ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
修正前
04.心霊現象―Poltergeist―
「ちきしょー、こんな事なら体鍛えておくんだった」
そんな愚痴をこぼしながら、奥にあるもう一つの階段へと全速力で走った。
道中、見かけた複数の鏡を迅速に叩き割ると、階段を駆け上がり、二階へとやってきた。

「はぁ……はぁ……一階の鏡は、全部割った……後は、二階と三階」
新校舎と作りが一緒なら、残りの鏡が設置されているのは、二階と三階の男子・女子のトイレと職員室、図書室、美術室の八ヶ所だ。
俺は、とりあえず階段の近くにある二階のトイレに向かった。

「もう怖えぇとか言ってる場合じゃねぇよな……」
幸い、来たのが夕暮れ時だったから、僅かな光が校舎全体を照らしている。
多分、深夜の校舎だったら俺は、下半身を濡らしていたに違いない……。

「まずは、男子トイレ!」
俺は、異臭を放つトイレの扉を勢い良く開けた。
中は、薄暗く何が出ても不思議ではない雰囲気を漂わせている。

「何も考えるな泉豊! いや、でも怖すぎだろ……これ」
俺は、そんな弱気の発言とは裏腹に、目に映った鏡を躊躇無く破壊していく……。
割った瞬間、女性の悲鳴みたいのが聞こえたり、肩を掴まれたりしたが、多分気のせいだろう……。

その後、難なく隣の女子トイレの鏡を破壊し、この調子ならいけると余裕の表情で廊下に出た時、恐ろしい光景を目にした。

「い、椅子が沢山……浮いてる」
幾度となく襲ってきた椅子が、今度は数え切れない程宙を浮いているのだ。
しかも、その椅子は何かを伺う様に怪しい動きをしている。
間違いなく、俺を探してる……俺は、咄嗟にトイレの中に戻り、様子を伺った。

「多分、このまま廊下に出たら、一斉に襲い掛かってくるよな……」
椅子は、先程から付近の教室を行ったり来たりしている……。

「でも、一箇所ずつ調べられていったら終わりだ……」
しかも、既に椅子は近くの教室まで迫ってきている。

「……覚悟を決めるか、目の前の教室に入った時がチャンス……っ」
中を調べている間に、一気に奥の図書室まで駆け込めば、何とかなる……かも。

「流石に、椅子に圧迫されて死ぬなんて御免だ……」
俺は、椅子が目の前の教室に侵入するのを確認すると、勢い良く扉を開き、廊下を走り出した。

その音に気づいた椅子は、一斉に背後から追いかけてくる……。

「やべぇ……全部きたっ! 追いつかれたら、間違いなく死ねるっ!」
俺は、自分でも信じられないスピードで駆け抜け、図書室目前という所までやって来た。

「よぉし、これで……」
俺がそう油断した瞬間、前方の階段から増援(椅子)が飛んできた。

「椅子椅子椅子……椅子ばっかりじゃねぇーかっ! たまには、机も来い!」
俺は、自分でも意味不明な事を叫びながら、前方から来る椅子を滑る床を利用してスライディングで回避し、図書室の中へと駆け込んだ。
そして、瞬時に中から鍵を閉め、おまけに本棚を扉の前に設置し、椅子の恐怖からようやく開放された。

「もう椅子は勘弁してくれ……」
そんな本音をこぼしながら、図書室内の鏡を探し当て、何とか破壊する事に成功。

「後は、三階の美術室とトイレか……」
廊下には、椅子がいるし……どうする?
三階に行く手段を必死に考えていると、ふと小汚い窓が目に入った。

「……これ以外、方法はねぇだろ」
俺は、その窓を開け、三階の窓を確認する。

丁度、頭上にある教室の窓は頑張れば昇れそうな位置にあった。
椅子の脅威と窓から侵入、どっちを選ぶ? と聞かれたら、間違いなく俺は、窓から侵入を選択するだろう。
という訳で俺は、二階の窓から身を乗り出し、三階の窓へと手にかけた。

「くっ……こりゃ結構力使うな……そういや、上の教室って何の教室だったっけか?」
音楽室……? いや、普通の教室だったか……?

まぁ、何でも良いか……そう思い、視線を頭上に戻した時、俺は思考が停止した。

さっきまで何もいなかった三階の窓に、何者かが身を乗り出し、こちらを見ているのだ。
いや、既に何がこちらを伺っているか知っている……それに上の教室が、何教室なのかも……

