修正前
109.害虫駆除―Extermination of harmful insects―
俺が銃を発砲した事により、女王は再び怒り狂い……俺の元へと迫ってくる。
祭が落とし穴を完成させるには、少なくとも30分程度の時間を要するはずだ……。
俺は、それまでの間……奴の相手を一人で務めたいといけない事になる……。
祭の前だから、強がって見せたけど……正直、今の俺に歯が立つ相手とは思えない……時間を稼ぐ事すら容易ではないだろう……
だけど……祭の奴に、俺と同じ思いをさせる訳にはいかねぇよな……
「悪いな、糞虫……お前らに勝ち目はねぇよ……こういうのは、人間様が勝つって相場が決まってる」
俺は、そう勝利を予期し……銃口を向かってくる女王に向け、照準を合わせる……
その瞬間、銃声が響き渡り……作戦が開始された。
同時刻、大量の虫に囲まれ……小屋で時間を稼いでいる雅達は、と言うと……
「そこに椅子を……そっちは、テーブルを縦にして設置する!」
雅の指示で、一緒にいる洋介達は虫達の侵入経路を塞いでいく……
「はぁ……はぁ……もう……もう駄目、動けねぇ……」
その中の一人が、疲れたのか……根を上げ、その場で倒れる。
「大体、何で俺達がこんな目に……」
そいつは、今の境遇に納得がいかないのか……そう小声で愚痴をこぼし始めた。
「別に諦めるのは、あんたの勝手よ……? ただ奴等の餌になっても私は、知らない」
雅は、窓の外でガラスを割ろうと身体を叩き付ける黄泉黄金を指差し……そう彼に呟いた。
「う、うっ……わ、分かったよ……やれば良いんだろ! やれば!」
その雅の脅しに負けたのか……そいつは、我武者羅に窓を塞ぐ作業を再開する……。
「あ、あの……雅さん……でしたっけ? 一つ聞いても良いですか?」
そんな風に作業を続ける中……一人、気の弱そうな少年が雅に声をかけてきた。
「ん、何……あんた、さぼってんの? 仕事は、どうしたのよ?」
雅は、暇そうにしている彼を見て……恐ろしい表情で睨みつける。
「あ、すいません……でも、気になって……もしかして、雅さんって豊さん達の知り合いですか?」
雅は、外にいる二人の事を尋ねられ……少しだけ、驚いた表情を見せる。
「なるほど、あんたが豊の話してた……洋介……だっけ? そいつよね?」
洋介は、自分の名を雅尋ねられ……それに頷く……
「はい、そうです……やっぱり、豊さん達の知り合いなんですね……彼女達は、今どこにいるんですか?」
洋介は、今ある遭遇している危機を事前に知らせてくれていた二人が気になるのか……雅に、二人の所在を尋ねる。
「か、彼女……? あぁ……あいつ、今性別逆転してるんだっけ……さぁね、外で虫捕りでもしてるんじゃない?」
雅は、からかう様にそう答え……怪しい笑みを浮かべる。
「む、虫捕り……ですか?」
流石に、その雅の反応に洋介は驚いたのか……額から汗を流しながら、話を続ける……。
「えぇ……捕獲すれば、間違いなく新種発見で大儲け出来そうな……物凄い大物をね」
洋介は、その雅の言葉が何を意味するのか……全く分からず首を傾げる事しか出来なかった。
そして、二人がそんなやり取りをしている間に俺は……その大物に逆に捕えられそうな状況に陥っていた。
「だぁぁぁっ! 俺は、いつまで走り続ければ良いんだっての! てか、あの糞虫の体力は底なしかっ!」
俺は、一刻も早く祭が落とし穴の完成報告をしてくるのに期待し……必死に山の中を駆け巡る……。
逃走中、背後から女王は何度も硫酸の唾液を俺に向けて放ってくるせいか……後ろを常に気を配りながら走らないといけなかった。
まぁ、そんな面倒な形で逃走を続けていれば……すぐに体力も底を尽きる訳で……
