私は幽霊
ルンダさんはパンを、ローサさんはサラダを口にする。
「や、やわらかい!」
パンを口にした瞬間に目を見開いて驚いてくれる。
「ん~、このドレッシングにんにくの味がきいてるのにまろやかで美味しい!
なんにでも合いそうね!」
そして、メインのハンバーグ。
「うん、文句なしに美味しいね」
「ソースが少しピリッとしてて美味しいわね、とてもジューシー!」
お気に召したようだ。
「ルーサ、この美味しさならお店出せるんじゃないの?」
ローサさんが笑顔で言ってくる。
「いえいえ、とてもじゃないですけど……そんな技術はないですよ」
「いいえ、私たちは海に住んでるとどうしても作り方がかたよってしまうのよね。
なるべく火は使いたくない、とか、生き物を食べるのはちょっと……とか。
それにパンだってなかなか柔らかいものも食べられないし……」
パンは既製品ですからね……。
「まあまあ、ローサ、無理を言うんじゃないよ。ルーサはスナーシャさんの所で働いているし、手が空いたとき、たまにこうやって作ってもらおうじゃないか。
お願いできるかな?ルーサ」
「ええ、もちろんです!」
よし、私の方針が決まった!
スナーシャさんの所で働いて、たまに歌ってたまに休んで、たまに船乗りの願いをかなえて、たまに料理を作ろう。
どれか一つを選ぶなんてしなくていいじゃない。
したいことをするべき!
「ご馳走様でした」
3人合わせて食事を終了させる。
「洗いものは僕がするよ」
そう言って食器を持っていった。
どうやってあらうんだろう?
「私、今日はもう寝ますね。おやすみなさい。」
後ろからお休みなさいと聞こえてきて軽く会釈をして部屋を出る。
半年たってもまだホームシックな状態だ。
帰りたい。夜に一人になると考えてしまう。
前世への思いはふっきれなくて、やるせない思いが募っていく。
ぷかぷか浮いて、ぶぶくぶくと口からエラから泡を出す。
目標を見つけても、やるべきことを見つけても、それは私の生きる意味にならない気がする。
うじうじ、いらいら、もやもや、頭の中がぐるぐるで、こんな自分が嫌だ。
海の中だから星空を眺めながら、なんてことは無理だけど……夜行性の魚たちが動き始めてキラキラと街頭に反射する。
時折きらりと光っては真珠が流れていき、知らない誰かの気持ちに寄り添う。
もう前を向いて歩いていかなきゃいけない。
もう半年だ、でもまだ半年だ。幽霊ってこんな気持ちなのかな。
自分が死んだことを受け入れられないで彷徨う。私は生きた幽霊。