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第3部
第125話 その想いの行く先は
俺には2つだけ叶えたい願いがある。
1つは最後の審判を防ぐこと。人類の滅亡を防ぐこと。
もう1つはもう一度、君を想う事を許してくれること。

これは我儘な願いなのか?


125 その想いの行く先は


「え、グレモリーって確かシトリーの」
「うん。でだな、できれば今日はお前が来てくれると助かんだけど」

光太郎は少し眉間にしわを寄せ、考え込んでしまった。
学校も終わり、クラスメイト達が続々と教室を出ていく。
中谷も部活に行ってしまい、俺と光太郎、あと数人の生徒たち以外教室には誰もいない。
光太郎は少し考えた後、頷いた。

「しゃーねぇな……わかった、付き合うよ」

いつもなら真っ先にOKを出してくれるはずなのに、そう思い名がら俺は光太郎に問いかけた。

「何か用事でもあるのか?」
「いや用事ってわけではないけどさ、もうすぐ塾もだけど学校でも全国模試あんだろ?いい点とんないとやばいからさ」

あ、そっか。すっかり忘れてたし。俺は模試のために勉強しない人間だからな。
でも光太郎は違う。いい点とんないと親父さんが怖いんだろうなぁ。
それでも来てくれると言う光太郎に感謝しつつ、俺と光太郎はマンションに向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「暗いな」

俺の気持ちを代弁したかのように呟いたのは光太郎。視線の先にはシトリー。
シトリーはテンションが低く、窓をボーッと見ていた。
やっぱ緊張してんだろうなぁ。グレモリーって人に会うのが怖いのかな?

「なぁんかシトリーやばいよねぇ。そんなにグレモリー様に会いたくないのかな?」

固まってた俺達のもとにアイスを食べながらヴォラクが近付いてきた。

「1個よこせよ」
「冷凍庫に入ってるから勝手に取ればぁ。それよりシトリー暗いねぇ」

そうだな。いつもならさっさと行こうだの何だのうるせーくせに。
今日のシトリーは魂が抜けたみたいにボケーっとしてる。
俺はシトリーと同じソファに腰掛けてたストラスに手招きをした。

「ストラス、どうなんだ?」
『何とも……行く気はあるみたいですが、乗り気ではないですね』

そっか……シトリーも辛いんだよな。
数百年間、ずっと片思いをしてるってパイモンに聞かされた時は呆然としてたけど。数百年の時間は半端なく長かっただろう。

その間ずっとずっと片思いをしてたなんて不毛すぎる。

俺だったらきっと諦めちゃってたと思う。でもシトリーは諦めなかったんだよな。今でも想い続けてるんだもん。
そしてその人にやっと会える。嬉しいんだろうけど怖いんだろうな。だって仲が悪くなったってパイモン言ってたし……
ボーっと窓の方を見ているシトリーに話しかける言葉がない。

泣けばいいのに。

そう言ってもこいつは泣かないんだろう。
キモイとかの一言で終わらせちゃうんだろうな。自分の気持ちなんて押し隠して。
シトリーが動く気配がないからかパイモン達も肩をすくめてしまっている。

「拓也、ちょっと……」

セーレが手招きしてる。
俺はストラスを肩に乗っけてセーレの所まで歩いて行った。

「何?」
「ちょっと買い出し付き合ってくんない?」

……この非常時に何言ってんだこいつ。
思わずポカンとしてしまった俺の腕をセーレは掴んで引っ張っていく。

「パイモン、ヴアル、ヴォラクも。ね」
「なぜ俺が」
「ちょっとー何で私がー」
「冗談じゃないよ。セーレの荷物持ちなんてしないかんね」

それぞれ好き放題言ってるがセーレは気にしない。

「光太郎は留守番よろしく」
「え!俺!?」

思わず大声を上げた光太郎にシトリーは軽く視線をこっちにやる。
でも視線はすぐに戻ってしまった。
それを見たパイモンが急に納得したような表情を浮かべた。

「仕方がない……付き合ってやる。ヴォラク、ヴアル来い」
「えーやだやだ」
「俺もやだよ」
「……ついてきたらケーキを買ってやる」
「「行く!!」」

物で釣られてやがる。
ヴォラクとヴアルはウキウキしながら走って玄関を出て行った。それをセーレが慌てて追いかける。
俺の腕はセーレが掴んでるわけで、必然的に俺も追いかける羽目に。
俺達は光太郎とシトリーを残してマンションを出て行った。

『彼には話してくれるでしょうかねぇ?どうもシトリーは内にため込む癖がありますから』
「そんな性格でもない癖に。どうでもいい所にだけ気を遣うんだあいつは」

パイモンとストラスの会話が少しだけ聞こえて、後ろを振り返る。

「あいつは光太郎を最も信頼してる。光太郎になら胸の内を話すだろう」
『シトリーは貴方にも随分心を許しているではありませんか。貴方達は腐れ縁でしょう?なぜ貴方では駄目なのです?』
「あいつは俺に弱みを曝け出したりしない。俺とどうやら対等でありたいようだ。そんな事があるわけないだろうに。馬鹿が」
『相変わらずの言い草ですね』

