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人魚の生き方  作者: 義昭
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人間の能力

目を丸くしてカルスさんが私を見る。

「人魚にはそれぞれ能力があるとは聞いていたが……まさかこの目で見れる日がくるとは……」


「私たちは特技って言ってますけどね」


「とにかく、その申し出を受けたい。」


「ふふ、対価と言ってもお金じゃなくてもいいの。私が納得すればそれでいいわ。

歌でも踊りでも、吟詩、なんでもいいわ。」


「ほう、面白い。我こそはというやつはおらんか!!」


後ろの船員たちを見渡して声を上げる。

そして、勢いよく手を挙げたのは先ほど、カルスさんに檄を飛ばされた若い船乗り。


「よし、やってみろ」


「へぃ、ここで汚名挽回するでっさ!!」


「はじめまして、人魚の姫様。俺はトゥルートと申し上げますです。

少しばかり、俺の歌を聞いてくだせぇ」

トゥルートが歌を歌うと言った瞬間後ろが苦笑い。


「あら、人魚に歌を歌うなんて。勇気があるのね」

にこり、と笑って耳を澄ます。



「あ゛~ぁぁぁ゛、あの国にゃぁ~、夢を置いてきたあああー

あ゛~ぁぁぁぁ~、この国でぇ~、新しい夢を探すぅぅぅうう~」


ちょっと……!!ビックリして目を開けろと他の船乗りたちは慣れているのかバッチリ耳栓をしている。


「トゥルート!!も、もういいわ!」


「え?そうですかい?まだこれからなんですが……」

全然歌い足りなくて不満気なトゥルートをカルスさんが後ろへ下げる。


「すまんね、分かってはいたんだがチャンスをあげたくて」


「いいえ、大丈夫です。でも、まだお水はあげられないですね」

分かっているよ、と頷きながら後ろを向く。


そして、次々と挑戦していく。

ある者は果物でジャグリング、ある者は今まで取った魚で一番大きいものの魚拓。

けれど、どれも見慣れたものだ。

前の国にはテレビもあったし、インターネットもあったから、目新しいものじゃない。


う~ん、ここらで手を打つべきかな。それなりに楽しませてくれたしね。

船長も唸って、お金か物かで交換しようと話を持ちかけてきた。


「船長、おらが、やってみても、いいだか……?」


おずおずと手を挙げたのは15歳程の男の子。


「おお、ダフィか、珍しいなお前が積極的に何かをするとは」


やめとけってー、なんて声が聞こえる。


「おら、も、頑張りますだ……はじめまして、姫様。こんなき、綺麗な人、おら、見たことねぇですだ。」


「ありがとう、貴方は何をしてくれるの?」


「へ、へぃ。とりあえず、見てくだせえ。」


そういうとダフィは目を閉じて両手を前に出す。

グッと手を握ったかと思うとまた手を開く。

2~3回そうした後、開いた状態の手を私に向ける。と、いきなり体が浮き上がった。

そのまま手を上にあげると、さらに上に上がっていく。


「え、え、ちょっと……」

う、浮いてる。完全に体が海から離れて空中に浮いてる。


「ダフィ、人魚の嬢ちゃんが驚いてるぞ。その辺にしな。」


船長が声をかける。

ビクリとして一瞬落ちかけるが、持ちこたえてゆっくりと海に戻される。


「い、今のは?」


「お、おら、魔法が少しだけ使えるんでさあ。物を浮かす力だけですだ」


「もしかして、今までも使っていたのか?」

船長が声をかけると、はい、と小さく頷いた。


横にいる船員が「こいつ、いつも重たい荷物の時ばっかり変な行動とってサボってやがると思ったら……そういうことだったのか。」

「じ、じゃあ、俺が重い荷物を持ってたのは俺の力じゃなくて……?」

「残念だったな、お前の力自慢は今日限りおしめえだわ」

そんな会話が端々で聞こえる。


「すごいわ、ダフィ!」


「ま、満足してもらえただか?」


「ええ、もちろん!喜んで水もお酒もあげるわ!」


わああああ、と大きな歓声があがる。

ダフィは胴上げをされて戸惑っているようだ。


「お嬢さん、我々人間にとっては水やお酒をもらうことよりも人魚に認めてもらえたってことが大事なんだ。

ダフィは船乗りとしては消極過ぎた。お嬢さんのお陰で少しは自信が持てただろう。お礼をいうよ、ありがとう」


「いえ、そんな……」


恥ずかしくなってきちゃう。


さて、願いをかなえましょう。


『願います、航海に十分の水と酒を新しいタンクいっぱいに詰めてください』


ポポンッ


甲板の上には大量の水、酒。

大きなポリタンクに幾つも詰められて置いてある。


「こんなに……運べるか?」


「あら、ダフィがいるから大丈夫でしょ?」


「そりゃそうだ」

ガハハハと大きな口を開けて豪快に笑う。

威勢のいい船長さん、嫌いじゃないよ。


「さあ、出発だ!!」


「へい!」


「お嬢さん、もう一度お礼を言わせておくれ。ありがとう。」


「いいえ、こちらこそ、楽しかったです」


「それでは、また会う機会があれば」


そう言うとゆっくり船が進みだした。

船員は手を振って別れを惜しんでくれる。


「さようなら」


一度深く海中に潜ると、勢いをつけて水面に出る。

高い高いドルフィンジャンプだ。

私から、ダフィへのお礼。


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