そこは部員以外が滅多に訪れる事がない、新聞部の部室。
本来部外者であるはずの俺は、サボり目的の為にここに良く入り浸っている。
茶は飲み放題、有害図書を自由に熟読可能、面白い話題に事欠かない……こんな素晴らしいサボりスポットを俺が見逃すはずが無かった。
今日も授業が面倒になった俺は、部長の許可も取らず、一人その部屋の中で昼寝を楽しんでいた。
「大変だぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そんな俺の安眠を妨げる様に、姦しい叫び声が廊下から聞こえてきた。
もう慣れてしまったが……奴は、もうちょっと節度ある騒ぎ方というものができないのだろうか?
声の主は、俺の心境なんてお構いなしで部室の扉を勢い良く開け、姿を現した。
「先輩っ! 大変ですっ! 大事件ですよ、大事件っ!」
俺は、興奮している目の前の後輩に無言で近づき……
「いたっ!」
手に持っていたエロ本で、そいつの頭を叩いた。
「いたぁ……何するんですかっ!」
……こいつは、本気で言ってるのだろうか?
「学校内を全力疾走、しかも大声で騒ぎ回ってれば叩きたくもなるだろ」
俺が、他人だったら全力で無視している所だ。
「うっ、で、でも本当に大変なんですよっ!」
なるほど、叩いても騒ぐって事は、本当に大事件みたいだ。
ちなみに、この騒がしい後輩の名は篠宮木葉。
新聞部に入部したばかりの新人だ。
「まずは、落ち着け……今、茶を入れてやるから」
俺は、興奮する木葉を宥め、机の上にある急須でお茶入れてやった。
「あ、ありがとうございます……んぐっ……んぐっ……ぷはっ! で、ですね!」
…………。
「……俺、水分補給して冷静にならない奴って初めて見た」
とりあえず、埒が明かないので木葉の話を聞く事にした。
木葉が言っていた大事件というのは、今朝から話題になっている新聞部部長桂木日向の失踪事件の事だった。
まぁ、部員である木葉にとっては文字通り大事件なんだろうな……
「……なるほど」
木葉の説明を聞いている間、退屈になった俺は再び寝る前に読んでいたエロ本に目を通し始めた。
「なるほどって聞いてるんですか、先輩! エロ本なんか読んでる場合じゃないですよ!」
そんな俺の態度が気に入らなかったのか、木葉は凄い剣幕で怒鳴り始めた。
「そんな事言われてもなぁ、俺らがどうこう考えたって無駄な話だろ? なら、目の前の至福の一時を優先する……これ、間違いじゃないと思うんだ、うん」
俺は、自分でも旨い事言えたと思い、無駄に頷いてみた。
「それでエロ本ですか……はぁ……もういいです、先輩を当てにした私が馬鹿でした」
そんな俺を見て、心底呆れたのか木葉がため息を漏らしている。
「そもそも探すにしても、どこで行方不明になったのか判明しなきゃ、調査しようがねぇだろ」
俺は、そんな木葉の態度が気に入らず、反撃する様にそう言い返した。
「それは、私が掴んでいます。昨日、部長は夏の怪談記事の為に、旧校舎に行くって言ってました」
おい、そういう情報はまず俺じゃなくて、警察に説明するべきではないのか……?
「旧校舎ねぇ……なら、旧校舎で昼寝でもしてんじゃねぇのか?」
まぁ、流石に俺でもあそこで寝るのは遠慮するが……
「先輩と一緒にしないでください! 絶対、鏡の亡霊に連れ去られたんだ!」
木葉は、勝手に妄想を膨らませ、身を震わせている。
「亡霊? はは……くだらねぇ、そんなものいる訳ねぇだろ?」
そんな木葉を見て、つい口が滑り、いらん事を呟いてしまった。
「なんで、いないって決め付けられるんですかっ! 証拠は、何です!」
いや……、じゃあいるって証拠をまず出せよ……と。
「そんなもんねぇよ……でも、変質者に襲われたっていう方がまだ説得力あるだろ」
どちらにしろ、本人は悲惨だろうけどな……。
「先輩って、ゲームやアニメのキャラが好きな癖にそういうのは現実的ですよねぇ……なんか嫌だな、そういうの……」
……悪かったな、そもそも女子に好かれるオタクなんて存在しねぇよ。
…………。
そう思いたい……そう思いたいんだ、俺はっ!