俺には会話は聞こえないけど、でもパイモンの表情はどこか寂しげだ。

「……不器用だな、俺もあいつも」
『パイモン?』
「あいつを友と自覚してた。弱さを見せるのも恥ずかしい行為ではないと思ってた。でもあいつは違うようだ。それを問いただそうとすれば言い合いになる。俺は駄目な奴だよ」
『……』

パイモンの最後の言葉は聞き取れなかったけど、小さくて……か細い声だった。

―光太郎side―――――
何でこんな状況で1人にされなくちゃいけないんだ。
仕方なく俺はシトリーとは少し離れた椅子に腰かけてケータイをいじる。でもシトリーが気になって画面に集中できない。
ちらりと確認すれば相変わらずため息をついてるシトリー。
何だよ……いつもならウダウダすんなって自分が言ってるくせに。
俺は溜め息をついてケータイをポッケにしまい、シトリーの隣に腰かけた。

「狭くなんだから座んなよ」
「あいっかわらず口だけはっ……」

思わず叩きそうになった拳を沈めて俺はシトリーに話しかける。

「なぁ、別に行きたくねぇんなら行かねぇでいいじゃん」

俺の言葉にシトリーは目を丸くした。
だってそうだろ?お前が無理して行かなくたって他の奴らが何とかしてくれんだろ?
現にお前が居なくたって今まで何とかなってきた事いっぱいあるじゃねぇか。
でもシトリーは不満顔。

「行きたくないとか言ってねぇだろ」
「……そんなに逢いたいのかよ、グレモリーって奴に」

何でそんなに強がる必要があんだよ。
何で知ってるんだとでも言わんばかりのシトリーの顔に、思わず顔を反らしてしまった。

「……パイモンか」
「よくわかったな」
「あいつにしか言ってねぇからな。くそっペラペラ喋りやがって」

悔しがるシトリーを無視して、俺は会話を続ける。

「無理する必要とかあんのか?パイモンの話を聞いた限りじゃ、お前に悪い部分は見つけられないんだけど。なのになんでお前がそんなにヘコヘコするんだよ」

だってそうじゃないか。シトリーがグレモリーを迎えに行けなかったのは仕方がなかったことで、それでグレモリーがシトリーを怒るのはお門違いだと思うし、シトリーだけがこんなに悩んでるのもおかしいと思う。

「あいつは俺に助けを求めてた。それを俺は……」
「そんなのしょうがないだろ?どうしようもなかったんだ。そんなので恨まれるなんておかしいじゃねぇか。ただの逆恨みだろ」
「簡単には整理できねぇもんなんだよ。気持ちなんてもんは」

何だよそれ。結局はそう言って自分が全部悪いって言いたいだけじゃないか。
でもシトリーは小さい声で俺に話しかける。

「誰にでも憎むべき対象は必要だ。今のこの状況を抜け出すために、その状況で平常心を保つためには憎む相手を作らなきゃいけない。そしてその大義名分の下で自分が脱したい状況を綺麗事のように飾っていく。グレモリーもそうだ。その対象がルシファー様であり、俺であり、全ての男という生き物だった」
「だからって……」
「惚れた弱みってよく言うよなぁー。本当にその通りだ」

シトリーは笑う。でも少し悲しそうに。

「結局は惚れたもん負けだ。惚れた奴は一生そいつには敵わない。それだけだよ」

シトリーは馬鹿だ。そんなんで数百年も時を費やすなんて。
もっと他にやるべき事はあったはずだ。なのに何でたった1人の女に全てを賭けるって言うんだ。
そしてそんなシトリーの姿が松本さんにかぶった。
シャネルを殺してしまって防ぎこんでた拓也に会いたいって言ってた松本さんに。

「前、松本さんに言ったことがあんだよな。馬鹿は幸せになれないって」
「はぁ?」
「まんまお前に当てはまるよ。お前は絶対に幸せになれない」

シトリーの目が揺れる。でも俺は目を逸らさなかった。
何とかして、何とかしてグレモリーの事は忘れてほしい。
いや、忘れるべきなんだ。こいつをこんなに悩ませる奴なんて。こんなにいい奴の時間を何百年も浪費させるような女……そんな奴さっさと忘れてしまえばいいんだ。
そうしたらきっと幸せになれるはずだから。

