「嘘だろ……」
『嘘ではありません。恐らくここは私から具現化された地獄の光景です』
ストラスのカミングアウトに目が丸くなる。
ここが地獄……ここが悪魔たちの世界……
119 真実の扉へ
数匹の悪魔が俺達を取り囲んでいく。
動けない。ビビってるってーのもあるけど、俺はここに連れてこられようとしてるんだと思ったら体が固まる。
地獄なんて想像したこともなくて、本当にあるのかすらわからなかった。
その光景が目の前に広がっている。
「冗談キツイ……」
そんな中で、俺たちは数匹の悪魔に囲まれている。
悪魔はジリジリと俺たちに滲みよってくる。
逃げたくても、扉の前に立たれたら逃げる道がない。だからと言って反対方向に逃げるのも危険すぎる。
澪は……澪だけは俺が守らなくちゃ!
剣を手に持ち、悪魔たちを睨みつける。大丈夫。下級の悪魔ならきっと俺だって……
『どうでるか継承者……』
レラジェの声が聞こえた気がした。
そしてその声にはじかれるように悪魔たちが一斉に俺たちに襲いかかった。
俺は片足に重心を掛けて悪魔に剣を振り下ろす。
しかし悪魔はそれを身を捩ることで避け、その体勢のまま俺に牙をむく。
髪の毛が数本宙を舞い、俺は何とかバックステップで体制を整えることに成功した。
「ふぅ……」
「拓也!」
澪に笑いかけ大丈夫だと伝える。
心臓がうるさく音を立て、集中しなければ腰が抜けそうだ。
そんな情けない体に鞭を打ち、俺はまた悪魔たちに向って走り出した。
何か剣に何かを宿せないかな?炎とか雷とか……
俺は剣にイメージを吹き込みながら、悪魔たちに向かっていく。すると俺のイメージを理解したのか、剣が炎に包まれた。
「うお!」
熱いけど、何とか我慢できる熱さだ。しかし剣はメチャクチャ燃えている。
うーん……これで倒せるのかわかんねぇけど、やってみるしかないな。
俺は試しに1匹の悪魔に狙いを定めて剣を振り回す。
まずは斬り込みで相手を避けさせて体勢を崩させた後に、斬り上げで退路を断つ。そんでその後は……斬りおろし!
パイモンに習ったまま、マニュアル通りに悪魔を追い詰めていく。
そして退路を断たれ、体勢を崩した悪魔に俺は斬りおろしをかました。悪魔は逃げられないと悟ったのか、剣を受け止める体制をとる。
しかし剣を受け止めた瞬間、悪魔の体が炎に包まれた。
『ぐぎぎ……ぎゃああぁぁあ!』
断末魔の悲鳴を上げて、まっ黒に焦げた悪魔が地面に倒れ込む。
俺が倒した……
その光景を見た悪魔たちは俺ではなく一斉に澪とストラスに襲いかかった。
「きゃあぁあ!」
『澪!伏せなさい!私が盾になります!!』
ストラスが澪を庇うように前にでる。
やばい!ストラスが!!
「やめろ!!」
俺は思いっきり剣を悪魔に投げつけた。
剣は悪魔の腹に突き刺さり、悪魔はまた炎に包まれて地面に倒れた。
しかし剣を手放した俺を今だと言うように悪魔たちが飛びかかってくる。
『拓也!後ろです!!』
「ちくしょうが!」
指輪が薄く輝きだす。そうか!これで魔法を使えば!
俺は逃げる事なく、悪魔たちを睨みつけた。
「てめぇら皆吹き飛ばしてやるぜ!」
俺が叫んだ瞬間、指輪から大量の風が吹き荒れた。
悪魔たちは風に吹き飛ばされて、木や岩に体をぶつける。
「きゃあぁああ!」
『この中に入りなさい!安全です!』
ストラスはいつの間に描いたのか、何かの魔方陣の中に澪を入れる。
指輪は悪魔の息の根が止まるまで風を作り出していた。
指輪の光が収まり、風が止んだころには辺りはぼろぼろになっていた。
悪魔たちはみんな死んでるし、木は倒れ、岩は傷が付いていた。
「これを俺が……」
途端に自分がしたことに恐ろしさを感じる。
悪魔と言えど殺した。何も考えられなかった。ただがむしゃらに戦った。
座り込んでしまった俺に澪が走り寄ってきた。
「拓也!大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫だけど……」
めちゃくちゃになった辺りを見ると、本当に自分がやったのかと思ってしまう。
そんな俺にストラスが驚きを隠せないというような顔をしている。
『拓也、貴方いつの間にこのように強く……?』
確かに。いくら下級の悪魔と言っても5匹に一気に襲いかかられて倒せるなんて俺もストラスも思ってなかった。
何とかして逃げ切れればと思ってたくらいだ。
頭が妙にクリアだった。逆に冷静になってた。
「わからない。体が勝手に動いたような感じだった」
『とりあえず進みましょう。ここにはあまりいたくありません』
そうだよな。
ストラスは器用に扉を開け、俺たちを待っている
俺と澪はその後を慌てて追いかけた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『これは予想外』
椅子に腰かけ、継承者たちの様子を見てたけど中々上手くいかないもんだ。
あいつはあそこで始末するつもりだったんだけどな。
だからあそこには俺が召喚できる下級の悪魔の中でも特に強い奴をやったつもりだ。
あいつらが全く歯が立たないとなると、俺も少々気合いを入れなければならなくなりそうだ。
『……継承者は指輪を手に入れて1年近くになるか』
まだ少し早い気もするが、でもあの戦い方は今までの継承者とは違う気がした。
少しずつ、少しずつ力をつけ始めている。
『おもしれぇじゃねぇか……』
―光太郎side――――――
「……」
うほっうほっ
「…………」
うほっうほっ
隣には一緒にうほうほ言ってる中谷。
マジでうほうほじゃねぇし。これどうすんの?
どうやら俺たちはキングン●ングの世界に来たみたいだ。目の前でうほうほ言ってるこの巨大なゴリラを見ればわかるように。
しかもこのゴリラ、俺たちを放してくれない。離れようとすると怒るのだ。
「中谷、早く行こうぜ」
「そうだけどさぁ。どうやって?」
「適当にどっかのドアから」
「ここジャングルだし」
そう。ジャングルなのだ。
ジャングルのどっかの扉から出て俺たちがゴリラに連れてこられてしまった。
つまりこの場所がどこかわからない。
「俺は行くぞ」
「もう?」
「もうじゃねぇよ。早く見つけないと」
俺はソローっとゴリラから離れて、近くの洞窟に入ろうとする。
中谷も俺の後をそろっと付いてくる。
うほっ
ビクッ!
嫌な空気が俺たちを包み込む。
恐る恐る振り返ると、暗闇の中に光るゴリラの目。
「「ぎゃああぁぁぁあああ!!!」」
俺と中谷は悲鳴を上げ、慌てて洞窟の中に逃げ込む。
ゴリラももちろん俺たちを追ってくる。
何でこんなことになるんだよ!早く拓也のとこに!早く早く!!
洞窟の出口が見えて、俺と中谷は全速力で出口に向かって足を動かした。
―拓也side―――――
ストラスが明けたドアの先は空間が歪んでいる。
俺はその中に一歩踏み出そうとした……のだが。
「ぐふ!」
突然何かがドアから出てきて俺に衝突してきたせいで、俺は奇声をあげて、その場に尻もちをついた。
俺にぶつかった何かも俺の上に覆いかぶさる。
これってまさか……
「ぎゃあぁああ!悪魔が俺に!」
「ごごご、ゴリラは?ゴリラは!?」
は、ゴリラ?俺にゴリラがのっかってるって言うのか!?
恐る恐る目をあけると、そこには光太郎と中谷が扉を凝視していた。
「中谷!光太郎!何でここに!?」
「た、拓也!やっと見つけた!」
光太郎は俺に抱きついて大声で喚きだす。
「もうドラ●もんの世界に行ったり、アナコンダの世界に行ったり、イチローに会ったり、ゴリラに好かれたり大変だったんだぞコノヤロー!」
「分かったから何でここに!?ここ一応俺ん家だぞ!」
「シトリーが拓也を助けに行けって。それで来たんだけど予想外だったよ」
それでか。巻き込むまいとしてたけど、シトリーが連絡したのか。
とりあえず俺たちは状況を整理する。
どうやったらレラジェのいる世界に行けるのか、どうやったら帰れるのか。
「これ俺の勘なんだけどさ、この1週間以内くらいですっげー印象的だった光景が浮かんでんだよね」
光太郎の言葉で今までの世界を頭に浮かべてみると確かにそうかもしれない。
ワンピースとかナルトとか続きがメチャクチャ気になってしょうがなかったし。
『確かにそうかもしれません。私たちの特に心に残っている出来事が具現化されているのでしょうね』
「それとな。扉を開いた奴の世界に飛んじゃうんだよな」
そうなのか。でも確かに……今までそうだった気はする。だとしたら
「ストラスがレラジェの事めっちゃ考えてストラスが扉を開ければ行けるんじゃね?」
『しかしその為にはレラジェのいる世界を創造しなければなりません。それは中々……』
「ストラス?」
ストラスは断ったと思ったら急に何かを考えだした。
『そうか。なぜ私は思いつかなかったのか』
「え?」
『できるかもしれません。彼が今いる世界。おそらく地獄のどこかです』
「どういう事?」
『この世界は記憶から作られた世界。すなわちレラジェは自分が今一番記憶に残っている場所にいる可能性が高い。その場所となると恐らく地獄の中の彼の住んでいる場所でしょう』
「じゃあ行けそうか?」
『わかりません。しかし私に賭けてください』
ストラスの言葉に俺たちは一斉に頷いて、それぞれ武器をぎゅっと握る。
俺は剣を、光太郎は竹刀を、中谷はバットを、澪はクイックルワイパー(笑)を。
ぶっちゃけ俺と光太郎以外の物は使い方を間違ってる。
そしてレラジェの居場所を創造するストラスに俺たちは賭けてみた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ダンダリオン様の力に順応したか』
奴の言うとおり。今俺のいる場所は地獄での俺の家。
