翌日、そんな面倒な事をすっかり忘れ、部室でいつもの様にエロ本を読みふけっていると……
「あ、あの……」
なぜか、部室に霧が姿を現した。
「あれ、一年生? もしかして、入部希望かな?」
日向の奴が、期待に満ち溢れた表情で霧を見つめている。
「あ、いえ、入部希望ではないです」
そんな日向の態度に、若干引き気味で困った表情を浮かべている。
「入部希望じゃないんですか? じゃあ、我が新聞部に取材依頼ですね!?」
木葉も木葉で、日向と同じテンションで霧に言い寄っている。
「う、いや……その、えっと……」
昨日から、少しは理解してたが霧の奴は、知らない人と話すのが苦手なタイプみたいだ。
……そろそろ助け舟、出してやるか
「お前ら、いい加減にしろっての……で、どうしたんだ?」
目が血走っている馬鹿二人の頭を軽く叩き、おろおろしている霧に声をかけた。
「あ、豊さん……やっと見つけました、探してたんです」
なぜか、霧は俺を探していたらしく、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「え、何これ、どんな状況?」
日向は、俺に女子生徒の客が訪れるのが、珍しいのか、信じられないという表情を浮かべている。
「先輩に女性の方が、……ありえないありえないありえないありえない」
一方の木葉は、驚きすぎて頭をやられたのか、呪いの言葉を口走っている。
「……探してたって俺をか? 暇だなぁ、お前……で、何の用なんだ?」
俺は、早くエロ本を読む作業に戻りたいぞ……
「良かったら、一緒にお昼御飯食べませんか? あの子達もあなたに会いたがっているので」
お、驚いた……女子生徒から、飯の誘い……だと……?
「部長、しっかりしてください、部長!」
背後では、話が飛びすぎて気絶したのか、倒れた日向に必死に木葉が呼びかけている。
とりあえず、こいつらは後でぶん殴っておこう。
「別に、飯くらい一緒でも良いが……お前、他に誘う奴いないのか? 仲の良い女子とか――」
あ、また地雷踏んだ……笑顔だった霧の顔が、今の発言で途端に悲しそうな表情に変わった。
「相変わらず、女心が分からない人ですね」
背後では、無視しているのを良い事に、言いたい放題言ってる馬鹿が二人。
「うんうん、この前食事に誘ってくれたと思ったら、近所のラーメン屋よ? ラーメン屋」
日向よ、お前いつの間に復活した……? それと奢ってやったんだから、文句言うんじゃねぇよ……
「ま、まぁ、ここじゃ馬鹿がうるさいし、屋上で食うか? あいつらもここじゃ、来れないだろうしな」
とりあえず、後ろにいる馬鹿二人と一刻も早く離れたいので、霧にそう提案した。
「そうですね……流石に、室内はまずいです」
そんな俺の意思を察してか、霧は俺の意見に賛同してくれた。
「室内がまずいってなんでかしら? 分かる? 木葉ちゃん」
なぜか、背後の二人は今の会話で勝手な妄想を膨らませ始めた。
「多分、屋上で人には言えない……ごにょごにょ」
…………。
俺は、後ろにいた馬鹿二人をぶん殴った後、霧と一緒に屋上へ向かった。
向かう途中、雅が部室に向かう所に出くわしたが、奴は怪しい笑顔浮かべて通り過ぎて行った。
相変わらず、面倒な奴だ。
「良い天気ですねー」
屋上へ出た後、霧は大きく伸びをしながら、そんな事を呟いた。
「晴れだからな」
「凄い返し方ですね……相変わらず」
少し呆れ顔で、霧は俺を見つめている。
「あの、さっきのお邪魔でした?」
どうやら、部室での一件を気にしている様だ……。
「んや、別に? 俺は、あそこの部員じゃねぇしな……あそこだと、エロほ……げふんげふん、落ち着いて読書が楽しめるからな」
俺は思わず、本音が出そうになり、慌てて訂正した。
「既にえっちな本を読んでるの把握済みなんですから、素直に言えば良いのに……」
俺は、紳士だから恥じらいというものを知っているのだよ……それを捨ててしまったら、ただの変態じゃないか。
俺は、隣で弁当を広げる霧を横目で見ながら、買ってきたパンを食べ始めた。
「しかし、屋上って弁当食う絶好のスポットだと思わねぇか? なんで、俺ら以外誰もいねぇんだ?」
俺が、ここを頻繁に使っていた頃は、結構人がいた気がするが……
「多分、私のせいですよ……この子達を連れて弁当食べているから」
こいつ、また鬱な話始めやがった……。
「えぇ、ごっほん、昨日の続きだ、俺の机には花瓶が置いてあってな、その横には素敵な手紙が――」
そんな話を昨日と同じ様に語り始めた俺の口を霧が、必死に塞いで来た。
「わ、わかりました、もう言いません! 鬱になる様な事言いません」
これ、結構楽しい……そんな風に思ってしまった俺は、終わっているのだろうか?
