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修正前
10.間違った愛情―Wrong love―
「さぁ、どんどん食べてください」
その日、なぜか凄い機嫌の良い霧が、大量の弁当箱を担いで部室にやって来た。
五段重ねの重箱が、三つ並んでいる……。
今日は、正月か何かか……?

「霧よ、これは俺に対する嫌がらせか?」
とても人間の喰えるレベルではない……。

「そんな滅相もない、豊さんには感謝しているんです……だから、今日はそのお礼」
ほぉ……つまり、恩を仇で返す気か……

「でも、良いのかしら? 私も一緒に頂いちゃって」
なぜか、反対側の席では雅が嬉しそうに弁当を眺めている。

「良いんですよー、雅さんにもお世話になりましたし」
そうだ、むしろ雅逃げたら、俺はお前を一生許さん……。

「先輩に召集くらって来てみたけど、あ、あのクラスで友達と食べて良いですか?」
そう言って逃げ出そうとする木葉をがっちりと掴み、無理矢理元の椅子へ座らせる。

「貴様だけ逃げる事など、俺は断じて認めん」
俺は、逃げようとした木葉に、睨みを利かせる。

「そ、そんなぁ……うぅ、横暴だ……こんなの」
どうとでも言うが良い、目の前のこれを減らす為なら俺は悪魔にも魂を売り渡すぞ……

「やっぱり、少し量多かったですか?」
少し……だと?

「多すぎじゃ、ぼけ! 俺は、胃袋二つある怪物でもなければフードファイターでもねぇ!」
う、叫んだら、吐き気が……

「うぅ、今度から気をつけます……」
ま、まさか……今回で最後じゃないとか……

「良かったじゃない豊、食費浮くわよ?」
雅は、そんな俺の不幸を何時もの憎たらしい笑みで眺めている。

「こ、今度は付き合いませんからね!」
……とりあえず、腹が立ったので口一杯にミートボール詰めてやろう。

「おぉ、すごい人間頑張れば二十個のミートボールが口に入るんだな」
ギネスに載りそうな大発見をしてしまった。

「こ、殺す気ですか……」
木葉は、真っ赤な顔して俺に抗議している……あぁー、聞こえない聞こえない。

「あれ、そういえば、あの面白い部長さんはどうしたんですか? どうせなら、彼女にもお裾分けしたかったのですが」
霧よ、お裾分けなんてレベルで済む量じゃないぞ……これは……

「どうせ、少し経てばやって来るっての……飯の臭いに釣れられてな」
あいつの嗅覚は、犬並だからな……

「そういえば、あなたと日向さんってどういう関係なの?」
なぜか、雅が唐突にそんな人間関係を聞いてきた。

「あ? あいつは、あれだ……家が隣なんだよ、一年前引っ越した時に色々あって知り合いになって、それから新聞部立ち上げるから付き合えってなって今に至る訳だ」
部員にならないかって聞かれたけど、あっさり断ったな……面倒だし。

「なるほどねぇ……いえね、ちょっと興味があっただけだから気にしないで」
雅は、そう告げると再び黙々と霧の弁当を食い始めた。

「へぇ、先輩と部長って高校からの付き合いなんだ、本当は私はもっと前からの付き合いだと思ってました」
とりあえず、腹が立ったので口一杯にミートボールを――

「なんでですか!」
お、怒った。

「いや、今度は三十個にチャレンジしようかと」
そうすれば、確実にお前はギネスに載るぞ……

「自分でやってください!」
木葉が、真っ赤になって怒っている……ふむ、何時もの風景だ。

「あれー? なんで、今日はこんなに人いんの?」
そんな馬鹿なやり取りを繰り返していると、噂していた本人が姿を現した。

「日向よ、貴様も食え、そして共に地獄を味わおう」
俺は、奈落から手招きする様に怪しげに手を動かした。

「あぁーはいはい、一人でやっててちょうだい、今日お客さんいるから」
新聞部に客だと……っ!? 何ヶ月ぶりだよ、本当……

「こ、こんにちは」
そう言って姿を現したのは、気弱そうな感じの女子生徒。

「うむ……悪くないな、俺の横に座るの許可しよう」
とりあえず、言ってみたかったので言ってみた。

「何様よ、あんたは……」
反対側にいる雅が、呆れた様に冷たい目で俺を見ている。

「あ、良かったら日向さんもお客さんもどうですか? 私が作ったんです、このお弁当」
霧は、必死に自分の弁当のアピールを始めた。

「あら、頂いちゃって良いの? じゃあ、貰おうかな……ほら、真帆さんも」

「真帆たんだと!? 俺が一週間、攻略サイトを見ながら攻略し、それでもフラグすら立たなかった伝説の美少女の事かっ!」
まぁ、毎回木葉やら日向やら雅やらにコンセント抜かれて、フラグ立つ前にデータ破損している訳だが……

「違うわ、アホ」
日向は、そんな俺の発言に冷ややかな反応で返してきた。

「この馬鹿は、放っておいて食べながらで良いから話を進めるわよ」
本当に皆、無視しているのか、俺が発言する時だけ反応がない……。

話が長くなるから省くが、日向が連れて来た笹木真帆ささきまほと名乗る女子生徒は、近頃異常なストーカーに付き纏われているらしい、先日その本人から直接襲われ、それ以来心休まる日が無いとか……

「……怖いですね」
霧は、怖い想像をしたのか、身を震わせている……。

「ストーカーかぁ……」

「ストーカーですか……」

「ストーカーねぇ……」

なぜか、日向・木葉・雅が息を合わせた様に同じ台詞を吐いている。
そして、俺に向けて視線が三つ……って、ちょっと待て

「俺は、やってないぞ!」
そもそも、なんで俺が疑われるんだよ!

