第1話 ボーナス屋、召喚される
・本編スタートです!
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季節は夏真っ盛り、世間の子供は絶賛夏休みだ!
この俺、大羽士郎は真夏の暑さに耐えられずに今朝も7時前に起き、最近の日課となっているジョギングをした後に食事を済ませて自室へと戻った。
俺が住んでいるのは事故や事件で身内を失ったり、親から捨てられた子供達が18歳まで暮らす養護施設だ。
俺も7歳になる前に両親を同時に亡くしてここに預けられてもう10年になる。
いろいろ大変な事もあったが、今ではなにかと充実した日々を過ごしている。
その理由は1つ、“ある事件”をキッカケに『アベル=ガリレイ』という男から《祝福》という名目で周囲からはチートと言われるような能力を得たと言う事だ。
―――――《善行への特別褒賞》、それが俺の能力だ。
その効果は『対象者に日頃の行いに応じて能力やアイテムを与える』というものだ。
正確に言えば『与える』ではなく『交換する』が正しい。
俺の能力は自分を含めた対象者の日頃の努力や苦労などを〈ボーナスポイント〉に数値化し、それを使ってスキルやアイテムといった〈ボーナス〉を獲得するのだ。
これを使えば、個人差はあるが誰でも不思議な能力、魔法などを使えるようになると言う訳だ。
ただし、この能力はまだ手に入れて1ヶ月も経っていないので今は色々検証中だ。
ガチャ!
「―――――――――さてと!」
自室に戻ると内側から鍵をかけ、誰も入って来れない事を確認すると俺は能力を発動させた。
【エフォートエクスチェンジャー:起動】
俺の目の前に、A4サイズの画面が表示される。
いわゆるあれだ、VRMMOとかを舞台にしたアニメとかで見る宙に現れるあの画面だ。
画面には以下のようなことが表示されている。
《今回はどのような用件ですか?》
1、ポイントを交換する
2、ポイントを確認する
3、ポイントの交換履歴を見る
4、ステータスを確認する
5、終了する
「何度も見るが、ホントにゲームみたいだな・・・・・・。」
使う度に自分でも思っている事を呟きつつ、“1”を選択する。
すると、画面が変わって残りポイントと交換できるボーナスの一覧が表示される。
【大羽 士郎 残りポイント:37pt】
《交換するボーナスの種類を選んでください。》
1、ステータス上昇
2、一般魔法
3、特殊魔法
4、各種技能
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・
「う~~ん、やっぱり選べるボーナスは変化しないのか?いや、ゲームをそのまま現実に持ってきたような能力なら、何かしらの条件で・・・・・」
“あの事件”以降、俺は何度か異世界から来たという友人達に俺の能力について相談しているが、どうやら似た系統の能力はいくつもあるけど俺と全く同じ能力は存在しないらしい。よって、俺は自分の能力について自力で検証をするしかなかった。
それで分かった事だが、ポイントはそう簡単には貯まらないらしい。もう1週間ほど試してみたが、よほどの事がない限り一度にたくさんのポイントは貯まらない事は間違いないようだ。
次に分かった事は、選択できるボーナスの種類は個人によって大きく異なると言う事だ。これは対象人物の元々の資質などによる影響が大きいようだ。
そしてこれはまだ検証中の事だが、何らかの条件を満たせば選択肢が増える可能性があると言う事だ。これはあくまで可能性の段階であり、まだ確認はできていない。
「う~~~ん、中々進まないな~~~~?」
施設の仲間達は能力を得たと同時に取説も頭の中に出てきたけど、俺はなあ~~。
みんなは(俺もだが)面白がって何人か既に利用している。
しばらく悩んでいると、ふと外から妙な気配が漂ってきた。
「――――何だ、渉か?」
それは同じ施設の仲間の、何所にでも移動する事ができる能力《即席世界移動船》が起動する時の気配に似ていた。
「一体何・・・・・・はあ!?」
窓から見たそれは、白く輝く魔法陣だった。
・・・え~と、あれだよな?いわゆるテンプレって奴・・・・?
俺はしばらく悩んだ末、机の横に置きっぱなしにしてあった「四次元リュック(貰い物)」に使えそうな物を片っ端から入れ、それを持って外へ出た。
「よし!ぶっちゃけ出たとこ勝負だ!」
魔法陣の前に立ち、俺は覚悟を決める。
あ、一応仲間にはメールを送っておいたぜ!これで行方不明扱いにはならない筈だ!
「いざ、異世界へ!」
俺は勢いよく魔法陣に飛び込み、次の瞬間には地球から姿を消していた。
その後、士郎が異世界へ召喚された事実を仲間達が知る事になるのはその日の夕方以降になる。
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――異世界ルーヴェルト とある村――
さびれた教会の中で、一人の少女は床に描いた魔法陣に向かって祈りを捧げていた。
「神様、どうか私達に勇者様を遣わせてください・・・・。」
ボロボロの服を着た少女はいるのかも分からない神に祈り続ける。
その祈りが通じたのか、突然床の魔法陣は白い光を放ちはじめた。
「あああ!来てくださるんですね、勇者様!?」
その直後、光が弾けて教会の中は真っ白に染まった。
「きゃあ!?」
「うわあ!!」
少女の悲鳴に重なって、士郎は異世界ルーヴェルトに到着した。(笑)
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異世界に到着して最初に聞いたのは、異世界人1号こと村娘ちゃんの第一声だった。
「勇者様ですか!?」
「は・・・・・?」
村娘ちゃんは嬉々とした顔で俺に迫ってきた。
う・・・・!胸が当たってる・・・・・・・・・・・!
