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序章
第10話 空中戦
一瞬のうちに見えない壁が俺たちを包み込む。

『結界カ。コノ程度デ私ヲ閉ジ込メタツモリカ』


10 空中戦


『拓也、マルファスがこの結界破る可能性もあるからできるだけ短期戦で行くよ』

当たり前だ。こんな怖いのと長期戦なぞやれるか!
森岡はエマを抱きかかえ怯えきっている。
俺は森岡を庇うように森岡の前に立った。

『ソノ指輪……ホウ、貴方ガ継承者ダッタノデスカ。先刻カラ私ノコトヲ嗅ギ回ル輩ガイルト思ッテイタラ……トナルト、ヴォラクトストラスハ貴方ト契約シタノデスネ』
「だったら何なんだよ」
『フン。セイゼイ私ヲ楽シマセテ下サイ』

そういった瞬間マルファスは風を纏い空中に飛び立った。

『フォモス!ディモス!行くよ!』

ヴォラクがそう叫んだ瞬間、2つの頭を持ったドラゴンが姿を現した。
ヴォラクはフォモスの頭に乗り、ドラゴンはマルファスの後を追い空中へ飛び立った。
森岡は信じられないという顔をし、空を見上げている。

「な、何がどうなってんだ?」
『拓也!私もヴォラクの後を追います。地上は宜しく頼みますよ』
「お、おう!」

ストラスも羽を広げ空中に飛んでいった。

「いつ攻撃してくるかわかんないってことか」
「できるだけ固まってたほうがよさそうだな」

俺たちは4人固まり辺りを見回した。
空を見上げるとフォモスとディモスが炎を吐いているのが見える。
しかしマルファスはフォモスとディモスに比べると小さいので姿が確認できない。

「戦局はどうなってんだ?」
「押されてんのか?……なんか向かってきてねえか?」

『拓也!避けて!!』

空にはこちらをめがけて猛突進してくるマルファスの姿。
はぁ!?なんでこっち来んだよ!!
俺たちは慌ててその場から離れた。しかしマルファスの狙いは俺じゃなかった。

「うわああああぁぁあああ!!!」

マルファスは森岡を咥えると空中に飛び去ってしまった。

「森岡!しまった!」
『ちっ!フォモスとディモス使えないな』

そうだ。フォモスとディモスは1つ1つの攻撃がデカイ。
マルファスのような小さい(カラスにしてはでかいが、恐竜並みのデカさを誇るドラゴンにとっちゃ小さい)敵を捕らえるの自体大変なのに、人質まで取られたら……

『どうやらヴォラクの動きを封じるためですね』

ストラスが降りてきて俺の肩に止まった。

「ストラス?」
『フォモスとディモスの破壊力は悪魔の中でも群を抜いています。故にマルファスにとっては障害になるのはヴォラクだけなのです』
「くそっ!きたねーぞ!!」

中谷はマルファスに向かって石を投げつけようとした。

「よせって!森岡に当たったらどうすんだ!」
「あ……くそ!」

中谷は悔しそうに地団太を踏んだ。

『せこいことするね……拓也』
「どうしたヴォラク」
『ディモスに乗って』
「へ?」
『グダグダ言ってないで早く乗って!焼かれたいの!?』

ひいぃ!!怒ってる!なんでなんで!?
ヴォラクは俺が乗れるようにディモスにしゃがむように命令した。
ディモスは俺を乗せるのが嫌なのか一瞬しぶったが仕方なく頭を地面に降ろした。

『拓也、早く乗ってよ。あいつに逃げられちゃう』

ヴォラク……目がマジですよ。なんか今逆らったら本気で殺される気がしてきた。
乗るのも死ぬほど嫌だけど、嫌だけど、嫌だけど!!!
俺は恐る恐るディモスの体に触れた。

『拓也、頬の辺りに足を置いたら踏み台にできるから。そこから頭に乗って。あと角をちゃんと持っててね。じゃなきゃ振り落とされるから』

言われなくても持つよ!!死んでもはなさねーよ!!!!!!!
俺は半ばしがみつくようにディモスの角を持った。横目でヴォラクを見るとヴォラクは右手に剣を持ち、角は片手でおさえてた。
慣れたらあんなになるのか?めっちゃ怖くないか?
ディモスは俺が乗ったことを確認すると顔を上げた。(ひいい!こわい!)

