第17話 王との謁見
○33日目
「滝城雄介、参上致しました」
「余がスラティナ王国国王グラーツ・スラティナ・ドミトロフスクⅢ世である。
お前が黒鷲のユースケか。
後のことはみな宰相に任せているゆえ、余は失礼する」
「陛下、このような時間から後宮に行かれるのは。
それに勇者の選定は国家の大事ですぞ」
ドンムント将軍が止めようとする。
「そうか?
うーむ、仕方ないな。30分だけだぞ」
グラーツ国王は心底面倒くさそうに言った。
「いえいえ、このような些事はこの宰相に任せて頂ければ」
「宰相は勇者の選定を些事と言われるのですか?」
「別に勇者を名乗る1人の男がいるというだけではないか。
その程度のこと、陛下のお手を煩わせるほどのことでもあるまい」
「まあよい、30分程度は付き合おう。
その後は宰相に任せるぞ」
「はっ、畏まりました」
雄介は既にこの時点で呆れていた。
悪魔からの攻撃の危険性についてはこの謁見の場の人間は皆理解しているはずだ。
勇者の選定より昼間から後宮に行くことが大事なのだろうか。
この国王ではこの国はやっていけないだろうと思わずにおれなかった。
ダークテンペストは怒っていた。
黒不死鳥王の王としての責任の重さを知っているダークテンペストはこのような茶番が我慢ならなかった。
王が判断を誤れば、群れ全体が危険に晒され窮地に追い込まれることがある。
それ故に、どんなことでも王としての判断が伴うことに手を抜くことは有り得ないと心得ていた。
宰相が前に進み出て言った。
「ワシが進行をさせてもらう。
勇者選定の儀は、人格・幻獣・武力について行われる。
勇者としての人格の適正の判定は口頭試問によって行われる。
お前が勇者なのか?」
「はい、その通りです」
「如何なる根拠に基づいて自らが勇者であると主張するのか?」
「神との契約に基づいて主張します」
「ほほう、神との契約とな。
どのようにして神と契約を結んだというのか?」
「神に会いまして、勇者としてこの世界に住まう人々を救う契約を結びました」
「神に会っただと?
そのような戯言が通用すると思うか。
この選定の儀での偽証の罪は重いぞ」
「そう言われましても、会ったことは会ったと言う外ありません」
宰相には頭から雄介の言うことを信用する気はないようだった。
ドンムント将軍が止めに入る。
「伝説には神に選ばれし勇者が現れると書かれているのですから、まことの勇者ならば神に会っていても不思議はありますまい」
「ふん、どうだか。
まあ神に会ったか会わなかったかは水掛論になってしまうからな。
選定の儀を進めよう。
お前はいずこの出身か?」
「こことは異なる遥か遠い場所から参りました」
「それが具体的にはどこのことか?」
「この国の誰も知らぬ遠い所です。
また具体的にその地のことを教えることは神に禁じられております」
「はっはっは、これはまた都合の良い神が居たものだ。
そこでお前は貴族の出身か、はたまた騎士の出身なのか?」
「私のいた国では貴族制は当の昔に廃止され、騎士もおりません」
「それなら平民ということか?」
「その通りです」
「あっはっは、これは愉快。
勇者が平民の出身とはな。
おい平民、高貴なる方々との謁見、末代までの名誉とするが良いぞ」
「(貴族が居ない国で平民出身であることに何の問題があるというのか)
私の国では能力がありチャンスを掴めば、出自に関わらず、宰相になることも大臣になることも国一番の富豪になることも出来るのですよ」
この言葉を聴いて宰相の顔色が変わった。
貴族出身の自分が宰相になれたのは出自のためであり、能力のためではないぞという皮肉だと理解したからだ。
「このワシに対してそのような口をきくとはな。
後々後悔せねば良いのだがな。
皆様方、口頭試問でほかにお聞きになりたいことは有りますかな?」
ドンムント将軍が口を開いた。