「まぁ、後は警察が何とかしてくれるって、俺ら凡人は目の前の幸せをだな……って、木葉?」
俺が、エロ本から再び木葉に視線を向けた時、既に部室内には木葉の姿は無かった。
「ったく、あの野郎……また面倒な事、起こさなきゃ良いけど」
そんな木葉の行動を少し心配に思ったが、手伝うのも面倒なのでエロ本を読む作業に戻った。
「明日になって木葉の奴も失踪したりしてなぁ、んまぁ……そんな訳ないか」
俺は、自分でも笑えないという冗談を虚しく呟いた。
翌日、学校に行くと篠宮木葉が失踪したと担任の教師から聞かされた。
は、はは……冗談だったのに、現実になっちゃったよ。
俺は、気分が悪くなり、いつもの様に新聞部の部室で横になっていた。
いつも騒がしかった部室が嘘の様に、静まり返っている。
「旧校舎にある鏡の亡霊かぁ……二日続けて、変質者が学校の生徒を誘拐するなんて有り得ない話だしな」
二夜連続だと、亡霊の仕業っていう方が納得できそうだ……。
俺が、そんな事を考え込んでいると部室の扉を叩く音がした。
「新聞部は、現在活動停止だぞー」
扉を叩く人物に、部員が不在なので代わりにそう返事を返した。
だが、扉の前の人物は帰る事はせず、扉を開けて中に入ってきた。
「おわっと!」
その反応に教師だと思い、俺は持っていたエロ本を背中に隠した。
しかし、中に入ってきた人物は、見覚えのない女子生徒だった。
その女子は、俺の目の前と無言でやって来ると……
「あなたが、泉豊ね……?」
俺の名を確認する様に、そう尋ねてきた。
「え、あ、そうだけど?」
良く見ると制服が家の学校のじゃない、転校生だろうか……?
「そう……探したわ、私はあなたに用があってここに来たの」
用って、目の前のこいつは、こんな所で告白大会でもするのだろうか……?
まぁ、見た目黒髪長髪で顔も美人だし、告白されたら即OKだしそうだけど……
「残念だけど、告白する為にあなたを探していた訳じゃないわ……そもそも、転校初日で告白する生徒がいると思う?」
まぁ、それもそうか……って、こいつ俺の思考を呼んだか、今?
「えぇ、私は神通力の持ち主だからね、これくらい簡単な事よ?」
などと、目の前の転校生は、いきなり電波な発言をしている……。
「信じないのは別にいいけどね……それより、本題はこれよ」
そう言って、転校生が取り出したのは薄汚い紺色の細長い布袋だった。
「なんだ、この汚いの……?」
彼女の私物なので失礼だと思ったが、素直な感想が口から出てしまった。
「あなたの父の物よ……」
へぇ、なるほど……家の親父のかぁ……通りで、って待て
「……お前、電波発言もそれくらいにしろよ? 家の親父は、去年亡くなってんだぞ」
死んだ身内の話題を平気で持ち出した目の前の転校生に、俺は少し不快感を覚えた。
「知っているわ、あの人とは死ぬ前日に話を聞いていたからね」
は? 死ぬ前日……? 親父は、不治の病とかいう意味の分からない病気で死ぬ前の数ヶ月の間、寝たきりだったんだぞ……?
「病死ねぇ……世間じゃ、やっぱりそういう認識になってしまうのね」
? どういう意味だ? こいつがさっきから言ってくる事は、意味不明な事ばかりだ。
「彼の死因はねぇ……病死なんて生温いものじゃないわよ? 彼は、殺されたの……奴らに」
殺された? それに奴らって何だよ……てか、こいつはどんだけ電波なんだ……。
「てか、いきなり現れて何なんだお前? 電波受信すんのも時と場所を考えろよな? というより、早く用件だけ言って、消えろ」
俺は、目の前の電波娘に呆れ、ため息を漏らした。
「用件? そうね、そっちから話した方が良さそうね」
なんで、俺はこんな電波女に目を付けられてしまったんだろうか……?
「あなたを見極めに来たのよ、あの人と同じ祓魔師としての素質があるかどうかを……ね」
…………もうどうコメントして良いのかも、分からなくなってしまった。
「……もうどうにでもしてくれ」
俺は、電波娘の話に付いて行けず、自棄になってそう呟いた。
それが、厄介な出来事に巻き込まれる原因になるとは……この時の俺には、知る由も無かった。
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