立夏の視点――毎朝恒例、走るわけは?
「んー、今日も天気いいなぁ」
通学路としている道の真ん中を歩きながら、立夏はひとり青い空を見上げて呟いた。
まだ午前八時にもなっていないのだが、この道を通学路としている人はいないのか、学生の姿は自分以外見当たらない。
まぁ、立夏にしてみれば人が蟻のように列をなして歩いていく道よりか誰もいない道通りの方が静かなのでいいのだが。
だが、いつも決まって自分がひとりでこの道を歩いているとアイツが後ろから声をかけてくるのだ。
この落ち着く時間をブチ壊しにやってくるやつが――。
「立夏ぁ、待って!ストップ、ストップ!!」
ほら、来た。
立夏はげんなりとなった顔を元に戻しもせず、足も止めずに――もちろん振り返りもせず、聞こえなかったふりを決め込んだ。
「ちょ、ちょっと待っててばっ!りっちゃん」
必死に走っているようで、息が弾んでいる。
このままではあともう少しもすれば、アイツが追いついてしまうではないか――。
立夏は走り出した。
よくけんかをする立夏は逃げることはまずないのだが、アイツだけにはどうもある意味勝てなくて、小さい頃から逃げてばかりいた。
そのせいで、立夏の足腰はしっかりと鍛えられてしまい、男子よりも走るのがすっかり速くなってしまった。
――まぁ、速く走れて損はないが。
「えっ…なっんで、走るんだよぉ!今日も無視から始まるの、俺…やだよっ!」
アイツの走る速度があがったようだった。
振り返りはしてないので、確かではないが恐らく上げただろう気配が――伝わってくる。
立夏も負けじと速度を上げた。
静かな通学路から、一気に騒がしい通学路へと通じる曲がり角を左に曲がってもその勢いはとまらない。
行く人々が時折振り返るのが視界に入ってくるがそんなもの、どうだっていい。
アイツはどうだかわからないが、立夏にとってこれは半ば走り競争であった。
勝負とついてしまえば負けられなぃというのが立夏の小さなプライドだ。
向こうが止まらない限りこの足は止まりはしない。
「おっしゃっ!おれの勝ちだっ!」
二年C組教室前――立夏は実に嬉しそうに、額の汗を拭いながら笑った。
何が嬉しいかって?
そんなもの、決まっている。
毎朝恒例の走り競争に勝利したからである。
これで、また記録更新である。
一方、同じく隣で汗をタオルで拭っていたアイツは、悲しそうに呟いた。
「また、無視された…。そしてまた、負けた…」
そんなアイツも記録更新である。
何の記録更新であるかといえばだ。
それは立夏に無視された回数と負かされた回数だ。
実になんとも悲しく、情けない記録であろうか…。
「なんで、毎朝走ることから始まるんだよ…。俺、もーやだ」
「じゃあ、来なきゃいいじゃん。走っちゃうのはお前が追いかけてくるからだろーが。」
「あー、俺もりっちゃんみたくもっと足が速ければなぁー…。」
そういうアイツだって立夏に勝てないというだけで、他のやつに比べればかなり速いほうだ。
アイツから逃げ続けた結果、足が速くなったという立夏と…立夏を追い続けた結果、足が速くなったというアイツと…――実に面白いふたりである。
「あ、そうだよ。直が走ってこなければ、一緒に歩いていけるよ?そしたらね、私の勝負心にも触れないですむしさ」
「…やだ。」
「なんでだよっ?…いっしょに行きたいって言うのなら歩いてくればいいていつも言ってんのにー」
「だったら、立夏が俺のとこまで来てよ」
「なんでそうなるんだよ…」
「だって、りっちゃん…――なんでだろーね…」
「なんだよ、気になるじゃんか」
「自分で考えてみなよ?」
そういうと、アイツは立夏をおいて先に教室に入っていってしまった。
ひとり廊下にとりのこされた立夏といえば――。
「…俺に勝ちたいから――じゃないのか?」
首を軽く傾げるだけだった。
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