「拓也!頑張れよ!」

やばい!中谷と光太郎がマジで小さく見える!
ストラスなんかもう豆粒だぜ!!

『行くよ!フォモス!ディモス!!』
「のわ!!」

ヴォラクがそういうとフォモスとディモスが羽を広げ飛び上がった。
ていうか衝撃が半端じゃねえ!!すっごい風くるし!マジで飛ばされる!!
ぎゃああああ!!!下見たらマジ怖い!家小さい!ていうか寒い!風強い!

『拓也パニくりすぎ』

普通の人間はドラゴンに乗る機会なんて一生ないんだよ?
とにかく俺は吹き飛ばされないように必死でディモスにしがみつく。

『拓也、マルファス狙ってよ』
「へ?俺に?」
『他に誰がいんの?魔法を頼って拓也をディモスに乗せたんだから』

やめてえええええええええええぇえぇぇぇぇぇええぇえ!!!!!
本気で怖い!!この状況じゃ無理!ていうか魔法自体無理!!

『拓也、こないだやったみたいに念じてよ。そしたら魔法が発動されるから』
「え!?え!?え!?」

とりあえずヴォラクに言われたとおり念じてみる。
こいつを倒したい。森岡を助けたい。はやくディモスから降りたい。澪にあいたい(泣)

しーん……

発動しねーじゃねーか!!!!!!?
焦ってわたわたしてる俺にヴォラクは冷ややかに視線を送っている。

『どうやら自分に危険が迫んないと発動できないみたいだね』

危険迫ってるよ!!発動しろよこのやろー!この状況で誰がのんびりしてるって言うんだ!
半泣きで指輪に文句を付けていると、ヴォラクが大きな声を出した。

『拓也!伏せて!』
「え?」

目の前には剣を抱えているマルファス。森岡は完全に気絶してる。俺も気ぃ失いてー……

『貴方タチニハガッカリデスヨ。指輪ノ継承者ナノニ魔法ノヒトツモ使エナイトハ……相手ハヴォラクダケデスカ。コノ少年ハモウ用無シデスネ』
「まさか……やめろ!!」

マルファスは口に咥えていた森岡をそのまま落とした。
森岡は真っ逆さまに落ちていく。
俺が必死になって叫ぶと、また指輪がまぶしく輝き始めた。

「また!今度は何だよ!?」

指輪が光った瞬間、森岡の体が光に包まれた。
中谷は光に包まれて、まるでラピュタの女の子みたいにゆっくりと下に落ちていった。

「な、何だこれ……」
『コレガ指輪ノ力……』
『攻守揃ってんのね』

ヴォラクは感心したように呟いた。
俺は未だになにがなんだかわからずに指輪をただ見ていた。本当にまた俺がやったのか?

『さぁ〜拓也!今度はこいつにかましちゃって!』

え!!!?

『拓也』
「だ、だって今のも無我夢中で!」
『ドウヤラソノ指輪、使イコナシテハイナイヨウデスネ』

そうです。そのとおりです。

『ククク……デハ八ツ裂キニシテ差シ上ゲマショウ』
『馬鹿拓也。つかえねー』

ヴォラク!そんなひどい!!俺今めちゃくちゃ頑張ったじゃん!
そんな俺を放置してヴォラクはフォモスの頭を優しく撫でた。

『拓也、フォモスとディモス頼むよ。お前たちも拓也の言うこと聞くんだよ』
「ヴォラク、どうしたんだ?」
『拓也が当てになんないから俺が行くしか無いじゃん』

そう言った途端ヴォラクは羽を広げフォモスから飛び去った。
その羽、飾りじゃなかったんだな。ていうか

「嫌だあああああああああ!!!!!こんな状況で1人は嫌だああああああああ!!!!」

俺はディモスの頭で絶叫した。
フォモスがうるせーんだよ。とでも言うように俺を睨み付けてきたけどそんなの気にしない。
今は生き残るほうが大切だよ!!!

「フォモス!ディモス!とにかく下に降ろしてくれ!!なぁ頼む!」

俺は必死でフォモスとディモスに下に下りるように命令した。
目の前ではヴォラクとマルファスが剣を向け合っている。
ひいい!!こりゃハリウッドも顔負けだよ〜……ていうかフォモスとディモスは俺のこと無視かい!!?

