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お茶くん

作者:駒村ゆう
 やぁ。ぼくはお茶くん。

 静岡の茶畑のまんなか。
 照り照りと白く光って空をながめている、新茶の葉っぱだよ。

 ぼくには恋びとがいます。
 ぼくのななめ右横についている葉で、なまえはお茶子さん。

 お茶子さんは、細みのつややかな葉っぱで、まわりの男っ葉どもに、とっても人気があるんだ。ぼくは彼らと血で血を洗うあらそいに勝ち抜いて、お茶子さんをゲットした。いまじゃラブラブだよ。すごいだろう。

 ところが、とうとう恐れていたときがきてしまった。茶摘みだ。

 うちの茶畑は、南から順番に葉を摘み取っていく。五月に入って、いよいよぼくたちの番がきたのだ。
 茶摘みの担当は、よくぶらぶらとぼくたちの様子を見にくる、おばあさんだった。

 皺だらけのかたい指が、ぼくとお茶子さんを別々に摘み取った。

 ぎゃー!
 どうなるのどうなるの!?
 お茶子さーーん!

 お茶くーーん!

 でも運のいいことに、ぼくたちはひとまず、同じカゴに入れられた。

 おばあさんの抱えるカゴは、おばあさんの動きに合わせて、ユサユサと揺れる。そのユサユサを利用して、ぼくとお茶子さんは近くへすり寄った。

 一体どうなっちゃうんだろう。

 ドキドキしながら、ぼくたちは手をつないだ。まわりの友だちもカラカラ葉をゆらして、不安げだ。
 お茶子さんが泣きそうに葉をツヤツヤさせたので、ぼくは元気づけてあげようと、風にゆられたふりをして、葉の先をちょんちょんと動かした。
 お茶子さんがふふっと笑ってくれたから、ぼくの不安も少しだけおさまったんだよ。





 それから試練がきた。

 あついー!あつい!あつい!

 僕たちは工場に運ばれた。いま、200度以上の鉄鍋の上にいる。
 ひどいよにんげん!
 このやろう!

 お茶子さんもみんなもあついあついと叫んでいて、だんだん元気がなくなってきた。みんなぐったりして、叫ぶ元気がなくなっても、まだ熱は下がらない。
 そのうちに、ぼくの体からなんだかとてもいい香りがたってきた。みんなからもだ。
 重たかった体がピンと固くなって、シャッキリと元気がわいてきた。
 鍋はまだ熱いけど、さっきほどじゃない。

 そして体が完全にシャッキリになったら、ぼくたちは鍋から取りだされ、お茶っぱになった。

 どうなるのかな。
 どうなるのかしら。

 ぼくらは缶に入れられた。
 ふたが閉まると中はもうまっくら。

 次に取り出されるときにはなればなれにならないように、ぼくとお茶子さんはとなりどうし、しっかり手をつないだ。





 ある日、おとなの手がお茶缶を開けて、ぼくとお茶子さんは一緒のスプーンですくわれた。
 きゅうすに入れられる。

 とうとうこの日がきた。
 ぼくたちは淹れられるらしい。

 頭の上からあついあついお湯がそそがれて、ぼくたちはまたあつい!あつい!とさけんだ。でも、この前よりはずっとマシだったかな。

 それからだんだん、体が温まってきた。

 ホカホカホカホカ

 とってもいい香りがする、きゅうすのなか。
 お湯はだんだん黄みどり色に染まって、ぼくもみんなも、なんだか幸せなここちになってきた。

 これがお茶かぁ。
 なんていいきぶん。

 全身がふやけて、広がって、ぼくもお茶子さんもめいっぱい手をのばした。

 あぁぁあ〜
 お茶に生まれてよかった。

 頭も体もフワフワと、お湯のなかをただよっていたら、きゅうすが持ち上げられる気配がした。

 あぁ、にんげんがお茶を飲むんだな、とぼんやり思った。


「茶ばしらだー!!」

 子どもが叫ぶ声がした。
 えっ。
 まさかの展開。

 ぼくの体、茶ばしらになってきゅうすから出てしまった。

 あわわわお茶子さーーん!
 お茶くーーん!

 ぼくたちは泣きながら声をあげるけど、もうお茶子さんは見えない。
 そっ、そんな、さいごに。
 悲しすぎるよ。

 お茶のみ茶碗のまんなか。
 ぼくはぼうぜんとして、真上で顔を近づけている女の子を見上げた。

 女の子はお茶が好きなのかな。
 とってもうれしそうに、ぼくをながめている。

「おかあさーん!茶ばしらやで!」
「やったね、ええことあるねぇ」

 女の子は意味のわからないおどりをおどって、それからおかあさんに聞いた。

「で、これ食べれるの?」
「毒じゃないけど、おいしくないよ」
「ええーー」

 なんだか、だんだん意識がうすれてきた。まぶたがトロトロ重くなって、もういちどお茶子さんと手をつなぎたいなぁなんて、思った。

「じゃあ元にもどそっと。アチッ!」

 女の子がぼくを摘んだところまでは覚えている。
 それからたぶん、ぼくはきゅうすに戻されたんだと思う。







 あれ?
 ここ、どこ?

 きゅうすじゃない。
 もっと暗くて、温かい。

 ぼくは自分の体をながめてみた。もう葉っぱじゃなくなっていて、びっくりした。

 お茶子さーーん!
 お茶くーーん!

 呼んでみたら、すぐそばにはお茶子さんのけはい。でもどこにいるかわからない。

 ぼくらどうなったの?
 お湯に溶け出して、お茶になって、女の子に飲まれたのよ。

 お茶子さんが教えてくれる。
 そうかぁ。じゃあぼくら、またずっと一緒にいられるね。

 これからどうなるのかな。
 どうなるのかしら。


 柔らかくてあたたかいくらやみで、ぼくらはワクワクしながら、これからのことを考えた。
 上からはどんどんぼくらの仲間が落ちてくる。

 この子、ほんとうにお茶好きだなぁ。









 さて、お茶くんとお茶子さんはさいごにどうなったでしょう?

 女の子の「元気」になって、今もシャッキリ幸せに暮らしていますよ。






はい、おやすみ。

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