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100万ポイントの勇者(旧版)  作者: ダオ
第7章 初めての報酬
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第46話 美鈴の希望

○89日目


「じゃあ、私もGWOのプレイヤーになれない?」


 美鈴の一言に雄介はゾッとした。

ビル並みの巨人とか鉄より堅いドラゴンとかが居る世界に妹が行きたいと言ったのだ。

危険過ぎるにも程があるだろう。


「そんなの駄目に決まってるだろう」


「駄目に決まってる、か。

ふーん、方法はあるってことね」


 条件さえ満たせばプレイヤーになる方法はある。

勇者ポイントの報酬にプレイヤーの推薦というものがあり、夢の中で神が面接して判断される。

プレイヤーとして認められるかどうかに関わらず、1人の推薦に3000ポイントが必要になるのだ。



「む、不可能なら無理って答えてたな。

あのな、さっきどんな世界なのかは説明しただろ。

そんな世界に行かせられる訳がないだろうが」


「嫌。そんな危険な世界ならなおさら兄さんだけが戦うなんて認められる訳がないでしょ。

10000ポイント貯まったんだし、もうログインしないなら私もプレイヤーにならないよ」


「俺は100万ポイントを目指してるって言ってるだろうが」


「10000ポイントに3ヶ月かかったんでしょ。

100万ポイントにどれだけかかるのよ。

300ヶ月? ってことは25年?

そんなの待てる訳ないでしょ」


「25年は流石にかからないって。

強くなるのにつれてペースアップするからね」


「それでも私が手伝ったら半分じゃない。

第一、ポイントの半分は私のために使うんでしょ。

私のためのポイントなんだから、私が稼ぐのが当然よ」


「それはそうだが、高校はどうするんだ。

入院のときから休学してるんだぞ」


 美鈴は高校2年で悪性腫瘍が見付かったため、休学しているのである。

末期ガンになっても自主退学する気にはなれなかったのだ。


「それは……退学は駄目よね?」


「当たり前だ。

高校は出ておかないと駄目だぞ」


「うう、私も友達には会いたいしなあ。

昼間高校に行って、夜ログインはどうなの?」


「それはまあ、出来るけどな。

しかしな~俺は兄だぞ。

妹のお前を危険な場所に行かせられないって言ってるんだ」


「何言ってるのよ。

兄とか妹とかちょっとの年の差よ。

それってつまり女だからって意味よ。

カサンドラさんは女でしょ。

パーティにはあと2人女性が居るって言ってたわ。

そんなの男女差別よ」


「雄介さん、ここまで言ってるんですから良いんじゃないですか?」


「カサンドラさんまで。

カサンドラさんは美鈴がプレイヤーになるのは賛成なの?」


「賛成ですよ。

美鈴さんは雄介さんの絶対的な味方になるはずです。

MMORPGで絶対に信頼できるプレイヤーが貴重なのは分かりますよね?

(それに妹さんが居れば無茶も減るはずですし)」


「む、それはまあ、確かに。

う~む…………分かった。条件付きで認めよう」


「わぁい、やったね♪

それにしても、兄さん、前より決断が早くなってるね」


「ん? あまり意識してなかったけど、そうだろうな。

判断ミスも決断の遅れも死に直結するからな」


「ってことは、やがて私も出来ないといけないってことね。

よし、頑張ろう」


「私にできることなら協力しますからね」


「カサンドラさん、ありがとうございます。

先輩プレイヤーとして感謝しますし私も協力します。

でも、兄さんとの結婚を認めるのは別ですからね!」


「あら、交際を認めるかどうかだったのが、結婚を認めるかどうかになってますよ。

一歩前進ですね」


 美鈴はふくれっ面をして答えた。


「う~う~、兄さんの幸福は願ってますから。

(だって妹の私じゃ恋人には成れないし仕方ないじゃない)」


「はあ、仕方ないな。

条件を言うぞ。

学業を優先すること。

GWOでは俺の指示に従うこと。

危ないと思ったら、俺を置いてログアウトすること。

その条件が守れるなら認めるぞ」


「兄さんを置いてログアウト?

