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魔法少女ラスカル・ミーナ  作者: 南文堂
第3話 新生! ねこみみむしゅめ
8/20

Aパート 捨て猫を拾うって、優しい主人公のステータスよね

品質には万全を尽くしておりますが、希に体質に合われて笑い出される方もございますので、公共の場での読書はお控えください


前回までのあらすじ

存在自体がトラブルメーカー、皆瀬和久は自分の通っていた学校に白瀬美奈子として転校することになった。そして、転校初日にも関わらず、悪の魔法少女ラスカル・ミーナとなり、セーラー錦織とブレザー浜崎を対決させ、学校をパニックに陥れた。しかし、そこに現れた正義の魔法少女、ファンシー・リリーの計算された行動によってその騒ぎを収められたのであった。

さて、今回、ラスカル・ミーナはどんな騒ぎを起こすのやら……

(本編とは若干異なる点もございますので、前作をお読みになられることをお勧めいたします)

 堤防の上、舗装された道を美奈子たちはきゃいきゃいとおしゃべりを楽しみながら歩いていた。五月の薫風が心地よく吹くこの道は、帰るには少し遠回りにはなるが美奈子は和久の頃から気に入ってよく使っていた。

(こうしていると女の子もまんざら悪くはないなと思うのが、ちょっと怖いな)

 美奈子はふと、そう思って、ちょっと苦笑いを浮かべた。

「どうかなされました?」

 美奈子の表情の変化に気がついて庸子が怪訝な表情で尋ねた。

「ううん。なんでも……?」

 そういいかけて美奈子は川の方に視線を向けた。

「どうかしたの?」

 美奈子の視線を追うようにして美穂たちは川の方を見た。がしかし、そこには緑のじゅうたんを敷き詰めたように青草の茂る河川敷公園が広がり、犬を散歩させている人やマウンテンバイクの練習をしている少年、写生をしている人などがいるだけでの、何の変哲も無い風景が広がっているだけあった。

「女の子が泣いてる」

 風の中に微かに聞こえる声を聞き分けて美奈子が呟いた。

「空耳じゃありません? 何も聞こえませんわ」

 美奈子は庸子のその言葉に耳を貸さずに堤防の土手を一気に駆け下り、河川公園を横切って川縁まで辿り着くとあたりを見渡した。

 美奈子のいるところから十数メートル上流側のところで一人女の子が身の丈以上の棒を振って川の水面を叩いていた。

「どうしたの?」

 美奈子が近づくとその、十歳ぐらいのショートカットが活発そうな可愛い少女が、普段はしっかりしている印象を受けるだろう瞳を、今は気弱な涙を一杯に溜めて、美奈子の方に向けた。

「ネコが! ネコちゃんが溺れちゃう! お願い、お姉ちゃん、助けてあげて!」

 棒を放り出して川を指差しながらその少女は美奈子にしがみついてきた。

 指差す方を美奈子が見るとそこから少し上流を短い丸太にしがみついて流されている黒い塊を見つけた。

(魔法を使えば簡単だけど……)

 美奈子がそう思って振り返った丁度その時に、一人土手を駆け下りた彼女の後を追って庸子たちが二人のところにやってきた。

「突然、どうなされたん、です。びっくり、しますわ」

 少し息を弾ませながら庸子は美奈子の側にやってきた。

「ごめん! これ持ってて」

 美奈子はブレザーを脱いでカバンごと庸子に渡すと靴を脱ぎ捨て裸足になり、スカートの裾を絞ってしばると太ももをあらわにし、迷わず川の中に入った。

「み、美奈子ちゃん!」

 美奈子の突然の行動に庸子たちは目を丸くして、驚きの声をあげる以外に何も出来なかった。

(つ、冷たい! それに滑る!)

 冬服では汗ばむ陽気といえどもまだ五月、水遊びするには早すぎる季節である。刺すような水の冷たさが頭の芯を痺れさせた。

 美奈子、いや和久にとって、ここは小さいときに何度も遊んだ場所であったので、水深がさほど深くないことはわかっていたが、慎重に進まなければ不安定な石ころの川底に足を取られかねない。しかも、その石ころの上に生えた藻のぬるりとした嫌な感触を感じるたびに水の冷たさとは別に鳥肌が立った。

 水の冷たさによる感覚麻痺と不安定な足場とが美奈子の歩みを遅くし、流されているネコを確保できるかどうかは微妙であった。

(くっ、間に合わないか?)