「なんで言うこと聞かないんだよ!?フォモス!ディモス!」
『貴殿は主を売る気か!』
「え……お前、今しゃべ……」
『言葉を紡ぐ事くらい容易なこと。主の許可が下りなかったからだけだ』
「主って」
『貴殿は我らが主ヴォラク様をマルファスに売るつもりか!?貴殿は指輪の継承者でありながら常に戦いから逃げ、ヴォラク様に戦わせている!見えなんだか?ヴォラク様のあの姿を!』

ヴォラクをよく見ると所々に切られた跡がある。
俺のせい?俺が魔法を使えないから?

“拓也が当てになんないから俺が行くしか無いじゃん。”

俺のせいであいつが昨日みた人間みたいに動かなくなるかもしれないのか?
そんな嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
俺は思わずディモスにすがりついた。

「どうすればいい?だって本当に魔法なんて使えないんだよ……」
『貴殿はそう思ってるから発動できないのです』
「そう思ってるから?」
『少なくとも私に背中を傷つけられた時、先ほど森岡という少年を助けた時、貴殿は一瞬でも指輪に頼ろうと思ったでしょう?』

そうだ。また指輪がなんとかしてくれるって……あ……がむしゃらに思った時だ。
死にたくない。なんとしても助かりたい。そう思って無我夢中に指輪に祈った。
また助けてくれるように……

『貴殿は普段、魔法など使えるはずがない、心の片隅でそう思っていたのでしょう。だから発動できなかった。だがあの時は何に縋ってでも助かればいいと思った…それが魔法の発動につながるのです』

じゃあこの指輪は魔法を使える。そう思って念じればいいってことなのか?
俺はヴォラクに向かって手を掲げた。

「頼む!ヴォラクを助けてくれ!!お願いだ!!」

今度は信じるから!この指輪は本物だって!!
指輪から光が漏れた。
その光はヴォラクを包み込んだ。

『拓也の力?これが壁になってくれるって訳か……』

ヴォラクは光を纏ってマルファスに攻撃を仕掛けた。

『何度来テモ無駄ダ。オ前デハ私ニ勝テナイ』
『やってみなきゃわかんないじゃん?』

ヴォラクとマルファスは再び剣を合わせる。剣と剣がなり合う音が響く。
ヴォラクを包み込んだ光はマルファスの攻撃を受けとめてくれている。

『クッ……邪魔ナ光ダナ!』

マルファスは悔しそうにヴォラクからいったん離れた。

『ドウヤラ彼ガ指輪ノ継承者デアルコトニ偽リハナイミタイダナ』
『まさか……おい!やめろ!!』

マルファスは急に俺のほうを向いてきた。

『邪魔ナ継承者メ……勝負ニ割リ込ンデクルトハナ』
「冗談……フォモス!ディモス!避けてくれぇ!!」

マルファスはこっちを睨んできたと思ったらそのまま飛びかかってきた。
フォモスとディモスはギリギリのところでマルファスの攻撃から逃れた。
しかしマルファスはどんどんこちらに迫ってくる。

『拓也!!受け取れ!!』
「!?……ぎゃあああ!!」

ヴォラクは俺めがけてなんと剣を投げてきた。
俺は間一髪のところで頭を伏せてそれを避けた。

『な!ば、ばか!避けてどうすんだよ!?折角貸してやったのに!』
「ふざけんな――!普通、剣がこっち向かって飛んできたら誰だって避けるに決まってんじゃねーか!!」
『拓也殿!マルファスの動きが早い!間に合わん!!』
「ええええぇぇえぇぇえええぇえぇぇぇぇええ!?そこをなんとかしてくれよ!」
『そう申されても……!』

フォモスとディモスのスピードに俺は振り落とされまいと必死にしがみついた。
マジで風強い!これやばいって!
後ろを振り向くとマルファスがこちらに向かってきている。
やばい!はるかにアイツの方がスピード速いじゃん!マジでヤバいヤバいヤバい――――――――!!!
俺はもう一回指輪に向かって祈った。

「頼む!なんでもいいから助けてくれよ―――!!」

しーん……

発動しねーのかよ!!!?
俺、今回はちゃんと祈ったよ!?めちゃくちゃ真剣に祈ったのに!!役立たず!使えねー!馬鹿やろー!!
俺が指輪に文句をつけている間にもマルファスはどんどん迫ってきている。

