『なるほど。使用人の少女でしたか』
あの後、ストラス達と合流して一連の話をしていくと、ストラス達は考え込んでしまった。
完全に行き詰ってしまった俺たちは何でもいいから情報がほしかった。
149 崩れ落ちた物
どうやら俺達が話した使用人の子から話を聞きたいらしい。
それはいいんだけど、俺はやっぱ年下そうな子が使用人なんかやってるのに動揺を隠せない。
それをストラスに聞くと、ストラスは少し眉を下げた。
『拓也、調べたのですがブラジルは広大な面積を持つ国。その全ての経済を潤わせるのは難しいのです。当然貧富の差は激しくなり、幼い子供でも働かなければならない人間も出てきます』
「そんな……」
『如何に自分が恵まれてるかを考えるのにいい機会ですよ』
そうかもしれないけど、でもあんな重たそうな袋を持って、旦那様とかに怯える様な態度をとって……可哀想じゃないか。
暗い空気になってしまった俺達を明るくさせる様に中谷が声を出した。
「まぁ調べてみようぜ!情報が集まるかも」
「情報は集まってるんだ。悪魔である確証を手に入れたい。それだけだ」
パイモンがきっぱりと告げれば、中谷はへらりと笑う。
でもこのままじゃ情報なんて手に入らなさそうだ。あんだけマスコミがうじゃうじゃいるんだ。
そう簡単にはあの子に会うことはできないだろう。どうすればいいんだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
「……Olá.(……こんにちは)」
神様これはなんていう偶然?
あの後、パイモン達は調べに行くからここで待っててくれって、バイリンガルにヴォラクを置いて行って十数分後。
またこの場所であの子に会うなんて。
女の子も目があってしまえば逸らす事も出来なかったみたいで、気まずそうに挨拶してきた。
今度こそは話を聞かせてもらおう。まずは仲良くなる為に無難な会話から。
俺はヴォラクに喋ってもらう言葉を耳打ちで教えていく。
それをヴォラクが女の子に伝える。
「O que é o shopping de novo?(また買い物?)」
「Exatamente. Existem anjos.Sim, muito. (そうだよ。お使いがあるから)」
「Por que é que você trabalhou lá?(大変だね。何であそこで働いてんの?)」
ヴォラクが話し終えた瞬間、女の子の表情が曇った。
聞いちゃいけない話だったのかな?そう思ったけど、女の子はすぐに笑顔に戻った。
「Eu quero viver com a minha irmã.(妹と一緒に暮らしたいの)」
「Irmã?(妹?)」
「Sim. Irmã gêmea.(うん。双子のね)」
この子はどうやら双子らしい。ヴォラクに教えてもらってそれがわかった。
一緒に住んでないのかな?何でだろう。
ヴォラクがその理由を聞いて、俺に教えてくれた。
「両親が死んでから、それぞれ里親に引き取られたんだって」
その言葉に返事が出来なかった。
この子は家族が死んでしまったんだ。妹以外。それなのに笑って頑張ってるこの子は強いと思った。
いつの間にか、暗い顔をしていたらしい俺の肩を女の子が叩く。
「Fosso entre países pobres e ricos é feroz. Eu sou como uma criança também.Eu não sou uma coisa rara.(この国は貧富の差が激しい。あたしの様な子供は他にも居る。珍しい事じゃないの)」
笑って励ましてくれる言葉が辛い。
本当は辛いのに笑っているこの子は強い子と思う。
そろそろ行かなくちゃ。そう言った女の子は俺達に手を振る。
「待って!えーっと……You’re name?」
「Alice.What’s you’re name?」
「Takuya」
「Takuya.bye!」
簡単な英語の会話を交えて女の子、アリスは俺達に手を振って歩いて行った。
その光景をただ黙って見てるだけ。
アリスの後姿を見て、光太郎がぽつりと呟いた。
「強いな……あの子」
「うん」
アリスが幸せになれるといいな。
いつか双子の妹と暮らせるようになればいいな。
-アリスside―――――
「Alice. É o nosso marido convidados.(アリス、旦那さまがお呼びだ)」
何とか裏口から入るのに成功したあたしに、使用人の中で一番偉い人が事務的な事を述べて、さっさと歩いて行く。
