殺人者のブログ 〜Murder's log〜PDFで表示縦書き表示RDF


この物語はフィクションであり、人物、地名、事件、Webサイト等は総て架空の物です。
殺人者のブログ 〜Murder's log〜
作:頬白丼


 六月六日
 彼女を殺した。
 アイツが悪いんだ。 別れようなんて、言うから。
 首を絞めた。
 細かった。
 すぐに、動かなくなった。
 醜い顔、天罰だ。

 放課後、新聞部の部室には二人、生徒がいた。部活動としては少ないが、これで出席率100%である。
「ねぇリュート、『マーダーズ・ログ』って知ってる?」
 髪を短めにした、活発そうな女子高生が、パソコンを操作している男子高生、桜井龍人(さくらい りゅうと)に話かけた。
「名前だけ聞いたことがある」
 シャープな印象の顔をパソコンのディスプレイに向けたまま、龍人は簡潔に答えた。
「じゃあ、内容は知らないんだ?」
 ようやく龍人は女子高生に顔を向ける。
「いまツクシに聞くまで、名前すら聞いたことが無かったからね」
 女子高生、春日ツクシ(かすが つくし)は、軽く龍人を睨みつける。しかし、龍人はまったく気にしない様子で、ディスプレイに再び向き直る。
「で、その『マーダーズ・ログ』ってサイトのURLは? ああ、HTTPはいらないから」
 龍人はインターネット・ブラウザを開き、アドレス入力の準備をする。
「……コロン、スラッシュスラッシュ、エム……」
 コロンとスラッシュ二つを言ったのは、ツクシのささやかなイヤガラセだろう。
 ツクシがURLを言い終わるのとほぼ同時に、ディスプレイには“マーダーズ・ログ”という日記風ウェブサイト、いわゆるブログが表示されていた。
 背景は黒で、文字は赤。
いかにもな雰囲気が漂うデザインだ。このデザインのために読みやすさを度外視したのだろう。
 妙にロード時間の長い画像があると思ったら、十字架の中心に目玉という悪趣味な物で、さらに目玉がキョロキョロ動くというアニメーションGIFだった。さらに、その画像は、画面をスクロールしてもついてきて、常に画面左に表示されている。
「ねぇリュート、ひとつ訊いていい?」 ツクシは龍人の肩越しにディスプレイを見ながら尋ねた。
「『ログ』なんて言葉は、一般的にネットくらいでしか聞かないからね。数学のlogなんて、覚えてる人は少ないよ」
 またもツクシは龍人を睨みつけることになった。質問する前に答えられたのだから、仕方ない。
「『六月六日』日付は昨日か『彼女を殺した。アイツが悪いんだ。別れようなんて、言うから。首を絞めた。細かった。すぐに、動かなくなった。醜い顔、天罰だ』なんだ? この文章力の欠片もない文章は」
 龍人はブログの内容を読みあげ、そして文章に文句を言った。
「さぁ? こーゆー文章が、詩的で良いって思ったんじゃない? でも、この記事は昨日見たときには無かったよ」
 新聞部に所属している二人にとって、稚拙な文章にしか見えないのは仕方がない。とはいえ、内容は新聞部員として惹かれる物であることも事実だ。
「まあ、記事にするかどうかは別として、調べてみる価値はあるな」
「記事にしないの?」
 ツクシは不満そうだ。
「俺としては記事にしてみたいけど、校内新聞には掲載できない可能性が高い。このブログが真実であれデタラメであれ、コレを見て殺人衝動を覚えるヤツだって出てくるかもしれない。そんなサイトを紹介するようなマネはできないな」
 テレビゲームやマンガの影響で殺人を犯す……とされる世界に、そのものズバリ、殺人体験日記など紹介するほど愚かではない、ということだ。
「じゃあ、記事はどうするの?」
「校長のカツラが何種類あるか、細部までまとめた記事があるから、それを使う」
 イザというときに使えるよう、代替記事を用意してある。
「なに……このギャップ……」
「キャップは帽子。カツラはウィッグだ」
「ギャップって言ったんだけど?」
「うん。知ってる」
 そんな冗談を交えつつ、役割を分担して調査を開始した。

 ツクシは、前日にブログを一通り読んでいたので、実際にその事件が起きていたのかをチェックし、表にまとめている。
 龍人はブログを一通り読むことから始めた。
「一番最初は今年のバレンタインか」
「最初から読んでるの?」
「ああ、ブログの構造上読みにくいけど、この方がいい」
 ブログは日記の最新のページにシオリが挟まっているようなもので、普通に読み返そうとすると、最新から近い順。日付を逆行しなければならない。
「『二月十四日。バレンタインに彼殺す。私以外の女から、チョコをもらって喜ぶ笑顔。私が好きなその笑顔。私以外になぜ向ける? だから殺した、愛する彼を。愛していいのは私だけ』って、これ書いたの女だな」
「あ、気付いた?」
「気付かないヤツがいたら、ここに連れてきてくれ。まあ、男が書いたという可能性も、僅かではあるが、無くはない」
「それでも、昨日書いた人とは別の人が書いてると思うなぁ」
「そうだな。昨日のメタクソな文とは打って変わって、意識しなくてもリズミカルに読める文……というか詩に近いかな。または講談」
 七五調で書かれているので、講談風ではあるが、まったく別物。なので、龍人は文の構造が似ていると言いたいのだ。
「そーね。内容はともかく、読みやすいね」
「ツクシ、この事件……」
「はいはい、調べてありますよ」
「気が利くね」
「一番最初の事件だから、重要でしょ?」
「で、どう?」
 早く報告しろ、と言わんばかりの態度に不満げなツクシだが、特にモンクを言うでもなく報告を始める。
「その日に起きた事件で、状況と犯人の証言から多分、だけど、三重野綾(みえの あや)の事件かな」
「どんな事件?」
「えーっと、三重野綾が、当時付き合ってた会社員の酒井俊哉(さかい としや)さんを殺害したって。犯人は、彼が他の女性と仲良くしているのを見て、殺意がわいたって言ってるみたい」
 確かに、最初の記事と合致している。
「犯人の逮捕と、供述の報道はいつになってる?」
 このブログに書かれている動機は、逮捕される前に於いては“犯人しか知り得ない事実”となる。逮捕前、または報道前に、この文章が書かれていれば、犯人が書いたものと言えるだろう。
「逮捕は16日の朝、その日の夕刊には掲載されてるよ」
「なるほど、一応整合性はあるね。ただ、この記事にトラバやコメントがないから、事件後に誰かが日付を偽って書いた物……って可能性もあるね」
 トラバ、トラック・バックのことで、他のブログがこの記事を紹介したか、という物だ。
 たとえば、トラック・バックをしたブログの記事が逮捕前の物であれば、この記事の信憑性が高まる、ということだ。コメントも同様だが、管理者が日付を変更してしまえば、あまり意味がない。もちろん、変更できない部分だが、トラック・バック先と違って同じサーバのデータなので、改竄は比較的容易だ。
「でも、一つだけ、いつ書かれたか分かってて、それでまだ発覚してない事件があるよ」
 ツクシはもったいぶっているが、結局龍人もその記事は何か分かっている。まあ、ツクシも“リュートは分かってる”と思っているようで。
「昨日の記事のことだろ」
 との答えにも、悔しそうではない。
「うん。私が昨日見たのは八時くらい。全部読むのに一時間くらいかかったけど、その後ページ更新してもこの記事はなかったね」
「つまり、九時過ぎから……まあいいか、分かってるな。『昨日の記事の事件』がニュースで流れたか流れてるか流れるかのチェックよろしく」
「リュートがやってよ」
「役割分担しただろ。ツクシの仕事は『ブログの事件が起きたかどうかのチェック』だろ?」
 ツクシは、黙ってテレビの電源をいれた。ボリュームをいっぱいに上げたのは、龍人に対するイヤガラセだろう。しかし、あまり効果はないようだ。

『東京都石田市の石田中央公園で、女性の遺体が発見され……』
 テレビから流れてきた女性アナウンサの声を聞いたツクシは、龍人に
「この事件……」
 と、言いかけるも
「聞いてるから、静かに」
 龍人にたしなめられる。しかし、龍人も、この事件が昨日の記事の事件であると確信しているからこそ、ニュースを聞こうとしているのだ。
『亡くなられたのは、石田市に住む高校生、綾瀬美樹さん十六歳。死因は頸部圧迫による窒息と見られ、死亡推定時刻は昨夜十時頃。警察では、綾瀬さんの携帯電話に残された発信履歴から、交際していた少年が、事件になんらかの関与をしている物とみて捜査を続けております』
 龍人は目当てのニュースが終わると、もうテレビに興味は無いと言わんばかりに、ディスプレイに目を落とす。
「この事件だね。きっと」
 龍人の目はディスプレイに向いていても、口はツクシに向いているようだ。
「そーみたいだね。ブログの更新時間と、死因、あと、付き合ってた子が犯人だとかね」
「少年は逮捕されてないから、犯人とは断言出来ないけど……ほぼ間違いないな。だから、このブログの内容は、ほぼ間違いなく各犯人が記述したものと考えていいだろう」
 それでも“ほぼ”をつけるのは、ほんのわずかでも他の可能性があるからだ。
「書いたの犯人じゃなかったら……あ! もしかして、ブログに書くと、その通りの事件が起きるとか!」
「ああ、そんなマンガがあったな。ってーと、管理人は死神だな」
「リュートかもよ」
「俺は最後が『ト』だ。『ク』じゃない」
「言いたいこと、よく解ったね……」
「……なんとなく、な」

 いままでに記述された事件、計二十七件を調べた結果、その総てが実在の物と言って差し支えない、と、彼らは判断した。
「それにしても、このブログは滅入る」
「リュートも滅入ったりするんだ?」
 常に冷静な龍人を見ているツクシにとって、泣き言を呟く龍人は新発見なのだろう。
「文もさることながら、スクロールしてもついてくるこの目玉が嫌だ。なんか気になるし、監視されてる感じがする」
 雰囲気を出すという意味では成功だが、やりすぎ感は否めない。
「ウィンドウ小さくして隠そうとしたけど、これだけは隠れないのね」
「プログラム・ミスだろ。スタイルシートで表示位置指定したら、こうなっただけだろうけど」
「イヤなプログラム・ミスだね」「ま、それはいい。……で、事件は全部犯人が違うけど、共通点があるよな」
 二人とも共通点に気付いているとの再確認をする。
「はーい! どれもこれも恋人を殺してます!」
「……身も蓋もない……けど、そうだね。犯人の性別、犯行時間、殺害方法は違っても、被害者は恋人で、さらに『別れ』や『浮気』……少し広く言うと、関係の悪化が絡んでるという点が共通している。さらに、殺害後にブログを書いたということも共通点だな」
「ブログに書いてあるんだから、そーに決まってんじゃん」
 ツクシは“そんなの当たり前”と言わんばかりの口調だ。
「ブログを中心に考えれば、ツクシの言うとおり。でも、個々の事件として考えると、二十七人もの犯人達が、一つのブログに記事を書いているという事は、異常としか言えない。となれば、『ブログを書く前に逮捕された人』だって、いるかも知れない」
「……言われてみれば、そーね。それに、普通、記事を書くにはパスワードがないと書けないから、そこも異常よね」
「ああ、どこにも見当たらないのに、二十七人が書けてるんだよな……」
 数人が集まって、一つのブログを管理しているということも一般的ではあるが、それとは明らかに違う。
「殺人を犯した人には、パスワードが見えるとかっ!」
「……なんだ? いま『ひかりごけ』って言葉が思い浮かんだぞ?」
「『ひかりごけ』ってなに?」
「自分で調べろ。一応言っておくが、未来の世界のネコ型ロボットのポケットから出てくる道具は『日光ゴケ』だ。って、『の』が連続したな。ともかく、その意見は無視できないな」
「……へ? ドラちゃん?」
 一気に巻くしたてられ、ツクシは混乱しているようだ。
「……違う。『殺人者』には、パスが見えるんだよ、きっと」
「どゆこと?」
「あくまで可能性だ。だから、調べてみるんだよ、これから、ね」
「……えーっと、まさか……殺したりしないよね?」
 ツクシは、龍人の発言に、不適な物を感じたようだ。