「ったく、飯がまずくなる様な話題はやめろよな? 学校で、唯一の楽しみと言ったら昼休みの食事だけだろうが……」
まぁ、授業をサボってる俺としては、あまり有難味を感じないが……
「そうですね、これからは気をつけます」
その俺の意見に納得したのか、霧は強く頷いている。
「そういえば、豊さんっていつもパンなんですか? 毎日だと流石に、味気ないような……」
「お前は、家の学校の購買パンを舐めているぞ! ここの購買はな、同じあんぱんでも味が一緒だった事は一度もないんだ、つまり、毎日新鮮な味のパンが食える訳で――」
昨日は苦味のあるあんぱんで、今日は辛味のあるあんぱんだな。
ちなみに、俺はわざわざ日向が弁当を作ってきたのを拒否し、購買のパンを食った過去がある。
それほどまでに、ここのパンには魅力があるのだ。
その後、殺されるくらい殴られたけど……
「……それ、食品衛生上やばくないですか? 原材料聞くのが凄い怖いんですが……」
霧は、知らなかった購買の実態を知り、身を震わせている。
「まぁ、今度食ってみろよ、色んな味がして楽しいぞ」
たまに、食後に体調崩したり、気絶したりする生徒がいるみたいだけど……
「……せっかくですが、遠慮します」
霧は、パンが好きじゃないのか、丁重に断られてしまった。
「お前には、これの良さが理解できるよな? ほれ」
俺は、目の前にいた鴉に食いかけのパンを一切れ投げて寄こした。
鴉は、そのパンをじっと見た後、何事もなかったかの様に霧の弁当を食べている。
「あの子達が、食べないとか……相当ですよ、そのパン」
雅は、俺の手に持っているパンを危険視する様に距離を取り始めた。
「…………」
失礼な奴だ、それじゃあまるで俺の味覚のおかしいって言ってるみたいじゃないか。
「そうだ、今度お弁当豊さんの分も作ってきてあげますよ」
霧は、話題を変えるように弁当の話を持ちかけてきた。
「弁当ぉ? いや、俺はこのパンの方が――」
「駄目です、こんなパン毎日食ってたら、いつか死にますよ? 大丈夫、ちゃんとしたの作りますんで」
そんなにこのパンは駄目なのか……? 俺、なんか凹む。
「楽しみにしていてください」
なぜか、霧は嬉しそうに笑いながら、俺の話を全く聞かず、弁当を作る事に決めている。
まぁ、タダ飯食えるから、俺としては助かるけど……
「しかし、会って二日目に弁当とは……やるな、俺」
もしかしたら、俺はハーレムを築く素質を持った選ばれし戦士なのかもしれない……
「……何、言ってるんですか?」
俺のその謎の発言に、霧は呆れた表情を浮かべている。
「今日から、俺の事はお兄ちゃんって呼んでいいぞ!」
つい調子に乗って、そんな事を口走る。
「えっと、一応……同級生なんですけど」
な、なん…・だと……?
