ライオンの子(10/176)PDFで表示縦書き表示RDF


ライオンの子
作:きよこ



CASE1 ゲーマー:08


ゲーム2日目。
朝方、母親の理恵がとても不安そうに、「昨日から男が外に立ってて怖い。」と言っていた。
笑いそうになった梨恵だが、そこは笑顔で、「気にしなくても平気。たまたまだよ。」と言っておいた。

今日は何の講義も取っていない梨恵は、祖父のお見舞いに行くことにする。
家から出ると、また門によりかかって、総志朗が寝ていているのを発見した。

「忍者ハット○君。隠れきれてないわよ。」
「んああ?」

変な声をあげて、総志朗は目を覚ます。

「おはよん。なしえっち。」
「あんた、うちのお母さんに姿見られたでしょ?」
「そうなの?気付かなかったわ。」

口の端についたよだれを拭いながら、全く気にした様子無く、総志朗はそう答えた。
わざとでっかくため息をして、梨恵は歩き出す。

「どこ行くんですか?お嬢様。」
「ちょっとそこまでよ。下僕。」
「下僕ってひどくないですか?お嬢様。」
「そんなことないんじゃない?ほんとのことよ。」
「やっぱりひどい!!」

泣きまねをする総志朗をおいて、梨恵はすたすたと歩いてゆく。
駅前の花屋で花を買っていると、うしろにいた総志朗がにこりと笑って言った。

「入院してるおじいちゃんのお見舞いだ?」
「話したっけ?その話。」
「うん。初めて会ったときに。」

よく覚えてたね、と感心しながら、梨恵は包んでもらった花束を受け取る。
電車に乗って2駅、さらにバスに乗ること20分で、祖父が入院する病院へと訪れた。
病棟は3階。
エレベーターで3階に行く。

「あ、梨恵さん。」

エレベーターを降りたそばに、談話室がある。
そこに女の子が一人、佇んでいた。
梨恵に気付いて、駆け寄ってくる。

彩香あやかちゃん。久しぶり!」
「あやか?」

後ろにいた総志朗が不思議そうに彩香の顔を覗き込む。

「この子、土田彩香ちゃんっていうの。ここにおじいちゃんが入院してから、知り合ったのよ。」

青白い肌に似つかわしくない元気そうな大きな目を見開いて、彩香はにこやかに笑った。
目深にかぶったニット帽を押さえながら、頭を下げる。

「初めまして。土田彩香です。今高校3年生です。」

少し頬を赤らめて、律儀に挨拶する綾香に総志朗も自己紹介をする。
もちろん、あの何でも屋の名刺も渡す。

「かっこいい人だね。梨恵さんのカレシ?」

総志朗に聞こえないように梨恵に近付いて、ささやく彩香。

「んなわけないじゃん!ただの…ええと…下僕?」
「なしえっち、ひどいってば!!」

2人のやり取りを見て、綾香は大爆笑していた。






「おじいちゃん。」

ベッドに近付いて呼びかけると、祖父はピクリと動いた。
ゆっくりとまぶたが開き、一瞬あたりをきょろきょろするが、すぐに梨恵に気付いて目を細めた。

「梨恵、来てくれたのか。」
「どう?調子は?」

本当は調子がよくないのだろう、祖父はあいまいに笑うだけで何も答えない。
祖父の視線がふと、総志朗に止まる。

「梨恵、恋人か?」

うれしそうに言うので、梨恵は否定できず、総志朗を見た。

「初めまして。加倉総志朗といいます。梨恵さんとは良いつきあいをさせてもらってます。」

いつもはおちゃらけているのに、とても紳士らしくそう言う総志朗に、梨恵は驚く。

「そうかそうか。梨恵は頑固な子だから、苦労すると思うけどよろしくたのむよ。」
「梨恵さんは、とてもいい子です。オレにはもったいないくらい。優しくて、面白くて。」

そうかそうか、と祖父はにこやかに微笑む。
すっかりやせこけた祖父の目尻に涙がにじんでいたことを、梨恵は気付かなかったふりをした。

「おじいちゃん、早く退院できるといいね。
私、あの家でおじいちゃんと暮らす日を楽しみにしてるんだよ。」
「俺も楽しみだ。梨恵、あの家は梨恵の家だ。梨恵が好きなように暮らすといい。
彼と暮らすのもいい。好きなようにしていいから。」

祖父の言葉が遺言のようで、梨恵は言葉が詰まる。
少しの間のあとにかろうじて、梨恵は言葉を発した。

「私はおじいちゃんと暮らしたいよ。」
「そうか?」

祖父が嬉しそうに笑ったことが、梨恵自身も嬉しかった。
大好きな祖父。
早く元気になってほしいと、願う。









あなたはとても嘘つき。
ついてばかりの嘘の中に、いつもあったのは優しさだった。
優しい嘘。
でもね。
その優しさが逆に苦しかったよ。
真実が遠ざかってゆくだけだったから。

















拍手いただけると嬉しいです。

Web拍手

Sleeping on the holiday and sunny day.

きよこの小説専用のブログ。9/18*あとがき掲載







ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう