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89.恐怖の一夜―Night of fear―
俺達は、無事掃除を終え……亮と梓、ユニスは自分の家へと帰って行った。
亮が帰り際に……
「豊君、君のアドバイス通り梓と仲直りしてみますよ! 報告は明日って事で……じゃ」
などと言って、上機嫌に帰って行った。
とりあえず、腫れた頬が更に腫れない事を俺は願いながら、奴を見送った。
「皆、帰っちゃったねぇ……」
「ですねぇ、少し寂しいかもです……」
「まぁ、あの三人はここの人じゃないんだし、しょうがないでしょ?」
例の三人は、立ち去る彼らを寂しそうな表情で見送っている。
「安心しろ、あいつら毎日の様に来るから……寂しがる必要なんかねぇ」
むしろ、時々鬱陶しくて困る程だ……特に亮……
「なんだ、明日も来るんだ……じゃあ、心配ないねぇ」
何だかんだで、あいつらがいる方が俺も楽しいしな……
「ほら、あんた達……いつまで外にいんの? ご飯の用意出来てるわよ?」
外まで見送りに来ていた俺達を心配して、神社の中から雅が顔を出した。
「わーい、ご飯だー!」
エレンは、雅のその言葉を聞いて一目散に家の中へと戻る。
「ふふ、相変わらずエレンは、食べ物に目がないねぇ……」
ベティがそんなエレンの姿を見て、楽しそうに笑っている。
家で一匹飼ってる猫に、そっくりなんだよな……あいつ……
「全く、幼稚っぽいのは相変わらずね……ま、良いんだけどさ」
どうやら、ヒルダはツンデレ属性の様だ……なるほど、亮が好むのも分かる気がする。
「まぁ、お前らの歳なら笑う時は笑って、泣ける時は泣いた方が良いと思うぜ? 大きくなるとそういう事する暇もなくなっちまうからな」
笑う事は、許されても泣く事は許されない……そう俺みたいになっちまう可能性だってある……
「たまーに、豊さんって難しい事言いますよね? 似合ってませんよ?」
うっ、ちょっと格好良い事言ってみれば、すぐこれだ……
「う、うっせ! とりあえず、今ある時を大切しろって事だよ……」
俺は、これ以上茶化されるのは御免なので、そう言って会話を終了させる。
「う、うぅ……私には、難しくて理解できそうにないです」
そんな言葉を聞いて、ベティは理解できず、頭を抱えて悩んでいる。
「要するに、今が楽しければそれで良い! ……って、事ですよね?」
……まぁ、否定はせんよ
「なるほど! それなら、私も理解できます!」
今のは、理解する様な事でもないと思うが……
「ほーら、三人共! 早くしないと飯無くなっちゃうよー?」
既に玄関前まで走って行っているエレンが、こちらに振り向き……そう声をかけてきた。
「ほら、腹空かせてエレンが暴れる前に、お前ら行くぞー?」
俺が二人にそう呟き、先を歩くと……彼女達も頷き、それに続く……
いやー、しかし、今日は災難続きだったからな……これで、ようやく落ち着けるだろ……
そう思って三人を連れて居間へやって来ると新たな惨劇が発生していた。
「飯だ、わーい! わーい! わー………い」
俺の後を追って嬉しそうにやって来たエレンの笑顔が、居間を見た瞬間消え去った。
「どんな料理が食べれるか楽しみ……ん、どうしたんです……二人共?」
そんな光景を全く知らないベティとヒルダがエレンと同じ様に、俺の後ろへとやって来た。
「え、嘘……何、それ」
ヒルダも目の前に広がる光景を目の当たりにしたのか、驚きの表情を見せている。
俺達が目撃してしまった光景それは……
「「…………」」
祭と聖さんだったモノが口から泡を吹き、痙攣している光景だった……。
ど、毒殺……? そんな危ない言葉が脳裏を掠める。
「ようやく来たわねぇ……今日は、特別に私が作った特製鍋よ」
終わった……何もかも全て……父さん、母さん、俺を生んでくれてありがとう……今から、そっちに向います。
「え、え、え、どういう事!? ねぇ、どういう事!?」
状況を全く飲み込めてない三人が、俺にこれはどういう事か尋ねてくる。
「……簡単に説明するなら、死神が鎌持って……今俺達の目の前にいる……そんな状況」
三人は、その俺の短い説明だけで状況を理解した様だ。
「今日は、大勢だしねぇ……張り切って作ったわよ」
いやいや……雅さん、あなたが張り切ったら死者が出ますよ? この前だって、祭と聖さんが……
それは、つい先日の出来事……なぜか上機嫌な雅が突然料理を作ると言い出したのだ。
「お、お願いだ! 雅! 人間には、超えられない壁と言うものがあるんですよ!」
その言葉を聞いた途端、二人が顔を青くさせて説得を始めた。
「そ、そうだぞ! 人間には、向き不向きがあるって言ったの雅じゃないか! 雅は、無理せず座っているべきだと思うぞ!」
何か二人が必死だった……。
最初は、そこまで言う必要あるのか? なんて甘い事を考えていたが……料理が出てきた途端、全てを理解した。
目の前に置かれているのは、謎の物体X
