修正前
137.師弟の刀―Master and pupil's sword―
あの後、居間で待機していた他の連中に電話の件を尋ねられたが……俺は……
「あぁ、電話? ありゃ間違い電話だったよ……宗教の勧誘」
適当な事を言って、皆に真実を伝えるのを避けた……。
俺は、ブルースさんとの電話のやり取りで決めた事がある……。
『今回の件は、俺一人で決着を着ける』
自分でも無謀だと思うし、下手すれば俺も人質のユニスだって殺されてしまう可能性がある……。
でも、本気で挑んでくる相手と迷いが生じている亮達を戦わせる訳にはいかない……
正直、中途半端な覚悟で勝てる相手とは、到底思えないからだ……。
だから、足手まといになられるよりは……ここで大人しくしてもらっていた方が良いのだ。
俺は、自分の中でそう判断し……トイレと嘘を吐き、聖さんの部屋へと向かった。
理由は、まだ襲撃されたショックで目が覚めないグレン神父の面倒を部屋で看てくれているからだ……。
なので、現場に向かう前に……様子だけでも覗いておこうと……そう考えたのである。
「失礼します……聖さん、入っても良いですか?」
俺は、彼の部屋の戸を叩き……外から、中に入って良いか……尋ねる。
「む、その声は豊君ですか? えぇ、構いませんよ」
俺は、聖さんの了解を得て……ゆっくりと目の前の扉を開けた。
「お邪魔します……」
俺は、少し緊張しながら……聖さんの部屋の中へと入った。
中を覗くと聖さんは、木製の古い机の上で何やら書き物をしていた。
その横の布団の中には、目を覚まさない神父が苦しそうに呻き声を上げ……眠っている。
「それで、何か用かな……?」
聖さんは、手を動かすのを止め……こちらへと視線を向けた。
「え、えぇ……神父の様子が気になったので、見に来ました」
俺は、これから行おうとしている事を聖さんに話せない罪悪感からか……彼に視線を合わせずに、そう理由を述べた。
「そうですか……でも、安心してください……彼、命には別状ありません」
俺は、聖さんから……そう説明され、安堵の息を漏らした。
とりあえず、神父が無事ってのが確認出来たから……適当に言い訳して、ここから立ち去ろうと考えた……矢先、聖さんから核心を突く様な質問をされた。
「で、本題は何ですか?」
その瞬間、心臓が飛び跳ねた気がした……参った……どうやら、本当に彼には隠し事は出来ないみたいだ……。
「あの二人を止めてきます……」
俺は、表情を一変させ……真剣な眼差しで聖さんに視線を向けた。
「……他の人達には?」
薄々気付いてはいるのか……少しだけ表情を曇らせながら、聖さんはそれを俺に尋ねる。
「伝えてません……あんなんでも仲間ですからね……傷付いて欲しくはないんですよ」
そう、汚れ役をやる人間は……一度汚れる事を経験した人間が一番なのだ。
俺の手は、既に汚れた血で赤く染まっているのだから……
「……その結果、自分が傷付いても……ですか?」
俺のその意見に反論する様に、聖さんは険しい表情を浮かべ……それを口にする。
「……えぇ」
俺は、躊躇う事なく頷き……神父の方へと視線を向ける。
「それに彼と約束しましたから……ユニスの事は任せてくださいってね」
神父が目を覚ます前に、ユニスの奴を連れ戻せなかったら……格好がつかないからな……
「……全く、相変わらず君は不器用な人ですね」
聖さんは、そんな俺を見て少しだけ呆れ顔になったが……何かを思い付いた様に、部屋のタンスを漁り、何かを探し始めた。
「まぁ、そんな君だから……あの子も好きになったんでしょうね」
聖さんは、タンスの中を探している最中……小声で俺の事について何か呟いていた気がするが……深く突っ込まないでおいた。
「お、あったあった……」
そう言って彼がタンスの中から取り出したのは、銃の弾が入った小箱だった。
中を覗くと30発近くの弾丸が……その小箱の中には存在していた。
「え、あ……へ? 何で聖さんが、こんな物……」
俺は、その突然の出来事に戸惑い……間抜けな声をあげた。
「ん、あれ……話してませんでしたっけ? 私も元は、祓魔師なんですよ……?」
