキエルはともかく、なんでラジエルとサリエル?あいつらなんか知ってんのか?
とりあえず尻百叩きを避けたい俺は言われた通りに足を運ばせた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ふーん……じゃあやっぱビンゴって訳。怖いねぇ、奴の力は』

自分の背丈よりも大きい鎌に凭れかかりながらクスクスと笑う少年。
その目は美しい金色、しかし不気味な影がかかっている。
そんな少年を睨みつけたのはローブを羽織ってひげを蓄えた老人だった。

『笑い事ではないぞサリエル。ミカエル様、いかがいたす?』
『何も案ずる事はないよ。継承者は良くやったと言いたいところだ。ザドキエル、君はどう思う?』
『非常に残念ですが彼には教育が必要です。私がヴァルハラで一から教えるとしましょう』
『怖い怖い。ザドキエルに任せたら歩く辞書になっちゃうよ。鬼軍曹のカイリエルにでも任せればいいんじゃない?』

サリエルは薄い笑みを張りつかせたまま。逆にラジエルは神妙そうにしている。
そんな2人を見て溜め息をつきつつザドキエルは顔をしかめている。
完璧主義者のザドキエルからしたら、継承者の行動はイラつくものでしかないらしい。
しかしサリエルは笑いながらラジエルに顔を向ける。

『今回で何人目だっけ?やっと当たりが出たって感じだねぇ。まさかあんな餓鬼が奴のエネルギーを受け継ぐなんてさ、まぁ嬉しい誤算だったけど』
『あぁ、彼は確実に私たちの理想に近づいていっているのだ。少々手違いはあるが』
『それにしてもあいつって一体何者な訳?今まで有名な聖職者やエクソシスト、いろんな奴を試したけど全員不適格だったじゃないのさ。奴のエネルギーに耐えれる人間なんていなかった。それがまさかあんな餓鬼がだよ。意外にも程があるじゃないか』
『ラジエルの書を見ればいい。そこに全て書かれてある』

私がサリエルにそう告げれば、サリエルは早速ラジエルが書いた書を見せるよう催促している。
ラジエルが持っている分厚い本、あそこには天地創造の秘密。全ての天使と悪魔、人類の名簿、天使として招待される者等、全ての情報が記されている。
そこにサリエルが知りたい情報は載っているだろう。
ラジエルから書を受け取ると、サリエルは目を丸くして笑みを浮かべた。

『なるほど……まさかこんな事があるなんてね。良く見つけたもんだ。でも今はサタナエルの力に浸食されてる方が強いみたいだけどねぇ』
『それはそうだろう。奴のエネルギーに対抗できる者はそういない』
『どこまでも我々を振り回す。あの女は……何万もの時を超えて、再び我らの前に立ちはだかるか』

ラジエルが苛立たしげに吐き捨てるその女性、我らにとって辛い過去と言えるものだった。
全ての始まりは彼女であったから。彼女から全ては始まったのだ。

『ふん、面白い事になりそうだねぇ。僕も高みの見物と行こうかねぇ』
『暫くはそれでいいさ。継承者は間違いなく私達との邂逅を望む。そこで全てが決まるさ』
『それはどういう意味だい?』
『もう泳がせる必要等無いと言う事さ。我らの全ての力を用いてでも彼を屈服させる』
『計画が大幅に狂いそうです。私の計画を乱すのは極力控えてください』

ザドキエルが頭を抱えているのをサリエルが笑っている。
しかし泳がせる必要などはないだろう。最悪のケース、継承者は我らにとっても悪魔にとっても最大の敵になるだろう。
その前に始末する必要は必ずある。

『その時、是非とも僕にも手伝わせてほしいねぇ。この目で見てみたい』

サリエルはそれだけを告げて、さっさと部屋を出て行った。
残された私とラジエルとザドキエルは顔を見合わせる。

『ついに近づいてきましたなミカエル様』
『あぁ、奴に復讐するにいい機会だ。己の傲慢によって滅びるがいい』
『やれやれ……全く貴方達は呑気で大変羨ましいですよ』
登場人物

バラキエル…天使9階級で最強の階級である第1階級“熾天使(セラフィム)”の天使長を務める天使。
人間にギャンブルの天使と崇拝されている事から、本人もギャンブルが大好きで常にトランプを肌身離さず持ち歩いている。
またトランプで占いをすることもしばしば。結構な高確率で当たるらしい。
観察眼が鋭く、常に自分たちが上手く立ち回れるかの状況判断が非常にうまい。
ゼフィエルと言う天使に片思いをされて酷い目に遭った事から、ゼフィエルに苦手意識を持っている。

メタトロン&サンダルフォン…生きた人間がそのまま天使になったと言われている異例の天使。
メタトロンが双子の兄でサンダルフォンが双子の弟である。
2人で1人という認識をされており、どこに行くにも2人で一緒。
展開と人間界をつなぐゲートを管理しており、黙って抜け出したウリエルを追いかけてきた。
少々怠け癖があるので、仕事をサボることもしばしば。本人たちに悪気はない。
ちなみにメタトロンは人間の頃の名前はエノクと言う事が判明している。
エノクが生きたまま天使になることに反対をした天使達との騒動にも発展したらしい。
その騒動の中心人物の1人にサタネルのアザゼルがあげられる。


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