第47話 新しいプレイヤー
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ご愛読、誠に有り難うございます。
○90日目
◇◇◆雄介side◆◇◇
雄介は悩んでいた。
美鈴のことである。
小さな頃から仲がよく、お兄ちゃんと呼ばれていた。
兄さんと呼ぶようになったのはいつからだったろうか。
中学生になった頃だろう。
思春期になり、少し距離を置かれるように……いや、恥ずかしかったんだろうなと思った。
美鈴が中学2年の時、事故で両親が亡くなり、それからは兄妹としてお互いに支え合って生きてきた。
美鈴は1人で居ると泣いている事が何度も有った。
見つけると飛んでいって泣き止むまで抱きしめてやり、頭を撫でていた。
雄介としても美鈴は目を離せない妹だった。
事故後兄妹としては少々過剰なほどスキンシップが多くなったが、寂しいからだろうと思っていた。
一体いつから美鈴は兄以上の想いを持つようになったのだろうと思った。
癌のことを知ってから美鈴は変わった。
よく塞ぎ込むようになり、自分の生きる意味を考えるようになっていた。
兄さんにだけは私のことを忘れないでほしいと涙ながらに言われたことがある。
抗癌剤の副作用がまだ出ていなかった頃、今の自分の写真を撮ってほしいと言われ何百枚も撮影した。
それはアルバムに大切に残してある。
髪が抜け落ちた頃からは逆に絶対に撮るなと言われたが。
高校の友人が見舞いに来なくなった頃から、美鈴の世界は俺だけになったのかもしれない。
特にGWOを始めてからはそれが激しくなった。
兄さんが見舞いに来ていないときは心配でずっと無事を念じてると真顔で言われた。
本当に言葉通りの意味で、1日中俺のことを考えているのだと感じた。
俺は美鈴に幸せになってほしい。
本音を言えば、美鈴は健康になったのだから高校に復学して大学に進学して、良い人を見つけて幸福になってほしい。
俺しか居ない世界から抜け出して、友達と遊んだり、趣味に打ち込んだり、自分の世界を広げていってほしい。
『運命の逆転』を手に入れるまでの期間で美鈴の世界は広がっていくだろう。
だがその上で、美鈴の願いが、本心からの願いが俺と共に生きることなら、世間的な道徳心を捨てても良いと思う。
俺の手は血に濡れている。
それを知っても美鈴の気持ちが変わらないのなら。
◇◇◆美鈴side◆◇◇
数日後、美鈴は無事退院した。
その日の番、夢を見ていた。
目の前には、今まで見たことも無い荒野が広がっている。
上を見ると満天の星空がそこにあった。
おそらくは兄から聞いたGWOの狭間の世界だろうと美鈴は直感した。
しばらく周囲を歩き回ってみると、80代くらいの老人が立っていた。
威厳のある姿で白いローブを着ている。
日本ではTV番組でしか見たことが無いような裾の長い白いローブだった。
美鈴は校長先生にするような感覚で丁寧に挨拶した。
「こんばんは。
滝城美鈴と言います。
失礼ですが、神様でしょうか?」
老人は気安い様子で言葉を返した。
「おお、美鈴じゃな。
正真正銘、ワシが神じゃよ。
天地創造の神ではなく、世界の管理者というべき存在じゃがな」
「天地創造の神ではない? ですか?」
「うむ、そうじゃ。
エネルギー保存則や質量保存則は知っておるかの?
万物とは変転しながら常に存在しているもの。
宇宙は変化しながら、無限の過去から悠久の未来に向かって続いていくのじゃ。
従って、過去のある時点での天地創造などということはあり得んのじゃよ。
まあ、現在の地球の天文学で認識されている宇宙の形態は始まりがあるがのう。
ほれ、ビックバンと言われておろう。
あれも無限の変化の1つに過ぎんのじゃ」
「……すみません。
私、文系で、最近勉強から遠ざかっていたのでちょっとよく分かりません」
美鈴が冷や汗をかきながら答える。
入院中はあまり勉強しなかったらしい。
「そうかそうか。
マリーにはえらく関心された話だったんじゃがのう。
まあ良かろう。
それは本題ではないからのう。
カサンドラから話は聴いておる。
美鈴よ、なぜゴッズ・ワールド・オンラインのプレイヤーを希望するのか聴かせてもらおう」
美鈴は自分の心のままに答えた。
そうするのが良いとカサンドラからアドバイスされていたからだ。
「えっとそれは、兄さんと一緒にいるためです」
「ふむ、雄介のためか。
そのことなんじゃが、『運命の逆転』は本当に必要なのかの?」
「え、どうしてです?」
「雄介はプレイヤーになる前はまだ甘い男じゃったが、今は清濁併せ呑む大人になっておる。
血が繋がっておっても少し時間をかけてアプローチすれば受け入れてくれると思うのじゃが」
「……ええ、その通りだと思います」
「それならなぜ『運命の逆転』を求める?
