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修正前
13.追跡者―Stalker―
朝、学生服のまま寝てしまった俺は、所々傷む体に鞭を打ち、体を起こした。
寝ぼけながら洗面所で顔を洗い、歯を磨き、朝食の準備をする。
そして、いつもの様に登校しようと玄関の外へ足を踏み出した瞬間――

何かが弾き飛んだ音が聞こえ、俺は咄嗟に一歩下がった。
すると、俺の目の前を鉄の矢が通り過ぎていった。

「……なるほど」
俺は、飛んでいった方角に飛び出してきた矢を発見し、確信した。

「何が、なるほどなのよ?」
俺が矢を意識している間に、いつの間にやって来たのか、日向が目の前に立っていた。

「いや、あれだ……」
俺は、放たれた矢を指で示して、日向に教えた。

「え、嘘、あれ矢!? しかも、本物……殺す気じゃない」
日向は、その矢を発見し、驚いた表情を浮かべる。

「あいつ、まさかここまでするなんて!」
どうやら、日向は純が犯人だと思っている様だ。

「いや、これは奴じゃない……」
俺は、これを仕掛けた相手に心当たりがあり、そう呟いた。

「じゃあ、一体誰よ!? 他に、こんな事する人なんていないでしょ?」
いや、いるにはいるんだよな……これが

「まぁ、お前には話さない方が良さそうだから、黙っておく」
下手に話せば、日向にも矛先が向くかもしれないし……まぁ、ないだろうけど……

「何か納得できないわねぇ……まぁ、いいわ、大丈夫なら私行くわね? 今日も真帆さんと登校する事になってるし」
はいはい、いつもボディガードご苦労さん……。
俺は、日向が立ち去った後、のんびりした足取りで学校へ向かった。

部室に着くと、そこには霧と木葉が既に待機していた。
しかし、不思議な事に俺より先に行ったはずの日向と真帆さんの姿はなかった……。

「先輩、命狙われたって本当ですか!?」
木葉は、携帯か何かで既にその情報を日向から、もらったのか心配そうにこちらを見ている。

「……すいません、私達が豊さんに無茶なお願いしたばっかりに」
霧達も純の野朗が矢を仕掛けたと思っているのか、接触を頼んだのを気に病んでいた。

「ん、別に気にしてねぇんだけど……それより、日向達は? 俺より先に行ったはずだから、もう着いてて良い頃なんだが」
俺は、胸騒ぎがして霧達に日向達の事を尋ねた。

「いえ、まだ見かけてませんけど……そういえば、いつもこの時間帯なのに、どうして……って、先輩!?」
木葉が、それを言い終える前に、俺は部室後にし、来た道を後戻りした。

おかしい……、普通に登校しているなら、既に学校付近の通学路にまで来ているはずだ。
なのに、日向達の姿は見えない……何か、あったと考えるのが普通だ。

「こういうのは、一瞬の判断が命取りになるだろ」
俺は、そのまま真帆さんの自宅まで走りぬけた。
真帆さんの家に向かう途中、道路の横で壁に寄りかかり、倒れている日向を見つけた。

「おい、日向、どうした!?」
日向の顔は、何者かに暴行を加えられたかの様に腫れていた。

「あいつが来た……真帆さん、連れてかれて」
やっぱり、俺の予想通りだった……。

「向かった方角はっ!? 奴は、何て言ってた!?」
今、真帆さんは、奴と二人きりだ……最悪の結末が脳裏を過ぎる。

「……あっち」
日向が、指をさした方角には山があった。
あそこなら、身を隠せるし、何か間違いが起こったとしても、早々気付かれる事はない……。

「日向、お前はそこで休んでろ」
本来なら、自宅まで送り届けてやりたいが、時を一刻を争う。

俺は、純の野朗が山に向かっているのを確信し、走り出した。
途中、俺は携帯で木葉に連絡を取り、日向の事と警察に電話を頼んだ。

「間に合え……間に合え……っ!」
俺は、何度もその同じ言葉を呟きながら、走り続けた。

だが、こんな広大な山の中を何の手がかりもなしに探すのは不可能だ。
手当たり次第探して走り続けたが、一向に二人の姿は見えてこない……。

「はぁ……はぁ……一体、どこにいるんだ……?」
俺が、そう溜息を漏らした時、頭上から聞きなれた鳴き声がした。
それは、霧が良く連れていた鴉……。
その鴉は、ついて来いと言わんばかりに、目の前まで降下し前方を飛び始めた。

