結局、あの後無事に日向と木葉は戻ってきて、部室は使用禁止という恐ろしい事態を免れた。
雅の話では、あの時俺を襲った椅子やら人体模型やらは亡霊によって殺された昔の生徒二人の仕業だったらしい……。
後、美術室の鏡の奥から女学生の白骨死体が見つかったとか、何で気づかなかったんだよと……
何でも、美術の教師に恋をした少女が教師との間でトラブルが起き、殺され証拠隠滅の為に教師が壁の中に死体を埋め、隠したんだとか……
本当、世の中一番恐ろしいのは、やっぱ人間だなとつくづく思ってしまった。
まぁ、そんな訳で無事事件も解決し、楽園で過ごす素晴らしい一時が戻ってきたと思っていたのだが……
「…………」
「……何よ?」
雅は、何食わぬ顔で部室でお茶を楽しんでいる。
「何でお前が、ここにいる?」
俺は、普通に居座っている雅を睨みつけた。
「そりゃ、ほら木葉ちゃんに頼んで……」
その言葉を聞き、俺の視線は雅から隣に座っている木葉に向けられた。
「当然ですよ! 雅さんは、私達を救ってくれた恩人、そんな恩人の頼みを聞かない訳ないじゃないですかー!」
……木葉は、すっかり雅に懐いているのか二人してにこにこ笑っている。
「一応、俺も頑張ったんだぞ……? むしろ、俺が頑張ったから、お前らは助かった訳で」
むしろ、感謝するのは雅じゃなくて、俺だろ……?
「ん、先輩、何か言いました?」
…………。
「何でもねぇよ……」
俺は、不貞腐れて部室内にあったテレビの電源を入れると一緒に設置されているゲームの電源をオンにした。
画面には、テーブルで笑っている恩知らず二人とは比べ物にならない程、可憐で優雅な少女が俺に微笑みかけている。
「あぁ、俺を癒してくれるのは真帆たんだけだぁ……」
ちなみに、真帆というのは今俺に微笑みかけてくれている画面上の素晴らしい少女の事だ。
「ちょ、先輩! また部室内にそんなもの持ち出して!」
後ろで木葉が、何やら騒いでいるが気にしない……俺の聖域を侵せる奴など、この世にはいないのだ。
「なるほど……あんたって、典型的なアレね……なんていうのー? オタなんとかってやつ」
雅は、そんな俺を見ても動揺する所か、怪しげな笑顔でこちらを見ている。
「……うっせ、いやぁーやっぱ真帆たんは良いなぁ、素晴らしい」
俺がそんな至福の一時を堪能していると、デジャブというか何というか……騒がしい声が聞こえてきた。
「事件よぉぉぉ! 事件、事件!」
木葉の次は貴様か……日向。
しかし、二度も同じ展開で話が進むと思ったら、大間違いだぞ日向!
「…………」
俺は、そんな声を無視して黙々とゲームを続行する。
「事件だぁぁー!」
そう言って日向が思いっきり扉を開いた瞬間、コンセントが扉により抜けたのか、画面がブラックアウトした。
「ぐあぁぁ、俺の真帆たんがっ! まだセーブしてなかったのに、フラグが立ち始めてたのに……」
俺は、余りの悔しさに辺りを転げまわった。
「……こいつ、何やってんの?」
そんな俺を見て、日向が退いている。
「あ、先輩気にしないでください、いつもの発作です」
木葉よ、人を終わってる人種みたいに言うな……
「それより、大変よ! あんた達も知ってるかも知れないけど、隣のクラスの堂島先生!」
そう言って机に勢い良く置いたのは、今日の新聞記事だった。
