ギルド!
「さぁ、お兄、デザートを注文するのじゃ!」
ユーカに呆れつつ席に着くと直観スキルが発動した。街中でも発動するんだな。
~ゴメスは誰かと連絡をとっている?~
ゴメスをチラ見したら読書している以上のことは確認できなかった。
あれで誰かと話しているのか?
そんなことを考えていると、何やら舌足らずな幼い女の子の声が聞こえてきた。
「ごちゅうもんは何にしましゅ? しますか!」
従業員の恰好をした8歳ぐらいの顔は北欧っぽい白髪美少女(幼女?)が話しかけてきた。
何故か周囲の従業員や冒険者たちが動きを止めて、その女の子を応援するようにみていた。
「メニューをタッチするか口頭で注文してくだちゃ…してください!」
そうしたたどたどしい問いと同時に視界にコーラやらジンジャーエールやらなんやら協賛しているメーカの商品がゲーム内通貨Zで表示される。
ちなみに今は初期所持金500zほどある。
どうやらここの品の平均価格は30Zほどみたいだ。
そういえばこのゲーム、全世界の企業がこぞって協力しているらしい。
まぁ、西洋ファンタジーの世界観も各企業の要求を満たすにはちょうどよかったらしいからこそのこのVRが完成したらしい。
と返答をせずにメニューを見ながら感動に浸っていると。
「「…………!」」
周りにいる人たちがなぜかこちらを睨みつけてきた。
俺たちは何もしてないだろう。
ユーカは気づかないのか平常運転だ。
「かわいいのじゃーーーーーー!」
ユーカはそう叫んだあと空中を結構な回数タッチした。
ユーカよ、お金ためていい装備を買うんじゃなかったのか。
そんなユーカに呆れつつ、俺は周囲からのプレッシャーに屈し、10Zほどの飲み物を頼むことにした。
「じゃ、じゃあジンジャーエールを一つください」
「は、はい! わかりましゅ、わかりました。ごちゅうもんありがとうございまひゅた!」
そう言って、そそくさと女の子が去っていきついでに謎のプレッシャーも消えると、所持金が購入分自動で減少しテーブルにジンジャーエールとユーカの頼んだデザート群が出現した!
ふー、なんだか非常に疲れた。
「お、お兄は勇者なのじゃ。私は恐れ多くてモニターをタッチするしかなかったのに…平然と注文を……!」
なにやらユーカだけじゃなく周りからもそんな目で見られている気がする。
それはな、自分の心に素直になることが大事なんだよ。
あんな可愛い女の子と話せてよかった。
賤しい気持ちとかそんなものはないと言っておく。
癒されたな。
チューちゃんに感謝だ。
ということで変なユーカやこの変な空気は無視だ。
「ところで、ユーカよ。そんなに頼んで大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、問題ないのじゃ。 クエスト報酬があるじゃろうしな! それにしてもかわいかったのう。NPCじゃろうか……これはファンクラブをば!」
今のユーカの所持金は二桁、下手したら一桁だな。
あぁ、お前の野望はどこに行ったんだい……その空中の手はネットブラウザでもいじっているのかい。
「そうかいそうかい。まあそれでさ成長の事とかこの後の事なんだけどさ」
「あの子の名前はエイルというのか……む、なんじゃ? どうせ妾は成長遅いですよ……」
「成長コンプレックスか」
そうして俺からはスキルやウィンドウのこと、あとは図書館の重要性を必死に語ってこの後は図書館行くのも兼ねて町巡りでもしようということ。
ユーカからはデザートの味や龍化中のことなどを話し合った。
「うーん、上手い! やっぱりジンジャーエールだぜ!」
さすがSFが現実になっただけはある。
炭酸のシュワシュワが口の中に広がる感じもリアルで素晴らしい。
とかなんやかんや感動しつつも結構、かなりくつろいでいるとようやく番号が呼ばれた。
「イヤーーん、お待たせしたわねん! 鑑定が終わったわ。クエスト達成おめでとう!」
そうゴメスさんが言うとシステムメッセージが表示される。
ピコーン
- クエスト達成! -
〜はじまりの森での薬草採集〜
15束の薬草を集め、はじまりの街のギルドまで持ち帰れ。
報酬 500Z+300Z 50EXP+30EXP
「お! 妾もレベルアップしたのじゃ!」
「おお。よかったな。あ、俺もだ。」
クエスト報酬でユーカはLv2、俺はLv7になった。
「むむ、そうか。うーん、やはりドラゴニュートの成長は遅いようじゃの」
「まぁそんなことより初めてのクエスト達成を喜ぼうぜ」
「そ、そんなことってなんじゃそんなことって……」
龍化を考えると成長が遅いのはバランス調整ということなんだろう。
かなりキツめだと思うが何かあるのだろうか?