「はぁ……はぁ……もう駄目だ、走れねぇ」
俺は、体力の限界を感じ……全速力で女王を引き離し……しばしの間、足を休める。
「はぁ……はぁ……祭の奴は、一体いつまで時間かけてるんだ」
俺がそう祭に向けて、愚痴をこぼした時……無線機から、彼女の連絡が入る。
「こちら祭、落とし穴が完成したぞ! 豊、祭の居る位置まで戻って来てくれ!」
俺は、その祭からの朗報を耳にし……少しだけ安堵する……。
だが、それも束の間……無線機に気を取られている内に……女王は、目前へと迫って来ていた。
「……っ!?」
反応するより早く……女王の口からは見慣れた硫酸が吐き出され……俺へ目掛けて放たれていた。
――――――――――――――――――――――――――――
「これで……良し、後は豊が来るのを待つだけだな」
祭は、体中を泥だらけにして……豊に頼まれた通り、落とし穴の完成させた。
そして、たった今……それを豊に知らせ、応答を待っている。
「へへ……こんなに服汚したら、また二人に叱られるかも」
祭は、二人が服を汚して怒ってくる姿を想像し……少しだけ笑みがこぼれた。
豊は、弱そうに見えるけど……本当は、頼り甲斐があって皆から信頼されているのを祭は知っている……。
だから、今回も豊は仕事を簡単に終わらせて……全員無事に聖が住む家に帰れると信じている。
それは、疑う余地はない……だって……豊は、昔……祭を……
「祭ぃぃぃぃっ! 落とし穴の準備をしろぉぉっ! もう目の前まで、来てんぞっ!」
祭は、その豊の叫び声で我に返った……。
「豊!? 良し、出来る……祭なら出来るっ!」
祭は、すぐに仕掛けた罠が作動できる様に仕掛け縄に手を伸ばす……
そして……
「今だっ!」
その豊の掛け声を聞き、祭は手にしていた縄を爪で引き裂いた……。
同時に、落とし穴を仕掛けた場所に女王が突っ込み……奴は、見事に穴の中へ落下した。
「虫なら、火に弱いはずだ……これでも喰らえ!」
それを確認した後、祭は豊から渡されていた松明を……その中に投げ込んだ。
穴に落ちた女王は、全身が投げ入れた火に覆われ……苦しそうにもがき始めた。
そして……女王は、火に覆われても尚……活動を続け……中から這い出ようと体を動かしている……。
だが、それを見ていた豊が女王の落ちた穴へと歩み寄り……
「……いい加減逃げんのも飽きた、これで……くたばれ」
手にしていた刃を女王の背に向けて、突き刺した……。
先程まで鉄より硬かった背の甲殻は、火に燃やされた事により……硬度が低下したのか、貫く事に成功した。
豊のその一撃により、女王は断末魔をあげ……体が燃えた状態のまま活動を停止した。
「勝った……祭達は、勝ったんだ!」
祭は、嬉しさの余り……その場で跳ねて、喜びを表現する。
「……あぁ、やったな」
豊は、戦いを終えた安堵からか……弱弱しくそう呟き、その場に腰掛けている。
「早く雅に知らせよう、豊! 祭達の大勝利だって!」
祭は、興奮した状態で……豊の元へと駆け寄る……
「……あ、あぁ……早く……雅に知らせないと……な」
近くに駆け寄った所で、豊の様子がおかしい事に祭は気付いた……。
「豊、顔色悪いぞ……? 何か、あったのか……?」
祭がそう豊の肩に手をかけた時……その衝撃で、豊は無言のまま……横へ倒れてしまった。
そして、そこで祭は気付いたんだ……豊の腕や背中が焼け爛れているのに……
「そんな……豊……やだっ、祭はこんなの嫌だっ!」
祭は、倒れてしまった豊を抱きかかえ……そう叫び声をあげる……
「豊ぁぁぁぁっ!」
祭の泣き叫ぶ声だけが、辺りに響き渡り……虚しく木霊した……。
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