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三、絶景を眺める。

 理想郷ヘデイ・スューカン。
 三英雄の一人『天使の片羽と悪魔の片翼』デモセビウティス・ヘデイ・スューカンを初代として繁栄し続ける、超魔法科学の国。『魔力』という、通常では消費も増幅もしない力を使う。
 『魔力』はある細工を施さないかぎり、行使するどころか在ると知ることさえ叶わない。
 生命力とは違うものなので『魔力』は底を尽きても死には至らないが、『魔力』の枯渇が一定時間を越えれば五感総てを失う危険性がでてくる。
 身体に蓄積できる量は決まっており、幾度となく行使することによって最大値は上昇する。
 『魔力』を出力としての奇想天外術式『魔法』を発案し、極めたデモセビウティスと同じほどに、四代王『無限騎士団主君』ジグリテス・ヘデイ・スューカンは『魔力』の込められた鉱石『魔石』を発掘したことで有名だ。
 六代王『理解し合う事』ロウミス・ヘデイ・スューカンが『魔石』の超大量錬金に成功したことも、理想郷ヘデイ・スューカンの繁栄に深く関わりを持っているといえる。


 世界の三分の一を占めるその国より、今まさに旅立たんとする者がいた――


 CROSS! Fantasia〜もしもを超えての、想いの交差を〜


「はぁ……はぁ……はぁ……」
 峠を登る気力を失いつつある少年は、げっそりとした顔を上げて己の前を元気に行く少女を見た。
「ジン、ジン、ジンギスカーン♪」
 コサックダンスっぽい踊りをしながら軽々と動いている様子が輝かしく見えた少年は、顔を伏せ――
「なんでそう、テンションが低いのかな、愁くんは?」
「わッ!?」
 さっきまで見ていた少女の顔を、鼻先に見た。
 少女は、目尻を人差し指の腹で拭うフリ・・をする。
「愁くんに怖がられたよ〜。え〜ん」
「……や、小夜歌さん。嘘泣きはさすがに大人気な――」
「え〜ん」
「……」
「え〜んえ〜ん」
「…………」
「え〜んえ〜んえ〜ん」
「………………」
 愁と呼ばれた少年は、小夜歌と呼んだ少女の顔をしぶしぶ覗き込んだ。
 すると、パッと輝かしい笑みに早変わりした小夜歌に、愁はあっという間に捕獲されてしまう。
「ふふふ〜♪」
「……」
 なすがままにもみくちゃにされ、溜息に似た長い吐息を漏らす愁。
 愁に頬擦りし、とろけそうな笑みを浮かべる小夜歌。
 こんなことを何度も繰り返しているせいで、まだ理想郷ヘデイ・スューカン首都領土より外へ出れていないのだと、愁は思う。
「ええと、小夜歌さん?」
「なぁに?」
 可愛らしく小首を傾げる小夜歌に愁はドキンとするも、その衝動をグッと押さえ込んで言った。
「いちゃいちゃするだけなら、旅に出なくてもよかったんじゃ――」
 『旅に出るわよ!!』と言った小夜歌は、まだ愁に旅の目的を話してはいない。
 そのため、愁は故郷より旅立つ〜なんてことが本当とは思っていないのだ。
「ん〜、でももう戻れないよ? 私、仕事やめてきちゃったしー」
「……マジですか」
 小夜歌は最年少の国家認定高位魔女プレミアウィッチで、王族方のボディガードや脅威対象殲滅隊の精鋭『ついでに』学業に営んでいて、愁に出会っている。
「愁くんも暴力行為して退学しちゃったしね〜、学校行く意味なんてないよ〜」
 愁はうっと詰るしかなかった。
 小夜歌はクリクリッとした瞳を細め、愁の言葉・・を待つ。
「……確かに、旅にでも出て収入得るしかない僕ですけど、小夜歌さんは必要とされてるんですし、そこまで勝手しちゃうと戻れなくなるっていうか――」
 望んでいた言葉と違うことに小夜歌はむむぅと唸った。
 愁の頬に手をやる。

「私が必要としている愁くんが出て行くって言うんですもの。ついていく以外、どうしろと?」

 またも言葉に詰る愁。
 そんな愁を、小夜歌はじ〜っと見つめる。

 じ〜

 じ〜〜

 じ〜じ〜

 ジ……ジジジジジ! ジジジジジ!

