第26話 魔物図鑑
○41日目
雄介はギルドマスターと話をしていた。
「君が中隊長から大隊長、そして将軍まで演習で倒したことはわしの耳にも入っとるぞ。
お陰で兵士中で雄介の人気は大変なものじゃ。
兵士は強いものに憧れるからの」
「それで街を歩いてると兵士に声をかけられるようになりましてね。
一手ご指南願いますと言われまくりです。
まあ、強くなってくれるなら時間を作るようにはしてるんですけどね」
「はっはっは、将軍を倒してしまったんじゃ仕方あるまい。
いずれは超えると思っておったが、ここまで速いとはのう。
この国唯一のSSクラス冒険者になるのも近いかもしれんな」
「う~ん、俺以外のSクラス冒険者ってどうしてるんです?
1回も会ったことないんですよ」
「Sクラスになると1回戦えば1年くらい遊んでくらせる金が手に入るようになるからのう。
個人依頼だけ受けてほとんどギルドには顔を出さんのじゃ。
女にはもてるし、遊びまわっておるのじゃろう」
「確か、俺以外に3人でしたね。
平和なときならそれでも良いんでしょうけど、悪魔対策に協力してほしいのですが」
「それぞれプライドが高いのが揃っておるから簡単には行かんじゃろうな」
「襲撃があったときは冒険者の義務なので協力してくれるはずですが、日常的な対応は難しいですね。
それから冒険者全体の増強はどうしましょうか。
王城の兵士達は組織的な行動に慣れてますから、多人数で訓練ができるんですよ。
でも冒険者は自由人ですから、少人数を鍛えることは出来ても多人数はやりにくいんですよね」
「そうじゃな。
見所のある奴らを育成するのはどうじゃ?」
「良いですね。
クラスは問わないので、大きく成長してくれそうな冒険者のリストアップを頼みます。
リストが出来たら選考しましょう。
あとはその人たちが了承すれば弟子にします」
「弟子にするということは、その者たちの言動に一定の責任を持つということじゃが、良いのじゃな?」
「構いません。
責任を持てない人は弟子にしませんから」
「ふむ、ではリストアップはこちらでやっておこう。
他には何かないかね?」
「入手できる限りの魔物の情報を集めて、本にし、各冒険者に渡すのはどうでしょう?」
「それはまた大変な作業じゃが、出来れば物凄い価値を持った本になるぞ。
今まで似たような本は有ったが資料的なもので、現役の冒険者向けの本はなかったからのう。
書き写しになるから、全ての冒険者に渡すのは難しいがそれでも大いにやる意味はある」
「SクラスからFクラスまで、各クラスで一冊作るくらいが丁度良いでしょう。
ギルドにある魔物の情報すべてに目を通したいのですが、どうですか?」
「ああ、そりゃ勿論構わん。
じゃが、ギルドの機密情報は見てはならんぞ」
「魔物に関して機密情報は有ります?」
「あるぞ。
公表すれば社会的影響が大きいものは見せられん。
例えば悪魔の国についての情報などじゃ」
「なるほど。
悪魔の国について知っている人は広げる必要がありますね。
宰相に言って今度の会議でそれを議題に出しましょう」
「なんと。君は宰相に依頼できるのか?」
「依頼ですか?出来ますよ。
(後ろ暗いことを山ほどやってたから10個ほど証拠を掴んで脅しただけなんだが。
保身しか考えない人間は扱い易いな)」
「宰相はいつも己の欲を満たすことしか考えておらんのに、一体どうやって。
依頼などしようものならバカ高い金を取られるはずなんじゃが。
君には驚かされることばかりだな」
「あと、冒険者の心得を書きますよ。
冒険者として知っておいた方が良いことや早く強くなるにはどうしたら良いかを書いた入門書のような本ですね」
「そうかそうか。
大いに結構なことじゃ」
雄介はギルドの資料室に向かった。
王都にギルドが設けられて以来の資料が収まっている。
ただし機密情報を覗いて、だが。
おそらく1000冊を超えるだろう。
すべて手書きであり、ひどく読みにくい文章も多いのだが、スキル・自動翻訳のためどんな文字でもすらすらと読むことができた。
雄介は思考加速と記憶力上昇を使い、腕の敏捷を強化して恐るべき速度で読み続けた。
本に纏めるために必要な箇所は記憶していく。
途中で休憩も挟みつつ、僅か2日で読みきってしまった。
そして雄介は本を書き始めた。
ゲームの攻略本にあるモンスター図鑑を作成するように、魔物の情報を書き続けていく。
ギルドで得られた魔物の情報は約680種類であった。
世界中には遥かに多くの魔物が居るのであろうが、この国に居ない魔物の情報は当面は必要ない。
それらの魔物とどのように戦うのが良いかについても記入していく。
書き終われば推敲し、また書き直した。
ワープロ機能がないのだから、1枚の紙ごとに書き直さねばならない。
図鑑が一段落つくと、冒険者の心得を書き綴った。
冒険者として必要なノウハウを整理し、分かりやすく説明した。
また地球のトレーニングに関する知識を応用して効率的に強くなるにはどうすれば良いかを纏め上げたのだった。
ほぼ不眠不休で、腕の敏捷を強化して2冊を3日間で書き上げることができた。