「雄介殿は勇者としてどのようなことがしたいと思っているのですかな?」
「悪魔どもの脅威からこの国の人々を護りたいと思っています」
「ちっ、他には無いようですな。
勇者としての人格の適正の判定、これで充分でありましょう」
他の大臣たちは皆貴族の出身であり、雄介が平民出身であることと先ほどの発言によって宰相ほど露骨でないにしても反感を持っている。
印象が最悪の時点で口頭試問を終わらせようという宰相の判断だった。
将軍の質問は少しでも雄介の印象を良くするためのものである。
「次は幻獣である。
勇者として連れている幻獣の判定を行う。
お前、幻獣の姿を見せてみよ」
「(黒王、思いっきりで良いぞ)」
一同は驚きの声を上げた。
ダークテンペストが黒不死鳥の王の姿を現した。
怒りの宿った瞳でもって周囲の人々を威圧し、幾多の群れを束ねる王者の姿を見せた。
誰も火傷しない程度に熱気を放った。
大広間に熱風が吹き荒れる。
強大なダークテンペストとの対面は、ティラノサウルスと対面したようなものであった。
国王や宰相は度肝を抜かれ歯の根が合わず震えている。
大臣たちは戦慄し、大隊長たちは驚きの声を上げた。
ドンムント将軍は感心したような顔をしていた。
「う、うむ。もう充分である。
幻獣を引かせるが良い」
ダークテンペストは黒鷲の姿に戻った。
「強さについては兵士との模擬戦を予定しているが、他に何か考えがあるかね?」
宰相の声に畏怖の念が雑じっていた。
「わざわざ模擬戦をするほどのこともないので、城の演習場を貸して頂けないでしょうか?」
「そうか、何か1人でやってみせるということか。
必要な物は何かあるかね?」
「いえ、何も必要ありません」
雄介と国王たちは演習場に移動した。
1平方kmほどの広場である。
雄介は演習場の真ん中に移動し、国王たちは100mほど離れて見ている。
雄介はここ数日練習していたある独自魔法を使った。
魔力操作強化、複合魔法発動、クリムゾンフレア&ブラックエクスプロージョンを発射した。
太陽の如き炎と光が輝き、同時に暗黒の爆弾が大爆発を起こした。
地面が融解し、火炎が竜巻となって天を焦がした。
真っ黒な球体が辺りを飲み込み、その場の全てを破壊した。
白と黒が混じりあい、混沌を作り上げる。
空気が震え、大地が轟き、天地が裂けたような音が響きわたり、観衆たちに衝撃が走った。
国王と宰相、大臣たち全員が腰を抜かしていた。
将軍たちですら、驚きに声も出ない様子だ。
演習場には直径30mほどのクレーターが出来ていた。
雄介は宮廷魔術師団の団長から複合魔法を習い、クリムゾンフレアとブラックエクスプロージョンを組み合わせて独自魔法を開発したのだった。
複合魔法とは、2種類の魔法を同時に発動させ、それを混ぜ合わせることでより高位の魔法として威力を発揮させる方法である。
極めて高い魔力操作能力が必要であり、それぞれを単独で使用するより大きなMPを消費する。
発動にはそれなりの時間がかかるのが欠点である。
雄介は平然として国王たちに近づいた。
「これくらいでどうでしょうか?」
「……(パクパク)」
国王も宰相も何も言えなかった。
「ちょっとやりすぎましたかね。
武力を見せるのはこれで良いでしょうか?」
「……(コクコク)」
大音響を聞きつけ城の兵士たちが次々とやってきた。
全員が殺気立っている。
「ドンムント将軍、ちょっと兵士たちを止めて頂けませんか?」
「ああ、分かったから雄介殿は何もしないでくれ」
「お前たち、国王様たちを介抱して差し上げろ。
雄介殿には絶対に手を出すな。良いな、絶対だぞ」
「そ、それではこれで雄介殿の謁見の儀を終了とする」
国王の終了の宣言があり、雄介はティアナとルカを連れて自分の部屋に戻った。
その後会議が行われた。
参考のために宮廷魔術師団の団長が呼ばれ、雄介の使った魔法はこの国で最強の威力があると太鼓判を押した。