「いや、最後違うって」
 ……こっち視点では普通にナレーションしようって、堅く誓ったんだがなぁ。
 コホン、失礼。
「ささっ! たったと・・・・峠登りきっちゃおうよ♪」
たったと・・・・って何か間違って――」
 そんな呟きを無視され、大振りに引きずられる愁。
 愁を引きずる小夜歌は、『それそれ〜♪』なんて掛け声をつけ快調に駆け出し――

 コツンと、こけた。

 ひゅんっと宙に跳ぶ小夜歌と愁。
 跳躍力による上昇が終わり切るより早く、重力によって土へと戻されるより前に――愁は動いた。
 小夜歌を両腕の内へ抱きすくめ、己よりも小夜歌を上にし。

「拒みをうけがえ。」

 がえんずるは、われるは、愁の意思。
 賛鳴する『魔力』は構築展開して――愁を重力の縛りより解放っ・・・・・・・・・・
 ばたばたと舞う髪を押さえる小夜歌は、その奇怪を目の前にして微動だにもしない。
 そう――おかしくないからだ。
 『魔力』が為すことは、たとえどんなことであってもおかしくない。
 それがこの世界の秩序だ。【此は此に灯火あかりて其に咲き乱れん】という『魔力』の表しどおりに。
「……ふぅ」
 地へと足をつけた愁は、小夜歌を下ろし、言う。
「危ないですから……ゆっくり行きましょう?」
「うん」
 悪気がないが故に、反省の色もない返答。
 愁は思わず溜息を吐きそうになって――ふっと自分の脇を抜けていった小夜歌にギョッとした。
 予想外すぎたからか、愁の身体はすぐさまの反応を起こさない。
 すり抜けた小夜歌の残影を追うように振り向いた愁は――

「……綺麗な景色」

 ――峠の最頂点に来たことを、知った。
 山や崖といっても過言ではない道のりに比例してか、理想郷ヘデイ・スューカンのは絶景といわざるを得ない場景をしていて。
「……」
 愁は思わず、息をすることを忘れた。
 景色に見惚れたのでは、ない。
 断じて、そうではなく。
「……とっても綺麗だね、愁くん」
 絶景に目をきらきらさせる小夜歌の横顔を――素晴らしいと、愁は見惚れているのだ。
 ふわりと舞うようにして自分へと振り返ってきた小夜歌に、愁は胸を高鳴らせてしまう。
 小夜歌の様子はいつになく壮麗で、神秘のひじりを纏っていて。
「ここから……始るんだよ? 私と愁くんの、二人の旅」
 愁はまたまた胸をドクンとさせて、しかしそれをひた隠しにして――言った。
「はい……始めましょうか、二人っきりの旅」
 美しいものを探す、なんていう途方もない目的でもいいから。
 旅をして、いろんな小夜歌を見たいと――愁は密かに思うのであった。


 魔法使いには、それぞれ『スイッチ』を持っている。
 それは言葉であったり、行動であったり、状況であったり、人それぞれだ。
 愁は拒絶反応を『スイッチ』としているため、爆発的魔力展開が得意だ。
 そのため、さきのような瞬間魔法構築が可能なのである。


      ○  ○  ○


「……違うか」
 紅蓮の髪が風に靡くのを気にせず、理想郷ヘデイ・スューカンより出て行く二人を見ている男。
 判断を下し終え、見る価値もないと二人を捉えたのか、男は二人より視線をはずす。
 そして、聞いた。

「舞い散れ『鳳桜ほうおう』」

 同時、男は横へと跳ぶ。
 いや――飛んだ・・・
 元々、地に立ってはいない。
 男は上空にて二人を見下ろしていたのだ。
 先ほどまでいた男の位置を駆けて行く、極太の一閃。
 それを見送り――

 拒絶・鳳

 一閃を突き破って迫る巨大な球体を、鼻先にまで近づけてしまった。
 瞬時に薙がれる片腕は、黒くごついガントレットを纏うのみ。
 しかし――衝突で球体は負けた。
 射線を変えられ、無残に男の横を過ぎる。
 一難去ったのを見ても、男は余裕を持たない。
 いや、持てなかった。

 無限・呪法刃

 球体よりも剛に空気を裂いて迫る、極太の一閃の横薙ぎ。
 男はそれを急激な上昇で回避し、さらに両掌を彼方へと向け。

 ジャックスレイヤー

 闇の滅びを刻み込んだ。
 命中を表す、抗いの光。それは、一瞬で闇を溶かし消し去った。
 男は体制を立て直して――光に対峙する。
 呼ぶ。
「描き手の――イアンゾムリクの右目『草薙』」
 更に、言い募る。
「貴様は我が願いにあらず……失せよ!!」
 対し、金髪に赤ワインの瞳を携える少女は放つ。

 無限

 一掃の一撃が、男へと飛ぶ。
 男は両掌を再度掲げた。

 ジャックスレイヤー

 闇と光がぶつかる。
 しかし、光は圧倒的な威力を持って――男もろとも総てを失せさせた。
「……討滅、遂行完了」


 桜色の羽を双翼とせん少女は、彼方の二人を見た。


きしめんで有名な某ゲーム。ゲームに興味はないんですが、OPはほんととてもよかった。
あのOPより頂いた衝動でラブコメが書きたくなった。しかし、あえて書かない(`・ω・´)
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