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  2Kの君 作者:miz
第一章 彼女の週末、彼の休暇
1-3
 形勢逆転といった感じで、男の拘束から逃れた凛子は、まくし立てた。

「どこって、わたしの部屋なんですけどっ! 勝手に入ってきたのそっちじゃない!!」

 怖かったんだから! と涙目になりながら凛子は侵入者を睨み付ける。

「ちょっと待て、ここは俺の寝所の筈だが」
「はぁあああああ?」

 しばし呆然としていた男が判らないと首を振りながら、完全に身を起こす。

「続き間がなぜ塵溜めのようになっているのだ」
「ご、ゴミ溜めって失礼ね! 明後日くらいには掃除しようと思っていたんだから!」
「掃除は毎日している筈だろう?」
「わるいけど毎日終電逃してるし、そんな余裕ないわよ! 夜中に掃除機なんかかけたらご近所迷惑になるしっ!」
「いやお前ではなく――お前は……」

 ようやく視線の合った男は、まじまじといった風に凛子を上から下まで眺め、眉を顰めて一言。

「服を着ろ」

 短く言われた言葉に、興奮したように喚いていた凛子はぴたりと動きをとめ、慌てふためいたようにソファの上に雑然と積みあがっていた布切れを手繰り寄せた。

「な、な、な、な、なんなのーーーーーあんた!」

 恐怖と羞恥と混乱で思考が追いつかない。
 突然の侵入者に押し倒され、ナイフをちらつかせ脅されたかと思ったら、自分の部屋が塵溜めだ(実際そうなのだが)掃除しろと言われ、確かにルームウェアにしては無防備かもしれないが、不愉快そうな顔で服を着ろと言われ。

 男は大きく息を吐いて、亜麻色の長い髪を煩わしそうに掻き揚げると考え込むように額に手をあてる。凛子から外された視線はローテーブルへと向けられ、炎の明りが青灰色の瞳の中にうつりこむ。男が纏う白い長衣の襞はいくつもの影を作っている。投げ出された長い足は裸足だ。

 妙だ。
 この汚部屋に自分以外の人間が居るというこの状況も妙だが、もっと妙なのは男の格好だ。

「……へんた、い?」

 凛子が漏らした一言は思いの他大きく響き、男は視線を流す。

「なるほどな」

 しかし男は気を悪くした様子もなく、肩を竦めさらには口の端をやや持ち上げた。

「ラストゥーリャの言っていた“誰にも知られぬ誰も知らぬ願えば開かず願わずとも開く”」
「……え? らす、らすとー?」
「こっちの話だ。――女、名はなんという?」
「凛子……」
「――リィン?」
「高宮凛子だけどさっきから――」
「タカミヤリンダケカラ? 奇妙な音節だな。リィンでいいだろう。リィン」
「なんなんですか? 偉そー……」
「ヴェイル・シェイル・ガーランド・エレ・ラ・アゼリアスだ」
「ヴ、ヴぇ」
「シェイルでいい。さて、リィン」

 男は腕を組むと、人の悪そうな笑みを浮かべ、厚顔不遜に言い放った。


「掃除をしろ」



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