修正前
79.殺人鬼の正体―Horrific killer's true colors―
「世話になった……でも、本当に二人だけで良いのか? 俺達の所に来れば、ここよりは安全だと思うぞ?」
翌日俺は体を動かせるまでに回復し、文乃達の家を出る事にした。
「すいません……あまり他人は信用できませんので……でも、大丈夫です。二人で何とかしますよ」
なるほど、彼女達が生きてきた経験上……人を信じる事に抵抗を感じる訳か……
「そっか……じゃあ、何も言わねぇ……出来るだけ、早く犯人捕まえて二人が安心して暮らせる様にすっから、期待して待っててくれ」
これ以上、この状況が長引けば彼女達だって狙われる可能性がある……本当に早く解決しねぇと……
「はい、期待してます……ほら、志乃ちゃんも挨拶して」
文乃は、隣で佇んでいる妹の背を押し、俺に近づかせる……。
「…………」
志乃は、黙ったまま俺を見つめ……そして、なぜか手を差し出してきた。
「ん? 握手しろって事か……?」
予想通り彼女は、何も言い返してこないが……目でそうだと訴えている気がした。
なので、俺も手を差し出し、彼女と握手を交わす……
「お前も姉ちゃんと同じ様に、強く生きろよ……?」
俺は、志乃にそれだけを言い残し、二人に別れを告げ家を後にした。
昨日の一件から、半日が経過している……俺は残してきた三人の事が心配になり、彼らがいる場所へと向かった。
「あ、豊さん!? 大丈夫だったんですか!?」
俺がそこに到着するや否や中から出てきた南が俺を発見し、凄く心配した表情でこちらに声をかけてきた。
「あぁ、何とかな……それより、そっちは大丈夫だったのか?」
俺は、病で倒れていた老女の事が気になり、南にそれを尋ねる。
「あ、えぇ……豊さんが持ってきてくれた薬のおかげで、彼女は助かりましたよ」
俺は、その南の言葉を聞き、ほっと胸を撫で下ろした。
「あ……あ……兄貴ぃぃぃぃ!」
そこへ何処からともなく現れた直人が俺にしがみ付いて来て、泣きながら俺を見つめてきた。
「えぇい、引っ付くな! 野朗に抱きつかれて喜ぶ趣味は、俺にはねぇ!」
そう言って俺は、強引にしがみ付いている直人を引き剥がした。
「だってぇ……あんな事言われたら、殺されたと思うじゃないですかぁ……本当に心配したんですよ?」
俺だって、殺されたって思ったわ……今でも何で生きてるか不思議な位だし……
「まぁまぁ、感動の再会はその辺にして……戻ってご飯でも食べませんか? ちゃんと豊さんの分も用意してましたし」
俺と直人は、南のその提案に頷き、拠点にしている空き家の中へと入った。
そこには、布団が敷かれていて中には、あの時苦しんでいた老女の姿があった。
「あぁ、あなたはあの時の……っ! こんな老いぼれの為に、命懸けで薬を取りに言って頂いて……本当にありがとうございます」
老女は、俺の顔を見るや否や……そう頭を下げ、感謝の言葉を述べた。
「いやいや、別にそこまで気にする事じゃないですって……あの時、動けるのがたまたま俺だったから行っただけに過ぎませんよ」
俺は、素直に感謝された事に照れ、そう必死に首を振りながら頭を上げる様伝える。
「あれ、兄貴照れてるんですかぁ? 意外に兄貴にも可愛い所が――」
とりあえず、横で調子に乗ってる直人の頭を俺は無言で叩いた。
「いたっ、もう照れ隠しに叩かないでくださいよっ!」
照れ隠しというより、こいつの調子に乗った顔を見ていると条件反射で手が動いてしまうだけだ……
「てか、お前痛みないんじゃないのか? 何で痛がってる?」
あんだけ南を鬱にさせといて、今更嘘とか言わないよな……?
