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03.呪われた鏡―Cursed mirror―
神楽雅と名乗るその電波娘は、頼んでもいないのに電波な話を語り始めた。
内容は、自分は神社の巫女で幼い頃から、人ならざる者と争っている……
俺の父は、日本でも有名な祓魔師で様々な亡霊・妖怪を退治してきたスペシャリスト……
去年、俺の父は仕事の最中に負傷し、呪いをかけられ死亡したと……
そして、父に死ぬ間際に俺の事を頼まれ、今に至るという話だ。

「どう? 理解できた?」

「あぁ、お前が救いようのない電波娘だって事が凄く良く理解できた」
もはや、目の前のこいつは別世界の住人なのかもしれん……。

「まぁ、当然の反応ね……いいわ、じゃあ実際にその目で確認するといいわ」
俺は、その彼女の発言に嫌な予感がした……。

「都合良く今、この学校では亡霊の仕業で、行方不明になっている生徒がいるそうじゃない?」
やはり、昨日までの事件に目を付けたか……。

「まさか、お前……旧校舎に乗り込もうとか言うんじゃねぇだろうな?」
頷いたら、担任に適当な事言って早退しよう……。

「そのまさかよ……今のあなたには、丁度良い相手なんじゃない?」
…………。

「う、急に腹痛が……体調悪いから、俺はこのまま家に――」
そう言って、逃げ出そうと部室の扉に手をかけた……。

「そう? 別に私は、構わないけどねぇ? ただ、このまま新聞部の活動停止が続いたら、この部室も利用禁止になるんじゃない?」
その言葉に、俺は凍りついた……。

待て、この学校に来てから二年間ずっと愛用してきたサボりスポットだぞ?
俺や木葉が漫画やらゲームやら持ち込んでいるせいで、極上の漫画喫茶と化している素晴らしき楽園だぞ?
そんな場所が無くなってしまうなんて、とんでもないっ!

「……身の安全は、保障されてんだろうな?」
俺と雅は、しばし睨み合った後、根負けした俺が口を開いた。

「さぁ……?」
雅は、そんな俺の反応が面白いのか、憎たらしい笑みを浮かべている。

「今、確信した……俺、お前苦手だわ」
これ以上、係わり合いになりたくない程に……

「あら、残念ね……? でも、慣れた方がいいわよ? これから、長い付き合いになるし」
もうつっこむ気も起きず、俺はやつれた表情を浮かべ、ため息を漏らした。

そして、放課後……全ての生徒が下校したのを見計らい、俺と雅は旧校舎の前へとやって来た。
木製の校舎は、外観を見ただけでもそれらしい雰囲気を醸し出している。

「近くで見ると迫力あるな……こんな事がなきゃ、絶対近づきたくない場所だ」
俺は、そんな校舎を前にし、少しだけ身震いした。

「あら、あんた怖がりだったの? まぁ、恐怖っていうのは感覚が麻痺してしまえば、自然と体が慣れてしまうものよ……要は、慣れよ慣れ」
……こいつは、自分で言ってておかしいと思わないのだろうか?

その後、校舎前にいても何の意味もないと雅は強引に俺の手を掴んで、中へ足を踏み入れた。
中は、真夏だというのに妙に涼しく、いかにもな雰囲気が校舎内全体から感じ取れた。
もうこの時点で、俺は回れ右して帰りたい所だが、部室消滅の危機を考えると帰る訳にはいかなかった。

「何、固まってるの? 早く来なさい」
流石に場慣れしているのか、雅は余裕の表情で前へ前へと進んでいる。

「…………」
女の雅より、男の俺が怖気づいているというこの状況に、少しだけ憤りを感じた。

このままだと俺が幽霊なんかで怯えるダサい男として認識されてしまう……それだけは避けねば……

俺は、前方を歩いていた雅を走って追いかけ、そのまま前へと出た。

「……素人が前に立つのは危険よ? 下がりなさい」
なら、素人をこんな場所に、一緒に連れて行くなと言いたいが……黙っておこう。

「うるせぇ! 女のお前に、先頭立たせるなんて格好悪い事できるかよ」
俺は、そんな雅の忠告を無視し、雅に背を向けて走り出した。

大体、亡霊なんて、実際に生きてる人間様に敵うはずないっての!

だが、その短絡的思考は、すぐに改める事となった。
走り出した直後、背後から雅の叫び声が聞こえた。

「避けてっ!」
その声の意味を俺は、瞬時に把握し、身を屈めた。

身を屈めた直後、教室内に設置されていた木製の椅子が俺の頭上を通り過ぎた。
その椅子は、そのまま前方へと飛んで行き、奥の壁に衝突した。
椅子は、壁に食い込み、埃を撒き散らしている……。

「…………」
え……? 何、これ……? 当たったら、洒落にならんでしょ……?
俺は、今目の前で起こった現象が理解できず、身動きがとれずにいた。

「あんたねぇ……死にたくないなら、変なプライドは捨てなさい? じゃないと、本当に殺されるわよ?」
俺は、無言のまま説教をする雅に頷いた。

その後、なんとか無事に鏡の前へとやって来た俺達は、亡霊を退治する為の準備を始めた。
雅が立てた作戦は、雅の持つお札で無理矢理亡霊を鏡から引きずり出し、出ている間に俺が持ってきたバットで鏡を割る……そういう内容だ。

「しかし、一つ疑問に思ったんだが……」
俺は、その作戦内容を聞いて、疑問に思った事を口にした。

「ん? 何か、不満でもあるの?」
意見を出してくるとは思っていなかったのか、雅は意外という表情を浮かべている。

「いや、これ、鏡割ったら連れ去られた奴らはどうなるんだ? 死んだりしねぇよな?」
ホラー漫画やらゲームだと、物凄い死亡フラグな気がするんだよな……。

「あぁ、それは安心していいわ……妖怪の類ならともかく、相手が死んだ人間だからね……そこまでの力は持っていないはずよ」
……こいつ、今憶測だけで物言わなかったか?