この場所でザガンやフォカロル、アンドラスといつも遊んでいた。
その中の自分専用の椅子に俺は深く身体を預ける。
『このままだとこの場所にたどり着くな』
余計なオプションも一緒に。
俺は愛用の巨大な弓を抱きかかえ、継承者たちが来るのをただ待つだけ。
『まぁいいぜ。面白いもんも見れたしな』
俺のテストは合格だ。後は奴を地獄に連れていくだけ。全てそれで終わるんだ。
そしてその後は審判が始まって、そうしたら……
『今度こそ俺たちの世界だ』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ストラスがずっと目を閉じていたかと思うと、ゆっくりと目を開けた。
「行けるのか?」
『えぇ。私のできる限りの創造をしました。行けなければ申し訳ない』
「そしたらやり直せばいいよ」
俺はストラスを肩に乗せて扉の前に立つ。
この先にレラジェが……ストラスはあいつのことをかなり強いと言ってた。
そんな奴に俺は勝てるのか?
「大丈夫だぜ池上」
「中谷」
中谷は俺の肩を軽く叩く。
「1対4だしな。袋叩きにしてやろうぜ!俺はケツバットをかましてやるぜ!」
「なんじゃそりゃ」
中谷はふざけた口調でバットをスイングして見せる。そしてそれに突っ込む光太郎。
でも俺の緊張は少しだけほぐれていく。
そしてストラスはドアを羽で開けた。
「ここ……」
扉をくぐった先はどこかの家の中だった。
乱雑に散らかった部屋の中には何かの骨がいくつか落ちている。
「これ本物かよ」
中谷が骨を人差指でつついている。
俺たちはその先をゆっくり進んでいく。
蝋燭の光が辺りを不気味に照らす中、いくつかの椅子が並んでいる。
そしてその中で巨大な弓を抱きかかえて座っているレラジェが…
「レラジェ……」
『まさか辿り着くとは思わなかったぜ。俺の試験は合格とだけ言っとこうか』
こいつを倒せば父さんを……
俺は剣をレラジェに向ける。
「早く解毒剤をよこせ」
『それは俺を倒してからっつっただろ。今からが本番なんだよ』
レラジェはゆっくり立ち上がり、俺に人差指を向ける。
俺は思わず構えたけど、レラジェは戦うわけではなさそうだ。
『見てみるか?お前の愛しのパパの様子をな』
「はぁ!?」
レラジェが指さした先に家の映像が映し出された。
父さんは矢で射ぬかれた場所から少し上をハンカチで縛りつけて苦しそうに息を吐いている。
その場所は紫色に変色している。
「貴方、大丈夫?」
「なんとかな……っ」
「ぱぱー頑張って!兄ちゃんがもうすぐ絶対に戻ってくるから!」
父さん、かなりきつそうだ。急がないと。
そんな光景をレラジェはおかしそうに笑った。
『うひゃひゃ!残念だけど兄ちゃんは二度と戻ってこれないんだよねぇ!可哀想だけどなぁ!!』
「ふざけんな!よくも父さんを!」
光太郎も中谷も澪もレラジェに武器を構える。
しかしレラジェは笑っていた表情を変えた。
『なぁにが“よくも父さんを”だよ。それじゃ俺もよくもザガンをって言いてぇよ』
「……っ」
『この家はな、俺達4人が遊んでた家だ。可哀そうなザガン。あんなに怪我をして……治るまでにかなりの時間がかかるだろうなぁ。ましてや天使から受けた傷だ』
「それはあいつが!」
『自分が他人を傷つけるのは良くて、悪魔だとダメなのか?それはただのエゴだ。てめぇは正義じゃねぇ』
レラジェは弓を構えて、矢をセットする。
その目はまっすぐ俺たちを見据えている。
『ザガンの仇は俺がとる』
無駄に人間くさいところを見せられて少し焦ってしまう。
もっと冷酷な奴じゃないと、悪い奴だと思えないじゃないか。
友達の仇を取る。そんなこと言われたら自分が悪いみたいじゃないか。
でもこいつが俺の父さんをあんな目にあわせたのは確かだ。それを俺は許すわけにはいかない。
何が何でもこいつを倒さなきゃ……
こいつを倒して父さんを元に戻したら、次はダンダリオンとハルファスって奴らだ。ここで躓く訳にはいかない。
俺は深く深呼吸をして、狙いを定めるレラジェにゆっくりと近づいた。
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