 美奈子は魔法を使おうかと真剣に考えたが、できるところまで頑張ろうと、また一歩踏み出した。その踏み出した足を乗せた川底の石が転がり、美奈子はバランスを崩した。

「み、美奈ちゃん!」

 悲鳴に近い恵子の叫びが上がったが、何とか転ばずに美奈子はよろめきながら数歩進み、体勢を立て直し、皮肉にもそのおかげで、なんとかネコまであと少しと言うところまで近づけた。

「よし!」

 美奈子はネコを助け上げようと腕を伸ばしたが、その直前でネコを乗せた丸太は気紛れに方向を変えて彼女の指先を掠めてすり抜けていった。

 美奈子は飛びついてそれを掴もうとしたが、後ろから自分の名前を叫ぶ声が聞こえ、川岸を振り返った。

「美奈子ちゃん! これ」

 美穂が魚釣り用のタモを大きく振って美奈子に投げて寄越した。

 美奈子はそれを受け取るとその有効範囲からも逃れようとしているネコを乗せた丸太に向かってタモを振った。

 と、丁度その時であった。

「動物愛護は世界を救う! 生物、皆、生き物! 愛があれば、種族の垣根は踏んで跨いで倒して押し込む! 愛と勇気と平等の魔法・美・少女、ファンシー・リリー! ここに登場!」

 美奈子たちから少し下流にかかっている橋の欄干に若草色と水色の派手なコスチュームに身を包んだ少女が仁王立ちに立っていた。しかも、しっかりと欄干から落ちないように、沈みかけの船の船長よろしく、ロープで街灯のポールに体を巻き付けている。

(何で、アイツがここにいるんだ!)

「勇気ある、あなた! あたしが来たからもう安心よ! その猫はあたし、ファンシー・リリーが助けてあげる!」

 大威張りで胸を張ってリリーは猫の救助を引き受けたが、もう既にネコは美奈子がタモで掬い上げて救助に成功していた。

「もう大丈夫ですから! 結構です!」

 美奈子はリリーの後先考えない行動が炸裂するのを恐れて大声で救助を断った。しかし、そんな言葉がリリーの耳に届くわけが無いのもなんとなく美奈子にはわかっていた。

 そして、その通りになった。

「史上最高の魔法少女、ファンシー・リリーにお任せよ!」

 予想通りの展開に美奈子の血は川の水よりも冷たくなった。魔法少女の姿でなら何とか耐えられても生身では病院送り必至である。いや、必死かも知れない。

 美奈子は急いで川から上がろうとしたが、ここまで来るのに苦労したものが、帰る時には楽になるなんて宇宙戦艦ヤ○トのようなことはあるはずも無い。焦れば焦るほど前にはなかなか進めない。

「成せばなるナセルはアラブの大統領! 究極魔法! アスワンハイダムはナイルの玉に傷!」

 エジプトの電力供給に多大な貢献をしているなどを無視したネーミングの魔法をリリーが叫ぶと同時に川の水が堰き止められた。美奈子のいる位置から下流が。

 全国的に知られていない川とはいえ、腐っても市民生活を支える川の水。毎分押し寄せる水の量は半端ではない。それを塞き止められれば一気に水かさが増えるのは当然のことだった。

 美奈子はあっという間に腰辺りまで増えた水かさに歩くのを諦め、水に飛び込み、川の流れに乗りながら下流の岸へと辿り着くことにした。

「リ、リリー。何だかまずいよ、これ!」

 既に大人の身の丈ほどにまで増えた水かさにリリーの相棒、ぬいぐるみ犬のウッちゃんが白い顔を青くしてリリーの裾を引っ張った。

「う、うん。そ、そうね」

 さすがにまずいと思ったのだろう、リリーもかなり顔が強張っていた。

「魔法解除!」

 美奈子が何とか下流の岸に辿り着いて這い上がった直後だったが、そんなことも気にせずにリリーは一気に魔法を解除した。

「リ、リリー!」

 溜められた水が一気に開放されたらどうなるか。当然の結果を呼び込んだ。

「な、なに、これ!」

「鉄砲水だよ。どっちかと言うと、『向こう見ず』だけど」

「に、逃げ……コホン、ネコも無事に救助されて一安心。何かあったら、またファ…ううん、あたしを呼んでね。それじゃあ、またねぇ」

 リリーは正義の味方らしく悠然と去り際の台詞を残して立ち去ろうとして、ロープを断ち切ったが、慌てていたのだろう、その反動で橋の欄干から川の方へと落ちた。

「うっきょぅーーー!」

 激流を流されていく若葉が一枚。ニ、三度、荒れ狂う波間から垣間見られたが、あとは沈んだままで浮かび上がってはこなかった。

「今回の僕の台詞はこればっかりだけど……リ、リリー!」

 ウッちゃんが慌てて、リリーの流されていった方向へと飛んでいった。

(……自業自得……まあ、普通の魔法服を着ているから、多分死ぬことは無いだろう)

 全身ずぼ濡れになりながら美奈子は流されていったリリーを遠くに眺めながらぼんやりしていた。


「お姉ちゃん!」

「美奈子ちゃん!」

「大丈夫でしたか?美奈子ちゃん」

 下流へと流された美奈子の所にやっと辿り着いた少女と美穂、庸子が一斉に彼女に駆け寄った。全身ずぶ濡れになった美奈子は心底安心した笑顔でそれに応えた。

 しかし、恵子が顔を伏せて下を向きながら駆け寄る三人と美奈子の間に割って入った。

「?……恵ちゃん?」

 いつもと様子の違う恵子を訝しながら美奈子は顔を覗き込もうとしたその時、

 パン!

