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或いはそれこそが平穏な日々 作者:猫ナノカモ

奴隷市場

前の章もちょっと追加してるんで読んでくれるとありがたいです。
 一ヶ月に渡る旅路で攫われた多くの村民が凍え死に、それを補うかのように見知らぬ人々が追加された。時折、大人たちによる脱獄計画や家族を思う人々による奪還作戦が実行されたが、全てが灰燼と帰し村人達は奴隷達に変わっていった。そんな中でタリアとアコは何とか飢えと寒さをしのぎ、ぼろきれと言ったほうがよいであろう毛布も夜をしのぐのに必要なくなってきたころ目的地についた。
 「出ろ。」
そういわれて開いた扉の向こうは見た事もない広大な広場と民衆の熱狂だった。
 その広場ははカルタスという都市にある。神聖皇国の一大農地の集積地であり、また最大の奴隷市場を内包する都市である。交通網が整備され下水道が整備され人でにぎわう清潔な町並みに、唐突に連行されてきた被搾取者たちは驚いた。彼らが知っている最大の都市は彼等の領主の町だったが人口だけでもカルタスはその10倍をゆうに超えていたし文化的レベルもかなり高い。カルタスの歴史は長く神聖皇国に組み込まれたのは半世紀程度前である。広大な農地に毛細血管のように交通網を発達させ、異民族を農夫として呼び集めて利用することで莫大な利益を上げていたが、半世紀前に侵略を受けてからは農業だけでなく近隣地域からの奴隷の集積場としてその規模を更に拡大している。
 競りは既に始まっていた。大きな円台が幾つかあり、その上に全裸にされた村人達が立っていてその脇には服を来た男がうるさく吼えている。その台を囲うようにたくさんの男たちがなにやらよくわからない単語を吼えている。異様な光景にタリアが愕然としていると頭をひっぱたかれた。
「ぼんやりすんな。こっちに来い!」
 ついていくと手錠をされ、引っ張られた。アコは不安な足取りで何とかついてきた。途中で何人か知り合いを見た。全裸で壇の上で値踏みされていた。タリアに優しかったおねえさんは泣き顔で手足に鎖をされてそれでも乳房や股間を隠していたが何故かそれを美しく感じてしまった。現実感が無いせいだったろうが罪悪感を感じた。同じ台の所に母親もいた。
「お母さん!」
そう叫んで駆け寄ろうとすると、ガクンと両手に痛みが走った。
「こっちだ!」
傭兵が強く鎖を引っ張り思わず膝をついてしまった。お母さんお母さんおかあさん、口の中で呟いて首を上げてみると母と目が合った。
「タリア!行きなさい!アコをお願い!」
母はそう叫ぶと傭兵に頬を叩かれていた。アコが覚えたての言葉で母を呼ぶ、あふれ出る涙が抑えられなくなった。鎖で動かしづらい両手でアコを抱きかかえ母の方を見ないようにタリアは歩き出した。涙がタリアの頬を伝いアコのおでこを濡らす。大丈夫だから大丈夫だから母を呼ぶアコに行っているのか母に全てを任された自分に言っているのかわからなくなりながら彼女はそう呟きつづけた。
 連れて行かれた先もまた円台だった。子供の奴隷は案外と良い値がつく。もちろん成人ほどでは無いがすれっからしの老人やら醜女よりは過大なほどの値がついたのである。一部の変質者にとっての性的愛玩具としてももちろん良い値がつくが、むしろ投機目的としての購入が大部分である。当時、戦争の減少により奴隷の価格は高騰していたので投機目的であれ労働力として即戦力となり得ない少年少女を購入できるのは相当な資産家に限られる。とは言えカルタスは空前の好景気に沸いていたので奴隷市場もまた沸きに沸いていた。
「さーて、次は、なかなかの美少女!母親が美人なんで将来美人になるのも確実!値上がり確実の有望株ですよ!」
後ろからせっつかされて台に上がるとそのガキはついてくるのかと怒号が飛ぶ。急いでタリアを引き摺り出したもんだからタリアはアコを抱えたままだったのだ。司会はまごついている。
「あたし、この子の分も働きます!だからお願い!」
タリアは先手を打っておくことにした。渋々、彼女の要求は受け入れられた。これからも投資が必要となる子供二人の価格としては妥当であろう金額で競売は一度落ち着きを見た。しかし司会が喋り始めた。
「ただいま彼女の仕入れ元であるコルチ傭兵長から耳寄りな情報を得ました。なんとこの少女、傭兵に頼んで毛布を用意させたと言う事です。」
だからなんだと値段を上げたくない買手は声を上げる。
「考えて見てください。両親もいない心細い馬車の中で自分の体調管理のためあの強面の傭兵たちを相手に毛布を用意させる度胸、そして知能、もう少し高値を払っても良いのではないでしょうか!」
単に寒かっただけだろうが、どこが知能の証明だとか罵詈雑言が浴びせ掛けられる。すると円台上に傭兵長が現れた。
「俺は過去数多の奴隷を攫ってきた。彼らを奴隷として力でもって平伏させてきた。その経験から言わせて貰うとコイツはかつて見たことが無い奴隷だ。それだけは保証できる。」
「根拠を言え根拠を!」
「ああ、もちろんだとも。武力で捕虜や蛮族をひっ捕まえてくるわけだが捕まえて連れてくるまでの道のりで多くの奴隷が死ぬ。長い道のりに耐え切れない弱者や厳冬に凍え死ぬ者が少なくない。我々もそれを選別に利用しているのも事実だ。そんな選別を彼女は生き残ったんだ。寒いから毛布をくれとか飯をもっとくれとか言う自分勝手な言い分でモノを要求してくる者も数は少ないが居た。コイツの特殊性ってのは単にモノを要求したんじゃなく提案してきた事に有る。毛布をくれれば全員生き残らせられますよ。そんな風に俺に提案してきたんだ。必要な物資の分析力、そして何より要求を相手が飲みたくなるように仕向ける状況の把握力、自己の悲劇的状況と生存に必要な物資を計りにかけて物資を選ぶ冷静さ、これは知能に他ならないだろう。」
さあ、皆さんもう一声、司会がそういうと同時に入札の怒号が響いた。
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