また始まるのか……
「Roupas de sair mais cedo.(早く服を着て出て行け)」
旦那さまが吐き捨てる様にそう呟いて、あたしの体をベッドから蹴り落とした。
ケホッと咳をしながら、のろのろと服を着るあたしを煩わしそうな目で見ている。
その視線が痛くて、あたしはできるだけ頑張って腕を動かして服を着ていく。
お使いが終わってすぐに部屋に呼び出されてこの様。体中が痛い。喉は枯れてしまっている。何か飲みたい。
何とか服を着て旦那様に頭を下げて、あたしは旦那様の部屋を出た。
部屋を出た先には同い年くらいの少女が立っていた。
ここでできた唯一の友達。その子、フレデリカはあたしにコップに入った水を差しだす。
礼を言って飲んだら少しだけ喉の痛みが治まった気がする。
フレデリカもあたしと同じ。いや、この屋敷の召使いは皆同じ目にあってる。皆それを断れない。自分を引き取ってもらってるから。
誰も旦那様に逆らえない。旦那様は絶対だから。
今日もそうして過ぎていくんだろう。ただ流れるまま、無情に日がすぎて……
そんな中、誰かが叫ぶ声が聞こえた。同じ召使いがいなくなったそうだ。何人目だろうか。
残ってしまったのはあたしと彼女しかいなくなってしまった。
十数人いた召使いはあたし達を残して皆いなくなってしまった。
「Também……(また……)」
震える彼女の手を取って、あたしたちはいなくなってしまったと言う召使いを探す為に屋敷の外に出た。
彼女はすぐに見つかった。
裏庭にバラバラにされた彼女が白目をむいて死んでいる。
一緒にいたフレデリカが悲鳴を上げて、その悲鳴に合わせるように全員がこっちに走ってきた。
執事や専務、シェフ、そして旦那様のご家族もいらっしゃった。
「O que está acontecendo aqui é o quê?(何が起こってるの?ここは)
ガタガタ震えるしかできない状況の彼女を励ましながら抱きしめた。
旦那様の声が聞こえて、これから待ってるであろう自体を予想し、ただあたしはその場に立ち尽くした。
―拓也side―――――
「主、どうやらまたあそこの屋敷で死者が出たそうです」
「はぁ!?」
あれからさらに1時間ぐらいたった時、パイモン達は深刻そうな顔で戻ってきた。
その衝撃的な爆弾発言に思わず俺達は目が丸くなった。
だってさっきアリスと話してから1時間くらいしか経ってないよな!?その短い間にまた殺人が起こったって言うのか!?アリスは無事なのか!?
パイモンに状況説明を求めると、パイモンは自分が知りえた情報を全て教えてくれた。
「先刻、使用人の少女が五体をバラバラにされて裏庭で発見されました。少女の名前はマリン。十数人いた使用人も彼女の死亡で残りが2人になってしまいました。出入りは使用人以外の人間はしていません。なので犯人は屋敷内の人間と断定されました。それでますます疑いがかかるのは……」
「旦那様ってわけか」
「はい。奴は使用人へのわいせつ疑惑もかかっています。警察も無理やりにでも事情聴取をしたいみたいですね」
でも良かった。アリスって訳じゃないんだ。
残った使用人はアリスともう1人しかいない。アリスに危険がどんどん迫ってるんだ。
早く悪魔と契約してるのなら契約者を見つけなきゃいけない。
じゃなきゃアリスが殺されてしまうかもしれない。
結局その日は情報を調べる事も出来ず、家に戻る事にした。
それから毎日の様にブラジルに向かって情報を探したが、屋敷はガードが堅過ぎて近寄る事が出来ない。
調べても情報が集まらない。
そしてその間に1回だけアリスにあった。
アリスは俺達の事を覚えててくれたみたいで、手を振ってくれた。十数分の間だけど会話もした。
アリスは召使いと言っても形式上は養女って事になってるらしい。
だから学校にも行ってるらしいが、学校では養女と言うだけで周りの反応は酷いものらしい。一言でいえばいじめられてるんだろう。
でもアリスはそんな事にはめげないと言った感じだった。
少ないらしいが、召使いの様に働けば給料はもらえるそうだ。それを貯めて妹と一緒に暮らしたいらしい。
アリスが大事に持ってるミサンガはお揃いの物を妹と交換したんだそうだ。
そう語るアリスは幸せそうで、その姿を見ると絶対にアリスだけは巻き込んじゃいけないと感じた。
でも悪魔の情報も全く見つからないし、結局悪魔と契約をしてないのかな?