できた本をカサンドラやギルドマスターと何人かの冒険者に見せ、レビューをしてもらう。
どのように改善すべきか、足りない点はないか話し合い、2日かけて改訂版が出来上がった。
結局、魔物図鑑を作成するのに一週間かかったのである。
この本は結局、スラティナ王国魔物図鑑と名づけられた。
雄介の作成した魔物図鑑と冒険者の心得は大好評であった。
魔物図鑑は直ぐに役に立つ本であり、冒険者の心得は長期的に役に立つ本だと言えるだろう。
実戦において、知っている魔物と未知の魔物とはまったく異なるのだ。
魔物図鑑があれば、魔物狩りの安心感が全然違った。
予め訪ねる地域の魔物を調べておけば、生還率が上がるのである。
自分の、そして仲間の命がかかっているのだから、皆先を争って書き写したのだった。
冒険者としてのノウハウは経験豊富な者は身につけていたが、そこまで進む前に死んだりリタイアする者が多かった。
ノウハウを知れば失敗は少なくなり、効率的な訓練が行われるようになった。
冒険者たち全体が少しずつ強くなり始めていた。
やがて魔物図鑑と冒険者の心得は王国中に広まり、そして周辺諸国にまで伝わることになるが、それは数ヵ月後の話。
雄介が魔物図鑑と冒険者の心得を作成していた一週間にカサンドラは大きくLVを上げていた。
カサンドラは毎日のようにダークテンペストとブルーダインを連れ、狩りに出かけた。
一週間後にはAクラスの魔物も1人で倒せるようになっていたのである。
ちなみに雄介はまったく狩りをしなかったため、勇者ポイントは得ていない。
だが、しばらくすると魔物図鑑と冒険者の心得の作成が勇者ポイントの獲得に大きく影響するようになるのである。
カサンドラ・ディアノ
LV:23
年齢:21
職業:精霊魔法使いLV44・念動魔法使いLV28・時空魔法LV24・冒険者LV17
HP:930 (B)
MP:2166 (SS)
筋力:57 (D)
体力:272 (S)
敏捷:211 (A)
技術:116 (C)
魔力:446 (SS)
精神:414 (SS)
運のよさ:239 (A)
BP:0
称号:元管理者補助・プレイヤー・βテスター・バハムートの加護
特性:火炎属性中耐性・水冷属性高耐性・大地属性中耐性・風雷属性中耐性・聖光属性高耐性・状態異常高耐性
スキル:自動翻訳・思考加速(50%)・記憶力上昇(30%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・アイスストーム(5)・ダイヤモンドダスト(40)・コキュートスアラウンド(120)・アイシクルディザスター(220)・アースランス(20)・ガイアシールド(40)・タイタニックノア(100)・ガイアシールドグレート(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ライトニングインパクト(120)・ヒール(10)・レジストマインド(20)・ホーリーヒール(80)・ホーリーカルナシオン(180)・強化魔法(任意)・念動魔法(任意)・クロックアップ(150)・クロックダウン(150)・テレポート(距離次第)
装備:精霊石の杖・エレメンタルローブ・スターサークレット・精霊銀の腕輪・疾風のブーツ
所持勇者ポイント:331
累計勇者ポイント:331
「カサンドラさん、よく頑張ったね。
LVが11も上がってるよ」
「いえいえ、私の努力なんて。
雄介さんこそ魔物図鑑と冒険者の心得の作成お疲れ様でした」
「流石に疲れたけど、悪くない出来だと思うよ。
これで冒険者で亡くなる人が減ると良いんだけど。
ところで、BPはどう使ったの?」
「BPが220も有りましたから、体力70・敏捷70・運のよさ80上げました。
あと技術が90も上がったんですよ」
「おぉ、やったね。
戦い方が相当上手くなったんじゃないかな?」
「だったら良いんですけど、雄介さんに比べたらまだまだです。
スキルは思考加速(50%)・記憶力上昇(30%)まで覚えたんですけど、次は何を覚えたら良いですか?」
「強化魔法の応用も大分できるようになってきたみたいだね。
魔力操作強化して複合魔法を覚えたらずっと強くなれると思うよ」
「魔力操作強化は分かるんですけど、複合魔法ってどんなのです?」
「2種類の魔法を同時に発動させて、それを混ぜ合わせることでより高位の魔法として威力を発揮させる方法だよ。
右手と左手に違う魔法を同時に使う必要があるんだ」
「それはまた高度な魔法ですね。
私に出来るでしょうか…」
「カサンドラさんの魔法のセンスは俺より上だから、きっと出来ると思うよ」
「分かりました。頑張ってやってみます」
「よし、その意気だ」
雄介はカサンドラの頭を優しく撫でた。
カサンドラは恥ずかしそうに頬を染めていた。
王都一の鍛冶屋から新しい刀ができたという連絡が入った。
正確には先日出来ていたそうだが、雄介とカサンドラが見に行くのが魔物図鑑作成後になったのである。
「親父さん、調子はどうだい?」
「おう、きやがったか」
「これが新しい剣だ。刀って言うのかい?
