満点の星空。
円盤型の飛行体が一機、夜空を浮遊している。
「やっと着きましたねぇ」
「うむ。さっそく仕事に取り掛かろう」
二体の生物はツルリとした青い三頭身の体型に真っ黒な目、頭には一本の触手のようなものが着いている。
彼等はほかの星から来た調査団。
地球に生息する知的生命体の調査にやってきた。
某県某所。山田家。
リビングで両親と一人娘、一家揃って毎週欠かさない動物番組を観ている。
今週はチーター親子のドキュメントだ。
TVの中ではナレーターが悲壮感を感じさせる口調で訴えかける。
「一週間なにも口にしていないチーター親子。この子たちに何か食べさせたい。母親チーターは子供たちを置いて狩りに出かける決心をしたのです」
TVの画面では母親チーターが子供を置いて狩りに出る後ろ姿が映されている。
「そのとき母親チーターの前にトムソンガゼルの群れが!母親チーターは子供たちのためにもこのチャンスを逃すわけにはいきません」
TVにチーターが低く身構える姿が映る。
出演者が画面に食い入る姿が映る。
「しかし、チーターは獲物を捕らえることが出来ませんでした。狩りは失敗したのです」
「ハァ〜」TVの中に落胆の声が入る。
「しかし落ち込んでいるヒマはありません。チーターは子供のトムソンガゼルに狙いを定めると再び走り出しました」
「……今回は成功したようです。獲物としては小ぶりですが贅沢は言えません。これで子供たちに一週間ぶりの食事があげられる。母親チーターは子供たちのもとに戻りました」
TVの中に安堵の声が入る。
「しかし安心はしていられません。このチーター親子はこれからも厳しい大自然を生き抜くのです」
司会者が「良かったねぇ〜」と言い、グラビアアイドルが目頭を拭きながら「母親って強いなぁと思いました」とお決まりの台詞を言う。
番組はエンドロールが流れる……
山田家娘
「チーターさん良かったね」
山田家父
「失敗したときはどうなるかと思ったね」
山田家母
「でも最後は餌が取れて良かったね」
山田家一同
「良かったね」
某県某所。佐藤家
リビングで両親と一人娘、一家揃って毎週欠かさない動物番組を観ている。
今週はトムソンガゼル親子のドキュメントだ
TVの中ではナレーターが悲壮感を感じさせる口調で訴えかける。
「この親子に大自然の様々な危険が待ち構えているのです」
TVの画面ではトムソンガゼルの親子が映されている。
「そのときトムソンガゼルの親子に恐るべきハンターであるチーターが!母親ガゼルは子供たちのためにチーターの注意を自分に向けます」
TVにトムソンガゼルがチーターを警戒する姿が映る。
出演者が画面に食い入る姿が映る。
「しかし母親ガゼルはなんとかチーターを振り切ることが出来たのです」
TVの中に安堵の声が入る。
「安心もつかの間。チーターが今度は子供のトムソンガゼルに狙いを定めると再び走り出しました」
「……トムソンガゼルの子供は捕らわれてしまいました。こうなってしまっては母親ガゼルには見守るしかなす術がありません。諦めがつかないのかチーターの周りをウロウロします」
「ハァ〜」TVの中に落胆の声が入る。
「しかしいつまでも悲しんではいられません。残ったガゼル親子はこれからも厳しい大自然を生き抜くのです」
司会者が「可哀相にねぇ」と言い、グラビアアイドルが目頭を拭きながら「自然て厳しいなぁと思いました」とお決まりの台詞を言う。
番組はエンドロールが流れる……
佐藤家娘
「ガゼルさん可哀相だったね」
佐藤家父
「母親が逃げ延びたときは安心したのにな」
佐藤家母
「でも最後は子供が食べられちゃったね」
佐藤家一同
「可哀相に」
円盤型の飛行体が一機、夜空を浮遊している。
「どうゆうことでしょう?」
「……」
「ガゼルという生き物は、人間から見て食われた方が良かったんですか?それとも食われない方が良かったんですか?」
「……分からん。どうやら人間という生命体は同じ出来事でも、どちら側から見たかその時々によって大きく意見を変えるようだ」
「ずいぶん勝手な生命体ですね」
「うむ。引き続き調査しよう」
円盤型の飛行体は飛び去っていった…… |