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第一章 クランコンテスト編
第一章(8) 引かれ者
◆Unknown◆

 深夜二時。
 ローズベル学園第三図書室・厳重保管書庫ストリクトセーフキーピングスタック
 通称、〈埃高き書架〉。
 一冊の書を手に取った。
 まるでそう、『引き寄せられる』ように。
 真っ黒の本には文字はない。だがこれが何か解っていた。知識ではない。直感だ。もっと言えば、何かに囁かれた。
 それを懐に忍ばせる。
 もう用はない。
 本来、この場所は先生の許可証がなければ入ることは出来ない。
 正直に言えば、侵入している。
 バレたら最悪、退学処分に科せられるだろう。良くて謹慎処分か。何にせよ、今の立ち位置さえ失うことになるだろう。
 ――構うものか。
 全てを取り戻せば何も問題はない。図書室をあとにし、廊下を早足で歩きながら、彼は自室を目指した。
 一人部屋である自室に駆け込むようにして入る。服を着替えるのも後回しにして机に向かう。懐から本を取り出した。
 表紙を捲り、取り憑かれたようにページを捲ってゆく。書いている文字が自然に頭に入ってきた。やはり、僕は天才だ。
 妄執するように、舐め回すように文字を見つめる。
「これは……」
 そして見つけた。
「ク……フ、フフフ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
 これだ。
 これがあれば。
「これで……これで僕は……」
 見ていろ。
 すぐに僕は貴様を越えるぞ。
 彼は口元を歪ませた。


◆Firo◆

 クランには色んな特典がある。
 たとえば、依頼において報酬が優遇されたり、ポイントを何パーセントか上乗せしてもらったりと沢山ある。
 その中で、クラン用の部屋を与えてもらえるという特典があるのだ。CL(クランレベル)3以上のクランにのみ割り当てられる。部室スタジオと呼ばれており、それらを集合させた部室棟がある。
 カタハネはCL3なので、条件を満たしている。故にフィーロたちには部室を与えられているのだが、場所が悪かった。
「ガンガンガンガン煩いですのよっ!」
「アンタはキーキー煩いけどね?」
「何ですって!? そもそも、あなたが壁をガンガン蹴るから悪いのですわ!」
「ガンガンなんて蹴ってないわ。バンバンよ」
「大して違いませんわっ!」
 う……うるせー。
 金切り声っつーか超音波? むしろ怪音波? 何にせよ頭が痛くなる。
 シェリカとベアトリーチェの言い争いは、周りに及ぼす。被害が尋常じゃない。割れそうだ。頭が。パーンて。あ、それは破裂か。何でもいいけど。つか誰かあれ止めてくれ。
 不運にも、カタハネの部室の隣はベアトリーチェの(急造)クラン《アンセムスター》だった。そう、不運なのだ。
 いつも仲の悪いシェリカとベアトリーチェ。どちらかといえばベアトリーチェがシェリカに突っ掛かる感じではあるが。何にせよ張り合いばかりしている。多分、ベアトリーチェがシェリカに突っ掛かる理由としては、彼女が『TWGDF』に属しているからだろう。
 TWGDF。
 正式名称、ガナッシュ様の優美なお姿をそっと見守る会。
 ありたいていに言えば、ファンクラブというやつだ。
 ベアトリーチェはガナッシュのファンなのだ。カタハネは今でこそまだマシだが、発足当初はヤバかった。ガナッシュに群がる女子の加盟希望者が上級生を含めて三桁代を越えかけた。そのカタハネにシェリカが入ったのだ。すんなりと。ベアトリーチェとしては面白くないだろう。
 それからというもの、遇うたびに喧嘩する。口喧嘩くらいなら構わないと思っていた時もあったが、とんでもない。奴らの怪音波は人の鼓膜を破壊する。危険だ。
「あなたのようながさつな女がガナッシュ様の隣にいるだけで許せませんわ!」
「はあ? 何で変態が出てくんのよ。馬鹿?」
「馬鹿ですって!? 大体ガナッシュ様を変態呼ばわりなど……!」
 あーも神様お願い俺はどうなってもいいからこの馬鹿どもの声帯を消してください。神隠しにでも遭えよマジで。
「ガナッシュ……こいつら何とかしてくれよ……」
「――嗚呼、可愛いイリア。ボクのイリア。愛しいイリア。これほどまでにボクを焦がれさす存在は全世界を探そうともキミだけだ……! 際限の最果てからでもボクはキミを迎えに行くことを誓うよ。そう、極限の愛とともに……!」
 ――駄目だ。
 コイツはもう駄目だ。手遅れだ。
 重度の変態シスコン野郎め。周りの騒音も介しないとは。一種のトランス状態じゃねーの。そこはかとなく気持ち悪い。
「あ、あの、フィーロ君、お茶煎れましたよ?」
 ユーリが湯呑みをフィーロの前に置いた。綺麗な茶髪を後ろでまとめ、何故かグランチェのコスチュームで身を固めていた。何か悪いものに影響されたのだろうか。
「ああ……ありがと」
 でもこの状況でお茶っておかしくね? まあ、ユーリだしな。別にいいけど。
 湯呑みを手に取ろうとした。そして消えた。
「………」
 いつの間にか、モニカがフィーロの前にあったと思われる湯呑みを口にしていた。恐るべき早さで掠め取ったようだ。「ああ……これがユーリの煎れたお茶……」と恍惚とした表情で飲んでいる。気持ち悪いというか、薄ら寒い。鳥肌立ってきた。
「耐えらんねぇ……」
 こんな魔の巣窟に留まるから悪いのだ。外に出てしまえば問題ない。召集をかけられてこの仕打ち。笑えない。泣けてきた。泣いていいかな。
 フィーロは座席を立ち上がり、外に出た。皆、各々の世界に没頭していたため、見向きもしなかった。
 ただ、クロアとだけは目が合った。「………」彼女は何も言わなかった。
 不気味だった。