「……お前って意外と冷めてるよな。その持論空しいな」
「空しいって感じるのはお前が理解できてないからだ。馬鹿に幸せなんてこない」

何事もそうだ。
勉強にしても世渡りにしても、馬鹿は幸せになれない。
上手く順応していく奴じゃないと……幸せになんてなれないんだ。

「そんなに頭で切り替えできるようなもんなのか?」
「それは……」

シトリーの言葉に出て行きかけた言葉が詰まる。

「お前だってそれなら馬鹿だろ。幼馴染を庇ってなかったら死にはしなかったのによ。あれこそ馬鹿のやる事だ」

否定できない。それは紛れもない真実だから、でも言いくるめられたら負けだ。

「あぁ、俺は馬鹿だった。だから俺も信二も幸せになれなかった。その教訓だ」
「そんな教訓いらねぇよ。俺は好きにやる」

訳わかんねぇ。人が心配してやってんのに。
段々怒りが湧いてくる。そして俺は声を荒げた。

「だったらいつまでもウジウジしてんじゃねぇよ!!」
「……光太郎」
「何なんだよ!いざ会いに行こうっつったらその態度で、でも行かないでいいっつったら否定して、さっさと気持固めちまえよ!みんな心配してんだぞ!!」
「……」
「そもそも何でお前が謝んだよ!お前は何も悪くねぇじゃねぇか!なのに全部お前のせいみたいになって、その事に対して1つも言い返しもしないで、マジで意味わかんねぇ!」

顔を真っ赤にして怒る俺にシトリーは目を見開いてる。

「俺はお前みたいないい奴をこんなに悩ませてるグレモリーなんて大嫌いだ!お前もさっさと忘れちまえばいいんだ!!」
「……ぶはっ」

ぶはっ?今吹き出したのか?
シトリーは笑うのを堪えて肩を震わせている。

「……あのーシトリーさん?」
「お前、顔真っ赤……あはははは!!」
「ふざけんじゃねー豹男が!!」

何だよそれ……何だよそれ!人が心配してやってんのにそれかい!?
俺の本気の蹴りを喰らってシトリーはソファから転落する。
いつもならここで文句が来そうだけど今日は来ない。少し心配になって覗き込むと、倒れた姿のまんま真顔のシトリー。
はたから見ると不気味な光景だ。

「久しぶりに言われたかも。こんなにマジで怒鳴られたの」
「え?」
「数百年前、パイモンにも同じように怒鳴られた事があった。でもあいつが怒鳴ったのは一度きりだったけど……なんかデジャブだわぁ」
「それは良かったな」

呆れた俺の口調にシトリーはまた笑う。

「……俺は馬鹿だな。気付かないままだったよ」
「は?」
「パイモンもお前みたいに顔を真っ赤にして怒鳴ってきたんだよ。当時の俺とあいつはまだ餓鬼で……マジでビビったんだよなぁ」

少し懐かしそうなシトリーに茶々を入れる事が出来ない。

「……お前みたいにあいつも心配してたんだな。わかりにくかったけど」

シトリーは起き上がってソファに腰掛ける。
その顔はさっきまでとは違う。

「光太郎、話聞けるか?昔話、途中で寝てもいいんだぜ」
「聞くだけならいいけど」

本当は気になってしょうがないけど、あえて興味ないふりをした。
そんな俺をシトリーは笑う。

「グレモリーに会うまではさぁ、俺も大概女好きだったんだよな。色んな女に手ぇ出しては追われて、パイモンやカイムって悪魔のとこにいつも逃げ込んでた。反省なんてサラサラしてなかったし、この性格を直す気もなかった。でもグレモリーを初めて見たとき思ったよ。地獄にもこんな天使のような女が居るんだって。地獄にも美人はいるんだぜ?でもグレモリーは格別だった」
「……パイモンが言ってた。悪魔の中で最も美しいと言っても過言じゃないって」

シトリーは嬉しそうだ。

「マジで命張れると思ったぜ。捨てても惜しくないって……きっとこんなに想える奴は未来永劫こいつしかいないって思った」
「……」
「もうナイトの務めはクビになっちまったけど……でもせめて俺のせいで傷がついたんなら、そこはちゃんと消毒してやんなきゃな。いつかまた大切な奴ができてもいいように」

そんな悲しそうな顔するくらいなら話さなきゃいいのに。
でもこいつにとっては伝えたい事なんだろう。
シトリーは俺に振り返る。

「お前絶対惚れるぜ。半端ねぇ美人だから」
「楽しみにしとく」

その表情は悪戯っ子の様。コロコロ表情変わるんだなぁ。
俺の言葉にシトリーは満足そうに頷いた。

「ふられても仕方ねぇ。もう俺にはあいつ以外にも大切な奴がいるんだしな」

覚悟が決まったんだろうか。シトリーはソファから立ち上がってどこかに行ってしまった。
そして何か小さな箱を持って戻ってきた。
箱の中にはダイヤの指輪。

「これ……」
「グレモリーの契約石はダイヤだ。俺が欠片をくれってしつこく頼んだらくれたんだ。契約石を削るなんて普通に考えたらあり得ないんだけどな。これも返しに行く」
「……そっか」
「ふられたら慰めろよ」
「皆で残念会開いてやるよ」

いらねーと言いながらもシトリーは笑ってる。

「こないだお前がへこんでる時も怒鳴ればよかった」
「やめろよこえぇな」

俺達は軽く笑い合う。
良かった。いつもの通りだ。
拓也達が来るまでもう少し、もう少しだけのんびりしよう。
敢えて拓也にはメールを入れずにソファに深く身を預ける。
もうすぐ来るであろうグレモリーって奴をこの目で見るまで……



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