 恵子は美奈子の頬を平手打ちした。

 突然なことに全員の時間が止まった。しかし、じんわりと徐々に熱をもつ頬が美奈子の時間を動かした。

「……な! ……」

「何てことするのよ!」

 しかし、先に動いたのは恵子の方だった。

「何ともなかったからよかったけど、何かあったらどうするつもりよ! あんなことが無くても、もし、川が深かったら! 突然、深くなってたら! 流れが急になってて足を取られたら! 苔とかで滑ってコケたら! 流されたらあっという間なのよ! 溺れちゃうなんてすぐなんだよ! なんでそんな無茶するのよ! 水を甘く見すぎよ! 死んじゃったら英雄なんて何にもならないのよ! ……なんでそんな無茶するのよ! なんで……なんで、そんな……そんな心配させるのよ!」

 最後の方は泣きじゃくりながら恵子は美奈子を叱った。美奈子も打たれた頬を抑えながら黙り込んだ。確かに恵子の言う通りで、反論する余地などない。今回はたまたま運がよかっただけで、流されていったリリーは自分だったかもしれないのである。軽率な行動を取ったことを美奈子は反省した。

「……ごめんなさい」

 美奈子は泣きじゃくる恵子に、そして、他の三人にも謝った。

「美奈子ちゃんが無事ならよろしいですわ。でも、今度からは私たちにも相談してくださいね」

「そうそう、私たち、友達でしょ? 一人で先走りしちゃ駄目よ」

「……今回は許したげる。でも、今度やったら絶交よ」

 とりあえず四人は丸く収まったが、今度は少女が泣き出した。

「……ごめんなさい、ごめんなさい。あたしが、あたしが……」

 少女が責任を感じて泣きながら謝っていたのを恵子は少女の目の高さまでかがむと優しく微笑みながら少女の頭を撫でてあげた。

「いいのよ、もう。それじゃあ、美奈ちゃんが命がけで助けたネコちゃんを助けてあげましょうね」

 庸子が美奈子の濡れた体を拭くためにタオルを出して渡し、美穂がタモを借りた人に返しに行き、恵子と少女はずぶ濡れのネコをハンカチで拭いていた。

 美奈子が濡れた体を拭くのもそこそこにタオルを手に持ち、庸子の方を見た。柔らかな肌触りのよいタオルである。しかし、美奈子は意を決して、

「ヨーコちゃん、必ず同じ物を買って返すから、このタオル……」

「そんなことされなくても差し上げますわ」

「ありがとう! 必ず返すから!」

 美奈子はタオルで包むように拭いて、そのまま芯まで冷え切ったネコを胸に抱きして暖めた。鼓動がだいぶ弱まっているかなり危ない。

「どうなさいます? 美奈子ちゃん、動物病院へ連れて行かれます?」

 動物病院は保険が利かない。それぐらいは知っている美奈子は首を横に振った。一介の中学生に五万、十万当たり前の診察料を用意できるはずはない。もちろん、相原庸子にかかればそれぐらいは難なく用意できるだろうが、好意に甘えるのも限度がある。

「ネコちゃん、助かるの?」

 ショートカットのよく似合ったしっかりした顔立ちでいて、どこか愛嬌のある可愛い少女が、普段では見せないだろう不安な目を美奈子に向けていた。そんな目で見られたのでは美奈子も決心せざるえなかった。