『ぐうう!!』
「フォモス!?ディモス!?」

急にフォモスとディモスのスピードが落ちた。

『どうやら翼を斬りつけられたようだ!』
「なぁ!?」

マルファスは俊敏にフォモスとディモスの間をくぐるように飛行している。

「あのやろー!」

調子に乗りやがってえええぇぇぇぇ!!!
マルファスはまるで遊んでいるかのように俺の目の前を飛びまわった。
完全に舐められてる。ていうかヤバい、かなりヤバい。フォモスとディモスは翼が痛むのかどんどんスピードが落ちていく。
早くなんとかしないとマジで……身の毛がよだつ。全身の血が凍っていくような感じがした。

―光太郎side―――――
「どうなってんだ?」

何が何だかわからない。森岡はゆっくり落ちてきたし、ストラスはそれは拓也の魔法とか言い出すし、俺は目を細くしながら上空を見上げた。
しかし見えるのはフォモスとディモスのみ。どうなっているのかまでは確認できない。

「あれ?なんか落ちてくる?」

中谷の言葉に全員が空を見上げた。

『あれは……ヴォラクの剣!』
「え?っていうか剣が落ちてきてんの―――――――――!!?」

中谷と光太郎は慌ててその場から離れた。

ドスッ!!

「突き刺さった……」
『中谷!受け止めてくれたっていいんじゃないの?』
「ヴォラク!」

中谷が顔を上げるとヴォラクが不機嫌そうに降りてきた。

「無茶言うなよ…落ちてくる剣を受け止めるなんて普通の人間には不可能だ」
『なんかさっき同じようなこと拓也にも言われたよ』
『そういえば拓也はどうなったのです?』

ヴォラクは剣を抜き翼を広げた。

『マルファスに狙われてる。フォモスとディモスもやられちゃったし……かなりやばい感じ』
『なんと……勝算は?』
『なんともね。だいたい拓也逃げてばっかなんだもん。あれじゃあどうしようもないよ。それに……』

ヴォラクは空を見上げた。

『ヴォラク?』
『マルファスの奴、結界を破ろうとしてる。一回結界を張り直さないとな』

ヴォラクはそのまま空中に向かって飛び立った。
俺と中谷は空を見上げた。

―拓也side―――――
「わわわわわ!!」

マルファスの猛攻を食らったフォモスとディモスは苦しそうになりながらも必死に攻撃をかわしていた。
しかしマルファスはあざ笑うかのようにフォモスとディモスの間をすり抜け、少しずつ、少しずつ傷を与えていく。なんて陰険なヤローだ!
かといって俺が出てきたところでぶっちゃけ何も役に立たない。
ヴォラクー早く助けてくれー……そろそろ本格的に酔いも回ってきた。
こんだけ空中を飛びまわってたら気分も悪くなるもんだ。絶叫系のアトラクションだってこんなにひどくゆれないよ。
俺はぜーぜーいいながら(何もしてないけど)ディモスの角にしがみついた。

『拓也殿?いかがした!?』
「ごめん。乗り物酔い……」
『なんということだ……』

『拓也!!』

吐くから下は見たくなかったけど、俺は恐る恐る下を見た。
するとヴォラクはフォモスの頬につかまりそのまま頭に登った。

『拓也大丈夫?なんか顔真っ青だよ?』
「乗り物酔い」
『……本当に緊張感ないよね』

頼むから話しかけないでくれ。
ヴォラクはため息をつき俺にまた剣を向けてきた。

『はい。今度は投げてないから受け取れるでしょ?』

またですか―――――――――――――――!!!!!??

「嫌だよ!マジで怖いし!それに俺は包丁だって調理実習以外で持ったこともないんだぞ!?そんなもん持てるか!!ていうかなんでお前やってくんないんだよ!?」
『上見てみ。まぁ周りでもいいけど』
「え?」

俺は酔いを耐えながら周りを見回した。

「空にひびが入ってる……?」
『マルファスが結界を破ろうとしてる。一回張り替えないとこの結界、破られるかもしんない』
「な!じゃあ結界なくなったら……!」
『まぁ地上から俺たちの姿は見えなくてもフォモスとディモスの姿は余裕で見えるね』

そんなことなったら街中大パニックだろ!っていうか未確認飛行物体に入れられる!!

