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名探偵の条件
作:霧咲 ありん



第0話:さいしょのはじまり


例えば、
『名探偵』

―――こんな名をもつ人間について考えてみたとする。

思い浮かべるのはやはり、事件を華麗に解決してしまう人間ということだから、それは除外して。



――『名探偵』って、どんな人のこと?



「――そりゃああんた、頭のいい人のことでしょ」

…にべもない。
「…そういうことじゃなくって!ええと、なんていうか、そのー…」
「じゃあなに、あんたは私に何を聞きたいの?」
「……人間性?っていうの?」
「人間性?」
「そうっ!そもそも、頭がいいのと事件を解決できるってのはあんまり変わんないじゃん!」
「…そういうもんかねー」
「そういうもんだよ。で、杏ちゃんはどう思う?『名探偵』って」

「…うーん………変人?」

「変人?そんなイメージ?」
「うん、だって、ホームズとかポワロとか、そういうの。失礼ではあるけど、どっか変な人じゃん。『名探偵』ってのはそれも魅力なんじゃないの?」
「…そっかー。そういうもんかなー」
「そういうもんだよ」

「後は?なんか無い?」

「まだ言わす?…うーん…、そうだな、いざって時に頼りになるとかー、意外と体力あったりとか。情報に強いとか」
「…なんかだんだん主観が混じってるよ杏ちゃん。そうだったらいいのになだよ」

「いいじゃない、『名探偵』なんて本当にいるわけないんだから」
「……んー……そだね」






「…変人…で、何だっけ、いざって時頼りになって…」
どうしよう、考えれば考えるほどわかんない。

なんだか面倒くさくなってしまって、私は大きなため息をひとつついた。
いけない、ただでさえささやかな私の幸せが全部逃げてしまう。

私の名前は真下繚。りょう、と書いてめぐると読む。ごくごく普通の高校生……だったはずの私には、最近悩み事ができた。それも、かつてないほど大きなやつが。さっきはその延長で、友達の杏ちゃん――もとい、槇原杏に質問をぶつけてみたのだけど。
「やっぱりよくわかんない…」






――ガチャ

「ただいま…」
「おかえり」


………………。

!!?

がばっ!
「――っ!?――――!!」
声が出ない。いや、声も出ない。
呆れて。

「どうしたんだい、そんなに慌てて」
そんな私を見て、そいつは楽しげに口角を上げる。
どうしたんだい、って!
「なんっで!あなたが!ここに居るのっ!?」
あ、声出た。
「いやあ、君が寂しい思いをしていないか気になってね。入ってみたはいいけど、本人が居なかったもんだから」

私の家の、そのソファの上を、我が物顔で占領して、彼――御影律は悪びれもせず言った。
「ちっがぁう!私朝しっかり鍵かけたのにっ…なんで?!勝手にコーヒーとか淹れてるし!」
「不用心な鍵だったからね。女の子の一人暮らしなんだから、もっと頑丈な鍵つけた方がいい」
「は…はぁ…どうも」
「もう頼んじゃったけど」


「…………え『ピーンポーン』
なにーー!?

恐る恐るドアスコープを覗くと、……あ、鍵屋さん、かな?

「はいはーい、お願いしまーす」
「ちょ…ちょっと」
…あれよあれよという間に、玄関の鍵を取り替えられてしまった。費用は律が負担してくれるらしい。当たり前だ。
なんとなくはぐらかされたけど、きっとこの人ピッキングで入ってきたんだ。…人としてどうだろうか。


御影律は不思議な人だ。髪と目が真っ黒な上、服装も黒を好むのでいつも全体的に黒くて、でかい。158センチの私より、優に30センチは背が高い。がっしりしているというわけではないが、ひ弱そうにも見えないし、実際体力はかなりのものらしい。
そして、顔がやたらいい。街を歩けば10人が10人とも振り返るくらいに。しかも背が高いのでさらに2・3割増して見える。
年齢は不詳。本人は『お酒と煙草はOKだよ』とか言っているが、本気で歳がわからない。ぱっと見は24か25といったところだが、切れ長の目にもっと、ずっと老成した光を灯す時があるし、浮かべる表情はたまにとても子どもっぽい。
二週間前にマンションの隣の部屋に引っ越して来た時、一目見て言葉を失った。それほど彼はかっこいい、のだ。見かけだけは。
中身の方は、もう完全に変な人だ。人懐っこいのに人をなかなか信用しない。寂しがり屋の人間不信。面倒くさがりなのに妙に行動力があって、人をおちょくるような言葉遣いをする、

自称『名探偵』。

自分で探偵の上に“名”をつける時点でかなりイタい人かもしれない。
初対面で、話題が無かったので『お仕事は何をなさってるんですか?』と聞いたら、『名探偵です』。

……正直、ものっっっすごく、胡散臭かった。
今も職業に関してはあまり信じていない。だからこそ、杏ちゃんにあんな質問をしたのだ。



「で、律さんは何の用で?」
「……………。」
にこにこ…いや、にやにや、か。すっごいイイ笑顔なんですけど。
…あー…。
「…晩御飯、食べて行きます?」
「喜んで」
やっぱりか。
「もー…。料理上手いくせに…」

ばたん。

あ、冷蔵庫の中、食材増えてる。

「持ってきた?」
「うん」
そこまでして…。



まあ、結局はこの人が名探偵かどうかは今の私にはわからない。仕事をしているところなんて、まだ見たことはないのだから。

けれど、私にとって一番重要なのはそこではなくて。
一番重要なことは、人見知りが激しくて、人付き合いが苦手で、友達も多くないこの私が、彼と出逢って2日で家を行き来する程に仲良くなった事。
独りぼっちで、帰るたび呑み込まれるような寂しさ悲しさを覚えていたこの家に、帰ってくる事が少し、楽しみになったこと、なんだ。


最後までお読みいただきありがとうございます。推理小説初挑戦の作者ですので、謎解きよりも2人の関係に力が入るかもしれません。ですが、書くからにはすべて力いっぱい頑張りますので、どうかよろしくお願いします。











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