確かに『運命の逆転』と『幸運の加護』が有れば周囲からの賛同は得られるじゃろう。
じゃが、50万ポイントも有れば他の相当大きな報酬を得られるじゃろうに」
美鈴は暫く考え、そしてきっぱりと答えた。
「私は兄さんと一緒にいられるなら、兄さんが受け入れてくれるなら、他の人から何を言われようと、友人が去っていこうと構わないと思っていました。
でも、兄さんはそれじゃダメなんだそうです。
周囲の人から認められ、友人に祝福された上でなければ許せないって言うんですよ。
兄さんは私に幸福になってほしいんだそうです。
私はそのために『運命の逆転』を求めます」
老人はそれを聴くと目を輝かせて喜び、厳かに宣言した。
「ふむ、そうであったか。
良かろう。
滝城美鈴のゴッズ・ワールド・オンラインへの参加を認める。
人には誰しも幸福を求める権利がある。
ワシは神としてそれを応援しておる」
「本当ですか!?
有り難うございます」
美鈴は深々と頭を下げるのだった。
「これが契約書じゃ。
よく読んで、サインと拇印をするが良かろう」
美鈴は契約書を繰り返し読むと、老人に色々な質問をした。
美鈴は今までに雄介とカサンドラからGWOのことを詳しく聴いていた。
だが、製作者である神でなければ答えられない質問もあるのだ。
この時聴いた質問の答えが、美鈴に独自のプレイスタイルを選ばせることになる。
その後、サインと拇印を押すと、美鈴の視界が狭まっていく。
狭間の世界の景色が消えると同時に美鈴は目を覚ましたのだった。
そこは雄介達のアパートの一室であった。
「兄さん、やったよ。
GWOの契約、大成功!」
「うーむ、そうか。
まあ、おめでとう」
「うわ、兄さん。
凄く微妙な表情してる」
雄介には心配な気持ちと美鈴の願いが叶ったことを喜ぶ気持ちが混在していた。
非常に複雑そうな顔をしていた。
「美鈴ちゃん、おめでとう。
これで私がイギリスに帰ってもGWOで会えますね」
「カサンドラさん、ありがとう。
兄さんの顔見てよ。
すっごい複雑な顔してるんだよ」
「まあ、雄介さんったら。
もう決めたことなんですから、そんな顔をしてても仕方ないですよ」
「まあ、そうだな。
そういえば美鈴、チュートリアルはどうする?」
「えっと、朝食食べたら直ぐに受けたいな」
「そうか。
朝食はカサンドラさんがもう作ってくれてるぞ。
3人で食べよう」
「え? もう出来てるの?
朝起きたら朝食が出来てる生活って良いな」
「カサンドラさんが帰ったら、半分は美鈴が作れよ」
美鈴が退院したことで、雄介は朝食をアパートで食べていた。
朝食当番は半分ずつである。
「分かったわよ。
兄さんには私の暖かい手料理を食べてもらいましょう」
「料理の腕はカサンドラさんの方が上手いんだがな」
「あ~人が気にしてることを」
和気藹々とした雰囲気のまま、3人は食卓に着くのだった。
朝食後、3人はログインした。
雄介とカサンドラもチュートリアルに付き添いである。
すると狭間の世界には、マリーだけでなく、美鈴がさっき別れたばかりの老人が居た。
普通チュートリアルに老人は付き添わないのだが、今回老人が居た理由は、美鈴が気に入ったかららしい。
美鈴がマリーからチュートリアルを受けている間に、雄介は老人に聴きたかった質問をぶつけた。
基本的にプレイヤーは老人に用事が無ければ会えないのである。
ちなみにカサンドラは美鈴に付いている。
「質問が有ります。
政治など多くの人に影響を与える行動による勇者ポイントの獲得は出来るのでしょうか?」
1万ポイントまでは魔物退治が中心で問題なかったが、今後100万ポイントを目指すには国全体に影響を与える行動をしなければならないと考えていたからである。
「うむ、勿論じゃ。
ただ、その場合間接的に人の命を助けることになるからのう。
計算が複雑なのじゃ」
「どういう計算でしょうか?」
「例えば、おぬしが国王に働きかけて防衛力を増強し、その結果戦争や魔物の死者が減ったとしよう。
それをどう計算する?
ほかにも、新しい栽培方法を確立することで、何十年にも渡って飢餓を減らしたとしよう。
それは何年分のポイントを加えれば良いのじゃ?
また、戦争の場合、自国の死者は減っても敵国の死者は増えるかもしれん。
それはどう計算するのじゃ?