「いやねぇ、普段の行いが行いだからとしか……」
日向、貴様後で覚えておけ?

「先輩ですからねぇ……」
貴様は、さっきのミートボールの仕返しかっ!

「まぁ、似た様なものだから?」
どこがだっ! どこがっ!

「そもそも俺は、三次元女に萌えたりしないぞ!」
二次元万歳! 二次元あれば、御飯三杯はいけるぜっ!

なぜか、俺のその発言で部室内が静まり返ってしまった。

「そ、そういうのは個人の趣味ですから……私は、べ、別に気にしませんよ?」
霧が、必死に俺のフォローに回ってくれている……でも、逆効果だ。

「まぁ、冗談はこの辺にして……直接来たって事は、もう本当にやばい事態に陥っているって訳ね」
日向よ、この世には冗談で済まされない事もあるのだぞ……?

「でも、相手がどんな人か、分からなければ調査しようがありませんね……」
まぁ、相当の変態ってのは確かだよな……

「なんか手はないかしらねぇ……真帆さんの後ろを私達が尾行しても、犯人は警戒して姿を現さないだろうし」
日向と木葉は、何か良い策はないかと真剣に悩み始めた。

あ、そうだ……丁度良いのが、目の前にいるじゃないか。

「霧、お前さ、鴉に頼んで真帆さんの尾行お願いできないか?」
鴉にやってもらえば、絶対にばれる事はないだろう。

「そういえば、霧さんってそんな能力あったのよね」
ちなみに、日向と木葉には、既に説明してある。

「え、あの子達にですか? ん〜、お願いできるかどうか分かりませんが、頼んでみます」
よし、これでとりあえず犯人の正体は掴めそうだ……。

「すいません、私のせいで皆さんにご迷惑を……」
真帆さんが、そんな俺らの様子を見て、申し訳なさそうに頭を下げた。

「良いの良いの、こちらとしては面白い記事が書けるかもしれないからねー」
結局、お前は記事が書きたいだけか……。

皆がやる気を見せている中、雅が突然席を立った。

「悪いけど、私はこの件……関与する気はないわ」
それは、毎回面倒な事に進んで巻き込まれていく雅からは、考えられない言葉だった。
雅は、それだけを告げると早足でその場を後にしてしまった。

「ま、まぁ私達だけでも頑張りましょう!」
木葉が、少しだけテンションが下がった俺達を必死で、元気付けている。

「やっぱり、ご迷惑だったのでしょうか……」
今の雅の態度で、相談するのは悪い事だと思ったのか、真帆さんがそう呟いた。

「いや、気にする事ねぇと思うぞ? 奴は、前から変わってるからなぁ……今回は、やけに変わってるけど」
放課後会ったら、とっちめてやろう……。

その後、ストーカーの正体を突き止める為、休日皆で遊びに行く事となった。
皆で遊んでいる最中に、追跡してきているストーカーを鴉に発見してもらうという作戦だ。

作戦の詳しい内容が決まり、今日は皆解散する事になった。
日向は、どうやら真帆さんを家まで送り届けるみたいだ。
霧は、鴉に今頼んでいる最中だろう。
木葉は…………別に、どうでもいいか……

俺は、昼休みの雅の態度に納得いかず、奴を探す事にした。

「おい、何やってんだ? こんな所で」
だが、奴は簡単に見つかった。

そこは、ここの学生達がほとんど利用しない図書室だった。
埃や蜘蛛の糸などが、本当に利用されていないのを物語っている。

「調べものよ……で、何の用? 大体、予想はしているけど」
雅は、既に俺からどんな質問をされるか分かっている様だ。

「なら、話は早い……お前、なんで今回の件は関与しねぇんだ?」
面白そうな出来事には、積極的に関与する奴だと思ってたんだが……

「私は、一応巫女なのよ? 人ならざる者が相手なら、協力するけど……相手が普通の人間なら私が関与するべきものじゃないわ」
なるほど、一応それが巫女としての決まりって奴か……

「まぁ、関与しないっていうんなら俺は構わないけどな」
そもそも俺もそんなに関与したくない話ではあるけどな……

「一つだけ忠告しておいてあげるわ」

「狂ってしまった人間程、厄介なものはないわ……死者や妖怪よりもね」
俺には、どっちもどっちなんだけどな……

「へいへい、肝に銘じておくよ」
俺は、そう返事を返し、図書室を後にした。

雅に忠告はされたが、俺は内心相手が人間である事に、多少安心感を覚えていた。
人間が相手なら、少なくとも命の危険性はないだろう……この時の俺は、そう思っていた。


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