嫌だけど、足手まといになりたくないし、分かった」


「良し。

プレイヤーの推薦を使うから3000ポイント必要だし、あと800ポイントほど稼いでくるよ」


「それなら私が出しますよ。

私まだ7000ポイントほど残ってますから」


「いや、それは悪いよ。

美鈴の分なんだから俺が出すって」


「仲間として迎えるんですから、私が負担しますって」


「一旦カサンドラさんに負担してもらって、私がプレイヤーになったらポイントを返すのは出来ないの?」


「プレイヤー間のポイントの譲渡は出来ないんだ。

報酬のアイテムの譲渡は出来るけどな」


 GWOの仕様としてポイントの譲渡は出来ないようになっている。

これは強盗プレイヤーによって無理矢理にポイントを奪われるのを防ぐためである。



「じゃあ、ジャンケンで決めるのはどうですか?」


「あれ? ジャンケンって日本で生まれたはずだけど、イギリスでも有るの?」


「日本のアニメを見てる人はかなりの人が知ってますよ」


「へ~、そうなんだ。

じゃあ、ジャンケンしよう。

負けた方が負担ね」


 雄介とカサンドラがジャンケンをすると、雄介はグーでカサンドラはチョキだった。


「私の負けですね」


「まあ、仕方ないか。

あ、そうそう、報酬のため日本でログインするときは俺の部屋使ったら良いから。

他の場所だと、人から見られるかもしれないし。

そういえば、いつまで日本に居られるの?」


「1週間後の飛行機を予約しています。

宿は予約してないのですがユースホステルでも無いでしょうか?」


「ああ、それなら俺の部屋に泊まったら「ダメ~~!」」


 雄介が答えようとしたところ、美鈴が遮ってしまった。

美鈴の顔は紅潮していた。


「あのアパートは私と兄さんの部屋なんだから、そんなのダメよ。

ダメったらダメ」


「はあ、やれやれ。

じゃあ、安く泊まれるところ紹介するよ」


「ある程度余裕は有りますからそれで良いですよ」


「もう兄さん、何てこと言うのよ」


「俺の部屋なら無料で泊まれるんだし、無駄使いを減らすのは当然だろ」


「それはそうだけど、私は嫌だからね」


「あ、待って。誰か来たよ」


 雄介が人の気配を察知した。

地球上でも周囲20mくらいの気配は感じ取れるのだ。

ドアがノックされ、看護師が入ってきた。


「滝城さん、健診のお時間ですよ。

あら? 滝城さん、その姿は……」


 看護師が美鈴の健康そうな姿を見て声を上げる。


「随分体調が良くなったみたいですね。

体温を測りますよ」


 まるで風邪を引いていた人が治った程度のような、ちょっとした驚きの態度で体温計を差し出した。

美鈴は唖然としている。

普通なら、今の美鈴の容姿を見れば卒倒してもおかしくないはずだ。

これが「④突然病気が回復したことは対象者とGWOのプレイヤー以外の人間には認識されません。

ごく自然に治癒したものと認識されます」の効果だった。


「兄さん、一体どういうこと?」


 雄介は耳元に口を近づけて、小声で答える。


「看護師さんが居なくなったら話すよ」



 美鈴が体温を測ると、36.2℃だった。平熱である。


「あ、看護師さん。美鈴の病気が治ったようですので、念のため検査をお願い出来ないでしょうか?」


「分かりました。

主治医の先生に知らせておきますね」


 そういって看護師は出て行った。

その後、万病薬の注意書きを見せて説明した。

美鈴が呆れた声でつぶやく。


「本当にとんでもない効果ね。

病気を治すだけでも凄いのに、これじゃあ世界中の人間の認識を歪めてるってことになるわよ」


「まあ、そういうことになるな。

でもそうじゃなかったら、TV局やマスコミが来て大変なことになるぞ。

それは神様にとっても良い事じゃないからなあ」


 その後、今後の予定について話し合った。

検査で完治が確認されたら出来るだけ早く退院できるように希望すること、復学の手続きは退院の日程が決まってからすること、GWOの契約は退院してからすることなどが決まった。