『だから俺は結界を上から重ねなきゃいけないから戦えないの。それにマルファスは拓也狙ってんだよ。自分の身ぐらい自分で守ってよね』
「ちょ!主を見捨てんのかよ!?」

するとヴォラクが俺を睨みつけてきた。

『拓也!少しは継承者としての自覚を持ちな!マルファス以上に危険な悪魔なんてまだまだいるんだよ!俺やストラスだっていつも助けれるわけじゃないんだからね!』
「なっ……元はと言えばお前達が……『そうやって俺たちのせいにすんのかよ!?』

なんで俺が怒られなきゃいけないわけ?理不尽な怒りが体中にこみあげる。
俺はなんで自分がこんなにキレられるのかがわからなく、怒りをそのままヴォラクにぶつけた。

「なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!もう嫌だ!!こんなのもううんざりだ!なんなんだよ!?」
『……勝手にしな』

俺はそのままディモスにしがみついた。
ヴォラクは俺に冷たく言葉を吐き捨ててそのまま空中に飛び立ってしまう。
俺は顔も上げず何も言わず、ただディモスにしがみついていた。

『拓也殿、いかがいたす?マルファスはまたこちらに向かってきているが……』
「もうここで死ぬのかな?」
『拓也殿!?』

なんで俺こんなこと言ってんだろ……本当は戦わなきゃいけないってわかってるのに、ヴォラクにも見捨てられたし、指輪は使えないし……

「うぅうう〜死にたくない〜……まだ生きてたい〜……」

俺は往生際が悪くディモスにまた縋りついた。
ディモスは軽くため息をつきヴォラクを見つめた。
ヴォラクは結界を重ねるために呪文かなにかを詠唱していた。

『やはり主に剣を借りたほうが……このままでは我らももう』

俺はハッとしてフォモスとディモスを見た。
フォモスとディモスは所々に切り傷があり、息も荒かった。

「……ごめんな」

俺はあらためて自分の不甲斐無さを痛感し、ヴォラクに向かって大声を張り上げた。

「ヴォラク――――――――!剣貸してくれ―――――!!」
『ようやく言ったか』

ヴォラクは満足したかのようにフォモスとディモスに向かって飛んできた。
マルファスは俺の姿を見てあざ笑ったがそんなのもう気にしない。

『今度は失敗しないでよ』

俺はヴォラクから剣を受け取った。本物だよな……?ていうか重い、怖い。
俺はズシリと重い剣を持ち上げ、フォモスとディモスに命じた。

「頼む……」
『御意』

フォモスとディモスはマルファスを睨みつけた。

『フン。今更ソノ人間ガ何ヲデキル?継承者ノ身デアリナガラ戦イカラ逃ゲ回ル……ソノヨウナ腰抜ケニ』
「その腰抜けにお前は負けるんだよ」
『気ニ食ワナイ』

俺は震える手で剣をマルファスの顔面に向けた。
マルファスはこちらに向かって急突進してきた。

『我らが力、身を持って受けるがいい!!』
『正攻法シカデキナイ芸ノナイ奴ラメ!息ノ根ヲ止メテクレル!』

フォモスが口から炎を吐きだす。
マルファスは炎を軽々と避け、一目散にこっちに向かってくる。
俺はなんとか剣を構えた。

『拓也殿!捕まっておられよ!』
「え?のわ!!」

ディモスが第2段の炎をマルファスに吐きだした。
マルファスはそれすらもかわし、俺に向かって剣を振り下ろしてきた。
『小賢シイ!』
「うわああ!!!」

俺は慌てて剣を立てた。目の前で剣がすれる。刃がギリギリなっている。
こわいこわいこわい!!!
しかもマルファスの力は予想以上に強い。どんどん剣が俺の顔に近づいてくる。
俺も精いっぱい押し返すが全く剣は前に進まない。

『剣ノ腕ハ初心者カ……ソレデ私ニ歯向カッテクルトハ愚カナ……』
「ぎゃああああ!!!」

マルファスは一瞬で剣を構え直し、また振り下ろしてきた。
俺はディモスに頭まで伏せてしがみつくことでその攻撃をかわした後に恐怖のあまり半泣き状態になり叫んだ。

「もうやだ、もうやだ〜〜〜」
『泣キゴトヲ申スカ!継承者ヨ!!』

マルファスはまたこちらに向かってくる。ヴォラクはまだ詠唱をしている。
でもこっちが気になるのかなかなか集中できないみたいだ。
俺は半泣き状態になりながらも剣を構えた。

「ひ!また来た!」
『今度ハ逃サン!!』
「うわあああ!!」

マルファスはそのままこちらにスピードを上げて向かってきた。
俺はなんとかその攻撃を受け止める。
しかし加速をつけて向かってきたマルファスの力強さはさっきまでとはダンチだった。
俺はそのまま体勢を崩す。

『モラッタ!』

マルファスの剣が目の前で振り下ろされる。
俺は恐怖のあまり身を引いた。

「うわああぁあぁぁああ!!!」

俺は攻撃を避けようと身を引いた瞬間、バランスを崩しディモスから転落した。
まっさかさまに落ちていく。
フォモスとディモスの声が遠くに聞こえる。
ていうか俺落ちてる!このままじゃ真っ赤なトマトになる!!