「えっと、何々……? 新人教師、謎の怪死? 犯人は、悪魔ぁ?」
黒いG並の生命力で復活した俺は、机に置かれたその新聞記事を読み上げた。
「そう、悪魔よ! 悪魔! 先生は、何者かに食い殺されたかの様に体がぼろぼろだったらしいわよ?」
そういや、今朝登校する時、校門前に警察が押し寄せてたなぁ……
「……お前、この前亡霊に襲われたばかりで良くこんな話、楽しそうに語れるな?」
俺は、もうオカルトとは無縁の世界に生きていきたいよ……
「当たり前じゃない! この記事を取り上げれば、新聞部の人気は滝登り、部員も沢山やってきて」
…………。
「夢見すぎなんだよ、馬鹿……この二年間入部したいなんて言った奴、木葉くらいじゃねぇか」
他の生徒は、恐ろしいのか近づく事すら滅多にない有様だ。
「う、うっさいわね、と、とにかく! この事件の真実を暴けば、新聞部の名は全生徒に知れ渡るのよ」
悪い方向になら、既に嫌って程知れ渡っているがな……
そんな日向を呆れ顔で見ていると、横目で新聞を眺めている雅が見えた。
これは間違いなく面倒な事になりそうな予感……。
「人を襲う悪魔ねぇ……確かに、面白いかも」
ほら、出たよ……
「おぉ、雅さんはやっぱり、話が分かるわねぇー! どっかのエロ魔人と違って」
日向は、文句を言っていた俺を吹き飛ばし、雅の隣に座ると二人で暑く語り始めた。
「……一生やってろ」
俺は、その場にいるのも馬鹿らしくなり、部室を後にした。
部室を出た俺は、小腹が空いたので購買でパンを購入し、屋上へと足を運んだ。
一年の頃、まだ新聞部に入り浸っていなかった時は、屋上が代わりのサボりスポットだったのだ。
最近、全然足を運んでいなかったので久しぶりに行ってみようと思った訳で……
「たまには、一人でゆっくりするのも良いよなぁ」
そんな事を呟きながら、扉を開くとそこには先客がいた。
雅と同じ黒髪長髪、まぁ見た目は対照的で、体から根暗なオーラが滲み出ている女子生徒だったが……
そんな彼女の周りには、なぜか鴉が数羽いて彼女が与えている餌を必死に食べている。
俺は、そんな不吉少女に絶句したが、人体模型で慣れてしまったのたのか、引き返す事はせずに座れる場所を見つけるとそこでパンを食べ始めた。
「……鴉、怖くないんですか?」
彼女は、別に頼んでもいないのに俺に声かけてきた。
「あぁ、鴉? ただの黒い鳥だろ? 残念な事に、俺はその程度じゃびびらない性質になっちまったんだな、これが」
本当に、不本意だが……
「……? 言ってる事は良く理解できませんが、怖くないんですね」
そんな俺の返答が嬉しかったのか、少女は俺に微笑みかけてきた。
「なんだ、その鴉、お前が飼ってるのか?」
俺は、少しそれが気になったので聞いてみる事にした。
「……違います、この子達は野生の鴉、ただ屋上に来ると私に良く声をかけてきてくれるんです」
へぇー、野生の鴉かぁ……って、声をかける?
「……お前、まさか鴉と会話できるとか言わないよな?」
俺は、少女に雅の影を見て身を振るわせた。
「……はい、あ、でも、大丈夫ですよ? この子達は優しいですから」
オカルト娘、断定。
「へ、へぇ〜……」
……俺の学校は、いつから電波娘養成校になったのだろう?
