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修正前
69.彷徨える魂―Soul that gets wandering―
「な、何なの……これはっ!」
翌日の早朝、俺を起こしに寝室にやって来た雅がそう呟いた。
布団の上には、一枚の紙が置かれている……。

「えっと……何々? 探険に行ってきます……? どうやら、豊君は外にお出かけの様ですね」
亮は、その紙を読み上げ、そう感想を述べる。

「くそ……っ、面倒な仕事……あいつに押し付け様と思ったのに」

「見事に失敗に終わりましたねぇ……はぁ」
俺の仕事の先輩達は、最低だった。

「駄目ですよ、人任せにするのは? その依頼は、あなた方が引き受けたものなんですから」
ユニスが、横で愚痴っている二人にそう注意した。

「しっかし、あいつ……どこ行ったのかしらね?」
そんな疑問を抱きながら、雅と亮は仕事の為の準備に取り掛かった。

その頃、俺は……

「いやっほぉぉぉぉっ! やっぱ、田舎と言えばサイクリングだよな!」
神社から拝借してきたボロ自転車に乗り、町へと続く坂道を勢い良く下って行く……
帰りは、これ上って帰ってこなきゃいけないと思うと鬱になるが……

「どんどん加速するぜーっ! か、風を感じる……なんてな」
俺は、調子乗りながら加速し続け、一気に下り坂を降りた。
前方には、昨日電波少女と会ったバスの停留所が見える。
そろそろ減速しないとまずいかな……

「よし、ブレーキっと……あれ?」
俺は、ブレーキのレバーを必死に掴んでそれを引くが……全く、反応しない……

「う、嘘で……しょ?」
あの神社の連中が、この自転車を利用しない理由が今やっと分かった……。
ブレーキが利きません♪

「だぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は、そのまま停留所に突っ込んだ。
通常なら、死んでいるはずのその行為も主役補正により、俺は無傷で助かる事が出来た。
主役補正って、何だ……?

幸い、その時間停留所には誰もいな――いや、いたよ……一人……。

「…………」
昨日の時と同じ様に、七穂は何事もなかった様にそこに座っていて、外を眺めている。
こいつ、大物だ……そう思った。

「よ、よぉ、七穂! 今日も王子様待ちか?」
俺は、悪戯顔でそう皮肉を言ってやる。

「……うん」
ひ、皮肉にも動じませんか……そうですか……

良く見ると彼女は、どこか悲しげな瞳をしていて……昨日の千夜とそれが被って見えた。
今日は、一人でのびのびしようと思ったが……予定変更だな……

「乗れよ」
説明なんて一切なし、いきなり俺はそう彼女を誘った。

「……え?」
やはり、彼女は驚いた顔をし、状況が読み込めない様子……

「一日くらい王子様探しサボったって、罰当たらねぇだろ……? お前さえ良ければ、一緒に遊びに行かないか?」
こ、これは世間で言う所のナンパって奴なのだろうか……? 亮に見られたら、確実に何か言われるな……

七穂は、しばらく考えた後……

「……わかった」
俺の意見に賛同し、後ろの席に座った。

俺は、それを確認し、ペダルを漕ぐ……
七穂は、振り落とされない様にと俺の腹に手を回す……

「いやぁー、これって青春だねぇー」
気付いたら、そんな言葉が口から漏れていた。

「……青春?」
お、男にしかこのロマンは、伝わらないのか……?

「そう、自転車に男女で二人乗り……そして、談笑しながらペダルを漕ぐ……あ、勿論男が前ね?」
そうしないと柔らかい感触が……(以下略

「い、いや……女が前でボディタッチいやん♪ みたいな展開も良いか……?」
背後を見ると七穂が俺を白い目で見てた……。

に、二次が好きでも……体がっ! 体が反応しちゃうんだよぉぉぉぉぉぉっ!
俺のその心の叫びが、七穂に届く事はなかった。

「豊って、変だね……」
そんな優しい顔して……言わないでくれますか……

その後、俺と七穂は色んな場所を見て周り、買い食いなどをしながら町で一番広い海が見える公園で休憩する事にした。

「あ゛ぁー、疲れた……」
俺は、空いてるベンチに勢い良く腰掛け、そこに寝転がった。
その前方では、七穂が真剣な表情で目の前に流れる海を見つめている。

「この町って……」
そして、それを見つめたまま彼女は俺に語りかけてきた……

「ん?」
俺は、寝転がった状態のまま顔だけ七穂の方へと向けて、彼女の話に耳を傾ける。

「この町って、こんなに広かったんだね……」
俺は、七穂のその言葉の意図が分からず、不思議そうに彼女を見つめた。

「私の記憶にあるこの町は、もっと狭かった気がしたから……」
つまり、昔の町並みと今の町並みは、全く別物って事ね……

「私の見ていた世界が、狭いだけだったんだね……」
一瞬、七穂が小声で中を呟いてた気がするが……聞かなかった事にしておこう。

「あ、そうだ……七穂」
俺は、話題を変えようと他の話を彼女に持ちかけるが……

「あれ……? 豊様?」
偶然公園にやって来たユニスと遭遇し、そちらに視線を移してしまった。

「なんだ、ユニスか……お前も散歩か?」
俺は、乗ってきた自転車を指差し、彼女にそう問いかける。

「あ、いえ、私はお父様に御使いを頼まれまして……」
ユニスは、買い物袋を掲げ、俺にそう説明してくれる。

しかし、タイミングが悪い……七穂と一緒にいるの目撃されたら、亮に報告されそうで……
だが、周囲を見渡した後、彼女は不思議な事を言い出した。

「今、お一人ですか?」
いや、同行者が目の前に……いる……っ!?

