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16.願い―Wish―
僕は、ご主人様と過ごす一時が大好きだ。
ご主人様のベットの上に寝転がり、頭を撫でられるのが好きだ。
その時、ご主人様が僕に向けてくれる優しい笑顔が好きだ。

だから、ご主人様が時々見せる悲しい表情がとても悲しい……。
それは何か諦めた様な……そんな表情……
そのご主人様の表情を見ると、なぜかこの幸せな時間が失ってしまう様な……そんな危機感を僕は抱くんだ。

ある日、ご主人様がいつも寝ているベッドに遊びに来てみると、知らない大人の人が沢山いた。
白い服を着てる人達……僕は、怖くなり、その日、ご主人様の所へ行く事はなかった。

次の日、いつもの様にご主人様の所へ行き、頭を撫でてもらっているとご主人様が何かを話し始めた。
僕の顔に、冷たい何かが落ちてきた……それは、ご主人様の涙だった。
僕は、そんな涙を浮かべるご主人様に向かって必死に泣き止む様に鳴き続けた。
僕の言葉が、ご主人様に届くはずないのに……

「ごめんね……ごめんね……」
ご主人様は、ずっと僕に向かって謝り続けていた……
僕は、なんでご主人様が泣いているのか……なんで謝り続けているのか、分からなかった。
いや、分かりたくなかった……。

次の日、ご主人様の所へ尋ねるとそこには、ご主人様の姿はなかった。

「…………」
分かっていた事だった……でも、ご主人様なら、いつもの様に僕に笑顔を向けて迎えてくれる……そう信じていたんだ。
でも、それが叶う事はなくて……次の日から、僕はその場所へ訪れる事を止めた……。

知ってはいけない事を知ってしまう……そんな気がしたから……

僕は、以前と同じ様に野良猫に戻った……。
好きな時に、草むらを走り、お腹が空けば、近くのごみ捨て場でごみを漁り食べる。

それは、僕がずっと続けてきた日常だった。
でも、なぜだろう……ふと、とても寂しい気持ちになる。

それは、そこに優しい笑顔がないから……
それは、そこに温かい手の温もりがないから……

僕は、人と馴れ合いすぎてしまったみたいだ……。
そのせいで、いつからか仲間達からも仲間外れにされ、その日一日、生きるのがやっとの生活。

そんな生活に嫌気がさしていた頃、一人の青年が僕に声をかけてきた。
その青年は、とても優しく僕を撫で、そして笑顔をくれた。
この人なら、また僕にあの温もりを与えてくれるかもしれない……

僕は、彼に従うままに彼の家に住み着いた。
でも、待っていたのは、そんな優しいものではなかった……。
彼は、心に傷負っていたのだ……。
僕は、その傷を癒す為の捌け口にされた。

ある日、周りの音が聞こえなくなった……。
ある日、食べている物の味が分からなくなった……。
ある日、視界が真っ暗になった……。

そして、次の日、僕は動けなくなった。

戻りたい……そう思った。
あの幸せだった時間に……僕は、最期の時まで鳴き続けた。
そうすれば、彼女が僕を救い出してくれる……そう思ったから……

でも、彼女は来ない……僕は、彼女にも嫌われてしまったんだろうか……?

いやだ……っ! 僕は、彼女に嫌われたくない……いやだいやだっ!
返して……っ! 僕と彼女の幸せだった時間を……っ!

僕は、意識を失う直後、そう叫んだ。

……気付けば、僕は宙を浮いていた。


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