『逃ガスカ!』

マルファスも俺を追って急降下してくる。
俺は半ばパニック状態になって指輪に祈った。

「頼む!頼む!助けてくれ!!お願いだ!!」

しかし指輪からはなんの反応もない。そんな……こんな時になんで!?このままじゃ本当に……!
マルファスは俺との距離をぐんぐん縮めてくる。このままじゃ!!
その時ヴォラクがマルファスに体当たりした。

『ヴォラク……!貴様!!』

マルファスはヴォラクに向かって斬りかかる。
しかしヴォラクの剣は俺が持ってる。ヴォラクは丸腰な訳で、完全に防戦一方だった。

『ぐっ!!』
『トドメダ!!』

マルファスの剣がヴォラクの腹に食い込んだ。

『くっそ……』
「ヴォラク!」

ヴォラクはマルファスに斬りつけられ気を失ったのかそのまま地面に落ちていく。

『ヤット邪魔者ガ消エタカ……次ハ継承者、貴様ノ番ダ』

俺は自分が落ちているのにも関わらずなんとかヴォラクを掴もうと腕を伸ばした。
しかし手が届かない。ヴォラクも傷が深いのか完全に気を失ってる。
そんな、こんな……こんなことで死にたくなんか、死にたくなんかないのに!こんな奴にやられたくなんかないのに!!!

『力が欲しいんだろ?貸してやるよ継承者』

なんだ今声が……?
その声が聞こえた瞬間指輪から炎が漏れた。そしてその炎はヴォラクの剣を覆った。

「なっなんなんだよ!これ!!」
『こいつを倒したいんだろ?願え。さしたら俺の力、今ひと時お前に貸してやる』
「な、なんだよ……力ってそんな……」

俺はパニックになり下を振り返った。
地面はすぐそこに迫っている。光太郎と中谷と森岡の姿も確認できる。
そして上を振り向くと俺をめがけてマルファスが剣を持ってこっちに向かってくる。
俺は半ばやけくそになって大声で叫んだ。

「頼む!もう何でもいい!!あいつを倒してヴォラクを助けてくれ!!!」
『わが主の願い、しかと聞きとめた。俺の力、存分に使いな』

その瞬間、俺の体は炎に包まれた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也?拓也が落ちてきてんのか!?」

光太郎は上を見上げ信じられないと言う顔をした。

「あいつ……エマを殺した奴も一緒にこっちにくる」
「ヴォラクもこっちに落ちてくるぞ!」

中谷と森岡も突然の光景に驚きを隠せない。

『これは!なんとしても受け止めなければ!』
「受け止めるっつったって……俺たちがどうにかできる問題じゃないぞ!」

中谷は慌ててヴォラクのいる方へ走っていく。

「無理!落ちてくる人間受け止められるわけないじゃん!」
『しかしこのままでは!』
「おい!拓也の体、燃えてねぇか!?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「え……?」

俺は恐る恐る目をあけると自分の体が燃えているのを感じた。
しかしまったく熱さや痛みなどは感じない。

「え!?え!?えええええ!!?」

俺は何が何だかわからなくて自分の体をきょろきょろと見渡した。
ヴォラクの剣は炎を帯びており、左腕には盾がつけられていた。
そしてなにより空中に浮いている。

「なにがどうなって……!ヴォラクは!?」

俺は慌てて周りを見渡した。
すると俺と同じように炎に包まれたヴォラクがいた。
ヴォラクは気を失っており、炎に包まれてそのまま空中に浮いていた。

『おい、奴が来るぞ。さっさと剣を構えろよ』

また頭の中でさっきの声が聞こえた。

「構えろっつったって……俺、剣なんか使ったことないし」
『はぁ……主は貧弱でいらっしゃる』
「なんだと!?」
『自信がないなら一時俺に体を貸しな。八つ裂きにしてやるぜ』
「体を貸す?」
『奴が来た!避けろ!!』

