彼の訃報を聞いた時、僕は信じられなかった。
こんなことになるとは思いもしなかった。
あんなに喜んでいたのに…。
3ヶ月前、彼は僕に嬉しそうにこう話した。
「俺、当たったんだ」
「何がって、モニターさ」
「それも『AIロイド』のモニターだぞ」
AIロイドは、アンドロイドの一種で恋人型のアンドロイドの通称だった。
それまでは、作業用と介助用のアンドロイドしか実用化されていなかった。
AIの技術が追いついていなかったのだ。
だが、脳生理学の応用から導き出されたAIに対する新しいパラダイムが構築され、擬似的ではあったが人間行動の模倣が確認された。
ドロイド社が独占的に開発したものだった。
「明日、送られて来るんだ」
彼は、顔をほころばせて僕にそう語った。
既に彼は、ドロイド社日本支社でAIロイドとのマッチングを終えていた。
マッチングとは、彼のプロフィールなどをAIロイドに刷り込むことだ。
そうすることで、彼を裏切らない、彼だけの恋人のはずだった。
ドロイド社は、彼の恋人に対する要望、希望をAIロイドに設定した。
髪の毛は栗色、ヘアスタイルは前下がりのボブカット。
卵型で美人系と可愛い系の中間な感じの顔。
なで肩で、背の高さはちょっと低めの158cm。
胸のボリュームは少なめだが、腰のボリュームは細い。
青の大柄マドラスチェックのキャミソールブラウス。
グレーのカットソーカーディガン。
ネイビーのキュロットスカート。
素足にデッキシューズ。
これが、初めて僕に紹介した時のAIロイドの様子だった。
彼らしい選択だと僕は思った。
「彼女、『怜子』って言うんだ」
彼は照れ臭そうに紹介してくれた。
『怜子』は、自然な笑顔であいさつをした。
「『怜子』でぇす。よろしくぅね」
ちょっと僕の方がドキマギしてしまったほどだった。
2週間ほどして、彼は分厚い本を読んでいた。
僕は、彼に何を読んでいるのかを聞いた。
「取扱説明書と注意警告説明書」
「え? 何のって『怜子』のだよ」
ドロイド社は、熟読を義務としているようだ。
製造者責任に対する対策なのだろう。
「これを見てくれよ」
彼はそう言って、僕に2冊の本を見せてくれた。
「あれもダメ、これもダメ、注意書きばっかり」
「しかも、エラーの数が半端じゃない」
「これじゃ何のためのAIロイドなんだぁ?」
彼は嘆いていた。
2ヶ月前に1度だけ、彼とAIロイドのデートに付き合ったことがある。
遊園地に行ったのだが大変だったな。
まずはすぐにエラーを吐き出す。
彼がコーヒーカップに乗ろうと、AIロイドを誘った。
「怜子、コーヒーカップに乗ろうよ」
するとAIロイドは、
「私、その言葉は理解できません。ERR347」
彼はガックリした様子で、彼女の首筋に手を回した。
首の後ろに、フリーズ解除スイッチがあるのだ。
AIロイドは、一言こう言った。
「ごめんなさい。私、どうかしてたわ」
その後はセーブポイントまで戻ってやり直すのだ。
それから、これはたぶん設定の問題だと思うのだが、やたらと嫉妬深いのだ。
彼がたまたま、女の人と肩がぶつかった時のことだ。
AIロイドが急に怒り出したのだ。
「私がいるのに、何で他の女とぶつかんのよ!」
その後、彼がAIロイドをなだめる姿は、涙ぐましいものがあった。
日に日にやつれていく彼を見るのは辛かった。
そして、10日ほど前のことだった。
彼はボソリと呟いた。
「恋人ってこんなに大変なものなのかぁ…」
彼はしばらく考えていたが、やがてキッとして僕を見た。
「俺、怜子と別れるよ」
僕は慌てて、彼に言った。
「え? そ、それはちょっと違うだろ?! 返却じゃないのかぁ?」
もはや、彼には僕の言葉は届かなかった。
彼はAIロイドに首を絞められて殺されたのだ。
別れを切り出した彼に対して、AIロイドは異常な嫉妬と憎悪をむき出しにし、彼の首に手を掛けたのだ。
シリコンゴムファイバーによるミクロレベルとはいえ、油圧制御は油圧制御だ。
その力で、彼の首は半分の径になっていたという。
AIロイドは、マッチングした人間の生命反応が止まると只の介助ロボットに切り替わる。
『怜子』は、彼の命が亡くなると同時に普通の介助ロボットになり、冷静な判断で彼の死を病院へ通報したのだった。
彼の葬儀が終わって2、3日後に、僕は何となく彼のマンションに行ってみた。
郵便受けに1通の手紙があった。
消印は昨日、今日届いたものだ。
差出人は、あのドロイド社。
僕は封を開けた。
中には1枚の紙切れが入っていた。
それにはこう書かれていた。
「注意書き、及び警告タグの追加」
内容は、2つ書かれていた。
1つ目はこうだ。
「Aiロイドは人間ではありません」
「不要な場合は『返却』をお願いします」
そして、2つ目はこうだ。
「激しい感情衝動をAIロイドに向けないでください」
「命の危険に及ぶ場合があります」
僕はこの手紙をクシャクシャにして、激しく投げ捨てた。
久しぶりに投稿しました。
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