第19話 決着
○34日目
「片腕では複合魔法は使えまい。
不死鳥でも生き返るには数時間はかかる。
貴様の命はあと数分だ」
雄介に絶望が迫った。
頭にログアウトがよぎったが、雄介は対応策を考える。
片腕では複合魔法は使えない。
クリムゾンフレアだけでは倒せないし回復魔法で無効だ。
剣技はせいぜい1cmほどの傷しかつかない。
他の方法はないか。
時空魔法で何か…シルバーゾーン…亜空間で何とか。
これを試してみるか。
雄介はフレイムを使い、身体の凍えを溶かした。
韋駄天を使い、クリスタルドラゴンの周囲を回る。
強化魔法の応用で左腕の血管を収縮させ、出血を止めた。
また、痛覚神経を止めているのだ。
クリスタルドラゴンが吹雪のブレスを吐いた。
雄介はエアロガードで身を護りつつ回避する。
黒竜鋭牙の大剣を右腕に握って、ドラゴンの尻尾に突撃した。
魔力操作強化を使い、攻撃の瞬間、シルバーゾーンを発動させた。
が、何の効果もなくかすり傷を付けただけだった。
「愚かな。
貴様、一体なにをやっている」
「(一発で成功するとは思ってないさ。
成功するまでやってやる)」
雄介のMPではシルバーゾーンはあと3回しか使えない。
その3回をすべてこれに費やす覚悟を決めていた。
次は左後ろ足を狙った。
シルバーゾーンを使ったが、再び失敗した。
クリスタルドラゴンを観察し、隙を読む。
一瞬の隙を掴み、再び尻尾に突っ込んだ。
攻撃の瞬間に、シルバーゾーンを発動させる。
ドラゴンの尻尾に刃が突き刺さる。
1mほども切り裂くことに成功した。
「バカな。
我の身体を切り裂くとは」
クリスタルドラゴンが驚愕した。
韋駄天を使い、ドラゴンの首筋に近づく。
この一撃にすべてを込める。
極限まで集中力を高め、大剣を振りかざし、最後のシルバーゾーンを使った。
遂にディメンションエッジが発動した。
大剣の刃を亜空間が包み込む。
豆腐を切り裂くような手ごたえのなさでクリスタルドラゴンの首を討ちとったのだった。
ディメンションエッジとは魔法剣である。
攻撃の瞬間にシルバーゾーンを使用することで、剣の周囲に亜空間の出入り口を設け、剣の刃が触れた物質を亜空間に収納することができる。
すなわち、物質の堅さに関わらず、必ず切断することが可能な一撃なのである。
いわゆる、空間の切断と言われる技であった。
只でさえ必要な魔力量、魔力の操作精度共に、精霊魔法とは桁違いに高度な魔法だ。
それを武器の周囲に展開し、攻撃の瞬間に亜空間の出入り口を操作するという極めて難易度の高い技である。
GWOの世界の人間でこのようなシルバーゾーンの使い方を発想した者はなく、地球の漫画や小説で空間の切断攻撃を知っていた雄介だからこそのオリジナル技であった。
雄介は生き残った。
疲れきっていたが、ダークテンペストが心配だった。
ダークに念話を試してみる。
何度か試すと、か細い声で反応があった。
「(ゆう…すけ…か。
いきて…おるか)」
ダークテンペストの魂が反応していた。
「(ああ、俺は勝ったよ。
黒王を生き返らせたいのだが、何か出来ることはないか)」
「(かったか…よかった…。
からだをやいて…くれ)」
「(不死鳥だからな。
それだけで良いのか?)」
「(ちをかけたら…かいふくがはやい)」
「(俺もかなりの大量出血しているから、少しだけだぞ)」
雄介はダークテンペストの亡骸に火を付けると、血を振りかけるのだった。
やがてダークテンペストは赤黒い光を放ち出した。
火炎が黒炎へと変わっていく。
2時間後黒炎が大きくなり、やがて鳥の姿へと変わった。
そして鳥の姿の黒炎が凝縮し、人間程度の大きさに変化した。
その場の炎が消え去ったとき、黒髪と褐色の肌をした美しい少女が立っていた。
身には何も纏っていなかったが、高貴な人間がもつ威厳と凛々しさを持っていた。
「雄介よ、余は心配したぞ。
どんなことをしてもこの腕、必ず治してやるからな」
黒髪の美少女は突然雄介にひしと抱きついてきた。
「え? ちょ? は?