色は、紫色……先程から、不気味な泡をいくつも吐き出している……。
「で、これ何の実験?」
とりあえず、料理には到底思えないその物体の感想を雅に述べる。
「料理よ、料理! 鍋、湯豆腐よ!」
あのぉ……雅さん、湯豆腐言うけど……豆腐らしき物体が、全然見当たらないんですが……そもそも具が見当たりません。
「もう駄目だ……っ! 終わってしまう……私達の命は、ここで終了なんだっ!」
何か、聖さんが世界滅亡発言を耳にしたくらい取り乱している。
「さ、祭は食べないぞ! 祭は、まだ死にたくない! まだ死にたくないんだよー!」
料理を食べるという行為が、人の生死を左右させるとは驚きだ。
「うっさいわねぇ! なら、あんた達から食わせてやるわよっ!」
その二人の発言に腹を立てた雅は、二人の顎を掴み……その物体Xを強引に口の中に注ぎ込んだ。
「「―――――っ!! ――――――っ? ――――――っ!!」」
二人は、言葉にならない悲鳴をあげながら、それ口にし……息絶えた。
そして、次はあなたの番という視線をこちらに向け、雅が笑顔でこちらににじり寄って来る。
「誰でも良い……助けてくれ」
そんな俺のSOS信号が他の誰かに届く訳がなく、雅に物体Xを食べさせられ……絶命した。
あの事件以来、雅が料理という単語を口にするだけで俺達は、身を震わせ恐怖に脅える毎日を過ごしてきた……そして、今……再びその悪夢が蘇ろうとしている……。
「なぁ、エレン……? こいつが、魔王だろ? 早いとこ始末してくれよ」
俺じゃ太刀打ちできないので、エレンにそうお願いする……。
「え、私? でも、何で私が……?」
エレンは、困った様な表情を浮かべ後ろの二人にも視線を送る。
「大丈夫よ、あんたなら……やれるわ! あんたは、私達の姉さんでしょ?」
ヒルダがそうエレンを激励する……そのヒルダの言葉を聞き、頷くエレン……
「分かった……っ! 私、やる……っ!」
覚悟を決め、目の前の敵を睨みつける……。
「雅さん、覚悟……っ!」
その言葉と共に、エレンは特攻し、雅の元へと歩み寄る……
だが、その特攻を雅はいとも簡単に避け、エレンの肩を掴んだ……。
「……えっ?」
何が起こっているのか、理解できないエレンが驚いた様に雅に視線を送る。
「そう、あなたが一番に食べてくれるのね……? 嬉しいわ」
そして、エレンは断る事も出来ずに無理矢理口に物体Xを流し込まれた。
「――――!?!!?!」
やはり、エレンも言葉にならない声で絶叫し、気絶した。
「エレン……あなたの犠牲は、無駄にはしないわ」
……ヒルダさん、最初からあなたエレンを囮として使いましたね?
「……やっぱ、誰でも自分の命が一番大事だよな、つー訳で俺は逃げる」
俺のその言葉を合図に一斉に三人で各自違う方向へと逃げる事となった。
「あらあら……食事の前の軽い運動? 付き合うわよ」
雅さん……何か、イメージ変わってません? もはや、別キャラですよ……
逃げている最中、どこからともなく……ヒルダの叫び声が聞こえてきた。
「ヒルダ……許せ! 俺は、自分の命を守るで精一杯だ!」
既に神社は、地獄と化し……唯一生き残っているのは、俺とベティのみだ。
俺が風呂場の浴槽に身を潜めていると誰かが……そこへやって来た。
「はぁ……はぁ……何で、こんな事に……」
やって来たのは、ベティだった……。
「さっきまで、あんな楽しかったのが嘘の様……怖い、怖いよぉ」
あ、ベティの奴、本気で怖がってる……ちょっと慰めてやるか……
「よぉ!」
俺は、蓋をしていた浴槽の中から突然姿を現す……
「……ひっ!?」
そんな俺を見て、滅茶苦茶脅えるベティ……
「あぁ、すまん……脅かすつもりは、なかったんだ」
嘘、脅かす気満々だった……反応が面白そうだったので……我ながら最低である。
「な、なんだ……豊さんでしたか……てっきり、雅さんかと……」
もう既にトラウマになってるな……奴の事……
「まぁ、あいつも新しい仲間が増えて喜んでるだけだからよぉ……そこまで脅える必要ないと思うぜ?」
やってる事は、殺戮行為そのものですが……
「そ、そうですか……少しだけ安心しました」
まぁ、かといって、このまま奴に捕まってやる訳にもいかんしなぁ……
「とりあえず、ここなら安心だ……一緒に浴槽に身を隠して、諦めるのを待とう」
そうベティの提案すると……なぜか、彼女は俺に目を向けるのではなく……俺がいる更に奥の場所を見つめ、指を指している。
「あ、……あぁ、……あれ」
彼女が恐怖に脅えながら、指を指した先には……
「へぇ~、どこがどう安全だって?」
外から、風呂場の窓を覗く……雅の姿が……
「お前は、物の怪かっ!?」
恐怖の余り、つい本音でつっこみを入れてしまう俺……
「あら、言ってくれるじゃない? そんな事を言うって事は、覚悟出来てるんでしょうね?」
だ、駄目だ……ラスボスからは、逃げられない……
「はい、あーん」
これ程、全力で拒否りたいあーんは、ない!