「まったく、こんなところに隠してるとは」
「だから、ずっと左にあったのね」
 二人が使っているソフトはインターネット・ブラウザではない。新聞に掲載する写真を加工するために使っている、フォトレタッチソフトである。
 フォトレタッチソフトのウィンドウには例の目玉が動く画像が、アニメーションパターンの計四種類表示されていた。ただ、背景の黒地部分に、文章が書かれている。
「黒バックに溶けこむ、微妙に違う黒で書いておくとは……」
 普通ならば目立たないどころではなく、ただの背景にしか映らない。だが、少しでも色が違えば、フォトレタッチソフトで浮かび上がらせることは簡単だ。
『お前の恋人を殺せ』
『殺人の記録をつけろ』
『パスワードは“goldam”』 そして、最後の一枚には、マーダーズ・ログとは違う、あるURLが書かれていた。
「リュート、こんなので、人を殺すのかな?」
「サブリミナルは知ってるだろ?」
「うん」
 サブリミナル、潜在意識に指示を与え、相手を操ることだ。映画に於いて、僅か三十分の一秒という短い一瞬に、炭酸飲料を飲んでいる写真を挿入したことで、その映画を観た人が、その炭酸飲料を飲みたくなったというエピソードがある。「普通は、殺人という『種の保存に反した行為』に対しては、潜在意識レベルになるほどブレーキがかかる。でも、気持ちが揺らいだとき、『殺人』側に転ぶ後押しになる場合がある」
「ホント?」
 龍人の説明に、ツクシは疑わしそうだ。
「仮説だけどね。でも、明らかにサブリミナルを狙った隠し文字があって、それを常に表示させといて……そして、実際に恋人を殺した人間が二十七人もいる」
「でも、記事を書いた犯人が、このブログを見てたかどうかは……」
 ツクシは疑問を言いかけて、何かに気付いたかのように、口をつぐんだ。
「『マーダーズ・ログに記事を書くという発想を持つ犯人が、マーダーズ・ログを読んだことがあるかどうか解らない』なんて、変なこと言いそうになっただろ?」
「だから……やっぱり……」
「ああ、別れ話なり浮気なりで、『恋人を許せない』という心理状態になったとき。サブリミナルで散々見てきた『恋人を殺せ』という指示を実行してしまった……」
 それでも、殺人という一線を越える人は稀である。しかし、悲しいことに、二十七人もの人間が、越えてしまっている。
「誰がこんなことを……」
「それは、このサイトに書かれてるんじゃないかな?」
 龍人はインターネット・ブラウザを立ち上げ、画像に隠されていたURLを打ち込む。
 ちょっとした読み込み時間の後、マーダーズ・ログとは打って変わって、なんの演出もない、白バックに黒文字の味気ないページが表示された。
 龍人とツクシは、そのページに書かれた文章を黙読する。
『このページを見てるアナタは殺人者のはずだ。あんな仕掛けで殺人を犯すとは思えないけど、これを見てくれてるなら、無い話でもない。アナタは男か、女か、解らないが、恋人を殺した。ボクの仕掛けに後押しされたかも知れないけど、これはアナタの罪だ。殺人教唆? それでもボクは裁かれない。なぜなら、このページを作った後は、死ぬだけだからだ』
「被疑者死亡のまま送検してぇ……」
 もちろん、龍人は警察官ではないので、送検はできない。
『そうだ、忘れていた。名乗っていなかったね。ボクは酒井俊哉』
 そこに書かれていた名前に、二人は驚愕する。
「酒井俊哉って……」
「ああ、コイツがマーダーズ・ログを遺したってことか」
『ボクを殺害した事件が報道されるかは、ボクが生きている間には解りようがない。しかしキミは知ってるはずだ。マーダーズ・ログの最初のブログ。その被害者になる予定だよ』
 酒井俊哉、バレンタインの事件の、被害者。
『最初のブログだけはボクが書いた。すでに、彼女に暗示をかけてある。そしてブログどおりにボクを殺してもらうつもりだ』
「なるほど、バレンタインの記事に『動機』は書かれてたけど、『殺害方法』は書かれてなかった。彼女がコイツをどう殺すかまでは、操りきれないってわけだ」
『これはゲームだよ。ボクが作った、最高のゲームだよ。これからもマーダーズ・ログから生まれる殺人者はいくらでも出てくる。世界よ、混乱しろ』
 二月十三日という日付と、酒井俊哉の署名で締め括られていた。
「そんなこと……」
 ツクシは言葉に表せないほどの怒りに震えている。
 龍人はマーダーズ・ログを開き、パスワードを入力し、ブログを書き始めた。
「ちょ……リュート、何してるの?」
 手早く書き終えた龍人は、ツクシに顔を向ける。
「滝の上で男と争ってたら一緒に落ちてしまった。けど、俺はバリツを習得してたから助かった。でも、男を殺してしまった……って内容の文を書いただけだ」
 解る人には解る、明らかにフィクションの文章。
「そんな探偵小説みたいなこと書いてどうするの? ブログの信憑性を無くすとか?」
「いや、このブログも声明文も、軽く消去するつもりだから別に信憑性は、いい。ただ、犯人たちが声明を読んだかが気になったんでね」
「……なんで?」
「そしたら、この通り。ログイン画面にも、編集画面にも、編集後の画面にも、どこにも声明文へのリンクがないんだよ」
 つまり、声明文のページに行くには、画像に隠されていたURLを直接入力する以外にない、ということだ。
「それで何が解るの? どこにもリンクがないからって、入力すれば見れるんだから意味ないよ?」
 実際、二人はその方法で声明文を読んでいる。殺人者たちも、同じ方法で読んだのではないか、と言いたいのだろう。
「犯人たちは声明を見てないよ。理由は二つ。一つめは、このサイトが誰でも見れる状態にあること。逮捕された犯人たちが、このサイトのことを警察に言ってないってことだな。これは後で調べるけど、同じ方法かなんかで、口止めしてるかも知れないし、警察も犯行後のことはあまり聞いてないかも知れない」
 このサイトが警察に知られたとしたら、たちどころに閉鎖されてしまうだろう。だが、閉鎖されていない。
「警察が知らないのと、犯人が声明を見てないのって、どう関係してるの?」
「あの声明を見たら、『マーダーズ・ログに操られた』って、警察に言うだろ。そしたら、警察も少しは調べる。声明だって読むだろう。そうなれば、ここは重要視されて、閉鎖だ」
「声明のことも口止めしてるんじゃない?」
「『俺がお前を殺人者にしてやった。ザマーミロ』って声明を読んだヤツに、『このサイトせいだ、と言うな』なんて言ってもムダだろ? 暗示に、そこまでの強制力は無いよ」
 暗示は、AとBで迷ったときに、どちらを選択するかを操る程度。あのような声明文を見せられては、暗示があっても、サイトのことを語るだろう。
「な……なるほど……じゃあもう一つは?」
「わずか六文字のパスワード程度なら、サブリミナルで伝えられるかもしれないけどさぁ……」
 龍人は視線を声明文に向けた。
「酒井さん。こんな長いURLを伝えられると思ってたら、あなたはサブリミナルを過信してる」