「じゃあ、その体から滲み出る妹オーラはなんだ!」
俺の妹ス○ウターが、軽くぶっ壊れる程の戦闘力……基、妹力はあるぞ……
「私に聞かれても……はぁ、本当豊さん見てると私の能力なんてほんの些細なものなんだなって思えてきますよ」
なんか尊敬されてしまった……。
そんな馬鹿なやり取り繰り返している内に、気づけば時計が昼休み終了五分前と示している。
「お前、早く喰った方が良いんじゃねぇか? 俺は、別に急ぐ必要ないけど」
「は、はい……」
霧は、俺そう急かされ急いで弁当を食べ始めた。
「……そういえば」
唐突に、霧は箸の動きを止め、話しかけてきた。
「昨日、警察の人に声をかけられたんですよ……」
それは、日向や雅が話していた教師の謎の怪死事件の事だった。
「な、なんだよ……急に?」
俺は、突然の暗い話題に、困惑した表情を浮かべた。
「先生の死体の上には、数え切れない程の黒い羽が落ちていたそうで……」
警察も鴉が犯人って思っているのだろうか……?
「私、こんな能力持っているせいで疑われてしまって……」
なるほど、雅と同じ様に鴉を使った霧の犯行だと思っている訳だ。
「豊さんは、私が犯人だと思いますか?」
なんか、とんでもない話になってきたぞ……
「まぁ、仮に思ってたとしても犯人の目の前で思ってるなんて言う馬鹿はいねぇだろ?」
次の犠牲者が、自分になるだけじゃないか……
「それもそうですね……でも、あの子達がそんな事するはずは……」
この話を聞くと、霧が犯人って線は消えるな……ということは、鴉の独断?
まぁ、確かに鴉って人を恨むって聞くし、昔小学生の頃、鴉に悪戯した同級生がクチバシで頭を突付かれ、大怪我した事件があった。
今回教師が死んだ事件もそれと同じ状況だったのだろうか……?
「まぁ、気にしたってしょうがない事だろ? とりあえず、早く食べろ……もうすぐチャイム鳴るぞ」
俺は、雅に事件の詳細を聞きに部室に戻る事にした。
仕事を付き合う気はないが、雅がまだ霧の事を疑っているのとなると後々面倒な事になると思ったからだ。
「あれ、どこかに行くんですか?」
必死に弁当と格闘している霧が立ち去ろうとする俺に、そう声をかけてきた。
「あぁ、部室……腹も膨らんだし、昼寝しようかと思って」
「豊さん、あんまり授業サボってると担任に叱られますよ?」
霧が呆れ顔で、そう警告してきたが、もう慣れっ子なので、適当に返事を返し、部室に向かった。
「餌に飢えた鴉の犯行……? いや、あいつら雑食だし、食い物なんて探せばいくらでもあるだろ? それに、生きた人間だぞ? まず不可能だよな」
そもそも鴉って動物を襲って食べる様な習性あるのか?
俺がそんな考えを巡らせていると、同じ様にサボり仲間の雅が部室の前で待ち構えていた。
「そろそろ来る頃だと思ったわ」
どうやら、雅には俺の行動が読めていたらしい……
「言っておくが、霧は犯人じゃないぞ? 奴と話して確信した」
雅が、まだ霧を犯人だと思ってた場合、後々面倒なのでそう忠告した。
「えぇ、私も調べてみてその線はない事が確認できたわ……安心なさい」
どうやら、雅は雅で何かを掴んだみたいだな……。
「じゃあ、犯人は誰だ? やっぱ、鴉の独断か?」
もしかして、もう一人鴉を操れる奴がいるとか言わないよな?