声がして目の前を見たらマルファスが俺に斬りかかってきた。

『フザケタ妖術ヲ使イオッテ!覚悟スルガイイ!!』
「おわ!なななっどうすればいいんだ!?どうやったら動けるんだよ!?」
『お前本当に継承者か?体借りるぜ』

その声が聞こえた瞬間、俺の体は宙に舞い上がった。

『ナニ!?』
「え!?な!体が勝手に!」

そして俺の手は勝手に剣を構え、勝手にマルファスに斬りかかって行った。

「うわああぁぁああ!!!」

凄まじい金属がぶつかる音が響き渡り、マルファスと俺が剣を合わせている。
体が勝手に動く!俺の意思じゃないのに腕が勝手に!

『何ダ!?サッキマデトハマルデ違ウ!貴様!何ヲシタ!?』
「え、えぇ?」

そんなん俺が聞きてえよ!
そう言おうと思った瞬間、口が勝手に動いた。

「我が名はウリエル。栄光の七天使が一角を担う者、貴様の悪行見過ごす訳にはいかん」
『ウリエル……ダト!?』

マルファスが目を丸くした。
なんだ?ウリエルって奴はそんなにすごい奴なのか?

『マサカココデ貴様ノヨウナ大天使ニオ目ニカカレルトハ思ッテイナカッタ』
「それは良かった。じゃあもう満足だろう?地獄に帰れ。俺が直々に送ってやろう」

俺(正確にはウリエルって奴)は剣を構え直し、一目散にマルファスめがけていく。

「ぎゃあああ!!!」

俺自身はこんなに怖がってるのに体は全く言うことを聞かない。
目の前でリアルに剣がすれる。俺の横を剣がかすめる。ちょお!俺の顔を剣がかすめたんですけど!
しかも血!血が出てる!

「わりい。ちょっとミスった」

ウリエルって奴はまた勝手に俺の口を借りてテキトーなことを抜かしやがった。
ミスったじゃ済まされねーだろー!これ以上ミスったら本当に死んじまうだろ!?
しかし俺の体は剣を振るう手を休めない。
そして今までの出来事が嘘かのようにマルファスはどんどん追い詰められていく。

『クッ!ウリエル貴様!』
「マルファス。お前は地獄へ帰るべきだ。人間界にこれ以上干渉するな」

ウリエルが言葉を吐いた瞬間マルファスの体に剣が突き刺さった。
そしてウリエルはそのまま剣を突き刺したままマルファスを地上に突き落した。

「な!あのカラスが落ちてきたぞ」

光太郎は剣の突き刺さったマルファスに近づいた。

『光太郎、いくら弱っているとはいえあまり近づかない方がいい』
「え?あ、あぁ。でもこいつ虫の息だぞ?」
『魔法陣を描きましょう。中谷、手伝いなさい』
「ん?俺か?」

ストラスは細い枝を加えて地面に円を描きだした。

「池上はどうなってんだ?」
『マルファスにヴォラクの剣が刺さっています。おそらく拓也も無事なのでは……』
「そ、そっかよかった。でも拓也は?」

ストラスは空を見上げた。

『私は少し様子を見てきます。恐らく大丈夫でしょうが、くれぐれもマルファスには注意してください』
「あ、うん」

ストラスは上空に向けて飛び立った。
上空で拓也はすぐに見つかった。でも拓也は何やら話しているようだ。

「だからなんで俺の体を勝手に使うんだよ!?お前が実体化すりゃいい話だろ!?」
「実体化なんて疲れるからしたくねぇよ。死ななかっただけありがたいと思え」
「そうじゃなくてな!!」
『拓也、何を独り言を言っているのですか?』
「ストラス……」

拓也の体を見てストラスはギョッとした。拓也は体中に炎を纏っていたからだ。
そして拓也は話し出した。
登場人物

ウリエル…栄光の7天使が一角であり、4大天使の一角でもある。
      「神の炎」を意味するが、4大エレメントの地を司る。
      拓也と同い年くらいの見た目で、炎の剣と盾を持つ。
      罪人には残酷で業火で焼き尽くすといわれている。
      天使の中でも指折りの残酷な性格として有名。


*ウリエルは見た目の設定など元々がありません。
  なのでこの物語に出てくるウリエルの外見は作者の捏造です。


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