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ダメ卓 ~聖剣抜いて王になったら、レンタルチートを使うため、ダメ人間ばかりの円卓の騎士の好感度を上げるハメになりました~ 作者:ティエル

第一部 新米王と円卓の騎士の責務

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第十三話 盤上遊戯したのが間違いだった

 円卓騎士団第七席のナガレに理不尽な理由で決闘を挑まれて、なんとか退けた、その翌朝。

 一人での朝食を終えて、食後の紅茶を楽しんでいた頃、王の食卓に彼女が顔を出した。

「今日はこいつで勝負だ!」

 意気盛んにナガレが見せてきたのは、縦横に線の引かれた盤と、人物を模した立体的な駒たち。
 一見、チェスのようだが、あれとは違って、駒の色が陣営によって分けられてないし、盤面も縦横八マスずつじゃなく、九マスある。
 なんだか見覚えがあるぞ。

「これはな。オレの世界で親しまれてる盤上遊戯(ボードゲーム)だ。チェスはオレより前の訪問者(プレイヤー)が持ち込んだからか、こっちの世界でも普及してんだろ。あれと似たようなもんだ。奥深さや戦略性は比較にならないけどな」

 彼女は俺の右手の席に座り、盤の上に駒を並べ始める。
 まだ勝負を受けるなんて、言ってないんだけど。

「あっちから召喚した盤と駒を、お前にも分かりやすいように、色々【合成】してチェスっぽくしてやったからな。ありがたく思えよ」

 昨日も彼女の口から出ていたが、【合成】というのがなんなのかはイマイチ分からない。
 ただ、その駒たちが円卓の騎士を模したものだというのはすぐ分かった。

 俺とナガレを模した駒が一つずつ。
 ヂャギーとヤルーを模した駒が二つずつ。
 リクサやシエナ、ラヴィを模した駒は四つずつある。
 ほかにも見たことのない顔の駒がたくさんあるが、たぶん今王都を離れている騎士のものなのだろう。

「どうせルール分からないだろうから、説明書作ってきてやったぞ。昼まで時間やるから、さっさと覚えろ」

 と、偉そうにノートのようなものを投げて寄越してきたので、読んでみる。

 昨日の果たし状でも思ったけど、案外字が上手い。
 自作のイラストなんかも使って、上手くルールが説明されていた。

「ここに描いてある可愛い兎はなに?」

「スペースが余ったから描いた」

 混乱するから、そういうのはやめてくれ。

「ふふーん。オレは昨日、家に帰って考えたね。普通の戦闘じゃ昨日みたく、聖剣や鞘の力使ってインチキされるだけだ。だったら、この手の盤上遊戯(ボードゲーム)で勝負すりゃいいってね。そうすりゃ公平だろ」

 なんだか得意げだけど、自分の世界の遊戯を持ち出して、こっちには短時間でルール覚えろっていうのの、どの辺が公平なのだろうか。
 というか、それで満足するっていうなら、最初からそうして欲しかった。昨日の死闘はなんだったのか。