「……これ以上聞くなら、仕事を手伝ってもらう事になるけど?」
雅は、憎たらしい表情でこちらを見ている。
正直、俺には何の関係もないし、会って二日目の女子の為に命を張る義理はない……。
ただ、本能がこれは無視していい問題じゃないと告げているのだ。
解決しないで放置してたら夜中に街中歩けなくなるからな……
漫画喫茶、ゲーセン、コンビニ全ての利用が不可能になったら、俺の生活は終わる。
危なくなったら、雅に全部任せて俺は遠くから見物してれば良いか……
「いざとなったら、逃げるからな?」
今回は、この前の鏡の事件より危なそうだし……
「えぇ、今回の事件はそもそも素人のあんたじゃ、手に負えないだろうしね……期待してないわ」
最初から、戦力として見てもらえていない様だ……。
「それで、今回の事件の犯人だけど……亡者となった鴉達の怨念、これが犯人」
やっぱり、そういうオカルト的な話になる訳だな……。
「怨念っていうと? この前の鏡の亡霊とは、違うのか?」
俺にとっては、亡霊も怨念も大して違いがない様に見えるが……
「亡霊は、幽霊が現世に縛られて悪霊化してなるものよ、怨念は恨み、憎しみ、悲しみ、その感情だけが集まり悪霊化したもの」
つまり、人いや幽霊か……それですら、ない存在なのね。
実体すらもたない幽霊ね……初めて聞いた。
「で、その怨念とやらは、どうやって退治すんだ? 今度は、街灯でも壊して回るのか?」
それだと俺が、器物破損で逮捕されるけど……
「いえ、今回はそんな単純な作業じゃ倒せないわね……怨念を消し去る結界を作らないと」
どちらにせよ、面倒な作業だ……。
その後、雅と話し合った結果、作戦は体育倉庫にあるライン引きを二個拝借し、一人は結界の内部の模様をもう一人は、その模様を円で覆って結界を完成させるというものだ。
そして、完成したら亡者の鴉を誘き寄せて結界に放り込むと……
作戦を聞かされた後、俺は雅からある警告をされた。
「豊、聞きなさい? 奴らは、鴉の恨みそのものが実体化している……それは理解できるわね? つまり、鴉自体に手を出すのは禁物よ?」
雅が言うには、鴉に怪我などを負わせた場合、怨念の力が増し、完成させた結界じゃ退治できなくなる可能性が出てきてしまう様だ。
「じゃあ、大量に来た鴉の対処はどうするんだ?」
無視して作業したら、呆気なく囲まれて食い殺されるだけだぞ……。
「その為に、これを用意したわ」
そう言って雅が出してきたのは、水鉄砲。
「お前、馬鹿だろ……? こんな水遊びで、悪霊なんて相手できるか」
ちょっと驚くぐらいは、するかもしれないが……
「誰が普通の水道水を使うって言ったの? これに入れるのは、これ……家の神社で清められた水、聖水というより、神水ね」
なるほど、確かにこれ入れて撃てば、悪霊対策にはもってこいだな……
「これなら、怪我させる心配もないし、悪霊だけが苦しむ形になるな」
逆に恨みが増しそうな気もするが……
「後、奴を誘き寄せるのにこれを使うわ」
そう言って、取り出したのは鴉の死骸。
「おま、そんな不吉なもんどこで拾ってきた? まさか、自分で……」
こいつだとやりかねないので、困る。
「いえ、神社の裏で死んでいるのを拾ってきただけよ」
俺は、その言葉を聞き、落ち着きを取り戻した。
「それに今、この状況で無駄に鴉を殺してみなさい? 怨念の力が更に増すだけでしょ?」
確かに……
「で、その死体に何か細工して怨念を呼び寄せる訳だな?」
俺は、絶対そんなもの触りたくないけど……
「えぇ、これを使えば確実に怨念は姿を現すわ、後は夜を待つのみ」
という事は、また夜の学校を徘徊するのね……鬱だ。
「……まぁ、ここまで来た以上、最後まで付き合うしかないか」
俺は、諦めの表情を浮かべ、水鉄砲の調整を始めた。
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