「ノリです」
そうか、ノリか……じゃあ、もう一発喰らえ♪
「うっ、痛くはないですけど、振動が脳に伝わって気持ち悪いんですよ」
……全く理解できん感覚だな、それは……
「ほらほら、二人共……いつまでも漫才してないで食事の準備手伝ってください」
いや、南よ……俺は、別にこいつと漫才をしている訳では……
「はーい」
お前も否定しろよ……
その後、俺達は四人で仲良く食事を楽しんだ。
食事を終えた後、直人は疲れていたのか……気絶する様に眠ってしまった。
「なんだ、こいつ……飯喰った後、すぐ寝るとか……牛か」
俺は、緊張感がまるでない直人に呆れ、ため息をもらした。
「ふふ、しょうがないですよ……彼、豊さんと別れてからずっと寝ずに心配していたんですから……」
……なるほど、こいつにも色々心配させてしまった様だ……。
「仕方ねぇ……起きるまで、そっとしておいてやるか……」
俺は、近くにあった毛布を直人にそっとかけてやった。
「……それで、新しい情報なんですが」
南は、直人が寝たのを確認してから、何か新しく掴んだ情報を俺に教えてくれた。
それは、今日の朝入り口の警官から支給品である食事を受け取る時、聞いた言葉……。
何でも容疑者リストの一人である……写真の三枚目の人物……髪の毛が茶色い……不良の様な若者……そいつが逮捕されたという情報だった。
何でも彼は、警察の理不尽なやり方に腹を立て、町の中で入手した刃物で警官数名に斬りかかったとか……
その結果、殺人事件を抜きにして逮捕する口実が出来、敢え無く御用となった訳だ。
「考えれば、理不尽な話だよな……あなた達は、容疑者です……だから、町から出しませんなんて」
殺人犯を逃亡させない為とはいえ……非人道的な行為に他ならない……
「今回の事件は、そんな手段でしか犯人を抑える事が出来ないって事です……当然です、殺人のプロに一般の警官が太刀打ち出来るはずないんですから」
まぁ、対峙して嫌って程理解してるから、南の意見は否定しない……
「しかし、これで容疑者が一人に絞られた訳だ……」
俺は、一枚の写真を掲げ、南にそれを見せる。
それは、最後の六枚目に写っていた青年……もうこいつ以外に選択肢は、存在しなかった。
「確かに、あの写真に写っていて容疑者として疑わしいのは、彼だけですね……」
南も俺と同意見なのか、俺の目を見て頷いている。
「犯人が分かれば、こっちのもんだろ……明日俺はこいつを探しに町の中を探索してみる」
そして、発見できたら……この前の借りを必ず晴らしてやる……っ!
「もうすぐ終わるんですね……この悪夢の様な時間が……」
南は、少し安心したのか……表情を緩ませている。
「あぁ……っ! 明日、全てが終わるっ!」
まぁ、殺されたら……そこで終了だけどな……
俺は、明日の準備の為、銃の残りの弾数と刀の具合を確認する事にした。
俺は、銃からマガジンを取り出し、中身を確認した……残りの弾の数は何とゼロ……。
どうやら、最期に奴を退いた時に残り全ての弾を撃ち尽くしてしまったみたいだ。
なので、今回もう銃の出番はなし……と
次の刀の確認……残念な事に刀身には、血が一滴も付いていなかった。
つまり、退いた時に奴を一回も斬れていない事になる。
銃が使えない以上、俺はこれだけで戦うしかないが……後は小道具で、何とかするしかないか……
俺は、荷物を開き……今回持ってきた道具を再確認する。
一つは、かんしゃく玉……相手が怯むと思って買っておいた品だ。
二つ目は、緊急時のナイフ……刀をロストした時の代わりって事で、持ってきた物だ。
最後は、スタンガン……これは犯人を捕らえる時に使用しようと思って買った品だ。
今回は、相手が人間だからって事で余り真面目に準備をしていなかった……今更だが、凄い後悔している。
まぁ、でも愚痴を言っても状況が変わる訳じゃないので、諦めてこの道具だけで何とかしようと思った。
そして、犯人と決着を着けると決めた次の日の朝……
「本当に行くんですね……昨日も言いましたが、私も一緒に付いて行った方が……」
昨日の夜、装備の点検をしている時に南が自分も一緒に戦うと言って来たのだ。
まぁ、勿論断ったが……