ドンムント将軍は、それほどの戦力を味方にしないことは考えられないと熱弁した。
大臣の1人は、雄介はこの国出身ではないため厚遇しなければ他国から引き抜かれるだろうと述べた。
宰相は不本意そうだったが、悪魔の脅威が迫る現状で雄介を勇者と認めないほど愚かではなかった。
最終的に国王は皆の意見に従い、雄介を正式に勇者と認定することを決めた。
次に雄介をどのような待遇で扱うかに議題が進行した。
将軍は貴族位と大隊長の地位を与えるべきだと主張した。彼は雄介を部下にほしかったのである。
ある大臣はそれなりの高給と屋敷、美しい女をあてがえば満足するのではないかと言った。
宰相は平民出身なのだから、騎士の位で充分だろうと述べた。
この議題では議論百出し、本人の希望を聴いてから決めるということになった。
「ティアナ、ルカ、今頃俺についての会議が行われているはずだ。
勇者の認定には問題ないはずだ。
使った魔法はSクラス以上の威力があるし、ドンムント将軍も居るからな。
問題は待遇なんだが、ティアナとルカは欲しいものはあるか?」
「う~ん、うちは雄介と一緒に居られたらそれでええよ。
あ、でも雄介と一緒に住める家がほしいな」
「ルカもそうにゃん。
ずっと宿屋に住むのはあまり良くないと思うにゃん」
「う~む、家か。
でも、この交渉はこの国の人々を護るために使うべきだな。
少々無茶な願いでも叶えてくれるはずだから…。
家は自分の金で建てることにしよう」
「わ~い、やったにゃん」
「お姉ちゃんも一緒でもええかな?」
「勿論良いぞ」
そこへ使用人が雄介を呼びに来た。
会議の席に着く雄介。
国王は宣言した。
「雄介殿、そなたを勇者と認定する」
「誠に有り難うございます」
「ついてはそなたの待遇について協議しておったのだが、そなたの望みは何じゃ?」
「私の望みは貴族の地位や高給などでは有りません。
ですが、かなり高いものになると思います」
「ほう、どのような物か?」
国王は怪訝そうに答えた。
「この国の防衛の予算を2倍に引き上げて頂きたい。
悪魔から国を護るために必要なのです」
「なんじゃと!」
「そんな無茶な条件があるか」
「防衛の予算がどれほど膨大なのか知っているのか」
「どこからその予算を捻出するのだ」
「それは政治の分野の話だ。
今尋ねているのはそなたの待遇のことだぞ」
防衛の予算を引き上げれば、それ以外の分野の予算は減少する。
従って国の税金で生活している宰相や大臣たちは口々に不満を述べた。
「確かに防衛に関する予算を引き上げれば、他の分野の予算を逼迫させるでしょう。
しかし、国が滅びれば他の分野も何も無くなってしまうのです。私の待遇など問題ではありません。
…とはいえ、2倍は難しいでしょう。
1.5倍で如何でしょうか?」
「1.5倍…皆はどう思うか?」
国王は自分では決められず周囲に意見を求めた。
「1.5倍でしたら現実的な数字かもしれません」
「それでもかなり大変な数字ですが、努力次第で何とかなるかと思われます」
「国が滅びることに比べますと、認めざるを得ないかと」
諸大臣がしぶしぶながら口々に賛同する。
そこへ宰相が言った。
「1.5倍に増やして何の意味があるんだ。
予算が増えたからと言って、戦力が上がるとは限らないだろう」
将軍が雄介の援護射撃をする。
「雄介殿、増やした予算の使い道についてはどんな意見を持っているのかね?」
「では、予算の使い道について説明致します。
計画としては戦力自体の増強と既存の戦力の効果的な運用が有ります。
(地球のトレーニング理論を利用した)新しい訓練方法によって1年以内に現在の大隊長とAクラス冒険者をSクラス冒険者相当まで強化できます。
また中隊長とBクラス冒険者をAクラス冒険者相当まで、小隊長とCクラス冒険者をBクラス相当まで強化できる見通しです。
普通は1クラス程度の強化に3年ほどかかるのが平均ですから、当然お疑いだと思います。