「あ、フィーロ君」
 外に出ると、廊下の端に二人の少女がいた。犬っぽい耳の少女と、十歳かそこらに見えるロリ少女だ。犬耳少女がこちらに気付き、フィーロの名を呼んだ。
「モランと……ロリエだったか」
「こんにちは〜」
「逃げてきたの?」
「ご明察。……何で喧嘩ばっかりするかな……」
「喧嘩するほど仲がいいんだよ。きっと」にこりと笑うモランは天使だ。
「なら周りに迷惑にならない場所でやれよな……」力ない笑いを漏らすフィーロ。
「リーちゃんはガナッシュ君のファンだしね。仕方ないんだよ」
「かっこいいもんね〜」
「シスコンだけどな……」
 イリアとやらがどんな娘なのかフィーロは知らない。(色んな意味で)怖くて奴が肌身離さず持っているロケットを覗いたことはない。ただ、あのガナッシュの妹だからさぞや美少女だろう。それでも狂喜乱舞するほどなのか。兄が。肉親が。自分に当てはめて想像してみた。シェリカの写真を舐め回すように愛でる俺。キショい。嫌悪しかない。つかあり得ない。
「どうかしたの?」
「んお? 何が?」
「すっごいしかめっ面」
 顔に出ていたらしい。フィーロは顔をうにうにと揉んだ。少しだけ頬が赤くなる。
「何でもないさ。気にするな」
「ねーねーそういえばさ〜」いきなりロリエが切り出した。「フィーロ君は彼女さんとかいるの?」
「は? 彼女? いや、いないけど」モテねーし。
「ホントに〜?」
「いないって」
「そうなんだ〜。ふぅん。へー。じゃあさじゃあさ、好きな人とかは〜?」
 しつこいなコイツ。
「いないけど」
「えーホント〜?」
「ホント」つーかマジうぜっ!
「ロリエ。あんまり質問攻めしちゃダメだよ」
「だって〜」
「だってじゃないよ。ダメなものはダメなの。迷惑でしょ?」
「う〜〜〜」
 むくれっ面をするロリエ。一部(勿論、男子)ではこういうキャラに需要があるらしいがフィーロには到底理解できない。モランとロリエのやり取りはもはや姉妹のそれだった。見てて馬鹿馬鹿しくなる。
 暫くして、二人は言い合いを始めた。……ここもか。そう思い、溜め息が漏れる。見た感じ、言い争いとまではいっていない。ま、戯れ合いみたいなものだろう。何にしても、いづらい。
 フィーロは二人を一瞥して、その場を離れた。

