修正前
15.巫女と猫―Shrine maiden and cat―
「はぁ? 神社に捨てられてた猫ぉ?」
俺は、顔面に負った切り傷を雅に治療してもらいながら、事情を聞く事にした。
「えぇ、それを私の父が拾ってね……それを式神として、契約した訳」
さっきの伸びた爪は、そういう事か……。
「で、なんで、こいつはここにいるんだ?」
俺は、雅の後ろで、こちらを睨みつけている祭を指差し、尋ねた。
「それは、こっちが聞きたいわ……父の所で、手伝いしているはずなのに」
まさか、家出とかしてきたんじゃねぇだろうな……?
「ねぇ、祭? 父は、どうしたの? あなた、父と一緒だったでしょ?」
その雅の問いに、祭は困った表情を浮かべている。
どうやら、本当に家出してきたみたいだ……。
その祭の態度に呆れ、雅は父親に確認にする為、携帯を取り出し連絡を取り始めた。
「もしもし、お父さん……? こっちに、祭が来てるだけど……どういう事?」
雅は、俺らが身を振るわせる程、低い声で父に話しかけている。
「そう、また父さんの悪い癖で家出したの……それ、何回目?」
どうやら、祭の奴が家出したのは一度や二度じゃないみたいだ……。
「無駄に回数覚えてるんじゃないわよっ! もういいわ、罰として、しばらく父さんは一人でなんとかしなさい? え、炊事洗濯……? そんなの自分で何とかしなさいよ!」
おぉ、怖い……雅が、何で知らんが激怒してる……。
その後、しばらく父親と連絡を終えた、雅は呆れた様に溜息を漏らし、携帯をしまった。
どうやら、祭の奴の行く先が決まったみたいだ……。
「で、どうすんだ? やっぱ、帰るまでお前が世話になってる神社に連れて行くのか?」
まぁ、それしか方法ないだろうしな……
「いえ、それがそうもいかないのよね……ここの神社は、強力な結界が張られていて妖怪どころか式神も消滅するくらいの力があるのよ」
雅の奴、結構とんでもない所に住んでたんだな……。
「じゃあ、どうすんだ? 日向か木葉にでも頼むか? 奴らなら、OKしそうだけど」
確実に新聞のネタとして扱われると思うが……
「いえ、一応式神だしね……何かあった時、対応できる奴に任せたいわ」
そう言って雅は、俺に視線を合わせてきた。
とりあえず、面倒な事になる前に先手を打っておこう……。
「言っておくが、俺は飼わんぞ……? 下手すれば、通報されかねないし」
確実に、日向にはロリコン扱いされるだろうからな……
「平気よ、こう見えてこの子、私達より年上よ? 今年で、二年目だし……二十後半から三十って所ね?」
いや、実年齢とかそういうのは、問題にしてねぇ……見た目の問題だ。
「それに、あんたなんかより、この子百倍強いわよ? 間違いなんて、起こる訳ないわ」
それは、先程痛い程思い知ったから、把握済みだ。
「俺は、紳士なんだよっ! 下手すれば変態扱いされる事なんか、付き合ってられるか」
俺は、これ以上話すことがないと会話を終了し、逃げる様にその場を後にしようと扉に手をかけた。
「あら、この前、助けてあげた人って誰でしたっけね……?」
その雅の言葉に、俺はその場で固まった。
「てめぇ……汚ねぇぞ……」
俺は、振り返り、無茶な注文をしてくる雅を睨み付けた。
「という訳で、お願いするわ」
どうやら、俺には断るという選択肢はないみたいだ。
「……俺、お前と関わってから、どんどん人の道から外れてゆく気がするわ」
気がするというより、本当に外れてきている訳だが……
結局、俺は祭の面倒を見る羽目になってしまった。
そして、お昼休み、そんな面倒な事に巻き込まれ、憂鬱な気分の中、部室でエロ本を読んでいると、ようやく日向と木葉が姿を現した。
「あれぇー? なんで、先輩いるんですか? それに、その子誰です?」
木葉よ……とりあえず、質問は一つずつしろ……
「あら、随分と可愛いお客さんね……? あ、あんたの事じゃないわよ?」
誰も期待してねぇよ!