「昨日も言ったが駄目だ……あんたには、残り二人を護衛するって役目がある」
それに、もし俺が負けた場合、その事を警察に伝える人間がどうしても必要だった。
その事は、彼女も理解してくれたし……同意してくれた。
でも、俺の怪我の事を知っているから、心配でそう言ってきたんだろう……
「…………」
南は、俯いて何も答えようとしない……
「大丈夫、俺悪運だけは強いからさ……さっさと片付けて外で一杯奢ってくれよ」
俺は、軽く笑いながら酒を飲むポーズを取る。
「未成年の飲酒は、警官として容認できませんよ……まぁでも、二十歳になったら付き合ってあげます」
はは、まぁそりゃそうか……
「じゃあ、ちょっくら……殺人道化師倒してくるわ」
俺は、軽く遊びに行く感覚でそう南に呟くと用意した装備を身に付け、その場所を後にした。
町中は、前より増して静かだ……まぁ当然か……以前より人のいる数が減ってんだから……
俺は、無言のまま周囲の気配を探り……何かが潜んでいないか探る……。
犯人は現場に戻る……その言葉を思い出し、俺は最後に襲撃された現場に向かう事にした。
奴がいないにしろ重要な手がかりがあるかもしれないと思ったからだ……。
そして、現場に着き……期待はしていなかったのだが、本当に重要な手がかりを得てしまった。
それは、地面に付いている血痕……それがまるで奴の逃走ルートを伝える様に床に付着していた。
恐らく俺が自棄になって撃った銃弾の一発が、奴に当たり……負傷したのだろう。
つまり、これを辿って行けば……いつか犯人とぶつかる訳だ……。
「最後の最後で間抜けだな……殺人道化師さんよぉ」
俺は、その血痕を頼りに血が付いてる場所を確認しながら、前へと進む……
辿り着いた先は、どこかの会社の5階建てのビル……間違いなく犯人は、そこに潜んでいる。
それは、中から発せられる気配が証明してくれた……。
「…………」
俺は、刀を抜き……足音を消して、中へ潜入する。
中は、当然真っ暗……病院の時みたいに隙を狙われ刃物で一撃なんて、可能性も出てくる。
俺は、神経を集中し……奴の気配を探る。
「はぁ……はぁ……」
予想外な事に、奴は隠れる事もせずに三階で苦しそうに息を切らせていた……。
どうやら、弾の当たった箇所が致命的な位置だったのだろう……
俺は、気配を消し……奴に近づく……
「くそっ、何で俺が……っ! あいつ、弱ってたはずじゃ……っ! 油断したとは言え……あんな奴に俺がっ!」
奴は、悔しそうにそう声をあげている。
「次会ったら、必ず殺してやる……っ!」
…………
「残念、それより先にお前がチェックメイトだわ」
俺は、刃を奴の背中に向け、そう声をかけてやった。
「……っ!? お、お前……っ!?」
奴は、ここに俺がいるのが相当意外だったらしく……動揺した表情を浮かべる。
「お前な……いくら焦ってるからって、血痕を道に垂らしていたら……見つけてくださいって言ってる様なもんだぜ?」
俺は、悪魔の様に笑いながら……奴を睨んだ。
「く、くっ……っ! こうなったら……っ!」
奴は、すぐに懐から刃物を取り出そうとするが……それを俺は刃で防ぎ、奴の腕に怪我を負わせる。
「うあぁぁっ! 手が……手が……っ!」
しかし、変だ……病院で遭遇した時の奴は、こんな間抜け面を晒す様な馬鹿な奴だったとは思えない……俺の気のせいだと良いんだが……
「お前、狩る経験は多いみたいだが……狩られる経験は全く無いみたいだな?」
俺は、刃を奴の額に向け、冷めた目でそう呟く……
「ひ、ひっ! お、お願いだ! 何でもする……っ! だから、助けてくれ!」
この期に及んで命乞いとは……益々こいつが別人に思えてきた……。
「……別に俺は、お前を殺したい訳じゃない……大人しく捕まるなら、それで良いさ」
俺は、放っていた殺意を消し、奴に向けていた刃を下ろした。
「あ、ありがとう……っ! ありがとう……っ!」
奴は、感謝の言葉を述べながら……右手で何かを取り出しているのに気付いた。
「…………」
俺は、面倒になったので無言で奴の首筋に峰打ちを決めた。
後は、こいつの居場所を警察に伝えて……俺の仕事は、終了っと
何て呆気ない仕事なんだ……病院での出来事が嘘の様……っ!