 しかし、説明書に目を通して確信に至ったけど、これは。

「やっぱりショウオギか」

「あん?」

「なんか自分の世界にしかないと思ってるみたいだけど、こっちにもほとんど同じようなのあるぞ、これ。チェスよりだいぶマイナーだけどさ」

「ふーん……なんだ、将棋も持ち込まれてたのか。で、お前やったことあんの?」

 どう答えたものか。
 しばし思案した後、弱々しく頷くと、ナガレはそれを、触ったことがあるという程度に受け取ったようで。

「じゃあ都合がいいや。立会人がきたら、開始な」

 くくくっと、勝利を確信した様子で口元に笑みを浮かべた。

 これは俺は悪くない。向こうが勝手に勘違いしただけだ。

 けど、このまま黙っていると、なんだかまた後で逆切れされそうな気がする。
 どうしよう。





    ☆





「やっほー、王様! 今日も遊びにきたよ!」

 と、友達の家にでも来たかのように、ヂャギーが王の食卓に顔を出したのは、すぐ後だった。
 こんなくだらないことに付き合わされて、彼もいい迷惑だと思う。

「たちあいにん? とかいうの、今日も頼まれたから、オイラやるよ!」

 彼も俺と同じく、頼まれると断れないタイプなのだろうか。
 少し親近感を覚える。

「そうだ、ヂャギー。昨日、お土産にって渡したビスケット、自分で食べちゃったでしょ」

「うん! うっかりしてたよ!」

「今日も焼いてもらうおうか。たくさん持たせてあげるから、今度はちゃんと孤児院の子たちに渡してね」

「うわーありがとう、王様!」

 ヂャギーはその太い両手を挙げて感謝を示す。
 俺は執事を呼び出して、できるだけたくさんのお土産を用意するように指示した。

「そんじゃやるか。先手はくれてやるよ」

 白いTシャツの袖をまくり、長い黒髪を後ろでまとめて、ナガレが臨戦態勢に入る。
 俺は、深く考えず、自軍の駒を一つ、動かした。

 ショウオギ……ナガレの世界では将棋というらしいが、これは二人対戦型の盤上遊戯(ボードゲーム)で、交互に自軍の駒を動かしていって、相手の大将である駒を倒せば勝ちとなるルールだ。

 俺の大将の駒は、俺に似せて作ってあるし、ナガレの大将の駒は、彼女に似せて作ってある。
 【合成】とかいうので作ったらしいが、便利そうなスキルだ。
 彼女の忠誠度を上げられれば、俺も使えるようになるはずだが、そうなる未来は今のところ見えない。

「ガンガン行くぞ!」

 やはりというか、彼女は昨日の決闘のときのように、様子見もせずに駒をこちらの陣地へ向けて進めてくる。
 俺は無理には動かず、自分の大将を守る陣形を組むことに注力する。

 そのうち彼女が、こちらの駒を取りに掛かる。
 もちろんどうでもいい駒しか、取られるようなところには配置していない。

 彼女がこちらの駒を取り、返しで俺が彼女の駒を取る。

 というのを繰り返していくと、いつの間にか形勢が傾いていた。
 彼女の方が強い駒を取られているからだ。

 威勢の良かった表情が、曇っていく。
 そのうち大駒まで取られるようになって、ほぼ趨勢(すうせい)は決した。

 あとは取った駒を使ったりして、ナガレの大将を討ち取るだけである。

「ま、ま、待て! ……ちょっと待て」

 時間制限なんて決めてないので、もちろん待つが。

 難しい顔で盤面を睨んでいるが、どう考えてもここから巻き返すのは不可能だ。
 一か八か俺の大将駒を取ろうとしても、一手では絶対に取れないように守りを固めてあるし。

「……三番勝負にしようか。この手の盤上遊戯(ボードゲーム)で一発勝負だと、実力が結果に反映されにくいし」

「そ、そ、そうだな! よし、次行こう!」

 こちらの提案に、ナガレが、ぱぁっと顔を輝かせる。
 情けをかけるんじゃねえ! とキレられるかと思ったけど、どうやらそんな余裕もないらしい。

 第二局は彼女に先手を譲った。
 しかし、彼女の指し方はまったく変わることなく、猪突猛進(ちょとつもうしん)

 先ほどと同じように、いなしながら、少しずつアドバンテージを稼いでいく。
 彼女の迂闊(うかつ)な指し方も手伝って、先ほど以上の早さで勝負がついた。

「……五番勝負にしようか。こういうののタイトル戦って五番勝負だったりするし」

 頭に血が上っているのか、彼女はもう何も答えることなく、盤面だけを凝視して、駒を初期配置に戻した。

 そして無言のまま、第一手を指す。
 食卓の間には、駒の動く僅かな音と、ヂャギーがビスケットを頬張る音だけが響く。

 彼女としては、慎重に、最大限考えて指しているつもりなんだろうが、結局、第三局も、それまでと変わりなかった。

 彼女の大将駒が盤の隅に追いやられ、その手が止まる。
 まだ詰みではないのだが。

「あ、そこ動かすといいんじゃないかな!」

 横で説明書を読んでいたヂャギーが盤面を指差すと、それだ! という顔でナガレが駒を動かした。
 もはやプライドもクソもあったものではないらしい。

「ぐ、偶然、考えてた手と同じのを言われただけだ。アドバイス受けたわけじゃねえ」

「まぁいいけど」

 少し決着が延びただけだし。

 我ながら意地が悪いような気がするが、大将駒を無理に狙わず、その周囲の駒を一つずつ削り取っていく。
 さすがにこれには心が折れたのか、彼女は勝負を投げ出して、力尽きたように食卓に突っ伏した。

