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短編「人面疽(じんめんそ)」

人面疽という病気をご存知でしょうか。人面疽とは最初はおできのようなもので、それが次第に大きくなり、最後は人の顔の形になるという病気です。現代の医学では原因がわからず、正確な治療法も無いという奇病です。これにかかった人はあまりの気味の悪さに自ら命を絶ってしまうこともあるそうです。
とあるさえない30代のサラリーマンの右肩に小さなおできができました。特に気にせず放っておいたのですが、どんどんと大きくなり手のひらほどのサイズになったところで目や鼻や口のようなおうとつができ始めました。
男は恐ろしくなり病院へ行きました。
このおできは人面疽だろうという事はわかりましたが、どう治療していいのかは分かりませんでした。とりあえず定期的に検査をしながら有効な治療方法を見つけていこうという事になりました。
日が進むにつれて人面疽は大きくなり、目鼻だちもはっきりしてきました。
男は恐怖にかられて人面疽をたたいたり、カッターで切りつけたりしましたが、痛いだけで何の効果もありませんでした。
そして恐怖から逃れるため酒に頼る毎日が続き、仕事へも行かなくなりました。
その荒んだ生活の中で男は病気と戦う気力も失い、全てをあきらめてしまいました。
電話がなりました。男はベッドで寝たままぴくりとも動こうとしません。
電話はなり続けます。どうやら出るまで止まりそうもありません。
男はダルそうに受話器を取りました。
病院からでした。
なんと、病気を治す方法が見つかったというのです。一週間後に手術をするから病院に来てくれという電話でした。
男の目に気力が戻りました。
男は電話を切ると全身が映る鏡の前に立ち、上半身の服を脱ぎました。右肩は気味の悪い人面疽が見えないように包帯でぐるぐる巻きにしてあります。その包帯を数週間ぶりにほどいてみました。
「ああっ!」
包帯の下には完璧な人の顔が出来上がっていました。しかも、超がつくほど美人の女性の顔です。
「う、美しい・・」
男は思わずつぶやきました。
すると人面疽の目が開きました。人面疽は鏡を通して男と目が合うと、なんと「こんにちは」と言葉をしゃべったのです。
男はびっくりして心臓が止まりかけましたが、なんとか落ち着いて人面疽と会話をしました。
ものすごくいい子でした。ものすごく気が合いました。まさに男の理想通りの性格です。
男に春がやってきました。毎日毎日、彼女と過ごすことが楽しくて仕方ありません。
手術もすっぽかしました。病院から何度も電話がかかってきましたが全て無視です。
「そういえば田舎の両親がオレの結婚のことをいつも心配してたなあ・・」
男は人面疽にプロポーズしました。
人面疽は頬を赤らめながらもOKしました。
男は電話で母親に「今度、婚約者を連れて行く」と話しました。母親は「あんたみたいなのと結婚してくれる人がいたなんて本当にありがたい」と大喜びです。「どんな人なのか早く会ってみたいわ」とも言っていました。
来週、男は実家へ帰るそうです。
                  おしまい
出会いは予想もしないところからやってくるものですねえ。
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