「まぁ、後は警察が何とかする……多分」
俺は、今まで溜まっていた疲れもあってか、考えるのも面倒になり……南達がいる場所まで帰還する。
「豊さん、帰ってきたって事は無事犯人を倒したって事ですよね!?」
そんな俺を嬉しそうに歓迎する南……
「あぁ、後は場所を教えるから……南から連絡入れて、入り口の連中に逮捕させてくれよ」
ここまで運んでこようか考えたが、無駄に疲れるだけなので止めた。
そう言った所で、周囲の異変に気付いた。
「あれ、あの馬鹿は……? また食料盗みに行ってるとか?」
俺は、本来なら真っ先に抱きついて来るはずの男を辺りを見渡し、探る。
「あ、直人さんですか……? 豊さんが、犯人を捕まえに行ったって教えたら、慌てて加勢するとか行って飛び出しちゃったんですよ」
あ、あいつは……最後の最後までアホな野朗だ。
「それより……これで、自由になれるんですね……私達」
あぁ……これで、神社でPCを起動しながら、カップ麺を喰う作業に戻れる。
おっと、その前に……この事を報告してやりたい奴らがいるのを忘れてた……。
もう悪夢は、終わった……これからは、安心して過ごして欲しい……そう伝えてやりたい奴らが……
「ごめん、南……後の面倒な事は、お前に任せた」
俺は、再び部屋を出ようと準備を開始する。
「え、一体どこへ? もう事件は、解決したはずじゃ……」
南は、そんな俺を不思議そうに見つめる。
「いや、どうしても……な、事件が解決した事を教えてやりたい奴がいるんだ」
俺は、出かける理由を素直に南に答え……部屋から外へ出る扉に手をかける。
「そうですか……それなら、私は止めませんよ……教えてきてあげてください」
俺は、南に礼を言い……文乃達が住んでいる家を目指し、走り出した。
今日全てが終わった……もう誰も死ぬ事はなく、誰も恐怖を感じて閉鎖された町に留まる必要も無くなった訳だ……。
これからは、文乃達も以前の生活に戻り……姉妹水入らずで再び暮らせる様になるはずだ……。
そんな彼女達の願いを叶えられた事に、俺は内心嬉しかった……そして、一刻も早く二人が喜ぶ姿を見たかった……。
「文乃、志乃、やったぞ! 犯人を捕まえた! これからは、二人仲良く――」
俺は、インターホンを鳴らす事もせず、文乃達の家の扉を開け、そう叫んだ。
…………。
……………………。
………………………………。
……え?
そこには、笑顔で迎えてくれる二人がいるはずだった……。
感謝の言葉を送ってくれる文乃がいるはずだった。
無言のまま握手を求める志乃がいるはずだった。
でも、そこにあったのは……壁に磔にされた二人の死体……
犯人は、一人じゃなかったんだ……。
「うあ……」
俺は、その場で膝から崩れ落ち、両手で視界を塞ぐ……これ以上、彼女達の惨めな姿を直視しない為に……
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
真っ赤に染まった部屋に……その俺の叫び声が響き渡った。
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