◆◆†◆◆

 そもそも、部室に行ったのは習慣でも何でもなく、ガナッシュに召集されたからだ。多分、二日後に迫ったクランコンテストについての話だろう。
 しかし、約一名がいつまで経っても来ない。待たされるのが好きではないシェリカは苛々を壁にぶつけた。それが隣の部室に響き、向こうを怒らせた。で、相手が不幸にもベアトリーチェだったわけだ。
 ガナッシュは時間の有効活用とかいってトリップして、喧嘩も収拾つかなくなって。ユーリは残念な娘だから、全く状況など理解していないし、モニカに救援など頼めるはずもない。
 結果としてフィーロは部室棟を離れ、現在は錬金術士学科アルケミスト実験室ラボのある学園の南東区を歩いていた。たまに実験室から爆発音がする以外は静かな場所だ。ゆっくりできるだろう。多分。
「つーか、あの変態はどこをほっつき回ってるんだ……?」
 考えてみれば元凶はガナッシュだが、発端はあの変態だ。あれが早く来ていればこのような悲劇は起こらなかったはずだ。
 まあ、あとで殺そう。
 そう誓いを込めて握りこぶしを作った。
 その時、ドン、と誰かと方がぶつかった。転けたりはしなかったが、少しよろめく。踏み留まって、ぶつかった相手を見る。黒いフードを目深に被った人だった。体格は華奢とまではいかないが、細い。それでも女性的ではない。多分男だろう。
「……てて。悪い」
「ちっ……」
 黒フードの彼(?)は舌打ちをして走り去っていった。何なんだ。気分悪いな。
 すぐに角を曲がり姿が見えなくなった。急いでるのかは知らないが、人としてのマナーくらい守れってんだ。
 腹立たしさを紛らわせるように小石を蹴った。一直線に飛び上がる。ごつん。「あだっ!」人に当たった。
「わ、悪い。大丈夫か?」
 急いで駆け寄る。これじゃ黒フードのことどやかく言えないな。そう思った。
 ――が、
「いっでー……」
「……何か……心配して損したな」
「何でだよ!」額を少し腫らしながら、ツッコミを入れる。「石ぶつけておいてそりゃないだろっ! 絶対腫れたぞコレ!」
「ああ、腫れてるな。滅茶苦茶かっこいいぜ」親指を立てる。
「え、マジ!?」
「マジマジ」
「じゃあオレってばモテモテ!? モテモテかな!?」
「そりゃないな」
「意味がねぇ―――っ!」
 頭を抱える。リアクションの大きい奴だな。見ててかなり笑える。バカっぽくて。

 数分後、漸く平常心を取り戻したか、のた打つのをやめる。
「――にしても、久しぶりじゃんフィーロ」
「そうだな。暫く見てなかったな、そういえば」
「あれ? もしかしてオレのこと忘れてた? 忘れちゃってた?」
「若干」
「ぬお―――――――――――――――――っ」
 頭を再び抱える。いい加減、飽きた。煩いし。フィーロは頭をぶん殴った。「あだっ」おとなしくなった。涙目かつ上目遣いでうーと唸りながら見てくる。小動物的という言葉はコイツのためにあるのだなとフィーロは感じた。
 実際、小動物みたいだ。
 まあ、犬、だな。
 犬耳に、ふさふさの尻尾を振る姿はまさしく犬だ。
 名をルツという。
 モランの幼なじみで、獣人だ。性格は、真面目なモランと正反対の馬鹿。もう馬鹿と書いてルツと読んでもいい。それくらい馬鹿だ。
 馬鹿ルツは近戦学部の戦士学科ウォーリアで、盾持ち片手剣と手斧ハンドアックスを使うオーソドックスなタイプの戦士だ。レベル1で、フィーロと同じような立ち位置にいる。フィーロと違うのは半ばマスコット扱いされていることくらいか。
 まあ、レベルが同じなのもあってか仲はいい。たまにこうやって弄って遊ぶ。