「霧に頼まれたのか……助かる」
俺は、その鴉を追って再び走り出した。

鴉が案内した先には、怪しい小屋があった。
中からの声を確認し、二人がいるのを確信する。
俺は、身長に近づき中からの交わされている会話に聞き耳を立てた。

『ようやく、二人きりになれたね……』

『なんで、こんな事ばかりするんですか!? 私が何を……』

『君がいけないんだ……君が僕の気持ちに答えてくれないから』

『そんなの……あんな態度をとっていたら、当たり前じゃないですか』

『だから、僕は考えた……考えた結果、これしか思いつかなかったよ』

『そ、それは……ガソリン!?』
俺は、真帆さんのガソリンという単語で事態が最悪である事に気付いた。

もう少し待機してれば、木葉が警察を連れてここにやって来るだろう……。
でも、奴がそれまでにガソリンに火を点火しないなんて保障はない……。
戦力になりそうなのは、一緒に付いて来てくれている覗き常習犯の鴉。
後、小屋の外にあったドラム缶……角材のみ。

奴は、どうせナイフを携帯しているし、取り出されたら、その時点で俺の負けだ。
出口が一つしかない以上、正面突破しか真帆さんを救う術はない……。
それに、最初に点火元であるライターを取り上げない事には、どうしようもない……。

「強行突破……するしかないか」
俺は、何とか相棒の鴉に意思疎通を図り、作戦を理解させる事に成功した。

チャンスは、一度……失敗は許されない……

俺達は、慎重にタイミングを見計らい……行動を開始した。

俺の指示した通り、鴉は小屋の外で騒がしく鳴き始めた。
やはり、鴉の鳴き声は奴を刺激したらしく、純は怒り狂った表情で姿を現した。

「行けっ!」
俺のその指示と共に、鴉は純に襲い掛かった。

「うわっ、くそ、この馬鹿鴉!」
純は、必死にそれを追い払おうと手を動かしている。

奴の視界は、完全に鴉で覆われて、その奥の状況が見えてない様だ。

「よしっ! 今だっ」
俺は、横に倒しておいたドラム缶を勢い良く転がして、奴に向けて投げつけた。
ドラム缶は、転がるスピード増し、奴の足を捉えた。

「うあっ!?」
純は、何が起こったのかも分からず、転んで手にしていたライターを落とした。

俺は、素早くそのライターを蹴飛ばして、森の奥へと吹っ飛ばした。

よっしゃ、後は作戦通り角材で……
振り返ると、既に純は立ち上がっており、手にはナイフが握られていた。

「お前かっ、殺してやる殺してやる……っ!」
純は、狂った目つきで、こちらに襲いかかってきた。

完全に計算ミスだ……いや、深く考えずに行動した結果とも言えるが……
俺は、角材を使って、何とか避け、距離を置いた。

「邪魔をするなぁぁぁ!」
完全に純は、我を失っているのか、ナイフを振り回しながら、襲い掛かってきた。

「ちょ、ちょっと洒落になってねぇ……」
俺は、必死に角材を使ってそれをやり過ごした。

このままだと確実に殺される……そう思った俺は、地面に落ちていた石を拾い上げ、奴の顔に投げつけた。

「ぐっ……」
それは見事に命中し、僅かな隙を作った。

「チャンス……っ!」
俺は、隙を見せている純に向かって、角材を叩きつけた。

「あっ……がっ……」
それは純の頭を捉え、奴の体を吹き飛ばした。
その結果、吹き飛んだ純はその場で倒れ、動かなくなった。

「や、やった……」
俺は、すぐに中にいる真帆さんの所へ向かった。

「真帆さん、大丈夫かっ!」
中を覗くと、真帆さんが縄に縛られ、身動きが取れずにいた。

「豊さんっ!? 良かった、助けに来てくれたんですね」
真帆さんは、俺が来た事に安心したのか、目に涙を浮かべている。

「礼なら、外で飛んでる鴉に言ってやれ、とりあえず、ここは危険だから、安全な場所に避難しよう」
そう言って俺は、真帆さんを縛っている縄を解き始めた。
幸い、結び方が適当だったのか、楽に解く事ができた。

