その日、一人の少女がこの街に降り立った。
少女は、見知らぬ土地に期待と不安を抱きつつ改札口まで、重い荷物を担ぎ歩き出した。
なぜか、背に背負っているのはリュックではなく、風呂敷包みだ……まぁ、深い意味はないのだろう。
「嬢ちゃん、一人旅かい? その歳で、凄いねぇ……最近、この街は物騒な事件が多いから、気をつけなよ?」
親切な駅員さんがそう忠告してくれ、少女はそれに黙って頷いた。
「車には、気をつけろよー?」
立ち去る時、駅員さんのそんな声が聞こえた気がした。
少女は、手に持つ地図を頼りに見ず知らずのその町を歩き出した。
少女が住んでいた場所は、車もほとんど通る事がなく、見渡す限り田んぼ……そして山だけがある田舎だった。
なので、初めて目にする都会と言われる場所に、少女は圧倒されていた。
その後、黙々と歩き続け、目的地である学校へと到着した。
少女の目的は、どうやら目の前の校舎内にあるようだ……。
少女は、誰にもばれない様にそこへ忍び込み、目的地である教室を目指す……
途中、そこの教師に発見されそうになるが、素早く身を隠し、やり過ごす事に成功した。
その事態に、少しだけ恐怖を覚えたのか、身を震わせている……。
しかし、余程少女にとって目指す場所には重要なものがあるらしく、怖い思いをしながらも再び、目的の場所に向け、歩き出した。
着いた場所は、新聞部の部室……。
だが、そこには普段いるはずの部員達は全て不在、珍しい光景だった。
彼女は、ここで誰かに会いに来たらしく、不在と知り、奥にあるソファーに座り込んだ。
それは、豊が校長室から盗んできた品で、座り心地は抜群、部員達が昼寝するのに良く愛用されている物だ。
少女は、疲れがたまっていたのか、そのまま横になり、目を閉じた。
次、目を開いた時は、目的の人がいると信じて……
少女が眠りについて、数時間後……。
誰かが部室にやってくる音がした。
それは、ようやく病院を退院し、部室に遊びに来た豊であった。
「あぁー、ようやく抜け出せた……あんなつまらねぇ空間に、あれ以上いたら頭おかしくなっちまうっての……たまには、ゆっくり安らぎの時間というやつをだな……」
そう言って彼は、部室の扉を開けた。
そして、本棚からエロ本を取り出し、奥のソファーに腰掛けようと足を進めた。
「俺の目の錯覚か……? 小学生くらいの餓鬼が、俺の特等席で昼寝してやがる」
そこには、当然の如く、先程眠りについてしまった少女の姿がある。
「誰かの子供か……? いやいや、あいつら、まだ17だろ……? しかし、若さ故の過ちってやつが……」
豊は、目の前の少女に困惑し、ない頭で必死に今の状況について悩み始めた。
「そうだ……見なかった事にしよう」
彼は、そんな素晴らしい解答を導き出し、寝ている少女の横でエロ本を読み始めた。
「…………?」
その座った時の振動で、少女は目を覚ました……。
寝ぼけた少女は、目の前にいる人物が目的の人だと勘違いし、嬉しそうに抱きついた。
「うお、なんだなんだ……? これ、どんな状況だよ……? い、いや俺はロリコンじゃないし、三次元の女なんて……あ、良い臭い」
豊のそんな間抜け発言で、少女は目の前の人物が別人だと気付いた。
「…………っ!?」
少女は、素早く身を引き、威嚇する様に睨みつけた。
「いや、待て、俺何も悪い事してない気がするんだが……そう思わないかね、君?」
少女は、そんな豊の言葉を無視し、問答無用で彼の顔を爪で引っ掻いた。
「何、その爪!? いっ、いでぇぇぇ!」
引っ掻く瞬間、爪が伸びたのを目撃し、豊は驚きの表情を浮かべた。
そして、顔面をその鋭くなった爪で引っ掻かれ、絶叫をあげた。
「何、うるさい声あげてんのよ?」
その声を聞きつけて、迷惑そうな表情を浮かべた雅が姿を現した。
その姿を見て少女は、笑みを浮かべ彼女の元へ駆け寄った。
「あら、あなた祭じゃない? なんで、こんな所に?」
どうやら、少女の目的の人物は雅の事だった様だ。
「うぐぐぐ……雅、てめぇの連れかぁ! 病み上がりの人間に、怪我負わすとは、どういう教育してやがるっ!」
彼は、負傷した顔を手で覆いながら、雅に抗議した。
「その病み上がりの奴が、なんで学校にいんのよ……? まぁ、聞くまでもないけどね……」
そんな彼の抗議を聞き流し、雅は呆れ顔でそう言い返した。
「うっせぇ! それに、そいつ何者だぁ? 爪が、伸びやがったぞ……妖怪じゃねぇのか」
豊は、少女を警戒し、距離を取っている。
「む、妖怪とは心外ね……この子は、式神よ……私の」
そう言って雅は、足にしがみ付いている祭と呼ばれる少女の頭を撫でた。
「は……? 式神……?」
彼は、新たな常識破りの存在に、愕然とした表情を浮かべた。
少女は、そんな彼の様子に見向きもせず、再会した主人に向け笑顔を浮かべていた。
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