「……とりあえず、家に連れて帰るよ。もしかしたら……何とかなるかもしれないし……」

 美奈子は猫を抱きながら、ちょっと躊躇いつつもそう言って立ち上がった。

「ほんと! お姉ちゃん! ネコちゃん、助かるの!」

 少女は喜色を浮かべて美奈子ににじり寄った。

「う、うん、約束するよ。だから、心配しないで、ええと……」

「あたし、神埼芽衣美(かんざき めいみ)。樋野川小学校の五年生」

「わたしは白瀬美奈子。芽衣美ちゃん、安心してね、きっと助けるから」

「それじゃあ、約束よ、美奈子お姉ちゃん!」

 芽衣美に圧されて思わず美奈子は安請け合いしてしまった。どこまでも押しに弱いのは誰にも同じようだった。

「それでは、わたくしが美奈子ちゃんの家まで送っていきますわ。恵ちゃんと美穂ちゃんは神埼さんをよろしくお願いいたしますわ」

 庸子は自分の家に連絡して迎えを寄越したのだろう。手際のよさは折り紙付である。

「オッケー、任せて」

 美穂は快く承諾した。

 恵子がいつもの歯切れの良さとは打って変わってモジモジしていた。

「……美奈ちゃん、あの……叩いたりして、ごめんね。あたし……あの……」

 何か言いたくないことを言おうかどうしょうか迷っている恵子に美奈子はそれを制止するかのように口を開いた。

「いいよ、そんなこと。びっくりしたけど、嬉しかった。自分のことを本気で心配してくれる友達ができたと思ったら」

 叩かれた頬を軽くなでて美奈子は照れくさそうに笑顔を返した。

「美奈ちゃん……」

「私も引っ叩いておけばよかったかしら」

「右に同じ」

「二人とも本気で心配してくれたのはわかってるから、恵ちゃんの一発で勘弁してよ」

 庸子と美穂が真剣に悩んでいるのを見て、美奈子は洒落っぽく困った笑顔を浮かべて両手を振った。

 五人の笑い声が河川敷公園に響いた。


 庸子の呼んでくれたお迎えの車には着替えも用意してあったので、それを借りて車中で着替え、家まで送ってもらった美奈子は玄関の扉をそっと開けた。どうやら、琉璃香はまだ帰ってきていないようで、とりあえず美奈子は安心すると、ネコを部屋に連れ込み、納戸から電気ストーブを引っ張り出し、毛布に包んで暖め、額に玉のような汗を浮かべ、スエットの部屋着を腕まくりしながら美奈子は必死にネコを看病した。

「とにかく、少しでも意識を取り戻してくれないと薬を飲ませられない」

 琉璃香の部屋に置いてある世に知られていない薬の数々、ちょっとでも間違えれば猛毒でしかないが、ちゃんと使えば、まさに劇的に症状を回復させられる。美奈子が今まで琉璃香のお遊びに付き合って生きてこられたのはそれらのおかげともいえる。美奈子にも多少の心得があるのでそれに賭けるつもりであった。

 美奈子の献身的な看病の甲斐もなく、夕方近くなってもネコは今だ意識を取り戻さず、呼吸も脈拍も弱くなってきていた。

「わたしじゃ、やっぱり無理なの?」

 美奈子は目に涙を溜めて自分の無力さを恨んだ。意識を回復させるための気付け薬を調合して与えたが効果はなく、自分の知っているあらゆる手段を試したが、どれも意識を回復させることは出来なかった。

「あら、美奈子ちゃん。帰ってたの?」

 突然後ろから声をかけられて美奈子は飛び上がらんばかりに驚いた。

「か、母さん!」

「何をそんなに驚いてるの? あれ? それ?」

 美奈子は琉璃香が指差した先のものを咄嗟に隠した。

「な、なんでもないわよ、母さん。何も無いよ」

 美奈子は慌てて琉璃香を部屋から押し出すように廊下に出た。

「何、隠してるのよ。見えたわよ、ちゃんと。いいもの拾ったじゃない」

「母さん、これは違うんだ」

「何が違うのよ」

「だ、だって……」

「ちょっと、診せてくれない?」

「母さん!お願い! 食べないで! 薬にしないで! 実験しないで!」

「……美奈子ちゃん、私を何だと思っているわけ?」

「あ……ま……魔法少女」

「危なかったわね。もし、悪魔なんていったら即実験動物、魔女って言ったら即薬の材料だったのに」

「魔法少女は?」

「食べて欲しい?」

 美奈子は激しく首を横に振った。

「でしょう?でも、そのままだと今夜の峠は越えられそうになさそうだけど」

「お、お願い!母さん! この子を助けてやって! 母さんなら何とかできるだろう!」

「まあ、出来ないことは無いけど……ただってわけにはいかないわね」

「……わかったよ。夕飯、掃除、洗濯一週間分」

「……そ、そんなものでは動かないわよ」

(充分心動いたくせに)

 美奈子はそう思ったが、そんな事を口にするほど愚かではなかった。

「それじゃあ……」

「美奈子ちゃんがちゃんと女の子らしくしてくれるなら、助けてあげなくも無いわよ」

 美奈子が二週間分を出してこないうちに琉璃香が先に条件を出した。二週間分にされるとそれに転びそうなのだろう。

「ううっ。そんなの、ずるい」

「ああ、かわいそうな子猫ちゃん。美奈子ちゃんの一円にもならないプライドのせいでその小さな命を散らしてしまうのね。なあんて、かわいそうなんでしょう!」

「くっ、わ、わかったよ。女らしくするから、お願い!」

「そんな言い方して信用できないなぁ。もっと他の言い方があるんじゃなぁい?」

 美奈子にとっては悪魔にしか見えない微笑で琉璃香は意地悪く言った。

「くっ……わ、わかったわよ。……これから、美奈子、女らしくするから、お願い! この子を助けてあげて!」

 瞳に星でも浮かべようかと思うぐらい美奈子は懇願した。さすがにちょっと琉璃香も引いたが、それでも満足そうな笑顔を浮かべて、

「オッケー。それじゃあ、ちょっと連れてくわね。あなたは宿題でも済ましときなさい」

 琉璃香はネコをひょいと乱雑に首根っこを持って摘み上げるとそのまま自分の部屋の方へと降りていった。

 美奈子はその後ろ姿を頼もしくも不安に目で追った。

(かみさま。どうか、母さんが変な気を起こさないように)

