「…………」
俺は、未だに目の前に広がる光景が理解できず……その場で立ち尽くす事しか出来ない……
「しっかりしろ……っ! レジーナっ!」
その背後では、ブルースさんが腹部を刃物で貫かれ、その場で崩れ落ちた彼女の元へ駆け寄り抱き起こしている。
「あ、ははは……最後の最後で、こんなオチが待っているとはね……」
レジーナさんは、口から血を流しながら……いつもと同じ調子で彼に笑いかけ、そんな言葉を呟く……
「良いから、喋るなっ! 早く病院に……っ!」
ブルースさんは、彼女を気遣う様にそう言葉をかけ……近くの病院へ運ぼうとレジーナさんを担ぐ……
「無駄よ、ブルース……この傷じゃ、助からない」
レジーナさんは、自分の死を悟っているのか……落ち着いた口調で……彼の声に、答える。
「……っ!? そんな事ない……っ! すぐに病院へ行って、手術を受ければ……きっと……っ!」
でも、そんな彼の言葉にレジーナさんは無言で首を振った……。
「やっぱり……遅かったのかな?」
彼女は、涙を流し……彼にそう尋ねる。
「……え?」
ブルースさんは、その彼女の言葉が聞き取れなかったのか……聞き返す様に、その言葉を口にする。
「私達……大事なものに気付くの……遅すぎたのかな?」
彼女は、今までの事を後悔しているのか……涙を拭う事なく、彼に問いかける。
「な、何言ってんだよ……遅いなんて事ある訳ねぇだろ、俺達はまだやり直せるんだ……それで今まで犠牲にしてきたもの……全部、取り戻して……それから……っ!」
彼は、涙でその後続く言葉を口にする事が出来ず……黙ってしまう……
「……やり直す?」
レジーナさんは、遠のく意識を必死で保っているのか……虚ろな表情で、彼の言葉に答える。
「あぁ、やり直すんだ……お前と過ごせるはずだった日々を……日常を全部……」
彼は、既に目を開ける力も失い……倒れこむ彼女を力強く抱きしめる。
「は、はは……何か、初めてブルースから……そんな言葉聞いた……気がする」
彼女は、瞳を閉じたまま……彼に微笑む……
「……っ! これから、いくらでも言ってやる……っ! 言ってやるから……」
俺を一人にしないでくれ……彼は、小さな声でそう言った気がした。
「それは……魅力的な話……うっ、でも……もう無理みたい……放す事すら、満足にできな……い」
彼女の反応が少しずつ鈍くなってきている……終りの時が近いのだ。
「駄目だ、レジーナ……っ! 諦めないでくれ、俺はお前がいなきゃ……っ!」
その姿を見て、泣き崩れる彼の頭を……彼女は優しく撫でた。
「ブルース……? 最期のお願い……聞いてくれる?」
彼女は、終りが近い事に気づいているのか……そんな願いを彼に口にする。
「止めてくれ……お願いだ、最期なんて言わないでくれ……」
ブルースさんは、それを認めたくないのか……必死に首を振り、それを否定する。
「キス……して」
……それが彼女の最期の望みだった。
「…………」
彼は、彼女のその言葉に返事を返さず……無言のまま見つめ返しす……
そして……
「……わかったよ」
彼女のその最期の願いを……涙を拭い、聞き入れた。
そして、倒れこむ彼女の唇に……彼は、そっと口づけをした……。
その後、彼女は彼に満足そうに笑いかけ……
「……ありがとう」
その言葉を口にした……。
それが彼女の……レジーナさんの最期の言葉だった……。
その光景を目の当りにし、ブルースさんは彼女を抱いたまま泣き崩れた……。
「…………」
それを見て、何の動きも見せなかったユニスが……無言のまま彼に近づく……
「お前……何する気だよ?」
俺は、そんな彼女を目にし……咄嗟にブルースさんの前へと立ち塞がる。
「…………」
俺のその問いに彼女は、答える事はなく……黙ったままこちらの様子を伺っている。
「お前、一体どうしちまったんだよ……? 何で、こんな事が……」
こんな酷い事が出来るんだ……? そう……口にするつもりだった。
でも、再び彼女へ視線を戻した時……彼女の様子が変わっているのに気付いた。
「…………」
泣いていたのだ……無言のまま……先程と変わらぬ冷たい表情のまま……
「何泣いてんだよ……っ! お前のせいでレジーナさんは――」
その彼女の行動が理解できず、怒りに身を任せ乱暴な言葉を呟くが……それを意外な人物から止められた。
「止めろ、豊……彼女に罪はない」
それは、今一番彼女を憎んでもおかしくない人物……ブルースさんだった。
「なっ、罪がない……? そ、そんな訳ねぇだろ? ユニスの奴が、あの手から生えてる刃で彼女を――」
俺は、彼が何を言っているのか理解できず……今自分が考えている事をそのまま口にする。
だが、そんな俺の言葉にも彼は首を振り……それを遮る様に、その言葉を俺に向けて呟いた。
「お願いだ、少し黙っててくれ……豊」
俺は、その言葉を耳にし……それ以上、何も言う気が起きず……黙って彼の言う通りにする。
「…………」
そして、彼は無言のまま俺の前に立ち……ユニスと対峙する。
「やっぱり、お前が『器』だったか……最初見た時から、そんな気はしていたんだ」
彼は、俺の知らない言葉を口にし話を進める……。
「…………」
やはり、その彼の言葉に答える事はなく……無言で再び刃を構えた。
「……お前もあの神父の被害者なんだな」
『器』……神父……被害者? どうやら、俺には全く理解できそうにない内容だった。
「豊、お前に……話がある」
不意に彼が俺の方へと向き直り、そう俺に告げた。
「……?」
俺は、今の話が全く理解できなかったせいか……僅かだが困惑した表情を浮かべる。
「『教会』に存在していた……あの地下室についてだ」
彼のその言葉で、俺は神父が襲撃された夜の事を思い出す……
彼の言っている地下室とは、恐らく化物の死体がガラス製のケースに保管されていた……あの場所だろう。
「あの場所はな……」
彼は、しばらく無言だったが……何かを決意したのか、口を開き……俺にその真相を伝える。
「化物の死骸から、『器』となる人を作り出す為に用意された……研究施設なんだ」
化物の死体から人……? ブルースさんは、何を言ってるんだ?
俺の表情を見て、何を考えているのか理解したらしく……彼は、苦笑いを浮かべ……話を再開する。
「実際、俺も詳しい事は知らないんだがな……あの神父は、俺達祓魔師が殺した化物や妖怪の類を回収し、何らかの研究を行っているのは確かだ」
彼の話は、普通に考えれば絶対に信じられる様な内容じゃない……
だけど……
俺は、あの時……あの怪しげな部屋を見た……ケースの中で眠っている化物の姿を……
そして、今目の前に刃を突き立てたユニスが存在している……。
それが……この目の前に広がっている光景が、彼の話が真実だと物語っている気がした。
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