「へぇ、なるほどなるほど……そういう人なんだ」
なぜか唐突に、少女は一人で頷き始めた。
「……何だ?」
「新聞部で、幸せそうにエロ本読んでる人って彼が教えてくれました」
……じ、事実だし、否定できん。
「どうやら、鴉と話ができるってのは本当らしいな……」
どういう原理かは、謎だけど……
「えぇ、ちなみに今私の腕にのっている子は、女の子ですね」
いや、別に鴉の性別なんで聞いてないんだが……
「とりあえず、そいつには覗き癖は趣味が悪いから、やめとけと言っとけ」
とりあえず、これ以上いらん情報を目の前の少女に伝えない様に釘を刺しておく……
「私、黒江霧って言います。あなたは?」
「俺は、泉豊……しかし、探すといるもんだなぁ、変わった奴って」
俺の周りには、いすぎて困るけど……
「……やっぱり変ですか? 鴉と一緒にいるのは……」
あぁ……どうやら、俺はいらん地雷を踏んでしまったみたいだ。
「まぁ、安心しろ、俺も変わってるからなぁ」
現在部室には、更に変わってる奴がいる訳で……
「え、豊さんも何か能力があるんですか?」
霧は、何かを求める様な目で俺を見てきた。
「おう、脳内で二次元美少女達と会話できるぞ!」
ちなみに俺の脳内設定では、幼馴染、妹、姉、美人教師が俺の恋人の座を狙って争っているという設定だ、いやぁモテる男は辛いな。
「……聞かなきゃ良かった」
霧は、一気にテンションが下がったのか、青い顔をしている。
「んだよ、お前の能力だって大した事ねぇじゃねぇか」
まぁ俺のは、能力という定義にすら当てはまらないと思うが……
「それは豊さんが、普通の人とは違う感覚の持ち主だからで……他の生徒には、白い目で見られてますよ? 私」
なんだ、こいつは? 今度は、自分の不幸な話をし始めたぞ……。
「なんだ、不幸な話がしたいのか? なら、俺が小学生だった頃の話だ、朝登校したら机の上に――」
そう続けようとした所で、霧に口を塞がれた。
「いいですいいです! もう出だしから、鬱になりそうな話題ですから」
「他にも幼稚園時代や中学生時代など様々なバリエーションがあるぞ?」
稀に、話した後自身にダメージが来るトラップ的なものがあるが……
「自分の不幸な話をお得な商品みたいに、紹介しないでください」
霧は、そんな俺の態度に呆れたのか、うんざりした顔でため息を漏らしている。
そんな馬鹿なやり取りをしてる内に、気がつくと昼休みの終わり告げるチャイムが鳴っていた。
「あ、私行かないと……豊さん、話付き合ってくれてありがとうございました」
俺は、立ち去る霧に適当に手を振ると食べかけていたパンを再び食べ始めた。
「面白そうな子と知り合いになったじゃない?」
気がつけば、霧が立ち去っていった扉の前に雅が立っていた。
「お前程面白くはねぇけどな……」
俺は、皮肉を込めてそう言ってやる。
「あら、そう? 面白いなんて言われたの、初めてね……?」
……皮肉で、言ってんだよ
「で、なんだ、今度は? もう授業始まる時間だぞ? 行かなくて良いのか?」
まぁ、俺もなんだけど……
「教師が襲われた事件、犯人が何者か検討つく?」
さっきのオカルト記事か、記事の内容だと人間の犯行ではなさそうだ。
「知らね、熊にでも襲われたんじゃねぇか?」
近くに山あるしな、たまに街に降りて来て大騒ぎになるし……
「さっきね……校門前で、こんなものを拾ったのよ?」
そう言って雅が手渡してきたのは、黒い羽……。
「なんだ、これ? 鴉の羽か?」
こんなの探せば、どこにでも落ちてそうだが……
「えぇ、それも一枚や二枚じゃないの……十枚、いやそれ以上ね……」
こいつは、結局何が言いたいんだろうか?
「うぜぇな、何が言いてぇんだよ?」
「教師を襲った犯人は、鴉……そう言ってるのよ」
なるほど、それでさっきの面白い子発言に繋がる訳か……
「お前は、疑ってるのか? あの霧って、女子生徒」
俺には、あいつが人を殺す様な奴には見えなかったけどな……
「さぁてね……まだ、証拠がないから何とも言えないわ、でも鴉が犯人……これは、間違いない」
「で、なんで俺に話した訳? 俺は、もうお前の仕事の手伝いなんてしねぇぞ?」
この前は、部室が危機だったから手伝っただけで……
「別に、手伝う気がないのならいいわ……でも、あの子のあの能力、用心なさい?」
雅は、俺にそれだけを伝えると教室へと戻っていった。
「…………」
俺は、その後、何もする気が起きず、そのまま屋上で寝て過ごした。
今さっき知り合ったばかりの女子を簡単に信用するのは、どうかと思うが……
俺には、霧が鴉を使って教師を殺害したとは、とても思えなかった。
雅の様に事件を解決しようとは思わないが、早く犯人が捕まって欲しい……そう思った。
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