「……なんか信用できないけど、これしか方法はなさそうだしな」
俺は、手に持つ木製のバットに力を込めながら、必死に鏡を叩き割るイメージを浮かべた。
雅の話じゃ、失敗は許されないらしいから……相当なプレッシャーだ。

「ほら、ぶつぶつ言ってないで始めるわよ?」
雅は、そんな俺に指示をすると懐から怪しげなお札を取り出した。
そして、そのまま鏡の前にそれを掲げ、何やら不思議な呪文を唱えている。

すると、校舎全体がそれに応える様に揺れ始めた。

「お、おい……? やばくねぇか、これ……?」
呪文を唱えるのに集中している雅に必死に声をかけたが、完全に無視されてしまった。

「なんか、とんでもなく嫌な予感がするんだけど……」
俺がそんな不穏な事を口走った矢先、その期待に応えるかの様に先程、俺を襲った物と同じ木製の椅子が次々に階段に向かって飛んできた。

「おい、雅! ……まだ集中してやがる。 バッドで、あんなの打ち返せるかな?」
雅が、使い物にならないので俺は、覚悟を決めて雅に向かって飛んでくる椅子の前に立ち塞がった。

「えぇい! もう自棄だ……っ!」
俺は、飛んでくる椅子目掛けて勢い良くバットを振り上げた。

見事にそれが命中し、椅子は鈍い音を立てて、床を転がって行った。

「ど、どうだ……っ! 滅茶苦茶痛てぇけど、弾き飛ばしたぞ!」
全力で、椅子をかっ飛ばしたせいか、腕がかなり痺れている。
まぁ、そんな事情を亡霊とやらが理解してくれるはずもなく、向かってきたもう一方の椅子が同じ様に目前へと飛び出してきた。

「いてぇぇ……っ!」
再び、それを何とかかっ飛ばす事に成功、俺の腕は既に何も感じ取れないくらい痺れているが……
横目で、雅を見ると手に持つお札が光を放ち始めていた。

「そろそろか……」
俺は、いつでも叩き割れる位置に移動し、バットを構えた。

「……っ!」
ようやく呪文を唱え終えた雅が、鏡に向けてお札を投げつけた。
その途端、鏡から眩い光が放たれ、目の前が真っ白になった。

光が収まり、鏡の前へと見ると真っ赤な衣装に身を包んだ不気味な少女が立っていた。
少女は、俺と雅を見つめ、不気味に笑っている。

「今よ、豊っ!」
俺は、雅のその合図を聞き、目の前の鏡をバットで勢い良く叩き割った。
これで全て解決……だと思っていたが、その不気味な少女は消滅する所か、面白そうに笑っている。

「お、おい雅……お前、これ割ったら解決って言ってたよな? 何なんだよ、この状況」
俺は、今のこの状況がさっぱり理解できず、隣にいる雅に説明を求めた。

「……迂闊だったわ、あの鏡……偽物ね」
そんな俺の問いに、また雅は良く分からん事を言い出した。

「はぁ? 偽物って、なんだよ? 鏡に本物とか、偽物とかあんのか?」

「簡単に言うとあの鏡は、あの亡霊が利用している入り口に過ぎないって事……あの亡霊が憑いている鏡は、この校舎内の別の場所にあるのよ」
あぁー……なるほど、じゃあ本体は校舎内の別の……

「って、ちょっと待て! 鏡って、校舎だけで幾つあると思ってんだ! そんなの探している内に、あのやばい女に殺されるっての!」
俺は、未だに笑っている赤服の亡霊を少女を指差し、叫んだ。

「てか、お前あういうのの専門家なんだろ? なら、お得意のお払いとかお札とかで倒しちまえよ!」
そもそも、なんでこんな面倒な作業でする必要があるんだよ……。

「あの亡霊は特殊よ……鏡に憑いている霊だからね、その憑いている物自体を破壊しない限り消滅する事はない」
な、なんて面倒な奴だ……。

「じゃあ、どうすんだよ? このままだと二人仲良くあの世逝きだぞ?」

「私が、囮になるわ……あなたは、その間に鏡を」
え、何いきなり死亡フラグ……? 馬鹿なの、こいつ……?

「ばっ、お前死ぬ気か? 第一、俺は霊感なんて何もねぇんだぞ? どの鏡かなんて判別できねぇっての!」
全部割って回るなんて悠長な事してたら、確実にこいつ死ぬだろ?

「でも、あなたではあの亡霊の相手なんて無理でしょ? だから、私が……」
…………。

「本当に任せて大丈夫なのか?」
戻ってきたら、死んでましたなんて悲惨な光景は見たくないからな……

「……えぇ、というより、あなたがいても足手まといなだけだしね」
うっ、椅子の件があるから、何も言い返せない……。

俺と雅が話し込んでいる間にも、少女と俺達の距離は徐々に縮まってきている。

「話し合っている時間はないわよ? ほら、狙われない内に早く行きなさい」
雅は、俺の返答を聞かずに前に出ると、先程鏡に投げていたものと同じお札を亡霊に投げつけた。
そのお札のせいか、今まで笑っていた少女の顔が恐ろしい表情へと変わり、雅を睨み付けている。
迷っている時間はなさそうだ……。

「ちっ、俺が鏡叩き割るまで死ぬんじゃねぇぞ!」
俺は、覚悟を決めるとバットを片手に亡霊がいる方向とは正反対の方向へ走り出した。


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