もうすぐ補習も始まるし、前のように毎回は行けなくなってくる。
さすがに5日間探しても情報が集まらない事態にパイモン達も困ってるようだ。
俺達がいない間にもブラジルに言って情報を探してるようだけど、契約石の問題上、これ以上は無理になったみたいだ。
情報も手に入らないまま、ただ日にちだけが過ぎていく。
「なぁストラス、本当に悪魔が関わってるのか?パイモン達がこれだけ調べて見つけられないってやばくないか?」
『そうですが……しかしパイモン達は未だに怪しんでます。悪魔が関わってないと断定はできないと思いますが』
「本当にー?」
『恐らくですけどね。パイモンがしくじることは余りないですからね』
ふーん。ストラスもパイモンの事を滅茶苦茶評価してる。ストラスがそう言うのなら待ってても大丈夫かな?
そう思ってた矢先、ケータイに電話がかかってきた。電話の相手は澪だった。
電話に出ると、かなり慌てた様子の澪。
『あ、拓也。あのね大変なの』
「どうかしたのか?」
『あたし今マンションにいるんだ。でね、ブラジルの話を聞いてパイモンさんの手伝いをしてたんだけど……あそこのお屋敷がね』
澪はかなり動揺してるのか、言葉が途切れ途切れになってる。
それを落ち着かせながら話を聞くと、その話の内容は恐ろしい物だった。
『屋敷の人間が全員殺されたんだって』
「はっ?」
『使用人も殺されちゃったんだって。フレデリカっていう召使いの子は何とか免れたんだけど、後は全員殺されたってニュースになってる』
「嘘だろ……」
じゃあアリスも死んじゃったって言うのか?
握力が無くなっていく感覚が伝わってくる。だから俺はケータイを握りしめる手を強めた。
でも違ったんだ。
これから待ってる物はそうじゃなかったんだ。
『でね、拓也……仲良くなったんでしょ?アリスって子と……』
「アリスは無事なのか!?」
『あの子の行方が分からないの。警察はアリスが事件の犯人だって追ってるんだって』
は?嘘だろ?アリスが事件の犯人?そんな馬鹿な……
完全に握力が無くなってケータイが床に落ちた。
そのまま呆けてる俺を見て、ストラスが電話に出てる。何やらストラスが澪と話してるようだ。かなり焦った口調で。
その後、電話が切れて焦った様子のストラスが俺に電話の内容を説明した。
『拓也、落ち着いて聞いてください。この事件で生き残った少女フレデリカが警察に白状したようです。屋敷の主人をチェーンソーでバラバラに惨殺しているアリスの姿を目撃したと。そしてその時、隣には羽の生えた野犬の様な者が共にいたと……警察はフレデリカの精神鑑定をしてるようですが、やはりパイモンの言ったとおり悪魔です』
「どんな……」
『悪魔グラシャ=ラボラス。72柱の悪魔の中でも特に残酷で、殺人鬼を擁護する悪魔です。翼の生えた犬の姿をしているので、恐らくそうでしょう』
そんな馬鹿な話ってあるのか?
アリスが俺に笑ってくれた笑顔は偽物なのか?妹と一緒に暮らしたいっていう願いは?頑張るって言ってた言葉は?
何が真実で何が現実かわからない。
ただわかるのは犯人がアリスだったって事。そしてアリスが逃げてるって事。
思わぬ方向に進んだ事態。
ストラスが早く行こうと俺をせかしてるけど、そんな気にもなれない。
だってアリスは、アリスはどうしてこんな事を……何人の人間を殺したんだ?
使用人は十数人いたって言ってた。だとしたら数人単位の問題じゃないいだろう。いつからこんな事してたんだ?数ヶ月前から……
わからない。アリスが分からない。
ストラスに言われるがままマンションに足を運ばせる。
でもどこか感覚がなく、ぼんやりとしていた。
――― 貴方にもわかるでしょ?全てを壊したいくらいの憎しみに駆られた事くらい ―――
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