 美奈子の不安は治るかどうかよりも、むしろそこに大部分を占められていた。


 あまり当てにできない神様に祈りつつ美奈子は学校の課題を済ませ、一階に降りてくると琉璃香が顔に一本斜めの線を書いて、手術着を着て、ソファーに寝転がって大いびきをかいていた。

「なんとか上手くいったようだよ。よかったな、美奈子」

 父、賢治が美奈子に気が付いて微笑みかけた。手術など必要なかっただろうに、何故手術着を着ているか謎だが、おそらくは、間黒男の真似なんだろうなと思うことにして、美奈子はとりあえず安堵した。

「それで、ネコは?」

 美奈子はリビングの床を見渡したが、それらしき姿が見当たらない。

「テーブルの上にいるよ」

 美奈子がテーブルの上に視線を移すと、両前足でマグカップを挟んでミルクを元気に飲んでいる身体に包帯を巻いたネコが座っていた。

「よかった! 元気になったんだ……?」

 一度はホッとして喜んだものの、恐ろしく違和感のある光景に美奈子は首をかしげた。

 ネコはマグカップから口を離して、口の周り一杯に牛乳の白いひげをつけて「くー! 五臓六腑に染み渡る」などと呟いている。そこで、美奈子と視線が合って、ネコは慌ててマグカップを横に置いてきっちりとネコのお座りをした。

「これは美奈子さま。この度は助けてもらって、本当にありがとうございます」

「あ、あ……ううん、当然のことだから……」

 美奈子は思考が混乱して普通に受け答えした。

「素晴らしい! 素晴らしいお人ですね、美奈子様は。いやあ、なかなか言えませんよ、そんな台詞。子供たちに追いまわされてうっかり川に落ちてしまったのは運が悪かったですが、美奈子様みたいな人に助けてもらったのは本当に幸運でした。いつもの僕ならあんなことにはな……」

「ちょ、ちょっと待った」

 やっと思考の整理ができたのか美奈子は喋りつづけるネコの言葉を遮った。

「はい?」

 ネコは怪訝な表情で美奈子を見返した。どう見てもしゃべる以外は普通のネコである。

「一つ訊いていいかな?」

 美奈子は冷静さを失わないように静かに言った。

「一つでも二つでも何でも聞いて下さい。答えられる事なら、何でも答えますよ」

「……最初からしゃべれた?」

「当然ですよ。日本語とネコ語、それと北京語はマスターしています。トリリンガルとういやつです。こう見えてもインテリデンジャーなんですよ、僕は」

「え、えーと、母さんに何かされたせいでしゃべれるんじゃないん……ないのね」

「は? お話がよくわかりませんが、おぎゃあと生まれた時から僕はしゃべってました」

「あら、美奈子ちゃん。マオ族とは知らずにこの子拾ってきたの?」

 いつのまにかエプロン姿に着替えた琉璃香が意外そうに言った。

「マオゾク?」

「魔法の魔に尾っぽの尾で魔尾族とも、真の尻尾で真尾族とも言われる使い魔の一族よ。魔女とか魔法少女とかの使い魔としてよくでてくるのよ。知らなかったの?」

 美奈子は琉璃香の言葉に首を縦に振って肯定した。

「あなたのライバルの魔法少女、ええと、ファンシー・リリーとか言ったけ? あの子の側にいる使い魔もマオ族よ。確か、ウッテンバンカーハットとかいう白い犬型の」

「ウッテンバーガーハイトでしょう、それを言うなら」

「ウッテンバーガーハイト! 美奈子様はウッテンバーガーハイトを知っているんで?」

「ええ、まあ、一応」

 美奈子はネコの迫力に押されて頷いた。

「奴がこの街にいたとは! これは天の采配! しかも、美奈子様、その魔法少女のライバルということは美奈子様も魔法少女ということですね?」

 美奈子はまたもやネコの迫力に押されて頷いた。

「これは本当についている! 奴は素質ある者の使い魔にしかならないから……。美奈子様、その魔法少女にはさぞ苦戦してるでしょう? ええ、皆まで言わなくてもよいですよ。わかってます。善戦したけど、運が無かったのでしょう? 確かにその通り。どうです?僕を美奈子様の使い魔の末席にでも加えてくれませんか? 命救ってもらったお礼を兼ねて一肌脱ぎます。絶対、後悔はさせません」