俺が七穂の事を紹介しようと視線を戻した時、そこには彼女の姿はなかった。

「え……?」
俺は、状況が理解できず、その場で固まってしまう……

「どうかしたんですか?」
そんな俺を見て、ユニスは不思議そうな表情を浮かべている。

「あ、いや……何でもない、気にするな」
俺は、とりあえずユニスに余計な心配をさせたくはなかったので、平然を装いそう返事を返した。

その後、晩飯を一緒にどうかと誘われたが、七穂の事が気になるので遠慮する事にした。

「それじゃあ、豊様……また次の機会に、家でご飯食べて行ってくださいね?」
ユニスのその提案に俺は、頷くと手を振り彼女と別れた。

「しかし……一体、どうなってんだ?」
俺は、先程七穂がそうしていた様に……ただじっと目の前の海を見続けた。
彼女の見ていた光景と同一のモノを見れば、今起こった現象が少しでも理解できるんじゃないか……そう思ったからだ。

結局、その後、しばらくベンチで彼女を待ったが、現れる様子はなく……俺は、神社へ戻った。
彼女が一体何者で、何故バスの停留所にいるかは不明だ……。
幽霊……? いや、それにしては人間から感じられる生気……? それを感じ取る事が出来た。
妖怪の類……? それも無いと言って良いだろう、妖怪特有の気配も感じられなかったし……

「ほぉ、人が一瞬で消えたと……?」
夜、稽古を終えた後、千夜に今日の出来事を話してみた。

「あぁ、まるで幽霊の様にさ……最初から、そこに存在してなかった……そんな風に」
俺に詳しい話を聞き、千夜は頭を抱え、悩み始める……。


「ふむぅ……お主の話を聞いて、思い当たるのは一つだけじゃの……」
千夜は、何かを思い出した様に手を叩くと俺にそう語りかけてくる。

「まじか……彼女は、一体何なんだ?」
俺は、その答えが気になり、千夜の話に耳を傾ける。

「生霊じゃよ……」
それは、心霊番組とかを一度は見た事がある人間なら、聞いた事がある単語だった。

「生霊……?」
でも、実際俺は遭遇した事がないので、詳しい説明を千夜に求めた。

「そのまんまじゃよ……生きている人間が何らかの影響で、体を離れ霊体となって辺りを徘徊するんじゃ」
生きてる人間が幽霊になって徘徊……? 冗談だろ……?

「とういう事は、本当の七穂は別の場所にいて、魂だけが俺と一緒に行動していた……と?」
俺のその問いに千夜は、黙って頷いた。

「生霊とは、その者が強く望んだモノに取り憑き、それに依存する……お主が話した娘は、バスの停留所に依存しておるのじゃろう」
なるほど、あいつがあんな場所にいるのも理由があるって訳か……

「しかし、その娘の生霊……かなり厄介な事になってる様じゃの」
千夜は、説明を終えた後、突然そう呟き頭を抱えだした。

「どういう意味だ……?」
俺は、彼女が何で悩んでいるのか分からず、それを尋ねた。

「いやな、その娘……お主の事覚えておったのじゃろ? それは、つまり……生霊の姿でも記憶が保持されている……意識があるという事じゃ」
なんだ? 記憶が残ってると何かまずい話に繋がるのか……?

「本来、生霊は元の状態の記憶を失っておる……そして、一度消えれば、その時の記憶は消える……その娘、それに矛盾しておるんじゃよ」
何となくだが、千夜の説明している事の重大さが分かった気がする。

「恐らく、自ら望んで生霊となったか……或いは……」
そこで千夜は、言葉を濁し、俺から視線を逸らした……。

「或いは、何だ! 隠さず教えてくれ!」
俺は、千夜の両肩を掴み、真剣に彼女の瞳を見つめる。

「生霊の枠から、外れてきておる……かもしれぬ」
生霊の枠から外れる……? それって、どういう……?

「死にかけている……という事じゃ」
俺は、その千夜の言葉に目の前が真っ白になった。

その瞬間、ふと七穂が呟いたある一言が頭の中で響き渡った。

『いえ……私が待っているのは、ここから私を救い出してくれる白馬の王子様よ……』
あの時は、ただの電波発言だと思った……。
妙に夢見がちで本当に白馬に乗った王子様が、自分の目の前に現れると信じている……そんな痛い女だと……

でも、あれは彼女が救いを求めるサインだったんじゃないか……?
今になって、そう思った……。

だが、千夜が教えてくれた話は、何一つ信憑性がない……
それに、一つ目の自分が望んで生霊化したって可能性だってあるんだ……。

俺は、その可能性である事を信じ、その日は寝る事に決めた。
明日、また停留所に行ってみよう……そんな事を考えながら……


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