「じゃあ、俺たちはそろそろ帰るな。

また明日来るから」


「うん、分かった。

……ねえ、兄さん」


「ん? 何だ?」


「私、夢じゃないよね。

本当に、末期ガンが治ったんだよね?」


「ああ、本当だ。

検査して少しでもガンが残ってたら、神様に文句を言ってきてやるよ」


「えへへ、夢なら覚めないでほしい」


「バーカ、覚めねえよ」



 その後、退院までは瞬く間に過ぎて行った。

当然のことだが、ガン細胞は微塵も残っていなかった。

主治医も美鈴の学校の先生や友人も不審に思うことはなく、純粋に治癒したことを喜んでくれた。

外出許可を取って、美鈴は美容院に行ってポニーテールにした。

そしてガンが治癒してから5日後、退院した日の晩、雄介のアパートでのことである。


「あ~美味しかった。

ステーキなんて食べたのいつ以来だろ」


「まあ、退院祝いだからな。

豪勢にやらないとね」


「私まで一緒に食べてよかったんでしょうか?」


「当たり前だろう。

カサンドラさんは家族みたいなものだし」


「家族ですか。

雄介さん、嬉しいです、私。

……あの、雄介さん、美鈴ちゃん、私の話聴いてもらえますか?」


「ん? 改まってどうしたの?」


「何? カサンドラさん」


「実は私、家族って居ないんですよ。

一人っ子で、両親も小さな頃に亡くなって、その後は孤児院で育ちました。

15歳で孤児院を出て、18歳までは色々なアルバイトをしていました。

あ、セカンダリースクールはちゃんと出てますからね。

18歳で夢の中で神様に会って、管理者補助の仕事をすることになったんです。

狭間の世界で、住み込みで働いて、神様からお給料も貰ってたんですよ。

そのお陰で日本までの旅費も用意できたんですけどね」


 雄介も美鈴も吃驚していた。

今までカサンドラから家族の話は聞いたことが無かった。

雄介ですら、兄弟は居ないということを聞いていただけだった。



「雄介さん、美鈴ちゃん、本当に私を家族にしてくれますか?

本当に私なんかが家族になって良いんでしょうか?」


 孤児院出身でセカンダリースクール、つまり義務教育しか出ていないカサンドラへの世間の風当たりが強かったことは想像に難くない。

自分の境遇を話したとたん、手のひらを返したように態度を変える人が今まで何人も居たのだ。

美人で知的なイメージを与えるカサンドラは、イメージと実態とのギャップの大きさ故に、今まで雄介に話せなかったのだ。

カサンドラは過去の境遇から家族への憧れが強い。

料理や家事に努力していたのも、雄介が家族を助けるために戦うことに協力したのもその影響である。


「カサンドラさん」


 雄介はカサンドラの右手を握って優しく抱き寄せるとキスをした。

カサンドラは驚愕して目を見開き、やがて瞳を閉じると涙がこぼれた。

美鈴は真っ赤な顔をして両手で顔を隠し、指の間からその姿を見つめていた。


「これからはずっと俺たちが居るから」


「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」


 カサンドラが深く頭を下げた。

どうもそんなアニメシーンを見たらしい。


「美鈴はどうする?」


「うぅ、分かったわよ。認めるわよ。

これで認めないなんて言ったら、どんな極悪人なのよ」


「はあ、良かった。

それから雄介さん、ティアナさんたちのこと、言った方が良いですよ。

向こうに行ってからだともっと拙いことになりますよ、きっと」


「ティアナさん?

兄さん、どういうこと?」


 雄介が深呼吸して美鈴に向き合った。


「美鈴、落ち着いて聴いてほしい。

GWOの世界は並行世界(パラレルワールド)だから、そこに住んでいる人はみな実在の人間だってことは話したな?」


「うん、それは覚えてる」


「GWOの世界では貴族は一夫多妻が認められているんだ。

死の危険が高い世界だから、そこでは普通のことなんだよ。

うん、普通、普通のことなんだ。

そして勇者としての功績で貴族になれそうなんだ。

というか、申請をすればすぐにでも成れるんだ」


「一夫多妻って……兄さん、まさか」


 美鈴が憤怒の表情を浮かべている。

腕を組んで仁王立ちになり、背中にゴゴゴゴという効果音が見えるような姿である。


「一体何人なの?」


「……カサンドラさん以外に3人」


 美鈴は大きく息を吸い込んで叫んだ。


「兄さんのぉ……馬鹿! アホ! ドスケベ!