「ベティ、逃げろーっ! 俺がこいつを足止めしている隙にっ!」
でも、本人は恐怖で足が動かないのか……俺と雅が争っているのをじっと見つめているだけだ……。
「そこ、隙あり!」
俺が、ベティに気を取られていると……雅が俺の顎を掴み、物体Xを俺の口へ流し込んだ。
「が、がぁぁ、―――――――っ!!」
その瞬間、意識が徐々に薄れ……自分でも気絶すると感覚で理解できた。
そして、薄れていく意識の中で俺は見た……雅がベティに恐ろしい笑顔で、迫っているのを……
お願いだ……ベティ、生きてくれ……そして、俺達の無念を晴らしてくれ……
「さぁ、後はあんただけね……? 覚悟は、良いかしら?」
雅は、笑顔で物体Xを片手に持ち……ベティへと近づいて行く……
「う、うあぁぁ……」
もう逃げる気力もないのか、ベティはその場で蹲り……恐怖に脅えている。
そんな彼女の顎を雅は、容赦なく掴むと物体Xを彼女の口に……
終わった……全滅だ……俺達は、あの大量破壊兵器に屈するんだ……もう誰も止められない」
俺は、世紀末的な展開を予想しながら……ベティの様子を見守る。
「あ、あれ……?」
しかし、なぜか……飲んだはずの彼女は、全く異常を見せず、困った顔をしている。
「どう……私の鍋?」
……ここまできて、自分の料理の感想を聞くとは……
「え、えっと……美味しいです」
う……そ……?
俺は、ベティの放った一言が理解できず、意識が軽く覚醒し、気絶するのを免れた。
「本当!? いやー、作った甲斐あったわ! 良かった良かった!」
雅がすげぇ喜んでる……何か納得出来ない……
「今まで、こんな美味しいもの食べた事がありません! 雅さん、ありがとうございます!」
…………。
「いや、それおかしいだろ! 皆、気絶したんだぞ! 息絶えたんだぞ! その反応は、ねぇ――」
あ、しまった……ついベティの有り得ない反応を見て、つっこみを入れてしまった。
「あら、まだ意識があったの……? じゃあ、もう一杯いきましょうか……?」
現実逃避をする瞬間って、本当に辛くて悲しくて泣きたい状況に起こるんだって……改めて実感しました。
俺は、なす術もなく雅に顎を掴まれ、再び異物を混入される。
そして、俺は……ようやく楽になれた……気がする。
END
「なんて想像してみたんだが、実際にお前の料理の腕前ってどうなん?」
俺は、今朝見た悪夢を雅に話して聞かせ、感想を聞いてみた。
「……死ね」
雅は、それだけを俺に告げ……拳を構えると俺に向って、その一撃を放った。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
神社内に俺の絶叫が響き渡る……
「ふふ、仲良いね……あの二人」
そんな中、台所で食器洗いを任された祭とエレンは、楽しそうに話をしながら作業を進めている。
「祭もそう思うぞ! あの二人は、何て言ったか……噴火する程仲が良いって奴だな!」
どっちがどう噴火するんだろう……とりあえず、お互い火傷は必至だ。
「喧嘩する程……だねぇ、あはは……確かにそうかも」
そんな祭の話をエレンは、笑いながら耳を傾ける。
そして、ほぼ全ての食器を洗い終え……残すは、大きな土鍋を残すのみ……
「あれ……? 祭ちゃん、昨日私達鍋なんかしたっけ?」
その不自然に置かれた鍋に疑問を抱き、エレンは祭にそれを尋ねる。
「んー、いやー? 昨日は、鍋なんてやってないと思うぞー? 一昨日もだ」
エレンのその質問を祭は、素直に受け答えする。
「え、そうなの……? じゃあ、この鍋って一体誰が……?」
世の中には、知らない方が幸せというものが沢山存在する……きっと、これもその一種なのだろう。
「妾は、何も見ていない……妾は、何も見ていないぞ!」
唯一その真実を知る亡霊は、恐怖に脅え……一切その事に関して話そうとはしなかった。
全ては、闇の中……誰もその事には気付かず、今日も平和な一日が訪れる……
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