ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第二十五話
ベイオウルフがフェザーンを出港して、10日ほど過ぎた頃、前方に500隻ほどの艦隊が現れた。

「敵襲か?」

艦長のオリバー・シュナイダー中佐がオペレータに問いただした。

「いえ、味方のビーコンを出しています」

「あれは……」

艦橋にいたナオは驚き、数瞬後、今まで誰にも見せたことのない穏やかな表情で微笑んだ。艦長のシュナイダー中佐もまた、いつものクールな女性士官の見たことのない表情に驚いたが、思考をすぐに切り替え、前方の艦隊に注意を向けた。艦隊の旗艦から通信が入ったのはその1分後だった。

「こちらは、バーラト星域管区警備艦隊第6戦隊司令官、ヴェルナー・テンシュテット大佐です。そちらに乗艦しているナオ・リヒテンシュタイン中佐の出迎えに参りました」

今回の一件で、ヴェルナーは昇進こそなかったものの、ともに戦ったマディガン中将の働きかけによって500隻の艦隊司令官になっていた。
ヴェルナーの旗艦「サターン」に移乗したナオは正式に着任の挨拶をした。

「バーラト星域管区警備艦隊第6戦隊参謀長、ナオ・リヒテンシュタイン中佐。ただいま着任しました」

「命令書を拝見した。お帰りなさい、リヒテンシュタイン中佐」

ヴェルナーは真面目に敬礼した後、静かに微笑んだ。艦長に昇進したブラウン中佐以下艦の皆もナオの帰還を優しく迎えた。

「ありがとう。皆……艦長、いえ、司令官折り入って二人きりでお話があります」

ナオは急に真面目な顔になって、ヴェルナーに切り出した。

「わかった。俺の部屋で聞こう」

ヴェルナーはナオの表情を察し、私室に通すことにした。

「……さて、ナオさん、話とは一体? ……グフぅ!!?」

私室に入り振り返った瞬間、ヴェルナーはみぞおちにナオの拳を食らい崩れ落ちた。

「ヴェルナー……あなた、ランベルツ閣下にとんでもないことを吹き込んでくれたわね……」

背後に怒気の炎を揺らめかせ、ナオは指の関節をならしながら仁王立ちしていた。

「……ナオさん……一体何のことだ?」

予想外のダメージにうずくまりながら、ヴェルナーはナオにたずねた。

「あら? シラを切る気? ……そうねぇ、剛腕リヒテンシュタインとか、居酒屋つぶしのうわばみリヒテンシュタインとか?寝ぼけて艦橋にぬいぐるみ抱いて駆け込んで来たことも話したみたいね……」

「あ、……いや、その……」

話したことが事実なだけにヴェルナーは何も言い出せなかった。

「ヴェルナー……覚悟はできてる? 純情な乙女心を踏みにじった罰を受ける覚悟を……」

ナオは絶対零度の微笑をヴェルナーに向けた。

「そんな乱暴だから、いい年して行き遅れるんだ……」

ポソリとつぶやいたヴェルナーだったが、ナオはその一言を聞き逃さなかった。

「ヴェルナー!!」

サターン中にヴェルナーの悲鳴が響き渡った。

「全く……少しは静かにならんもんかな。うちの艦隊は」

ヴェルナーの私室の外で艦長のブラウン中佐がため息をついた。

「しょうがないですよ。NO.1とNO.2がアレですからね」

飛行隊長のエーリッヒ・フォン・アデナウアー大尉がとなりで笑った。ヴェルナーの部屋の前では艦の主立った面々が肩を並べて、指令官と参謀長のやり取りを聞いていた。

平和を取り戻しつつある世界で、彼らは戦い続けるであろう。永遠ならざる平和を守るために。
それを記す年代史はまた、銀河の深淵で記されていくのである。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。