ちょ、ちょっと待って。
あの、君はひょっとしてダークテンペスト?」
「ん?
なぜ黒王と呼ばんのだ?
他の誰に見える?」
「17歳くらいの女の子?
身長は167cmくらい?」
「余が女の子などと何を戯けたことを。
おや?この手は何だ?」
少女は自分の手を見て不思議そうにしている。
手を握ったり開いたりしているうちに気が付いたようだ。
「う~む、生まれ変わりでどうやらメスになったようだ。
しかし、人間に変身するとは初めてのことだ。
あ、女になればあの方法が使えるな」
「ええ~!生まれ変わりで人間になれるの?
黒王が人間の女の子に…ってマジか」
「魂は変わらないが肉体的には1から創り直すことになるからの」
「はぁ~そんなことが。
あの方法って?」
「腕を治す方法だ」
「ええっ治せるの?
食いちぎられたから回復魔法じゃ無理だよね?」
「うむ、本来なら無理であろう。
だが、余の加護の段階を最上級まで上げれば可能になるはずだ。
余は黒不死鳥の王だからな」
「そういえば、最初に加護の力を加減してるとか言ってたよね。
それは、俺が弱かったから?」
「それだけではないが、そうだ。
惰弱な身体で強力な加護を使えば、逆に命を縮めることになるからな。
それに最上級の加護は心底認めた相手でなければ与えられん。
だが、今なら問題ないはずだ」
「心底認めた相手ってそりゃ初対面じゃ無理だね。
とにかく、腕を治す見通しが立ったのは良かったよ、はぁ」
「念のために聞くが、余の最上級の加護を受け取ってくれるな?」
「勿論だよ。
黒王の加護を断るわけないでしょ。
そういえば、黒不死鳥王の姿や黒鷲には成れるの?」
「うむ、当然だ」
ダークテンペストは黒不死鳥王や黒鷲に変身したが、しばらくすると女の子の姿に戻ってしまった。
「どうしたの?」
「雄介の前では人間が良いな。
うむ、今後はこの姿をすることにしよう」
「え?どういう姿をするかは黒王の自由なんだけどさ。
う~ん、服あったかな?
あのさ、黒王?」
「どうしたのだ、雄介」
「その姿でいるなら、服着てくれないかな?」
「む、このままでは拙いか。
人間はどうしても見た目で判断する生き物だからな」
「いや、そういう問題じゃなくて。
とりあえず、これで隠して」
雄介は魔法の布袋から大きめのタオルを取り出した。
ダークテンペストはそれを身体に巻いた。
「はあ、疲れた」
「流石にあれほどの激闘だったからな。
腕の治療は余がしておくから、雄介は休むがよい」
「それも疲れたけど、それだけじゃないんだけどな。
最上級の加護を貰えるってことか。
黒王、ありがとな」
「うむ」
「じゃあ、疲れたのは確かだから休むね」
「そうだな、明日の朝までゆっくり休むがよい」
へとへとに疲れていた雄介はあっという間に寝てしまった。
ダークテンペストは雄介の寝顔を眺めていた。
翌朝、雄介が目覚めると左横に見目麗しい少女の顔があった。
寝ぼけていたのか、ダークテンペストの顔だと気が付くまで数秒かかってしまった。
ダークテンペストも横で寝ていたらしい、雄介の左手を握ったまま。
辺りを見回すと黒炎の結界が張られている。
「あ、左手治ってる。
凄い。ちゃんと動くし、傷一つないや」
「雄介、目覚めたか」
ダークテンペストも起きだしてきた。
「どうだ?