「よかったじゃない。使い魔一匹もいないんだから、なってもらいなさいよ」

「ええ! 美奈子様、自力で魔法少女になったんですか? それはまた、すごい!」

「なったんじゃなくて、ならされたんだって」

「はい? よくわかりませんが、使い魔一匹もいないのでしたら、さぞ苦しい戦いでしたでしょう? でも、これからはそんなことありませんよ。僕がついたら、百人力です」

「いや、そうじゃないんだけどね」

 美奈子は苦笑を浮かべて、対リリー戦を思い出していた。

「いいのですよ、そんなやせ我慢しなくても。別に恥ずかしがることはありません。使い魔なしの魔法少女の戦いがどんなに辛いかはよく知ってます」

 ネコはその苦笑いを誤解して受け止めて一人頷いて納得していたが、不意に美奈子のほうを真っ直ぐ見て、

「ところで、美奈子様の魔法少女名はなんと?」

「え? あ、ラスカル・ミーナ」

「ラスカル・ミーナ……というと悪の魔法少女系ですね。意外ですね。こんなに立派な人なのに。何か、やむにやまれぬ事情というものがあるのですね? いえ、言わなくてもいいです。美奈子様がいつか話したくなったときに話してくれたら、それでいいですから」

「あ、あのね……」

 美奈子は何だかとてつもなく妙な方向へ話が行っている事に不安を覚えて、ネコにちゃんと事情と現状を説明しようとした。がしかし、先にネコの方に話を続けられてしまった。

「僕の名前は銀鱗(イーリン)っていいます」

「イーリン?」

「よし! 契約成立です! 今日から、僕は美奈子様の使い魔です! よろしくお願いいたします。ご主人様」

「え? ちょ、ちょっと! どうして?」

 突然のことで何がどうなっているか分からずに美奈子が目を白黒させていた。

「使い魔は自分の名前を主人として認めた者に教えて、それに応えてもらったら契約成立なのよ」

 何も知らない娘に満面の笑顔で琉璃香が教えてあげた。

「そ、そんなあ!」

 ちゃらりららりん。ラスカル・ミーナはレベルアップしました。力が2上がりました。知力が5上がりました。素早さが9上がりました。魔法制御が8上がりました。魔法容量が38上がりました。不運が51上がりました。

「あらあら、リリーちゃんよりも先にレベルアップしちゃったわね。これでまた当分負けないわよ」

「いっそのこと、このまま無敗でいてくれると父さんも嬉しいぞ」

「お願いだから、もう止めて」

 作者と読者の期待を裏切らず、益々強大な力を手に入れた悪の魔法少女ラスカル☆ミーナ。皆瀬和久君に幸せの日々はやってくるのだろうか?それは作者すらも決めてない。


つづく


次回予告

名前もさりげなくレベルアップして・から☆になり、ファンシー・リリーとの実力差をますます広げてしまったラスカル☆ミーナ。しかも、その割には主人公としての立場もだんだん周囲のキャラに食われていっている始末。しかし、これはほんの第3話の前半。更なる不幸が彼女を襲う。

ねこみみむしゅめのねの字も26回しか出てないじゃないかとお怒りのあなた! お待たせいたしました。

次回! 第3話後編 新生!ねこみみむしゅめ! 十数行後公開決定!














魔法少女 ラスカル☆ミーナ

第3話 新生! ねこみみむしゅめ


 ディスプレー前で唖然としている間にあっという間に時間が過ぎて、銀鱗を助けた翌々日の昼下がり。

 ピンポーン!

 軽快な呼び鈴が鳴って琉璃香が「はいはいはいはーい」などとスイッチも入っていないのに応えながらマイクのところまでパタパタと駆け寄った。

「はい。どちら様ですか?」

 インターホンのカメラに写っているのは小学校五年ぐらいのショートカットのよく似合った利発そうな可愛い女の子であった。琉璃香にはその子を見るのははじめてだが、誰かは予想がついていた。