落ち着け、まずは状況の確認だ!
周囲を見る限りここは古い教会の中、目の前で俺を「勇者」と呼ぶ村娘ちゃん。
つまりこれは、予想通りのテンプレ的異世界トリップか!
と言うか、言葉通じてるんだな。
「あのう、勇者と言うのは俺のこと?」
「ハイ!村に伝わる《奇跡の書》を使って勇者様を召還しました!勇者様、どうか私達の村をお救いください!!」
うわあ、すっごくベタな展開だな。
よく思うけど、「勇者」って異世界人の総称じゃないよな?
「勇者かどうかは知らないけど、俺は君に召喚されたのは確かみたいだな。とにかく事情が知りたいから話してくれるか?え~~と、そう言えば名前は?」
「ハ、ハイ!失礼しました!私はアンナと言います。ここはファリアス帝国のファル村で、滅びかけている村を救ってほしいのです!」
「なるほど、知らない国の名前だな。」
マジで異世界に来たんだな、俺!
しかし村娘改めアンナちゃん、俺より年下っぽいけど胸結構大きいな?
「―――――滅びかけているって言ってたけど、戦争や天災が起きてるのか?」
「・・・・・ハイ、帝国と隣国のフィンジアス王国が戦争を始めて国境側にあるこのファル村も何度も戦に巻き込まれているんです。男の人は私の父や兄も含めてみんな兵として集められてしまい、村には子供と女性、あとは年寄りの人しか残っていないんです。」
「なるほどな、それって戦いが終わっても次の戦いがあったりとか、男がいないから盗賊に狙われやすくなってさらに追い詰められたってこと?」
「――――――分かるんですか!?流石勇者様は賢いんですね!!」
いや、漫画や小説とかの定番だからな、そういうのって。
「村には食料もほとんど残っていないんです!このままではみんな飢えて死ぬか、殺されるのを待つかしかありません!勇者様、どうか村を救ってください!!」
「・・・まあ、可能な限り頑張るよ。」
いくらなんでも1人で世界を救うとかは無理だからな。
まあ、村1つなら何とかなるだろ。
あ、そう言えば今の俺ってどうなってるんだ?テンプレ的にはステータスに影響があるはずだ。
俺は――馬鹿が無償で名古屋組に配布した――《ステータス》で自分の状態を確認する。
【名前】『ボーナス屋』大羽 士郎
【年齢】16 【種族】人間(日本人)
【職業】高校生(2年) 【クラス】勇者(仮)
【属性】メイン:土 木 サブ:火 風 水
【魔力】1,091,000/1,091,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv2) 特殊魔法(Lv2) 属性術(Lv3) 剣術(Lv2) 体術(Lv2) 投擲(Lv2) 善行への特別褒賞 鑑定
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv2) 土属性耐性(Lv3) 木属性耐性(Lv3) 火属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv2) 土神ハニヤスの加護 豊穣神アヌの加護 異世界言語翻訳
予想通り、見事に異世界召喚のプレゼント的な影響が出ているな。魔力は10万にも届かなかったのがいきなり100万越えって・・・・・。
予想通り、【加護・補正】も2つ増えてるし・・・・。
【豊穣神アヌの加護】
・豊穣の女神、アヌの加護。
・《土壌改良》《品種改良》《成長促進》の3種類の魔法が使えるようになる。
・闇属性に対する耐性がプラス補正される。
【異世界言語翻訳】
・異世界の言語を自動的に理解できる。ただし、行った事のある世界の言語に限り、自分の住んでいた世界の言語ものぞく。
・会話だけでなく文章も読むこともでき、それを繰り返す事で最終的に知識として習得する事ができる。
“アヌ”っていうのはこの世界の神の名前か?闇属性に耐性が付くのはおいしいな。勇者的に♪
《異世界言語翻訳》も中々便利だ。この世界の人間と会話を続ければ普通に読み書きもできるようになるってことだよな、これ?
「勇者様、どうかなされたのですか?」
「あ、いや、別に何でもない。」
「そうですか?」
危ない、危ない、ステータス見てる所は他人から見れば奇行に見えるからな。
しかし、これで取り敢えずは言葉の心配はなさそうだな。この世界の言語がいくつなのか知らないけど、これさえあればどの土地でも会話に困る事はない。
ドゴ――――ン!!
その時、外から爆発音のような音が聞こえてきた。
「な、何だ!?」
「――――――――!勇者様、村に王国の兵達が攻めてきたようです!!」
って、アンナちゃん俺の手引っ張らないでくれ!
教会の扉を抜けると、そこには悲鳴を上げて逃げる村人と、甲冑を着た騎士を先頭に村に侵攻する兵隊達の姿があった。
「マジでテンプレ・・・・・・。」
その迫力に、俺の体は少しだけ震える。
まあぶっちゃけ、“アレ”と比べたら迫力は数段劣るんだけどな。
「勇者様、今の村には戦える者は1人もいません!どうか村を助けてください!」
そして、俺は選択の余地がないまま異世界での初戦闘が始まった。
「黒龍の契約者」を読んだ方ならお気づきでしょうが、これは向こうで番外編として載せていたのをいろいろ修正したものです。
連載のペースは不定期となっていますが、週に2,3回を目安に連載します。