「…………っ!?」
祭は、その二人の登場に驚いたのか、反対の席で同じ様に本を読んでいた雅の後ろに隠れてしまった。
「あれ、しゃいな子ですね……? 大丈夫ですよー、先輩や部長はともかく、私は怪しい人物ではありません」
とりあえず、俺は無言で祭に向かって生意気な事を囁いている馬鹿の頭を叩いた。
「木葉、後で体育館の裏に来なさい……? しかし、人見知りの激しい子ねぇ……雅さんの妹か何か?」
まぁ、当然雅との関係がどんなものか知りたくなるよな……
「いえ、式神よ……ちなみに、私の霊力が低いせいで喋る事ができないんだけどね……この子」
あぁー、なるほど……だから、無口キャラになっている訳か……
「へぇー、式神かぁ、なるほど……」
あれ……? 日向も木葉の奴も何の疑いもなく、式神だって事認めてやがる……。
「お前ら、なんで当然の如く納得してんだよ……」
俺は、二人の適応力の高さに愕然とした……。
「え、別に……ねぇ?」
「えぇ、幽霊やら悪霊やらいるって分かったのに、今更式神程度で驚けと言われても……」
俺が、適応力低いだけなのか……? いや、俺は普通だ、そう思いたい……
結局、隠していても意味がないので、大体の事情を雅が二人に話した。
「なるほど、喧嘩して家出ねぇ……いいわ、しばらく、この部室に行き来するのを認めましょう」
そう言って笑顔を向けた日向に、大喜びで抱きつく祭……。
「何か、困った事があったら言ってくださいねー? 私も力になりますよ」
その言葉で、木葉にも打ち解けたのか、祭は笑顔で木葉に頷いている。
ここは、俺もなんか言っておくべき場面だろ……雰囲気で……
「君は、えっちなお兄さんは好きかな?」
……無言で、腕に爪を立てられた。
俺は、再び怪我を負い部室内を転げまわる……。
「先輩は、場の空気を読まないのが得意ですねぇ」
……お前には、言われたくない
すっかり、最初の時に嫌われてしまったのか、祭が鋭い目でこちらを睨んで威嚇している。
「ははは、嫌われたわねぇ? まぁ、近所の猫にも逃げられるくらいだしね、豊は」
日向は、その光景が面白いのか、馬鹿にした目付きでこちらを見ている。
「……俺は、猫より犬派だ。今、決めた」
主人に従う忠誠心、犬って素晴らしい……
「前に、近所の犬に尻噛まれてなかった?」
…………。
「猫もたまには良いよね♪」
普段はツンツンしてるが、時々デレを見せる……ツンデレ猫、最高!
「あんた、見境ないわね……」
そんな俺の態度に、雅が呆れている。
「私達、弁当ですけど祭ちゃん食べるものありますか?」
木葉が、祭にそう尋ねると、祭はこくりと頷き、風呂敷からどら焼きを出した。
「お前は、未来から来た狸ロボか……」
という事は、あの風呂敷には様々な怪しいアイテムの数々が……
俺は、他の奴らが飯で夢中になっている隙に、祭の風呂敷の中身を覗いた。
中には、凄い量のどら焼きが、大量に詰っていた。
「きゅ、九割がたどら焼きだと……っ!? ……な、なんか、パンドラの箱を開けた気分だ」
俺は、何も言わず、その風呂敷包みを元の場所に戻した。
俺は、夢中になってどら焼きを食べている祭の肩をそっと叩いた……
「…………?」
祭は、なんで肩を叩かれているのか分からず、不思議な表情を浮かべている。
「生きろ……」
俺は、それだけを伝えて自分の席に戻った。
「? ……??」
やはり、祭には俺が何を言いたかったのか、分からず首を傾げたままだった。
放課後、帰る時に祭を連れて帰ると雅と約束し、俺は部室を後にしていた。
気分転換に、屋上の空気でも吸うかと扉を開けると、お約束というのか、霧がそこにいた。
「へぇー、そんな事があったんですか」
そして、今日不在だった霧にその話を聞かせてやった。
「私も祭ちゃんって子に、会いたかったなぁ……残念です」
今日は、霧の奴、珍しく部室に来なかったしな……
「そういや、お前、なんで今日部室来なかったんだ? 他の奴が、不思議がってたぞ?」
その問いに、霧の目が怪しく光った、どうやら、聞いてはならない事を聞いてしまった様だ。
「豊さん、良く聞いてくれました! 私は、今日ですね……他の学生さん達に鴉の可愛さを伝えようと頑張っていたのです!」
…………。
「あの愛らしい目、可愛らしい毛並み、そして、可愛らしい鳴き声! あれの良さに理解がない人は、人生の半分を損していますよ!」
あぁー……なんか、確実に家の部室に入り浸ったせいで、悪い影響受けているな……主に、木葉の……
「鴉アピールは良いから……で、どう頑張ったんだよ?」
俺は、とりあえず、地雷と分かっていたが、聞いてやる事にした。
「もう待ちきれないみたいですね? 良いでしょう! 皆さん、出番ですっ!」
霧のその掛け声と共に、いつもの様に集まる鴉の群れ……そして……
鴉達は、なぜか重なる様に上へ上へと積み重なってゆく……
な、何をする気だ……?