第一、プレイヤーにとっては滞在している国は有っても、出身国はないであろう。
自国・敵国と判断する根拠はどうする?」
「……確かに難しい問題ですね」
「そうじゃろう」
そこで老人はニヤリと笑った。
「まず、魔物相手や病気対策、飢餓対策などの人間以外を対象にした場合について述べよう。
これが比較的分かりやすいからのう。
仮に1月1日に魔物への対応策の発案、病気の新しい治療法の発見、飢餓への対処法の実行が行われたとしよう。
そして2月1日にその結果が現れて、24時間で死者が100人減ったとする。
すると2月1日が終わった時点、つまり2月2日午前0時に100ポイントが与えられるんじゃ。
また2月2日にその結果が現れて、死者が200人減ったとする。
すると2月3日午前0時に200ポイントが与えられるのじゃよ。
このように午前0時に何もしないでポイントの増加があれば、過去の行為の結果が現れていることが分かるのじゃ」
「ふむふむ、なるほど。
では、結果が現れて死者が何人減ったというのはどうやって計算しているのですか?」
「それはシステムの管理を行っている高位コンピュータのシミュレーション計算によるものじゃ。
1月1日の先ほどの行動をしなかった場合をシミュレーションして、その違いを比較しておる」
「それって天文学的な数字の計算量になりますよ。
よくそんな凄い計算が出来ますね」
「ワシが創ったコンピュータじゃからな。
次に、戦争など人間を対象にした場合について説明するぞ。
プレイヤーにとっての自国というのは『称号:○○国の勇者』によって判定される。
この称号は国のトップの公認かその国の民衆の支持・尊敬・好意などが一定水準を超えた場合に取得されるのじゃ。
雄介の場合はスラティナ王国が自国じゃな。
そして自国と戦争する相手国が敵国と判定される。
ここまでは良いかの?」
「あ、はい。
問題ないです」
「プレイヤーが戦争に関与して自国の民衆や兵士の死者を減らした場合はその人数がそのままポイントになる。
つまり100人減らしたら100ポイントということじゃな。
逆に自国の民衆や兵士を殺した場合は、その人数の3倍のポイントが減らされる。
例えば、広域殲滅魔法で自国の兵士10人を巻き添えにして殺した場合は、30ポイント減少じゃ」
「なるほど。
じゃあ、10人助けて10人殺してしまったら、マイナス20ポイントですね」
10人助けて10人殺してどうしてマイナスの評価になるのだろうか。
それは10人を助けるために10人を犠牲にしてしまえば、何もせずただ見殺しにしたのと結果が変わらなかったことになるためだ。
つまり、もっと上手く行動していれば人を助けられたチャンスを無駄にしたことになるからである。
勇者ポイントは結果で評価される。
人命がかかっている場合、一生懸命頑張ったけどダメでしたは通用しないという論理だ。
では、結果が出なければ一生懸命頑張ったことは無駄なのかといえばそうではなく、自己のステータスの成長にはプラスになるというシステムだ。
「そういうことじゃな。
敵国の兵士を殺す場合は、ポイント減少は無しじゃ。
かといって、加点もないがのう。
そして敵国の民衆(非戦闘員)を殺した場合は、その人数の2倍のポイントが減らされる。
例えば、敵国の民衆10人を戦争の巻き添えで殺した場合は、20ポイント減少じゃ」
「随分、自国か敵国かで差が有るんですね」
「そうじゃな。
戦争は敵か味方かで全く扱いが変わるからのう。
それから戦争時のポイントの加減は夜0時じゃぞ」
「それはさっきのと同じなんですね。
何にせよ、戦争には関わりたくないですよ」
「まあ、当然じゃろうな。
戦争は関わるというより、巻き込まれる物じゃからどうしようもないことが多いがな」
「そうですね。
あ、美鈴が呼んでますので、ちょっと失礼します」
「おお、そうか。
行ってくるが良い」
「兄さ~ん、ちょっと来てくれる。
幻獣を決めようと思うから」
雄介は美鈴に呼ばれて傍に行った。
カサンドラは何やら考え事をしているようだ。
「まずはステータスを見せてくれよ。
それから方針を立てないとな」
「方針はもう考えてあるんだけど、兄さんの意見は聞きたいからさ。
ステータスを見せるね」
滝城美鈴
LV:1
年齢:18
職業:無職
HP:81 (E)
MP:68 (E)
筋力:9 (E)
体力:21 (E)
敏捷:14 (E)
技術:3 (E)
魔力:0 (F)
精神:34 (E)
運のよさ:6 (E)
BP:20
称号:プレイヤー・βテスター
特性:なし
スキル:自動翻訳
魔法:なし
装備:綿の服
所持勇者ポイント:0
累計勇者ポイント:0
「う~ん、これは……。
美鈴、元気だせよ。
LVUPしたらいくらでも強くなれるんだからな」
「あ~、やっぱり兄さんから見ても相当低いみたいね」
「どうしたら良いんでしょうね。
さっきからずっと考えていたんですけど、精神が(比較的)高めだから後衛職になる以外なさそうで」
「そうだなあ。
後衛職しかないだろうなぁ」
美鈴はつい昨日まで9ヶ月も入院していたのだ。
万病薬で健康になったとはいえ、その身体は運動不足そのものである。
今の美鈴のステータスは健康な女子高生として下の下程度といえる。
このとき美鈴は驚くべき発言をした。
「ううん、私前衛職にも後衛職にもならないつもりよ。
それから私の幻獣のことなんだけど、九尾の狐にしようと思うの」
その発言を聴いて、雄介もカサンドラも唖然としてしまった。
次回の投稿は明後日0時となります。
サブタイトルは「新たなる幻獣」です。