「あた……わ、私、神埼芽衣美といいます。白瀬美奈子さんはいらっしゃいますか? 猫の件でお世話になったとおっしゃっていただければ、わかってくれると思いますけど」

 家で練習してきたのだろう、芽衣美はちょっとたどたどしくはあったが、きっちりと挨拶をした。

「はい、聞いているわよ。あなたが芽衣美ちゃんね。ちょっと待ってね……美奈子ちゃん! 芽衣美ちゃんがお見えになったわよ!」

「え? も、もう!?」

 昨日、美穂から芽衣美の連絡先を聞いて、銀鱗が無事回復していることを教えたら、ぜひ、お見舞いに来たいと言って、来ることになったのだった。

「早く降りてらっしゃい!」

 階段を騒音と共に駆け下りた美奈子が居間の入り口から顔を出した。

「随分と早かったのね。か…琉璃香さん、お菓子とかお願いね」

「美奈子ちゃん、その格好で出るつもり?」

 玄関へ向かおうとする美奈子を琉璃香が呼び止め、呆れたふうに美奈子の下半身に視線をおろした。それにあわせて美奈子が視線を落として顔を真っ赤にした。

「あ、スカート!」

 再びどたばたと美奈子は階段を駆け上がっていった。

(あのぅ……インターホン、入ったままなんだけど)

 玄関先で中でのやり取りを聞いていた芽衣美は苦笑を浮かべていた。

『というわけで、ちょっと待っててね』

 苦笑いを浮かべている芽衣美にインターホンから悪戯っぽい琉璃香の声が響いてきた。

(……確信犯だ)

 芽衣美は美奈子お姉ちゃん、苦労してるのだなとちょっと可哀想になった。


「いらっしゃい、芽衣美ちゃん。さ、何も無いけど、上がってちょうだい」

 と言わなければならないところだが、玄関を開けて芽衣美を一目見て、美奈子はその言葉を見失ってしまった。それの代わりに出た言葉は、

「め、芽衣美ちゃん。その格好……」

「え? あ! これはお母さんが、ネコのお見舞いに行くのならそれなりの格好していった方が面白いって。驚いた?」

 芽衣美は純白のエプロンが眩しい、スカートの裾がパニエで膨らんだ黒地のエプロンドレスを着ており、首に巻いたチョーカーには鈴の飾りがついており、エプロンの裾にも小さな鈴の飾りが揺れていた。後ろから覗く太い黒のモールは尻尾のように微妙なカーブを描いて、頭につけたカチューシャには猫の耳を模した飾りがついていた。

「め、芽衣美ちゃん、は、恥ずかしくない?」

「美奈子お姉ちゃん。これぐらいで恥ずかしがってたら、有明とか行けないよ。もっとすごいのがいるんだから」

 最近、市民権は得てきているとは言うものの、普通の所でそういう格好をするのは結構勇気がいると思う美奈子に対して平然と芽衣美は答えた。

「だからって、普通の時にまで……」

「日頃からこうやって着て、鍛えておかないと、いざ本番の時にさりげない仕草とかで萌えさせられないのよ。なんたって観客は妥協を許さない人たちばかりだもん」

 確かに、芽衣美の衣装は一般的ではないが、彼女はそれを見事に着こなしており、似合っていて文句無しに可愛い。

「うん、まあ、それはそれとして、どうぞ、上がって」

 美奈子は芽衣美を見ながら家の前を通り過ぎていく通行人と何人も目が合って、恥ずかしくなったので、芽衣美をとにかく早く家に入れることにした。

「いらっしゃい、芽衣美ちゃん。で、いいかしら?」

「はい。今日はぶしつけにおしかけて、すいません。これ、母からです。つまらないものですがって」

 芽衣美は菓子折りを袋から取り出して琉璃香に手渡した。

「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。そんなに気を使わなくてもよろしいのに。でも、立派に挨拶できるのね。えらいわ。もう、そんなに緊張して無理しなくてもいいのよ。普段通りでいいのよ。私もそうするし」

「ありがとうございます、お姉さま」

「もう、かわいい!美奈子ちゃんもこれくらい可愛かったらいいのに」

「か……琉璃香さん、芽衣美ちゃんが苦しがってるから放してあげましたら?」

 力いっぱい芽衣美を抱きしめている琉璃香に美奈子が冷ややかな視線を向けた。

「あ、ごめんなさい、芽衣美ちゃん」

「だ、大丈夫ですぅ」

「全く、手加減とか知らないんだから。それじゃあ、芽衣美ちゃん、わたしの部屋に行きましょう」

「うん」

 美奈子が部屋の扉を開けるとあぐらをかいて漫画を読んでいた銀鱗が慌てて、本を放り出してネコのように床に寝そべった。

「にゃ、にゃあ」

(銀鱗のやつ、あれほどネコのふりしてろって言ったのに、なんてことしてるのよ、もう!)