気付いた時には、10羽の鴉全てが段となり、重なり合っている。
い、異様だ……。
「はい、トーテムポール!」
…………。
俺は、何も言わず、黙ってその場を後にした。
背後から、霧の焦った声が聞こえた気がしたが、聞かなかった事にしよう。
「そろそろ帰るか……」
俺は、覚悟を決め、部室で待機しているであろう祭に、会いに行く事にした。
部室の中に入ると、そこには待っていたのか、雅と祭の姿があった。
「ようやく来たわね……? じゃあ、お願いしても良いかしら?」
むしろ、あんな脅し喰らったら、従う他ないでしょう……。
「ほら、祭……あんたも世話になるんだから、頭下げなさい」
祭は、未だに警戒しているのか、俺を睨んだまま動こうとしない……。
「俺って、そんなに嫌な奴に見えるんだろうか……?」
少しショックだぞ……
「見えるじゃなくて、実際に嫌な奴でしょ……? あんた」
…………。
まぁ、ここで話してても埒が明かないので、俺と雅は祭を連れて、学校から出る事にした。
その時も祭は、俺に一切近づかず、雅の腕に抱きついたままこちらを睨んでいた。
「それじゃあ、私は調査があるから、ここで別れましょう」
途中、雅は仕事があるのか、祭の手を解き、無理矢理俺に握らせ、立ち去ってしまった。
「「…………」」
残される俺と猫一匹……。
「さ、さぁて、帰るか……っ! こんな所にいても、どうしようもないしな!」
俺は、寂しそうにしている祭の腕を引っ張り自分の家へと連れて行く……
「…………」
祭は、終始無言のまま、ただ俺の後を付いて来た……。
俺は、この気まずい状況をなんとかしたいと積極的に、話しかける事にした。
「そ、そういや、お前が住んでた場所ってどういう所なんだ? 田んぼとか山しかない田舎って言ってたが」
だが、話していて気付いた……そういや、こいつ話せないじゃん……と。
祭は、その俺の問いに、しばらく答えを返そうと必死になって考えていたが、伝える術がないと判明したのか、手で×マークを作っている。
なんか、もっと気まずい空気になってしまった……。
最悪な事に、その空気のまま自宅へと着いてしまった。
「こ、ここが俺の家だ、しばらくは、住まわせてやるから、感謝しろ」
祭は、俺の家が相当物珍しいのか、周りをじろじろ見ている……。
「ほら、じろじろ見てないで、さっさと入――」
そこで、ふと視線を感じ隣の日向の家の二階の窓を見た。
そこには、やばいものを目撃したという顔で、こちらを見ている日向がいた。
「あ、いや、これは、そのだな……非常に複雑な問題が、その……」
とりあえず、壮絶な勘違いをされては困るので、二階の日向に俺は必死で言い訳をした。
「だ、大丈夫大丈夫、人には他人には言えない秘密の一つや二つはあるものよね? そうよ、きっとそうだわ……豊が、ロリコン……いや、なんでもない! 私、気にしてないからっ!」
俺の言い訳など聞いてもいないのか、言いたい事だけを言って日向は、窓を閉めてしまった。
「…………」
おめでとう、豊は紳士から変態にクラスチェンジした!
なんて、脳内でメッセージが流れ始めている……欝だ。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、祭は家の前を飛んでいた蝶と遊んでいる。
ははは、俺の心境はまさに、蝶と戯れている真っ最中さ……
その後、自棄になった俺は、部屋に祭を案内し、その日は何事もなく終了した。
明日、日向や木葉に、何を言われるか内心びくびくしながら、俺は眠りについた。
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