 突然何か思い出したように、馬鹿ルツが切り出した。
「あ、そうそう。聞いたぜ? お前クランコンテスト出るんだろ?」
「ああ、まあな。どこで聞いたんだ、そんなもん」
「女子が噂してた。ガナッシュが出るから」
「なるほど……」迷惑な奴だな。
「頑張れよー。オレ応援してんだからさ」
「しなくていいけどな……」ぶっちゃけ出たくねーし。
「ガナッシュばっかモテて悔しくねーのかよ! オレだってガナッシュくらい強けりゃシェリカさんに……ぐお―――っ」
「悶えてんじゃねー。つか、お前まだ夢から覚めてないの?」
「夢じゃねえ! オレは本気なんだよ!」
「……あ、そ」
 馬鹿ルツはシェリカが好きらしい。まあ、見てくれはいいからな。入学一週間後に行われた『第一回目美少女ランキング』のアンケートで、シェリカは一年生の中で五指に入ることが解った。フィーロは勿論、違う女の子に投じた。その旨をぽろっと口走った日には、フィーロはシェリカに四十八のサブミッション技を食らわされた。血塗られた悲しい思い出だ。
 それはさて置いても、フィーロは馬鹿ルツの気持ちがよく解らなかった。解りたくもないが。別に、シェリカのことは嫌いじゃないし、むしろ好きだとは思う。姉だし。たった一人の肉親だ。血を分けた姉弟だ。嫌いになる理由はない。それでも、シェリカに対して恋愛感情を持つ理由が解らない。それは弟ゆえか、それともシェリカの性格を知っているからか。
「まあ、人それぞれだしな……」
「ん? なんか言った?」
「いや。まあ、なんだ。頑張れ」
「おう!」
 ガッツポーズする馬鹿ルツ。モランが可哀相だと思った。何となく、だが。
 何故か溜め息が漏れた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
「………」
 違う。これは俺の溜め息じゃない。
 尻に嫌な感触がした。
 撫で回してきた。頬摺りまでし始めた。太股もまさぐり始めた。
「やっぱええわ〜。こう固さがなぁ。ええわ〜。ベストやわ〜。まあ、個人的にはもうちょい柔らかさが欲しくもあるんやけど……」
「………」
 プチン。
 頭の大事な線が切れたような感覚がした。右足を後ろに勢い良く上げる。ごす、とどこかに当たった。どこでもいい。「べふっ」と対象が呻いた。そのまま左を軸に回転させ、右足を横薙ぎに蹴り飛ばした。「ぎゅふぇっ」顔面を捉えた。吹っ飛ぶ。追撃を掛けた。横臥状態の対象の腹を踏む。「ぐえっ」くぐもった呻き声。無視だ。次にマウントポジションをとった。そして殴った。タコ殴りにした。
「ちょっ……ごめっ……謝ります! ホンマ謝るから許して……ぎゃあああああああああああああああああああああああっ……!」
 対象の沈黙を確認し、誓いを果たしたことへのガッツポーズを決めた。

◆◆†◆◆

 沈黙した変態レイジの首根っこを掴んで引き摺る。向かった先は部室棟。カタハネの部室だ。
 階段を上がり、廊下を渡り、戸の前まで行き着く。ノブに手を掛け、開けた。
「ん……? フィーロか。どこに行っていたんだ。勝手に出ていくな」
 ガナッシュは開口一番そんなことを言った。ぶっ飛ばしてやろうかと思った。お前らがトリップしてたから俺は出ていったんだよ。人の所為にすんな。フィーロは不機嫌な顔をした。
「……まぁ、戻って来たから問題ないが。それと、後ろのそれは何だ?」
「不燃ゴミだ」
「そうか」
「フィーロっ! どこに行ってたのよ!?」
 シェリカが飛びつかんばかりにこちらに駆け寄ってきた。もうベアトリーチェとの喧嘩は終わったらしい。いつまでもやってもらってはこちらも迷惑なのでそれはそれで万々歳だ。
 取り敢えず、頭をぽんぽんと軽く叩いてやった。意外そうな表情をしつつも、シェリカはこそばゆそうに首を竦めた。
「避難してたんだよ。騒がしかったからさ。悪かったね、何も言わなくて」
「別に……怒ってないけどさ……」
 シェリカにしては珍しいぼそぼそとした喋り方だった。
「そう」
 なら俺に被害はないと考えていいんだな? なら一安心だ。
「――で、ガナッシュ。召集かけたのはお前だろ。変態不燃ゴミ、ちゃんと回収してきたんだから本題入れよ」
「ああ、そうだな。……じゃ、席についてくれ」
 部室には長い折りたたみ式のテーブルが二つ置かれている。それを囲むようにして座る。ユーリは備え付けのキッチン(これも生徒会長の計らい)でごそごそやっている。多分お茶の用意でもしているんだろう。
 フィーロは適当に、入り口から向かって左のテーブル側の一番手前に座った。
 隣にシェリカが座る。物凄い速さだった。一瞬びびった。
 シェリカの向かい側にモニカが腰掛けた。不燃ゴミは端っこに捨ててある。ガナッシュは立ったままだ。もう一人は……?
 膝の上に重力を感じた。ついでに柔らかさも。こう、人肌の温度も感じた。
「………」
「………」
「……何故、俺の膝に座るんだ? 席は三箇所も空いてるんだが?」
「………特等席」
「意味不明」
「………うれしい?」
「……意味……不明」
 ど、動揺しちまったじゃねーか! いや確かにちょっと嬉しかったり? するけどさ! そりゃさ、男だもの。クロアはまあ、ロリエよりの幼児体型ではあるがしかし! 女の子だ! 男としてはうわーいといった状況シチュエーションでもあるけれども!
「どこ座ってんのよ!」
 今は不味い! 今じゃなくても不味いけれども!
「………フィーロは……よろこんでる」
「そうなの!?」
「滅相もありませんっ!」こっちに振るな!
「………心臓はばくばく」
 余計なこと言うな! 違う。違うぞ。命の危機に対して心臓がばくばくなんだ。決してやましいことは考えていない! 断じて!
「フィーロっ!」
「だから違うって!」意思の疎通って難しい! 「あーもーつーかどけ! 早く!」クロアを降ろした。ちょっと名残お……いや、清々したさ! 勿論さ!
「お前らいい加減にしろ! クロアは早く座れ!」
 ガナッシュが業を煮やして叫んだ。もっと早く助けてくれても良かったのではないだろうか。
 クロアも一応観念したようで、席に座った。フィーロの正面に。すげえ見てる。シェリカはそのクロアを睨みつけていた。威嚇する猫に見えた。
「あ、粗茶です~」
 拍子抜けするような声でユーリが盆に載せた湯飲みを順番に置いていった。その姿を恍惚とした表情でモニカが見つめている。道理で騒がしくても何も言ってこなかったわけだ。大方、ユーリの姿を見るのに忙しかったのだろう。
 しかしユーリは優しい娘だと思う。
 不燃ゴミにの分までお茶を用意していたのだから。モニカが奪っていったけど。

「……落ち着くまでにどれだけ時間を掛けるんだ……まあ、いい。始めるぞ」
 ガナッシュが言った。
 ホワイトボードには『クランコンテスト直前作戦会議』と書かれていた。というか、どこから盗んできた、そのホワイトボード。前はなかったぞ。
「――まず、クランコンテストは二日後にまで迫っているわけだが、このコンテストにはいくつか審査のポイントになる部分がある。“戦力”“協力性”“作戦”“応用力”“技能”“格好よさ”の六つだ」
「へえ……」
 格好よさって何だよ。不必要だろそんなもん。
「“協力性”は捨てる」
 同感だ。俺たちにチームワークはない。
「“作戦”はあってないようなものだ」
 いつも『力押し』だからね。
「“戦力”“応用力”“技能”は個々の水準は高い。問題は……」
 何故こっちを見る。
「“格好よさ”は必然的に、フィーロにかかってくるだろう」
「何で」
「残り三つをお前が満たすのが条件だからだ」
 なるほど。
「フィーロは立ってるだけで格好いいわ」
「わ、わたしもそう思います~」
「ちっ……」
「えっ……」
 涙目になるユーリ。何故学習しないのだろう。
 ガナッシュが咳払いした。
「取り敢えず、一年生の部門で優勝すれば、CL4への昇華はほぼ確実だ。今回は風紀委員モラルキーパー直属のクランも参戦すると聞く。総合優勝は難しい」
「《ピースメーカー》ね」モニカが呟いた。
「そうだ。あれはトップレベルの実力を持つ。学園外のクランに匹敵する実力を持つ者もいる。総合優勝は砂漠の中から一粒のダイヤを探すようなものだ。……だが、それ以外、他の部門ならば優勝は狙える」
 ガナッシュは全員を見回した。目が合う。何か、意志の込められた視線だった。
「カタハネは、強い」
 やるぞ。
 そう言った。
 フィーロは、そのガナッシュの言葉を聞いて。
 ――やだなあ。
 そう思った。


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