 美奈子は部屋に入りながら銀鱗を軽く睨んだが、銀鱗はそっぽを向いて視線を外して「何のことでしょう? 一介のネコにはわかりかねます」と言う顔をしていた。

「何だか、今、漫画を読んでいたように見えたんだけど、美奈子お姉ちゃん、見た?」

「え? そう? 錯覚じゃない? 多分漫画の本にでもじゃれてたんだわ? いたずらっ子だから、銀鱗君は」

「うーん、そうかな? あ、ネコちゃん、イーリンって言うんだ」

「うん。胸のところに銀色の鱗みたいな模様があるでしょう?だから銀の鱗って書いて、中国読みでイーリンっていうの」

「ふーん、じゃあ、リン君って呼んでいい?」

「そっちの方が呼びやすいわね。そしたらわたしもリン君と呼ぼう」

(ご、ご主人様ぁ、勝手に由緒正しき名前を縮めるなんてひどいですわ)

(うるさいわよ。使い魔の呼び名に関する抗議は48時間前までに所定の窓口に書類を提出する以外受け付けないのが決まりなのよ!)

 リリーがウッちゃんに言った台詞を真似て銀鱗の抗議を突っぱねた。

(うう、漫画なんか読まなかったらよかったわ。しくしく)


「あ、もうこんな時間だ。すっかり遅くなっちゃった」

 芽衣美は部屋の時計を見て暮れかけた外を見て慌てた。

「ああ、本当。ごめんなさいね、気が付かなくて」

 ついつい時間が経つのを忘れていた美奈子がすまなそうに謝った。

「ううん、あたしも楽しかったから、気が付かなかったし」

「それじゃあ、送っていくわ」

「そんなの悪いです。いつも今ぐらいに帰ってるし、送ってもらったら、美奈子お姉ちゃんが真っ暗な道を帰ることになるもん。そんなの駄目だよ」

「そう言っても……」

「大丈夫だから心配しないで。あたしもこれでも結構大人なんだから」

 小さな体を精一杯大きく見せて芽衣美は胸を張った。可愛い意地っ張りに美奈子は複雑な微笑を浮かべて、自分もこれぐらいのときに妙に子供扱いされるのが嫌で仕方なかったことを思い出していた。

「うーん、それじゃあ、本当に気をつけて帰るのよ。人通りの多い道を選んでね」

「あら、芽衣美ちゃん、もう帰っちゃうの?」

 台所から顔を出して帰ろうとする芽衣美を見つけ、琉璃香が玄関の方へとやってきた。

「か…琉璃香さん。もうって時間じゃないわよ」

 時計は既に6時半を過ぎようとしている。日が長いとはいえ、芽衣美が家に帰りつく頃には空は藍色に染まっているだろう。

「お夕飯とか食べていけばいいのに」

「ありがとうございます。でも、お母さんも心配してるかもしれないし帰ります。琉璃香さん、今日はお邪魔しました」

 芽衣美はぺこりとお辞儀をした。十歳とは思えないしっかりした娘である。

「いえいえ、何のお構いも無く。また遊びにきてね、芽衣美ちゃん」

「はい、よろこんで!」

「それじゃあ、本当に気をつけて帰るのよ」

「うん、わかった。美奈子お姉ちゃん、今度、一緒にコスプレしようね」

「……考えておくわ」

「ちゃんと考えておいてね。美奈子お姉ちゃんなら絶対似合うから。コスプレ歴十年の私が言うから間違い無しよ」

「……うん、ありがとう」

「それじゃあ、リン君、バイバイ。また遊びに来るね。えーと、お邪魔しました」

 芽衣美は銀鱗を軽く撫でてやり、再びぺこりとお辞儀すると夕暮れの住宅街に消えていった。

「明るくていい子ね」

「そうだね」

「ところで……」

「なに?」

「コスプレするの?」

「……」

 期待に目を輝かせている琉璃香に何も言う言葉が見つからない美奈子は軽い目眩を覚えた。

「その時は母さんも呼んでね」

「……写真にでも撮るつもり?」

「まさか! それは賢治さんのお仕事。私もするつもりよ」

「……」

 期待に目を輝かせている琉璃香に何も言う気力がおきない美奈子は軽い頭痛を覚えた。

「でも、一人で帰すのはまずかったかしら?」

 頭を抱えそうになっている美奈子を他所に琉璃香が急に真面目な顔で小首をかしげた。

「なにかあるの?」

 琉璃香のその表情を見て、さっきまでの頭痛が吹き飛び、変わりに底知れない不安を覚えて美奈子が訊いた。

「最近、公園で変な集団が横行しているって話だから」

「え? それホント?」

「ええ、何でも、むりやりコスプレさせられるらしいわよ。被害者がもう何人も出てるし」

 美奈子が起こす騒ぎが大きすぎて、公園の事件は大きく扱われなかったようだった。

「なんでそんなことを早く言ってくれないんだよ」

「だって、訊かなかったから」

 あっさりと事も無く言い放つ琉璃香は「ほら、ボーっとしててもいいの?」という視線を美奈子に送った。

「ああ、もう! リン君、行くよ」

「……結局、僕の名前はリン君にされたんですね、ご主人様」

 銀鱗の文句に耳を貸さずに美奈子はもう雑踏の中に消えて姿の見えない芽衣美の後を追った。


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