しかし、私は3週間でFクラス冒険者からAクラス冒険者になっています。
その訓練のノウハウを生かしてのことですから、最低でもその程度の強化は可能だといえます。
次に既存の戦力の効果的な運用ですが、現在情報の活用がろくに成されていない状態です。
トップダウン式の情報管理はある程度行われているのですが、ボトムアップ式の情報管理はまったくといって良いほどできておりません。
この点を改善するために小隊長中隊長大隊長を対象に組織における情報の扱いについて私が講義を行います。
講義内容については~」
このような話がしばらく続いたのだが、国王や宰相程度にはよく理解できなかったようだ。
「そして、今まで話した方法を実行するための予算として、防衛予算の増加を求めている訳です」
実はあらかじめどのような改善をするかについて雄介はドンムント将軍と話し合いをしていたのだ。
その実行には1.5倍程度の予算が必要であり、最初から1.5倍を求めると反対されるので、最初に2倍と言い出してから1.5倍に下げたわけである。
最終的に防衛予算の1.5倍の増加案は許可された。
雄介は王宮武術師範と情報管理指南役に任命されたのだった。
滝城雄介
LV:34
年齢:22
職業:冒険者LV27・精霊魔法使いLV24・強化魔法使いLV20・念動魔法使いLV14・時空魔法使いLV7
HP:1235 (A)
MP:1324 (S)
筋力:271 (S)
体力:231 (A)
敏捷:270 (S)
技術:236 (A)
魔力:268 (S)
精神:260 (S)
運のよさ:-999 (評価不能)
BP:0
称号:プレイヤー・βテスター・三千世界一の不運者・黒不死鳥王の加護・スラティナ王国の勇者・王宮武術師範・情報管理指南役
特性:火炎属性絶対耐性・水冷属性至弱・風雷属性中耐性・聖光属性至弱・暗黒属性絶対耐性
スキル:自動翻訳・疾風覇斬(100%)・天竜落撃(100%)・フレアブレード(100%)・サンダーレイジ(100%)・ブラッドブレイク(100%)・思考加速(100%)・流水(100%)・韋駄天(100%)・記憶力上昇(50%)・金剛力(30%)
魔法:ファイアーアロー(3)・フレイム(10)・ファイアーバースト(40)・クリムゾンフレア(150)・エアスライサー(5)・エアロガード(20)・プラズマブレイカー(50)・ブラインドハイディング(5)・シャドウファング(20)・マジックサーチ(5)・ブラックエクスプロージョン(80)・強化魔法(任意)・念動魔法(任意)・複合魔法(魔法次第)・クロックアップ(150)・クロックダウン(150)・シルバーゾーン(200)
装備:黒竜鋭牙の大剣・地竜大鱗の鎧・光王虎のマント・氷精の小手・烈風の具足
所持勇者ポイント:773
累計勇者ポイント:773
「この数日、狩りをするより時空魔法と複合魔法の練習ばかりしてたから全然LV上がってないな」
「その分魔力と精神が50上がったではないか。
それにクロックアップ(150)・クロックダウン(150)・シルバーゾーン(200)を覚えたのは大きいぞ」
「テレポートはまだしばらくかかりそうだな。
シルバーゾーンの効果の亜空間の創造って凄いよな。
あと、勇者の称号がスラティナ王国の勇者だけになったね。
今までの町の称号はスラティナ王国に内包されたからだろうな」
「亜空間の創造は応用範囲が広そうだのう。
確か魔法の布袋に使われている収納魔法もシルバーゾーンらしいな」
「ああ、そのはずだよ。
さて、国王との謁見は終わったしLV上げる為にも魔物狩りに行こうか」
謁見の翌日、雄介は冒険者ギルドに向かった。
それが初のSクラスの魔物との死闘になるとも知らずに。
次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「Sクラスの魔物」です。