 しばしそのまま動かなかったが。

 やがて両手を強く握りしめ、体を震わせ、顔を上げる。

「なんっだよ! なんなんだよ! なんでそんなに強いんだよ!」

「別にたいして強くはないと思うけど……一応、ショウオギ部の部長だったし」

「ハァ!? 聞いてねーぞ!」

 ほーら、怒った。

「いや、俺もそんな好きなわけじゃないんだけど。義母(かあ)さんが作った部活らしくて、部員不足で潰れないように入れって言われて籍置いてただけで。だから、真面目に練習したりはしてないんだよ」

「でも三連勝したじゃねえか!」

 それはナガレが弱いからだ、とはさすがに言えない。
 彼女は食卓に両手を思い切り叩きつけると。

「チクショー! 覚えてろよ!」

 昨日より酷い捨て台詞を吐いて、走り去っていった。

 紅茶をズズズっと啜りながら、ヂャギーがこちらに顔を向ける。

「王様の勝ちじゃないかな!」

 誰が見てもそうだろう。
 この勝負、立会人なんていらなかったんじゃなかろうか。

 どうすれば彼女を納得させられるだろうか。
 先ほど彼女が食卓を揺らしたときに(こぼ)れた紅茶を拭こうと、ハンカチをポケットから取り出す。
 そこで気付いた。

 ハンカチに赤黒い染みがある。
 昨日、ナガレの額を拭いたときの染みだ。

 女中(メイド)さんに洗濯してもらうのをすっかり忘れてた。
 時間が経ってるし、これは落ちないかもしれない。

 王様になってから、ハンカチをダメにしたのはこれで二度目だ。

 なんでもっと早く出してくれなかったんですか、と女中(メイド)さんに怒られるのも嫌なので、また証拠隠滅しようかと考える。

 すると。
 腰に下げた、聖剣エンドッドが震えたような気がした。

 驚いて、鞘に収めたまま手に取る。
 確かに微細な振動を起こしている。
 こんなこと、今までなかったと思うけど。

 特に根拠があったわけではないが、ナガレの血がついたハンカチに剣を近づけてみる。 振動が止まり、代わりに、ある方角から、何かの声がしたような気がした。

「王様、どうしたの?」

「あ、いや」

 不思議がるヂャギーに手を振って、誤魔化す。

 これはつまり、そういうことなのだろうか。





    ☆





 王都を見晴らす丘の上。
 そこで、ナガレは不貞腐(ふてくさ)れた様子で、仰向けに寝て、空を眺めていた。

 彼女を驚かせないように足音を忍ばせて近づくが、考えてみると、それはそれで驚くだろうと途中でやめた。

 もし逃げ出されても捕まえられる距離まで近づいたところで声をかける。

「やぁ。いい場所だね」

 よほど気を抜いていたのか、ナガレは文字通り、飛び跳ねた。

「な!? お前、なんでここが分かった!」

「ナガレのこと考えてたら、なんとなくね」

 嘘である。
 先ほど気付いたばかりの、聖剣の力のおかげだ。

 どうやらアレには、円卓の騎士の血に反応して、その人が現在いる方角と距離を示す力があるらしい。
 ヂャギーにお土産を持たせて帰らせた後、聖剣の刃に好感度を表示してみると、ナガレのところに、友人としての好感度――親密度に一つ、メモリが灯っていた。
 たぶん、それで使用可能になったのだろう。