左手に異常はないか?」
「ああ、大丈夫だ。
加護を最上級にしたって言ってたけど、どうやったんだ?」
「加護を上げたら超回復というスキルが働くようになるのだ。
それが有れば、死なない限りはほぼどんな傷でも治るぞ。
生き返るのは無理だが、不死鳥に近い回復力を持つということだ」
「なるほどね。超回復って凄い良いなあ。
ドラゴン倒してステータス確認してなかったし、見ようか」
滝城雄介
LV:39
年齢:22
職業:冒険者LV31・精霊魔法使いLV28・強化魔法使いLV24・念動魔法使いLV18・時空魔法使いLV14
HP:1635 (S)
MP:1474 (S)
筋力:321 (S)
体力:331 (S)
敏捷:410 (SS)
技術:276 (S)
魔力:318 (S)
精神:260 (S)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:60
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・黒不死鳥王の寵愛・スラティナ王国の勇者・スラティナ王国武術指南役・スラティナ王国情報管理指南役・竜殺し
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性高耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(100%)・サンダーレイジ(100%)・ブラッドブレイク(100%)・思考加速(100%)・流水(100%)・韋駄天(100%)・記憶力上昇(90%)・金剛力(70%)・真 疾風覇斬(30%)・真 天竜落撃(30%)・ディメンションエッジ(10%)・超回復(100%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ライトニングインパクト(120)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・アビスグラビティ(220)・強化魔法(任意)・念動魔法(任意)・複合魔法(魔法次第)・クロックアップ(150)・クロックダウン(150)・シルバーゾーン(200)・テレポート(距離人数次第)
装備:黒竜鋭牙の大剣・地竜大鱗の鎧・光王虎のマント・氷精の小手・烈風の具足
所持勇者ポイント:1148
累計勇者ポイント:1148
「お~、勇者ポイントが1000を超えたか。あと9000だな。
最上級の加護って凄いステータスも上がるんだね」
「むう、これは大したものだのう。
筋力50・体力100・敏捷100・魔力50上がっておるな。
技術40は戦闘経験によるものであろう」
「う~ん、もう少し早く最上級の加護って無理だったの?
そうすればあれほど苦戦しなかったはず」
「無理じゃな。
最上級の加護とは、その、あれじゃ。
…余のつがいに選ぶという意味だからの」
「え?つがいって結婚相手ってこと?
それを最上級の加護を与えてから言うの?」
「む、雄介は余のつがいになることに不満でもあるのか?
子供ならちゃんと出来るぞ。
余のつがいなら王族扱いだからの、他に妻が数人いるくらいは許すぞ」
ダークテンペストは毅然としているが、瞳の奥が揺れていた。
それを見た雄介は、今のダークテンペストは本当に女なんだと実感した。
「不満なんてないよ。ただビックリしただけ。
黒王は俺のパートナーだもんな。
じゃあさ、最上級の加護ってつまり称号の黒不死鳥王の寵愛のこと?」
雄介は意地悪そうに笑っている。
「そ、そのようなこと余に尋ねる奴があるか…」
ダークテンペストの顔は耳まで赤く染まっていた。
「黒王が生まれ変わって人間の女になった理由が分かったよ。
つがいが同性じゃ困るもんな」
「う、うむ、余も理由はそれだと思うぞ」
「(しかし、ティアナやルカにどう説明しよう…。
しばらくたってからタイミングを見て、だな)」
「ところで、クリスタルドラゴン1匹でLVが3つ上がったね。
BPは何に使おう?」
「そうだのう、精神を上げるべきであろうな。
ディメンションエッジ(10%)は早く成功率を上げるべきじゃ」
「そうだな。精神上げたら魔力操作能力が上がるし。
それにしても、成功率10%でよく成功したなあ。
命がけの集中力かも」
雄介は精神:320 (S)に上げたのだった。
「魔法もいくつか覚えたな。
ライトニングインパクト(120)・アビスグラビティ(220)・テレポート(距離人数次第)か。
これは前の2つは攻撃魔法だね。
テレポート覚えたし、用事片付けたらカサンドラさんに会いに行こうか」
「うむ、それで良かろう」
「竜殺しってどんな効果があるんだろう?」
「竜に対して威圧効果や竜の咆哮の効果半減が有るぞ」
「竜の咆哮はヤバイからね。
それは良いな。
ティアナやルカも心配してるだろうし、早く帰ろう」
雄介はクリスタルドラゴンの亡骸を丸ごと亜空間に収納した。
ドラゴンの身体は色々な武具の素材になるからである。
クリスタルドラゴンの財宝がどこかにあるはずだが、洞窟は崩れており見つけるのは諦めてしまった。
ダークテンペストが黒不死鳥王の姿になり、雄介が乗った。
王城のギルドまではすぐだった。
ダークテンペストの飛行速度が数段上昇していることに気が付いた。
「あれ?速度上がってない?」
「上がっておるな。
どうも新しい身体になって強くなったようだ。
雄介の成長に合わせて余も強くなっておったのだが、此度は一気に成長しておる」
「それは頼もしいな。
どれくらい強くなったかは後で調べようか」
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「再会」です。