 結局、マーダーズ・ログについて調べたことは、校内新聞への掲載を取り止めた。危険である上に、龍人がマーダーズ・ログと、酒井俊哉の声明文を削除するつもりだからだ。
「今日は疲れたなー。なんか甘い物食べたいなー。そーいえば、駅前に新しいクレープ屋さんが出来てたね。誰かおごってくれないかなー」
 部室には、他に龍人しかいないというのに、ツクシは大声で独り言を言っているようだ。しかし龍人は特に気にする様子もなく、帰り支度と戸締まりの確認をしている。
「ツクシ、鍵をかけるから、早く出てくれ」
「……誰かおごってくれないかなー……」
 ツクシは、それでも上目づかいに龍人を見つつ、独り言を呟いている。
 龍人は問答無用と言わんばかりに、ツクシが部室にいるにも関わらずドアを閉め、鍵をかけた。当然内側から開けられるので、すぐにツクシが出てくる。
「ちょっと! 無視したりドア閉めたり、ヒドイじゃない!」
「やけに大きな独り言だと思ってたけど、俺に言ってたの?」
「もう! ブン屋は耳が命なのよ?」
「情報が必要か否かを選別するのもブン屋の命だね」
 龍人は、改めて部室に鍵をかけ、足早に移動を始める。
「ちょ……ちょっと……」
 龍人は歩みを止めない。
「うぅ……今日は諦めようかな……」
 ツクシがそう呟いたとき、龍人が立ち止まった。
「ああ、そういえば」
 突然喋り始めた龍人に、ツクシは顔を向ける。
「最近駅前にクレープ屋が出来てやたら宣伝してたり、誰かがクレープクレープうるさくてな。それで思ったんだけど、ブログのネタがボツだから、クレープ屋の特集にでもしようか? 校長のカツラはいつでも使えるし、よりタイムリィなネタだと思うんだが……」
 ツクシは満面の笑顔で、何度もうなずく。
「そうか。でも、ツクシは疲れてるんだろ? 取材は明日からに……」
「大丈夫大丈夫! 行こ行こ! すぐ行こ!」
 龍人はツクシに連れ去られるように、下校することになった。


「殺人者のブログ」をお読みいただき、ありがとうございます。
作者の頬白丼(カルカロドン)です。
内容は……気が付けば説明文になって……るような、なってないような。一応、龍人よりも早く謎解きできるように作ってある……と思います。……と、曖昧表現はともかく、感想等いただけますと、今後の励みになります。良いなら良い、悪いなら悪いと、はっきり言っていただきたく思います。よろしくお願いします。













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