そこは理科室……そして、頭上で無表情でこちらを伺っているのは……そこに置かれていた人体模型だ。

次の瞬間、人体模型は窓を掴んでいた俺の右手を物凄い力で握り締めてきた。

「いっ、いてぇ……っ!」
俺は、余りの痛みに誤って落下しそうになるが、必死に二階の窓を掴み、それを耐えた。

「いい加減にしろ、てめぇ!」
俺は、未だに千切れるくらいの勢いで腕を掴んでいる人体模型に腹を立て、握られている腕を全力で引っ張った。

すると、模型は体を支えていなかったのか、呆気なく力負けし、頭から突っ込む形で三階から落下した。

「へっ、ざまぁみろ」
俺が勝利の余韻に浸っていると、人体模型は何事もなかった様に立ち上がり、こちらに顔を向けてきた。

「げっ……」
嫌な予感がすると思った矢先、人体模型は有り得ない身体能力で壁を昇り始めた。
明らかに、俺がいる教室に向かって昇ってきている……。

「う、嘘だろ……?」
俺は、窓を素早く閉め、椅子が迫ってきた扉を必死で開けた。

「あんなの相手にするくらいなら、椅子のがマシだ!」
俺は、圧迫死覚悟で扉の鍵を開け、廊下へと再び飛び出した。

しかし、そこには宙を浮く椅子は見当たらなかった。
廊下に飛び出した直後、図書室内で何かが窓ガラスを叩き割る音がする。

「はえぇ、もう来やがった……っ!」
俺は、即行で三階に駆け上がると近くにあるトイレに駆け込んだ。

二階から、奴が段々こちらに迫ってきているのを足音で確認できた。
俺は、息を潜め、気配を完全に絶った。

というか、何なんだよ……あの人体模型はっ!? 亡霊は、一体だけじゃねぇのか?
そんなツッコミを入れている間にも、人体模型は不気味な足音をたてながら階段を昇ってきている。

「鏡壊さねぇと雅がいい加減限界だろうし、かといって割ったら、向かってきているあの野郎に居場所がばれる……あぁー、どうすりゃいいんだ!」
俺がその究極の二択に頭を抱えていると、一階から物凄い爆発音が聞こえてきた。

「…………あぁー、もぉう! どうにでもなりやがれっ!」
俺は、自棄になり、目の前の鏡を叩き割り、廊下に飛び出した。
そこには、当然ながら音を聞きつけた人体模型が立っているわけで……

「さっきから邪魔なんだよ、お前!」
俺は、持っていたバットを全力でスイングし、人体模型の頭部に叩き込んだ。
すると、予想外な事に奴の頭は吹っ飛び、頭を失ったせいか、その場で倒れて動かなくなった。

「か、勝った……!? よし!」
俺は、すぐに隣の女子トイレに侵入し、設置されていた鏡を叩き割った。

「はぁ……はぁ……後一箇所、三階の美術室」
廊下に転がっている頭部のない人体模型を不気味に思いながら、その場を後にし、美術室へと向かった。

「結局、全部回る羽目になっちまった……後一箇所早く壊してやらねぇと、ん……?」
全速力で、美術室に向かう途中、一階にいる雅の事を思い浮かべていると、背後から変な音
が聞こえてきているのに気づいた。

振り返ると、背後には頭部を失った人体模型が物凄い勢いで俺を追跡してきていた。

「ぎゃあぁぁぁっ! いい加減にしろっての!」
もう逃げる意外に、方法はないので俺はそのまま美術室まで突っ走った。

美術室まであと少しという所で、狙っていたかの如く、また災難が起きた。
今まで姿が見えなかった椅子が、奥の教室から再び現れたのだ。

「同時攻め!? ……死ぬ、間違いなく死ぬ」
そんな絶望的な状況で、俺はある事を閃いた。

「……チャンスは一度、ミスれば死亡確定」
俺は、深呼吸をし、迫ってくる椅子に向かって走り出した。
それを先程と同じ用にスライディングで避け、すぐに立ち上がり、バットを構えた。

「今だっ!」
そして、その椅子を俺は全力でかっ飛ばした。
椅子は、その俺の一撃で勢いを増し、前方へ吹っ飛んだ。
そこには、俺を追跡していた人体模型がいるわけで……
椅子は、見事に人体模型の胸部に命中し、それと一緒に廊下の奥まで吹っ飛んでいった。

「は、はは……やった」
俺は、全ての力を使い果たしたかの様に、しばらくそこから動くことができなかった。

調子を戻した俺は、無事に美術室に到着し、教室内にあった鏡の前へとやってきた。

「ったく、面倒かけさせやがって……っ! いい加減、成仏しやがれ」
俺は、今までの怒りを全て込め、目の前の鏡を叩き割った。

その直後、どこからか少女の絶叫が響いてきた。
どうやら、美術室の鏡が一階の亡霊の本体だったみたいだ。

「よっしゃー、これで一件落着……帰って、エロ本でも――」
そう言ってバットを掲げた時、俺は絶句した。

なぜなら、バットには大量の血が付着していたからだ。
気づけば、割った鏡からの大量の血が流れ出してきている。
……今まで我慢してきた何かが弾け飛んだ気がした。

「いやぁー、何とか退治できたわね、良かった良かった」
そんな俺の心境を知ってか知らずか、所々傷だらけの雅が姿を現した。

「最初は、頼りなさそうだったけど、案外頑張るじゃない? それでこそ、あの人の……ん、何か臭い?」
雅は、教室内から漂う異臭に気づき、顔を顰めた。

「何、この臭い……? どっかで嗅いだ事があるような……」
そう呟き、臭いの元である俺へ目を向けた。

「…………」
俺は、恐怖の余り股間を濡らしていたのだ。
むしろ、人体模型の時に漏らさなかっただけで表彰ものじゃないだろうか……?

「……あ……いや、その……なんか、ごめん……他の奴には、黙っておいてあげるわ」
雅は、気まずそうに教室を後にすると、全速力で下の階へと駆けて行った。

「……死にたい」
その後、しばらく雅から俺に声をかけてくる事はなかった。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。