クリスタルドラゴンの牙を刃の部分につかい、ミスリルで刃以外の部分を包み込むことで折れにくくした。
ミスリルはそこまで堅くはないが、加工しやすく靭性が高いんだよ。
とにかく試してみてくれ」
鍛冶屋の親父は反りのある片刃の剣を持ってきた。
大きさは大剣とほぼ同じであり、刀としては相当大きい。
刃の部分は白く輝いており、峰の側は銀色であった。
雄介が握ってみると手にしっくりと馴染んだ。
引いて斬ることを意識しながら素振りを繰り返す。
動きが馴染んできたのを感じると、クリスタルドラゴンの身体に向き合った。
強化魔法もスキルも使わず、ただ刀を自分の身体の一部として振るうことに集中する。
シュッと空気が切り裂かれる音がした。
クリスタルドラゴンの身体が真っ二つに切り裂かれていた。
「うおお、これの切れ味は今までの大剣とはまるで違うな。
水晶竜爪の大剣は30cmほどで刃が止まってしまったが、この刀は1mほども切り裂いてる」
「わっ雄介さん、凄いですw」
「これは水晶竜牙の太刀と名付けよう。
実戦で試すのが楽しみだ」
「俺としてもこれほどの切れ味の武器を作ったのは初めてだ。
雄介が教えてくれたやり方はまだまだ試行錯誤の途中だ。
また新しい素材が見付かったら言ってくれよ」
「そうか。
う~ん、オリハルコンについて教えてくれないか?
「おう、分かったぜ。
オリハルコンは最高級品の素材を超えた激レアの金属だ。
伝説の武器などでしか使われてない、どこで手に入るか分からない物だぜ」
「なるほどね。ドンムント将軍の槍は伝説の武器なのか?」
「おお、俺の知る限りこの国で唯一のオリハルコン製の武器だな。
勿論伝説の武器だ」
「ふ~む、いつかオリハルコンで刀を作ってみたいな」
翌日、雄介とカサンドラはギルドマスターに呼び出されていた。
なんでも個人依頼がしたいという話だ。
「魔物図鑑と冒険者の心得の作成が終わったばかりで呼び出してすまない。
悪魔の国についての情報を兵士の隊長以上や各地の領主やギルドマスターに知らせることが決まってのう。
そのため、悪魔の国について詳細な情報がほしいという要望が出たんじゃ」
「ひょっとして、その情報収集を俺達に任せたいという依頼ですか?」
「その通りじゃ。
悪魔に支配されたアスタナ共和国について調べてもらいたい」
「それはまた酷く危険な依頼ですね。
今まで調べたことは無かったんですか?」
「今まで何人かの密偵や冒険者を派遣したんじゃが…誰も帰ってはこなかったのじゃ」
「むう、やはり危険ですね。
テレポートが使え能力的にも俺達が向いてるため、任されたってことでしょう。
俺とダークテンペストだけで行っても良いんだけど、カサンドラさんはどうする?」
「正直言って、怖いです。
でも…雄介さんだけに行かせられません。
私も行きたいと思います」
カサンドラの瞳には決意の輝きが宿っていた。
「俺の運の悪さを考えたら何が起きるか分からないんだ。
カサンドラさん、ほんと~~に危険だよ。
それでも、良いの?」
「雄介さんと一緒なら。
それに、私もう足手まといじゃないはずです」
「むう、本気みたいだな。
よし、じゃあ、条件がある。
アスタナ共和国では、俺の指示に従うこと。
最悪の場合、俺を置いて逃げろと言ったら、テレポートで逃げること。
できるね?」
「それは……。
基本的に雄介さんの指示に従います。
でも、納得できない指示には従えません」
「一蓮托生か。
わかったよ。必ず二人で生きて帰ろう」
「はい」
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「アスタナ共和国へ」です。