聞いてない……まぁ、雅を見てれば予想出来るかもしれんが……
「それは、その時の名残ですよ……もう使わないので持って行って下さい」
俺は、彼からそれを受け取り……感謝の言葉を述べた。
まぁ、今回の相手は銃撃は一切効かないんだが……せっかくの厚意だしな……黙ってるか……
「それと毎回口にしていますが……必ず――」
聖さんが立ち去ろうとする俺に、仕事の度に呟くあの言葉を告げようと口を開くが……彼がそれを告げるより先に、俺は……その続きを口にした。
「必ず生きて帰って来い……でしょ? 分かっていますよ、それだけは……」
俺がそれを先に口にすると聖さんは、少しだけ笑って見せ……それに釣られる様に俺も自然と笑みを浮かべていた。
「…………」
そして、深夜……全員が寝静まった頃……俺は準備を整え、部屋を出た。
背中には、親父譲りの日本刀……左右の腰には、俺と親父の名前が彫られた銀色の拳銃……
そんな普段と変わらない装備で俺は、玄関から外へ出て……町へと降りる階段へと足を向けた。
幸い、誰にも気付かれずに神社を出る事に成功した……後は現場に向かうだけ……そう思っていたのだが……
降っている階段の前方に突然、人影が現れた……。
いや、正確には人ではない……亡霊がそこには、立っていた。
「……っ!?」
その姿を捉えた直後、周囲の景色が全て色を失い……白と黒だけが配色された世界へと変わってしまった。
良く見れば、先程まで俺の横で舞っていた木葉が時を止めたかの様に……その場で停止している。
どうやら、目の前の亡霊が雅と同じ結界の様なもので周囲の時を止めてしまっている様だ……。
「よぉ、そういや……お前がいるの忘れてたわ」
そんな状況でも俺は、普段と変わらぬ態度で……目の前の彼女に話しかける。
「それは、聞き捨てならんな……? 妾は、お前が来るのを……こうして待っておったと言うのに……」
千夜の方も俺と同じ様な態度で会話に応じてきた。
「で、何でお前がこんな所にいる訳……? 普段なら、神社の縁側で退屈そうに寝そべってるのに……」
そして、俺に無理矢理茶菓子を要求するのだ……。
「なぁに、そろそろ腕を上げた馬鹿弟子に卒業証書をプレゼントしてやろうかとな」
千夜は、そんな冗談を呟きながら……意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「証書ねぇ……どうせ、ただで貰える訳じゃねぇんだろ?」
この千夜が何かを提案する時は、決まって何かを厄介な事を要求される……その辺は、娘と全く一緒だ。
「当然じゃ、この卒業証書が欲しかったら……」
そう呟きながら、千夜は手作り感溢れる素敵な紙切れを俺に見せびらかせて来る。
「妾を倒す事じゃな」
千夜は、それを呟いた直後……左手を掲げ、何もない所から日本刀を取り出した。
今回の千夜は、本気だ……それを見ただけで確信した。
何故なら、彼女は今まで俺に対して真剣で稽古を付けた事は一度もないからだ……。
その彼女が真剣を握る……つまり、普段と同じ調子で戦って良い相手ではないと言う事だ……。
「……で、これをするメリットは?」
そんな事を呟きながらも俺は、背中に差している刀をゆっくりと抜刀する。
「妾に勝ったら、技を一つ伝授してやろう」
……何か、RPGとかである奥義取得イベントみたいだな
「……ったく、こっちはこんな事している場合じゃねぇってのに」
俺は、そんな彼女の要求に渋々頷き……手にしている刀を構える。
「……やってやるよ、準備運動には丁度良いしな」
そして、俺は彼女を挑発する様にそれを呟いた……。
「ほぉ、今まで稽古で一度も勝った事がないお主が……妾の事を準備運動扱いにするとはのぉ……面白い」
流石に、その俺の発言には腹を立てたのか……俺に放たれる殺気が増した気がする。
「ならば、試してみるかのぉ……? その準備運動とやらを……っ!」
その彼女の言葉を合図に、俺達は互いに刃を交えた。
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