女ったらし! どてカボチャ! 女の敵!

嫌い! 嫌い! だいっ嫌い!

ばかぁ! 最低! 信じらんない! 何やってるのよ! 

バカいってるんじゃないわよ!

ザ変態! エロ変態! 超変態! ドドドド変態!

最低! 最悪! この悪魔! 人でなし!

何でそんなに恋人が居るのに、私じゃダメなのよ!」


 美鈴は部屋中にある物を手当たり次第に投げつけてきた。

おおよそ1時間ほども美鈴の罵倒は続いたのである。

そうしてやっと、攻撃は終わった。

カサンドラには投げた物は当たっておらず、雄介は危険な物はすべて受け止めていたのでケガはない。

美鈴は疲れきって動けなくなっただけで、怒りが収まったわけではなかった。

その眼光は怒りを湛えていた。


「はあ、はあ、はあ」


 タイミングは見計らって、カサンドラが声を上げた。


「雄介さん、1つ提案があるのですが。

美鈴ちゃんの怒りを納めるにはこれしかないかと」


「え? 何?」


「美鈴ちゃんも雄介さんの恋人にしてはどうかと」


「え? 血の繋がった妹を恋人に出来るわけないだろ」


「方法は有りますよ。

勇者ポイントの報酬に『運命の逆転』という物があるのは知ってますよね?」


「あれは確か……50万ポイントも使う報酬で、自分ではどうすることも出来ないような運命を逆転させるというものだよね。

自分ではどうすることも出来ないような運命?

ひょっとして……」


「血の繋がった妹がダメなら、血の繋がらない妹ならどうですか?」


「そんなこと出来るの?」


「昨日プレイヤーの推薦のために神様に会ったときに、確認しました。

『運命の逆転』を使えばできるし、それ以外の報酬では無理だそうです。

血縁関係がないという点だけを変更して、他のことは変わらないそうですね」


 『運命の逆転』は、運命を改変する効果を持つ。

運命、つまり生まれつき決まっている出来事を変更させることが出来るのだ。

男性が女性に、女性が男性に、黒人が白人に、白人が黒人に、生まれつき音楽の才能皆無な人が才能抜群になど、もし○○が△△だったら、という仮定の話を現実化させるのである。

ただし、効果範囲は対象者1名に関することのみである。

もし某半島の北の国家が民主主義国家だったら、などの多人数の運命を変えるようなことは出来ない。


「ホント? それを使ったら兄さんの恋人になれるの?」


「飽くまで条件が整うだけで、雄介さんの気持ち次第ですよ」


「兄さん、どうなの? 私じゃダメ?」


「ちょっと待ってくれ。

美鈴、50万ポイントも貯めるのは本当に大変なことなんだ。

そんな苦労をして義理の妹になってでも、俺と付き合いたいっていうのか?

一度付き合い始めたらもう兄妹としての関係には戻れないぞ。

病気はもう治ったんだ。

美鈴は美人だし、性格も悪くない。

いくらでも他の男と付き合えるはずだ。

入院中はどうしても世界が小さくなるからともかく、これからは広い世界で生きていけるんだぞ」


 美鈴は力強い瞳で雄介を見つめて答えた。


「確かにこれからは好きな所に行って、好きな食べ物を食べて、色んな人と知り合うことができるね。

それでもきっと、兄さん以上の男性は居ないよ。

GWOを始めてから1ヶ月の間は、体中に傷跡が出来ていたの覚えてるでしょう。

私がこれから色々な男性と知り合っても、私のために傷だらけになっても戦ってくれる人は居ると思う?」


「超回復のスキルを覚えるまでは傷跡が残ってたからな。

50万ポイント貯まるまでには相当時間がかかる。

それまでは妹として扱う。

50万ポイント貯まってもその気持ちが変わってなかったら、1人の女性として扱う。

それでどうだ?」


「うん、それで良いよ。

兄さん、絶対に振り向かせてみせるからね」



次回の投稿は明後日0時となります。

サブタイトルは「新しいプレイヤー」です。


日間ランキングBEST100の80位になりました。

ご愛読有り難うございます。

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