「ありがとうございます、それじゃあ、早くここから――」
そこで、真帆さんの言葉は、途切れた。
真帆さんの目は、俺の後ろ背後を見ている。

「ん……? どした……?」
真帆さんが何を見ているのか、気になり、振り向こうと後ろを向いた時――

「…………っ」
何か脇腹から鈍い音がした気がした。
見ると、脇腹から血が滲み出している……。

咄嗟に、真帆さんを庇う様に後退し、後ろにいると思われる人物と距離を取った。

「……ひ、ひひひ」
それは、先程気絶したはずの純だった。
他にこの場に人なんていないから当然だが……

奴が手に握っているナイフには、血が付着している。

「油断したね……僕を止めたかったら、殺す気で来なきゃ」
俺の意識は、既に朦朧としている……。
必死に手で、脇を押えているが、流れ出している血は一向に止まらない……。

「まぁ、もう言っても遅いか? ははは……じゃあ、死んでね」
俺は、痛みに耐え切れず、床に膝をついた。
意識が朦朧とする中、奴は一歩ずつこちらに向かってきている。

あぁ……これは、間違いなく死ぬな……俺は心の中で、そう呟いた。
死を覚悟し、瞳を閉じた……。

その時、なぜか鈴の音が聞こえた気がした……。

「……な、なんだ、お前ら!」
その鈴の音が鳴った直後、目の前にいるはずの純から、そんな声が聞こえてきた。

「く、来るなっ! いつ、こんなに人が……ひっ、いや、いやだ、やめろ!」
俺は、その純の異常な言動に驚き、目を開いた。

だが、そこには純しかいない、なのに、奴は何もない場所を見て怯えている。

「うあ、うああぁぁぁぁぁ!」
その後、突然その絶叫と共に倒れ、再び気絶してしまった。

俺と真帆さんは、その光景が余りに異様で、しばらく、そこを動く事ができなかった。
その後、木葉達が警察を呼んできて、純は逮捕され、無事ストーカー騒動は解決した。

俺は、そこまで傷が深くなかったのだが、日向達に無理矢理入院させられ、暇な入院生活を送っている。
日向も暴行され、軽傷を負っていたが、すぐに完治し、俺より先に退院していった。
時々、霧や木葉・真帆さんがお見舞いに来てくれるが、毎回泣きながら抱きつくのは止めてくれ……木葉よ……

真帆さんもすっかり元気になり、以前の明るい性格に戻ったと日向から聞く事ができた。
純の奴は、あの時の鈴の音のせいか、何もない場所に怯えたり、壁に話しかけたりする様になったらしい……。
あの不思議な鈴の音に、俺は心当たりがあった。
まぁ、憶測でしかないが……

「あら、結構元気そうね……?」
入院して三日目、雅が思い出したかの用にお見舞いに来た。

「ったく、薄情な奴だな、お前……知り合いが怪我したってのに」
俺は、雅のそんな態度が気に入らず、睨みつけた。

「私は、一応忠告したけど……? まぁ、あの場合、しょうがないかもしれないけど……」
あんな忠告だけされたって、防ぎようがねぇだろ……

「それより、あの時の鈴の音……お前だろう? あんな変な事できるのお前しかいねぇし」
雅が、実際にあの鈴を使用した所を見た事はなかったが、その後起こった現象で彼女がやった事だと予想できた。

「あら、何の話……? 私は、知らないわねぇ……」
どうやら、その件について話す気はないのか、惚けた顔をしている。

「お前、人が起こす事件には関与しないんじゃなかったのか?」
まぁ、結果的にこいつの鈴の音で助かった訳だけど……

「関与なんかしてないわよ……? 私は、彼の神経を目覚めさせただけ……それで、彼は何かを見て発狂したのよ……」
なるほど、あの鈴の音は、死者を見せる音って事か……。

「彼は、これからずっと怯えて暮らすでしょうね……ふふ、彼女が抱えていた以上の恐怖ってやつで……」
俺は、その雅の発言を聞き、絶対こいつは怒らせない様にしようと決めた。

結局、雅に借りを作る形で、この事件は終了した。
俺は、次彼女からどんな無茶な頼みをされるか、心配で眠れぬ夜を過ごす羽目となった。
本当……厄介な出来事には、首を突っ込まない方が良い……それが痛いほど良く分かる事件だった。


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