 彼女の隣に腰を下ろす。

 丘の下から気持ちのいい風が吹いてくる。
 いい場所だと言ったのは嘘ではなかった。

「はぁ……なんか普通っぽくて、案外そうでもないよな、お前」

 観念したのか、逃げるそぶりは見せず、彼女は再び、寝転がる。

 追いかけてきたわりに何を話せばいいのか考えてなかったが、聞きたいことは一つあった。

「前にさ。自走式擬態茸(マッコイ)がヤルーに擬態してたときに俺のこと助けてくれただろ? あのときアイツに風穴を空けた、あの武器、なんで昨日の決闘で使わなかったんだ?」

「ああ、これか?」

 ナガレが空へと手を伸ばし、黒い渦を発生させて、そこから、くの字形の筒を取り出す。

決闘(タイマン)拳銃(ハジキ)持ち出すほど、落ちぶれちゃいねーよ」

「……手加減してくれたってことか?」

「オメーもオレを殺す気じゃなかっただろ」

 そりゃそうだけども。

「これ以外にもエグい手は色々使えるけどよ。でもそれってオレ個人の力じゃねえからな。こっちの世界に来たときに、偶然使えるようになったってだけ。突然、妙な力を手に入れて、別世界みたいなところで生きてくハメになったって点じゃ、オレたちは似たもの同士かもな」

 ハハハ、とナガレは声に出して笑った。
 彼女も、そんな風に自然に笑うこともあるのだなと、びっくりした。

「似てるところは他にもあんだよな。こっちに来たのは、今のオメーと同じくらいの歳のときだったし、修学旅行の最中だったってのも同じだ。オレの場合、旅先で変な望遠鏡見つけて、それで空見てたら、突然だったけど」

 そうすると、数年前くらいだろうか。
 それからの日々を回想するかのように、遠い目をして。

「力を手に入れたって言ってもさ。一人で、知らない世界で生きていくのは、色々大変だったよ。真なる魔王とかいうのが絶望して第二文明を滅ぼしたのも、少しだけ分かる。この島に来てからは、そんな悪くはないけどな」

 ナガレは体を起こし、王都を見下ろす。
 彼女は彼女なりに、この国を愛しているのだろうか。

「ナガレは凄いと思うよ。それまでと違う世界で生きてくことになったっていっても、俺は王様だし、周りがなんでもやってくれるし、そんな苦労してるわけじゃない。一人で何年も生きてきたナガレのほうがずっと、個人の力ってやつが強いと思う」

「そ、そうかな……」

 素直な気持ちで賞賛すると、ナガレは照れたように頬をかき、そっぽを向いた。

 ああ、なるほど。なんとなくこの人のことが分かってきた。
 この人、単純に異性に免疫がないんだろう。
 俺と同い年くらいでこちらへ来たと言ってたし、そこからその辺が成長していないんだ。
 そういえば学校の同級生の中にも、異性にこんな態度を取る子はけっこういた。

「あのさ。俺は別に王様として認めてくれとは思ってないんだよ。なんでか知らんけど聖剣が抜けちゃったから即位したけど、それ以外に理由もないし、相応しいとも思ってない」

 この辺も素直な気持ちだ。
 わざわざ誰かに話したりはしなかったけど。

「円卓が丸いのは、卓を囲む皆に上下関係を作らないためだろ。俺はそれでいいと思ってる。対等な仲間になれればそれでいいって」

「でも王と騎士だろ。どうしたって主従関係だろうよ」

「主従かもしれないけど、上下じゃない。そういう関係じゃダメかな」

「詭弁だろ、それ。どう考えても」

 口ではそう言っていたが。
 ナガレの(ゆる)んだ表情は、そんなに悪くはないと告げていた。

 右手を差し出す。
 そういえば初対面のときも握手をしたけど、全力で握り返されたよな。
 今思えばあれも、照れ隠しだったのかもしれない。

「ま、付き合ってやるよ、ミレウス。忠誠なんて誓わねえけど。……仲間としてならな」

 彼女は初めて俺の名前を呼んで、手を優しく握った。

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【第六席 ヂャギー】
忠誠度:★
親密度:★★★
恋愛度:★

【第七席 ナガレ】
忠誠度:
親密度:★★[up!]
恋愛度:★★★
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