龍化中は経験値が入らないらしいし。
まぁそんなことより、初めてのクエスト達成だ。
それも半日かけて達成したと思うとうれしいものだ。
「ここから俺たちの冒険が始まっていくんだな」
「お、おお。そうじゃな! お兄もたまにはいいことを言うのじゃ」
「ふふふ、二人ともよかったわねー。あ……」
そうしてユーカと喜んでいると、ゴメスさんが急に視線を少し上げ俺たちの後ろに向けた。
ゴメスさんの顔は男の顔だ。
「と、来たみたいね。ジョン、彼らがキングと出会った異世界人よ」
そうゴメスは野太い声を出した。
……ジョン?
「なんだ、キャンディー……おっと、ゴメスに呼ばれてきてみたが、お前たちだったのか。キングにやられた異世界人というのは」
「ま、マクソンさん!?」
知らぬ間に森に行く前に出会ったマクソンさんが背後に立っていた。
「フッ…自己紹介をしたつもりはないんだがな。改めて俺は冒険者のジョン・マクソンだ。あの時は門警備のクエストを受けていてな」
「あ、ごめんなさい。あの時は…。俺はマーブといいます」
冒険者だったのか。
「妾はユーカというものじゃ。東門では失礼をしてしまったのじゃ」
「あの時の事は気にするな。お前たちは質のいいほうだと理解した。まぁそれにお前たち二人はなかなか見どころがありそうだしな。ゴメスが森のクエストを紹介するだけの事はあるな」
「あらあら、知り合いなら話が早いわね! ささ、二人とも一昨日の事を話してちょうだい」
こちらが質問する余裕も暇もなく一昨日のことを根掘り葉掘り聞かれた。
「ほう、なるほどな。……では行くとするか」
ひとしきり話しを聞いた後、マクソンさんはおもむろにペンキ缶のようなものを取り出して、床に魔法陣を書き始めた。
「ちょ、え?」
予想外の事が起きると人は動けなくなるのは本当らしい。
ギルドにいる他の冒険者たちもこちらをガン見している。
「な、なにをしておるのじゃ?」
高速で魔法陣を書き終えたマクソンさんはこちらの戸惑いに気付くとニヤリと笑った。
「そうだな。二人もくるのがいいだろう」
ピコーン
-ジョン・マクソンが仲間になりました-
そうするとマクソンさんは俺らを魔法陣の上に立たせた
「ふふ、ジョンも上手くなったものねー行ってらっしゃい」
なにやら乙女な顔で見送ってくるゴメスさん。
さっきの野太い声は何だったのか。
もうなにがなんだかわけがわからないよ。
「ああ、ゴメスには感謝している。では行くぞ、
我ら、神々の門を真似るもの、それは賤しき我が精神力と代償をもって顕現する」
なにやらマクソンさんが石を手に持ち詠唱めいた言葉を言うと、その手に持った石が砕け、俺たちは強烈な光に包まれた。
気づくとそこはもうギルドではなく……学校のグラウンドほどもある地面いっぱいに薬草が群生し、その中央に大きな木が生えている薬草の群生地だった。